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46話《トゥルーエンド》
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『んじゃ!俺らがめでたくお付き合いすんのは──お前がトゥルーエンドを、終えてからだッ!』
『は……ハイッ!』
現実世界へ戻って、数日。
無事両想いだと知ったりょうからそんな司令を受けた俺は、ついにエンエレのトゥルーエンドルートを進めることになった。
まさかりょうからエーテルーフくんの約束と似たようなことを言われるなんて。でもこれも導きみたいなものなのかもしれない。好きな子と推しの子。両方から……こんなにも近しいことを望まれたんだから。
「よいしょ」
トリップが終わった日から、エンエレは一度も起動していない。すぐに彼らと再会したらわんわん泣いちゃいそうで、なんとなく、起動するのを躊躇っていた。でも……俺は向き合わなきゃいけない。知らなきゃならない。この『エント‥エレメント』という物語の終わりを。開発者さんが、そこに籠めた想いを。
ゲーム機をTVに繋いで起動すると、すぐにゲームが起動する。
りょうがゲーム内にトリップしたあの日、同じように流れた画面。でももう、ゲームは新規に開始されることはない。俺は出てくるメニュー画面に「つづきから」を選んで、しゃんちゃんが見つけてきてくれた「ハジメ」のデータを再開する。
『やぁ、ハジメ』
「……久しぶり、エーテルーフくん」
そこに映されるのは、エーテルーフくん。
俺が一目惚れをして、四人の賢者さんを攻略してようやく会えた、エーテルの守護者。そして……エント‥エレメントのすべてを握る存在だ。
ゲームの中のエーテルーフくんは立ち絵で表情差分があるだけで、俺が目の前で見ていたように豊かな変化をしない。でも画面越しのエーテルーフくんも俺にとっては間違いのない「ほんもの」で、彼を見ているだけでも、結局、涙が滲んだ。
『それでは行こう。この世界を知るための旅へ。ボク自身を──知るための旅へ』
トゥルーエンドルートは、エーテルーフくんからメタフィクションの真実を聞かされた後、彼と一緒にエターニアを周ることで進行する。
このルートで描かれるのは、 ゲームの中の造られた世界であるエターニア、そして『エント‥エレメント』というゲームの中の『システム』として独りで生きてきたエーテルーフくんの苦悩だ。
そのシステムのために「造られた」自分自身を理解していても、毎回リセットを繰り返して世界をやり直して、『はじめ』へと戻る過程に、エーテルーフくんは納得しつつも空虚な気持ちを抱いていた。
──『この行為に、なんの意味があるんだろう』、と。
それを問い掛けられるのは「プレイヤー」だ。いま、画面の目の前で、彼と対峙している「俺自身」。
そこで『来訪者』は『来訪者』ではなくなる。「ゲームプレイヤー」として、「フィクション」を体験する者として、エーテルーフくんと対話をすることになる。彼の疑問に、彼なりの答えを出すために、彼を手助けすることになる。
それが、エターニアを巡るこの旅だ。
『キミ達はどうして彼らと仮想の恋をする?架空の彼らに想いを寄せる?それは虚構。何も遺らない、一方的で利己的な搾取に過ぎないだろう?』
→「それでも彼らと交流することに意味はある」
「愛を追体験するのに虚構も現実も関係ない」
世界を巡る途中。ゲームの中でも相変わらず俺へ情熱的に求愛してきたサラマンダーさんと話した後に、そう問われる。
現実。虚構。フィクション。キャラクター。ゲーム。プレイヤー。
エーテルーフくんの質問はこんな風にどれもリアリスティックで辛辣だ。まるで開発者さんから直接問われているみたい。
「このゲームをプレイする意味はなに?」って。
俺は「それでも彼らと交流することに意味はある」を選ぶ。このゲームの中、その世界で出逢ってきた彼らを透かすように。例えそれが事実搾取と呼ばれるものだったとしても……彼らから受け取れるものはある。それを、彼へ示すように。
『そうか。それがキミの答え。ボクの選択への導……』
でもこの選択ひとつひとつが、エーテルーフくん自身の『選択』へ繋がってゆく。エーテルーフくん自身が、答えを『選ぶ』ことに繋がっていく。
