【完結!】すきおし↪だぶる↩とりっぷ

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48話《後日談・2》

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「オッ、オッ、オッ、オイ……!!!!マジであったぞ!!!!」
「あ……あるね!す、すごいっ!ほ、ホントにしゃんちゃんが保存してくれてたんだ!」
「す、スゲェ~~~!!!さっすがしゃんちゃん!!ウオオォォッ!!」
「わっ!」

 まさかのまさか、本当に存在していたバグエターニアのデータに、りょうが興奮を抑えきれない様子で俺へ抱きついてくる。耳が真っ赤で息も荒くて、目も潤んでて。本当に嬉しいのが伝わってくる仕草に、なんだか俺も泣きそうだ。
 正直俺も半信半疑だったけど、こうやって実際にデータを目の当たりにすると、俺達がトリップしてたのは現実だったんだ、と思い直してしまう。もちろん自分自身で体験してきたことだけど、たまに……やっぱり夢や幻だったんじゃないかって、そう思ってしまうときがあるから。
 だから、それをもう一度本物だって確かめるために。
 俺の間違いない経験だったって確かめるために。
 俺もいつの間にか上ずった声で、りょうへとまっすぐ向き直る。

「か……確認、していい?」
「お……おうっ!見てみよッ!一緒にボタン、押すぞッ!」
「うん!」

 りょうが桃色の頬で俺の手をとって、一緒にコントローラーを握ってくる。俺とりょうの親指が、そっと重なる。はじまりとおわりの指先が交差して。それはやっぱり、この作品に似合うものな気がしてくる。

「「せーの……っ!」」

 息を合わせて。
 声を合わせて。
 ボタンを、押す。
 するとすぐに画面は切り替わって……ゲーム内のメニュー画面が現れた。
 それは、今までとなにも変わらないエターニア。
 普通の画面とそう変わりがない見た目で、俺はちょっと拍子抜けした気分になる。

「う、うーん。見た目はそのままだ……特に変わった所はないね?」
「そーだな……いや、でもヒトにはエターニアの異変は見えねェって話だ!とりあえずエターニア!エターニアだッ!!」
「うんっ」

 確かにりょうの言う通り、エターニアの異変や変化はそこに居るキャラクターしか見えないって言ってた。これもそういうことなのかな。
 相変わらずビシビシ画面を指さすりょうに従って、俺はエターニアへ入るボタンを押す。でも……それは一瞬にして弾かれてしまった。

『このエターニアには来訪者ちゃんのアクセス権限がありません。ごめんね><』
「え!!!」
「な……ッ!」
 
 燦然と輝く文字に、俺達は揃って驚きの声を上げる。
 来訪者の──アクセス──権限!!!!!!

「う、ウオオォォッ!こ、こんなメッセージ見たことねぇッ!これ、しゃんちゃんだなッ!?」
「そ……そうだと思う!う、うわぁ!これ、なんかりょうがゲームの中入ってた時思い出すッ!」
「ナヌッ!?俺の……ゲームの中だとぉッ!?」
「そう、りょうがさ、ゲームの中に居る間は操作がまったくできなくて。ステータスと『ひとりごとメモ』しか確認できなかった状態だったんだよっ!そこで総当たりしてたの思い出した……!」
「アッ、そんなことになってたのぉ!?」

 そういえば、そのことりょうに話してなかったな。
 お互い体験できてないことが多すぎて、あんなに話すって言ってたのに実際はぜんぜんトリップ中のすり合わせができてない、この状況……。
 いやでも、こんな展開は二度目っ!寄り道しないで、テキパキ行くぞ!!

「ここダメ!あっこれもダメだ!……うわ!どこも行けない!」
「す、すげぇ……あの優柔不断でノロノロのはじめが、このバキバキさ……ッ!」
「だって二回目だもん!俺だってちゃんと学習するんだからねっ!!──うーん!ダメだ、やっぱりどこにも入れない……!」

 あちこち侵入を試みてみたけど結局どれもボタンは効かなくて、画面の切り替えすらままならない。

「ってことは、残るは……」
「……うん。開発室!」

 そう。残ったのは、あえて残していた『開発室』。さっきも感動的なイベントがあった場所だ。それに……トリップする前も後も、すごくお世話になった場所でもある。俺達は顔を見合わせて、また一緒にボタンを押す。あの景色を。あの蔵書舎の一番地下を。思い浮かべながら。

「──あれ!?これ……ッ」
「うわァ!?これノア!?ノアかッ!?」

 ……そこに居たのは、しゃんちゃんでもなく、エーテルーフくんでもなく……パソコンに向かった、黒い髪。
 いつか俺がエターニアで見たその後ろ姿が、ドット姿となって現れる。興奮してグイグイ俺の服を引っ張るりょう。そして彼は、あのとき俺が見たようにくるりと振り返る。今回は……ビックリしてはなかったけど。