それがこのゲームの肝。
ゲームの中の仮想の存在が、プレイヤーの行動と返答によって自ら自分自身の最後を『選択』するのが、『エント‥エレメント』の最も大事な部分。
ノアくんが言っていた「キングさまが与えた自由」っていうのは、きっとこのことなんだろう。すべてを強制される、常に役割を強いられるキャラクターが、ひとときに得る『自由』。開発者さんが示した、例えプログラムやシナリオであったとしても示した、キャラクターへ捧げた『自由』。
それはキャラクターへの『祝福』で。
ある種ひとつの『贈り物』でもある。
ちっぽけで。取るに足らない。あまりにもささやかで……一方的な。
『ハジメ。キャラクターはどこまでもヒトの道具であり代替品だ。それは真理で、ボクの中でも揺らぐことのない真実であり続けるだろう』
『だが、現実とフィクションは不可侵で不相互だ。だからこそヒトは必死でそこへ手を伸ばし、ボクらに祈りを託し、ボクらを生み出す。親となり、ボクらをフィクションの世界へ産み落とす』
『架空の懐胎と出産はそれでも現実の痛みを伴い、ボクらは名前とカタチを与えられ、その痛みの具現体として存在を持ち、フィクションの世界に根ざし続ける。実存の代わりに永遠の残存を手に入れ、永遠に誰かの心へ存在し続ける。それは、キャラクターでしか為せない役割。ヒトでは決して不可能な到達点だ』
『その立場を。役割を。ボクは決して、不幸ではないと感じた。不幸なだけの存在ではないと感じた。それはキミとの旅……キミの答えによってボク自身が感じたことだ』
『幸と不幸は表裏にある。それはシステムとしてのボクであっても、決して変わりがないだろう。今のボクにも幸いはあり、それはこのボクでしか享受出来ない。だがボクは、キミが居たからこそそれを『観測』出来た。他者によって、初めて露わになる価値観があるのだと──キミと出逢ってボクは、初めて知ることが出来たんだ』
『ボクはこの世界の全てを知っていた。だが何も知らなかったのだと、キミに出逢って、この世界へ直に触れて気づいた。全てを知ることは全能でも王者でもない。ただ傍観者であるだけ。決して、当事者にはなれないんだ』
『ボクは『エント‥エレメント』を愛している。ボクなりに、とても大切な存在だと想っている。だからこそ、ボクはエント‥エレメントの当事者でありたい。内部に生きるものとして、キミたちに観測される立場でありたいんだ』
『キャラクターは世界へ閉ざされる代わりに永遠を得る。キミ達の愛を、観測を得る。ボクは──その全てを、このエターニアで享受したい』
『ボクはヒトではない。人間にはなれない。キミのような実存を得ることは出来ない。だからこそ──ボクは、選びたい。キミが居たからこそ、ボクは己の叡智を、己の無知を、己の欲望を、己の愛情を知ることが出来た。ここを愛しているのだと気づいた。エターニアを愛していると。ここで、彼らと、キミ達に眼差されながら、生きてゆきたいと──』
『だから……ハジメ。』
『ボクは、選択したい。』
『ボクだけの答えを。ボクだけの──生き方を。』
『ボクは、この、エターニアで。』
『……キャラクターとして、存在して、いたい。』
そしてエーテルーフくんは選ぶ。
『システム』としての自らを、「終える」ことを選ぶ。
自らに与えられた役割を手放して、開発者さんの管理から離れることを望む。
親の元から子が去るように。
自らが望む将来を、選択するように。
きっとそうだ。
きっと……どんな「キャラクター」だって、そうなんだ。
フィクションを創り上げるのはひとで。
キャラクターを生み出すのもひとで。
けれど、フィクションという世界そのものを、形にして維持していくのはキャラクターそのものなんだろう。
役割を決められながらも、立場を強いられながらも、世界へ委ねられた時点で彼らは創った人々の手を離れて、自由に、豊かに、その世界の中で生きてゆく。
このエーテルーフくんのように。
このエーテルーフくんが……自ら「役割」を離れて、自分自身の望みを獲得するように。
それを俺達は『観測』するだけだ。
エーテルーフくんが言うように。こうやって。ゲームやマンガ、アニメや小説、さまざまな媒体を通して。その答えを、眺めるだけ。
でもその『観測』の瞬間だけ、『存在』は確固たるものになる。
自由に生きるキャラクター。
それをただ観測する人々。
現実とフィクション。
キャラとひと。
どちらもあってはじめて……フィクションは「存在」という幻想を獲得することができる。
このシーンは、この選択はきっと、それを示すものなんだろう。
それこそが『祝福』。
俺が。『来訪者』が。
俺という、ゲームプレイヤーという、人間が。
キャラクターを自ら選んだきみへと贈る──紛れもない、『祝福』。
『口づけてくれ、ハジメ。ボクのために。ボクだけの、ために。』
→キスをする
キスをしない
この願いも、エーテルーフくんの願いであったらいい。開発者さんが考えたものじゃなく。俺が出逢ったエーテルーフくんが、このエーテルーフくんに託した、そんな願いであったらいい。
俺は「キスをする」を選んで、彼に愛を捧げる。
的夬利りょうではなく。
『来訪者』のリョウとして。
彼の答えを導く。
このエターニアの中で唯一、キャラと関われる……ちっぽけな人間として。
『……ハジメ、ありがとう。ボクの答え。その答えは──。』
エーテルーフくんは答えを選ぶ。俺が連れたその道筋、俺が答えたその言葉を抱いて、彼だけの答えを選ぶ。
それを確かに、俺だけへの宣誓にする。
他の誰にも語られない、ただ無垢な愛の誓い。
そこに在るのは感謝。笑顔。
それを見て、ああ、彼の感謝はこんなにも重かったんだ、とそう思う。
「……うん。俺も。ありがとう……エーテルーフくん。」
俺は言う。
かつてエーテルーフくんから受け取った言葉を、ここに還す。
この世界に出逢えてよかった。
きみに出逢えてよかった。
リョウが、きみと、恋を育めてよかった。
「──。」
エーテルーフくんが消えていく。
俺が出逢ったエーテルーフくんが消えてゆく。
エーテルーフくん自身が選んだ『おわり』は、この物語の終わり。
真っ暗な画面にエンドロールが流れて、一番最後に、画面の右端に『了.』という文字が浮かび上がる。
「ああ……。」
そこで俺は気づく。
エーテルーフくんは、エント‥エレメントの中で『はじめ』と『おわり』を掌る存在だったんだって。
そして俺達が、その象徴だったんだって。
それはただの偶然。
あるいはすべてが、最初から定められていた必然。
でも……だけど、だからこそ。
俺達が、この世界へ入ることを「選ばれた」のかもしれない、って。
そんなことを、俺は思う。
「ふふ……あはは……っ」
自然と笑みがこぼれてきた。
涙だってこぼれてきた。
でもそれは悲しいからじゃなくて。
さみしいからでもなくて。
はじめから終わりまでぜんぶ……決められていたわけじゃ、なくて。
俺が、俺達が、自分の手でそのはじまりと終わりを選べた、ただその「実感」から生まれるものだった。
俺達はトリップという大事件に巻き込まれた中で、確かに俺達だけの物語を選んで導いたんだって──。
それをどこまでも、確信したからだった。
ありがとう。
ありがとう、エターニアのみんな。
ありがとう、エント‥エレメント。
俺達に物語を選ばせてくれて。
結末を導かせてくれて。
──ああ。
──ほんとうに、ありがとう。
『は……ハイッ!』
現実世界へ戻って、数日。
無事両想いだと知ったりょうからそんな司令を受けた俺は、ついにエンエレのトゥルーエンドルートを進めることになった。
まさかりょうからエーテルーフくんの約束と似たようなことを言われるなんて。でもこれも導きみたいなものなのかもしれない。好きな子と推しの子。両方から……こんなにも近しいことを望まれたんだから。
「よいしょ」
トリップが終わった日から、エンエレは一度も起動していない。すぐに彼らと再会したらわんわん泣いちゃいそうで、なんとなく、起動するのを躊躇っていた。でも……俺は向き合わなきゃいけない。知らなきゃならない。この『エント‥エレメント』という物語の終わりを。開発者さんが、そこに籠めた想いを。
ゲーム機をTVに繋いで起動すると、すぐにゲームが起動する。
りょうがゲーム内にトリップしたあの日、同じように流れた画面。でももう、ゲームは新規に開始されることはない。俺は出てくるメニュー画面に「つづきから」を選んで、しゃんちゃんが見つけてきてくれた「ハジメ」のデータを再開する。
『やぁ、ハジメ』
「……久しぶり、エーテルーフくん」