『来たのぉ゙~……?鬱陶しい、クッソお節介の、人間サァン゙……』

 それは、その姿は……やっぱり、ノアくん。
 テキストだけでもあの暗くて粘っこい声を思い出す言い回しに、俺は一気に懐かしい気持ちになる。

「うおおおおぉぉ~~~~!!!人間呼ばわり!こ、これが例の、クソ重ヤンデレノアァ!」
「うん……!この言い方……間違いなく、『あの』ノアくん!!」
「うおおおおぉぉ!!!遂に!遂に会えたなァ!ノアァ!!!!」
『ここに来たって無意味なのにさぁ゙~……なんで見つけてくるかなぁ゙~……』

 テンションが上がる俺達に反して、あくまでいつもの暗~い通常運転なノアくん。ハァ~~~と溜息をつく様子まで再現されていて、その細かさに俺は感動してしまう。ああ、ノアくん……。こうやって見ると、かわいいなぁ……!!!

『色々試したかもしんないけど、このデータは来訪者のために造られてないから、見れるモンなんてな゙~んにもないよぉ゙~……』
「エッ!そうなんか!?んだよ、エターニア~アフター~つって絶対後日談見れると思ったのにッ!!!」
「ああ、それは確かに見たかった……!」
『ナニを期待してるのか知らないけどぉ゙。ここには一枚、記念写真があるだけぇ゙』
「……記念写真?」
「スチルでなく?」
『ま、見たかったら勝手に見ればぁ゙~?』

 まるで実際に会話をしているようなテンポで、ノアくんは机に写真を置く。するといつの間にかカーソルが動かせるようになっていて、俺は写真にカーソルを合わせてボタンを押した。
 
「う、うおおぉぉ……!!!!」
「わ、わぁ……!!!」

 りょうが、叫び声を上げる。
 俺も声を抑えられなかった。
 だってそこに出てきたのは……賢者さんたちとエーテルーフくん、そしてNPCのふたりが全員集合した写真だったからだ!

「すっげぇ、全集ッ!ついにゲーム内では見れなかった勢ぞろいスチルじゃねぇかぁぁ~~~~~~~ッ!!!!」
「スチルじゃなくて写真、なんだよね。ってことは、これは向こうのエターニアで撮ったってことなのかな?」
「あ、そっか。わざわざ写真って言ってるなら、そーゆーテイってことだよな。つまりはED後のエン‥エレとおんなじで、キャラクターだけが生きる、プレイヤーは介入できねぇ世界になったってこと……?」
「つまりはそこで、みんなが撮った写真なんだ。すごい、エーテルーフくんがこんなにニコニコしてるよぉ……!」
「すげェ~~マナ先生もノアも居らぁ……!ハァァノア……!うお!?しかもウンディーネ、ネックレスつけとる!」
「え!?あ!?ホントだ!?えっ!?そういえばネックレスどうしたの!?」
「いや……そうだった……スマン!!あれ、ウンディーネにやっちまったんだ!ほら、蔵書舎行く前にさ、頑張れよって、俺なりの、景気づけに……」
「あ、そうだったんだ!?」
「わ、悪ぃ。俺がワガママ言って、わざわざはじめに作って貰ったのに。ホイホイあげちまって……」

 本当に申し訳なく思っているように俯いて、頭を下げるりょう。殊勝な謝罪は実は真面目なこいつらしいけど、やっぱりこいつには似合わない。俺は気にしないでって言うように屈んで、そのほっぺにキスをする。

「ぅ、うひっ!?♡」
「いいよ。だって、りょうがウンディーネさんを応援するためにあげたんでしょ?それなら俺も嬉しいよ。あんなに目の敵にしてたウンディーネさんのために、りょうがなにかをしてあげるなんて……」
「はじめ……」
「それに、今もこうやって着けてるってことは、ウンディーネさんもこのネックレス大切にしてくれてるってことだもん!それなら、結果オーライ!」

 よいしょ、っとりょうの身体を起こしてあげて、笑顔を作る。確かにあのネックレスが手元に残らなかったのは残念だけど、りょうがウンディーネさんのためになにかをしてあげたその証明がこうやって形に残ってるなんてすごいことだ。それをいつでもこの写真で確認できる、わけだし。むしろ現実のモノがフィクションの世界に存在してるのがすごいことなんだけど……それは大丈夫……なのかな?
 俺の言葉にりょうは困ったように俺を見上げたけど、納得するようにこくん、と頷く。

「う……うん。はじめがそう言ってくれんなら……よかった。ありがと、はじめ」
「ううん。なんだったらまた作るし。だから、気にしないで」
「ん……あんがとな。うぅ……。はじめぇ……好きッ!」
「んっ!」

 ありがとう、の言葉と共に、がばりと抱きつかれる。そのまま口にキスされて、ぐりぐり身体を押し付けられる。想像以上に恋愛方面に恥ずかしがり屋だったりょうがこうやって素直にスキンシップしてくれるなんてすごく珍しい。俺は乗っかってくるりょうの身体を抱きしめて、倒れないようにする。ぐいぐい押し付けてくる唇は、今も息継ぎを忘れてるみたいだ。うーん。さすがに今舌を挿れたら怒られちゃうかな?

「んぅ……。ん、ぷはっ!」
「だいじょうぶ?」
「ん、だいじょぶ。俺……はじめがカレシで、よかったな」
「俺も、りょうを好きになってよかったよ」
「こんな写真も、見れたもんなっ」
「うん!みんなすごく楽しそう!エーテルーフくんも、みんなと一緒で幸せそうで。……ほんとに、よかったよ!」

 エーテルーフくんとは途中で別れちゃったけど、この表情を見るとエーテルーフくんも全力であの世界を護ってくれたことがわかる。自分の力を、全力で。エターニアのために使ってくれたんだって。

「……あ。つかさ、ネックレス。賢者全員、つけてね?」
「えっ?」
「ほら、これ」
「あ……ほんとだ」
「なんか無垢の水晶に形似てんなぁ。エーテルーフも着けてるし」
「……。」

 みんなお揃いの、それぞれの元素の属性に合わせた水晶のネックレス。
 確かにりょうの言う通り、みんなの胸元にはそれが揺れていた。こんなもの、ゲーム内には存在してなかったはず。つまりは……俺達と別れた後か、それ以降に……みんなで一緒に作ったりしたのかな?
 真意はわからないけど(ノアくんは教えてくれないだろうし……)、そのアイテムも俺にとっては賢者同士の絆を示すものに思える。そしてそれは、りょうにとっても同じような意味に感じられたようだった。

「あー、よかった!」
「? なにが?」
「俺はなんかもっとこう、豪華な後日談があんのを期待してたけどよ!でも、こうやって……あいつらがここでちゃんと仲良く過ごしてんだなって、この写真で感じられて。それがわかって、よかった!」
「あ……そうだね!ネックレスも、ウンディーネさんが大切にしてくれてることもわかったし。こうやって……俺達が頑張った証も、ちゃんと残ったもんね」
「おうっ!あ~!報われた~!!!」

 報われた。
 そう、なんだろう。
 俺達が頑張った、こっちの世界じゃ一日程度の大冒険は。この彼らの写真から透ける笑顔で……きっと。
 ぜんぶ、報われたんだろう。

『見たぁ゙~?じゃあ、とっとと帰ってぇ゙~……ッ』
「おう!ノアもあんがとな!攻略ルートアプデ、一生諦めねぇからな!」
「俺も諦めない!ノアくんを攻略したい!俺にも、ウンディーネさんみたいにデレてほしい!」
「んお!?ナニ、あいつウンディーネにはデレるんか!?」
「そう!なんかねぇ、優しさにタジタジだったし甘えてたよ!アレ俺にもやってほしい!!」
「ナニーっ!?こりゃいよいよNPCルートの嘆願書を出すべきだな……!?いやキャラ同士じゃねぇからイケるだろ!?正直!?」
「そうだよ、なんだったらもう俺達がトリップしたことを直談判して……!」
「おおお、それっきゃねぇな!あの開発者にはそれっきゃねぇ!!!」

 ワーワーキャーキャー夢物語なことばっかりを、あれやこれや、好きなことを好きなまま、無責任に言い合う。
 それはこれまでの日常。
 当たり前の、りょうと過ごす、なんてことない日々。
 でもあの冒険みたいな一瞬を経た俺達は、それが当たり前だからこそ大切なことを知っている。
 だって賢者のみんなが。エーテルーフくんが。確かに、教えてくれたから。
 こんな平穏な日々を過ごせるのは。
 俺達がひとつひとつを選んだ。
 その、選択の結果なんだって。

 『エント‥エレメント』。

 それははじまりとおわりを導く、選択の物語。
 りょうが見つけて始めて。
 俺がたった今終わらせた。
 まるで運命のような物語。
 いつかはすべてが終わる。
 だからこそ、始められる。
 そう、俺の物語は、ここから。

 りょうとはじめる──新しい、恋のものがたり!
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