そこに映されるのは、エーテルーフくん。
俺が一目惚れをして、四人の賢者さんを攻略してようやく会えた、エーテルの守護者。そして……エント‥エレメントのすべてを握る存在だ。
ゲームの中のエーテルーフくんは立ち絵で表情差分があるだけで、俺が目の前で見ていたように豊かな変化をしない。でも画面越しのエーテルーフくんも俺にとっては間違いのない「ほんもの」で、彼を見ているだけでも、結局、涙が滲んだ。
『それでは行こう。この世界を知るための旅へ。ボク自身を──知るための旅へ』
トゥルーエンドルートは、エーテルーフくんからメタフィクションの真実を聞かされた後、彼と一緒にエターニアを周ることで進行する。
このルートで描かれるのは、 ゲームの中の造られた世界であるエターニア、そして『エント‥エレメント』というゲームの中の『システム』として独りで生きてきたエーテルーフくんの苦悩だ。
そのシステムのために「造られた」自分自身を理解していても、毎回リセットを繰り返して世界をやり直して、『はじめ』へと戻る過程に、エーテルーフくんは納得しつつも空虚な気持ちを抱いていた。
──『この行為に、なんの意味があるんだろう』、と。
それを問い掛けられるのは「プレイヤー」だ。いま、画面の目の前で、彼と対峙している「俺自身」。
そこで『来訪者』は『来訪者』ではなくなる。「ゲームプレイヤー」として、「フィクション」を体験する者として、エーテルーフくんと対話をすることになる。彼の疑問に、彼なりの答えを出すために、彼を手助けすることになる。
それが、エターニアを巡るこの旅だ。
『キミ達はどうして彼らと仮想の恋をする?架空の彼らに想いを寄せる?それは虚構。何も遺らない、一方的で利己的な搾取に過ぎないだろう?』
→「それでも彼らと交流することに意味はある」
「愛を追体験するのに虚構も現実も関係ない」
世界を巡る途中。ゲームの中でも相変わらず俺へ情熱的に求愛してきたサラマンダーさんと話した後に、そう問われる。
現実。虚構。フィクション。キャラクター。ゲーム。プレイヤー。
エーテルーフくんの質問はこんな風にどれもリアリスティックで辛辣だ。まるで開発者さんから直接問われているみたい。
「このゲームをプレイする意味はなに?」って。
俺は「それでも彼らと交流することに意味はある」を選ぶ。このゲームの中、その世界で出逢ってきた彼らを透かすように。例えそれが事実搾取と呼ばれるものだったとしても……彼らから受け取れるものはある。それを、彼へ示すように。
『そうか。それがキミの答え。ボクの選択への導……』
でもこの選択ひとつひとつが、エーテルーフくん自身の『選択』へ繋がってゆく。エーテルーフくん自身が、答えを『選ぶ』ことに繋がっていく。
それがこのゲームの肝。
ゲームの中の仮想の存在が、プレイヤーの行動と返答によって自ら自分自身の最後を『選択』するのが、『エント‥エレメント』の最も大事な部分。
ノアくんが言っていた「キングさまが与えた自由」っていうのは、きっとこのことなんだろう。すべてを強制される、常に役割を強いられるキャラクターが、ひとときに得る『自由』。開発者さんが示した、例えプログラムやシナリオであったとしても示した、キャラクターへ捧げた『自由』。
それはキャラクターへの『祝福』で。
ある種ひとつの『贈り物』でもある。
ちっぽけで。取るに足らない。あまりにもささやかで……一方的な。
『ハジメ。キャラクターはどこまでもヒトの道具であり代替品だ。それは真理で、ボクの中でも揺らぐことのない真実であり続けるだろう』
『だが、現実とフィクションは不可侵で不相互だ。だからこそヒトは必死でそこへ手を伸ばし、ボクらに祈りを託し、ボクらを生み出す。親となり、ボクらをフィクションの世界へ産み落とす』
『架空の懐胎と出産はそれでも現実の痛みを伴い、ボクらは名前とカタチを与えられ、その痛みの具現体として存在を持ち、フィクションの世界に根ざし続ける。実存の代わりに永遠の残存を手に入れ、永遠に誰かの心へ存在し続ける。それは、キャラクターでしか為せない役割。ヒトでは決して不可能な到達点だ』
『その立場を。役割を。ボクは決して、不幸ではないと感じた。不幸なだけの存在ではないと感じた。それはキミとの旅……キミの答えによってボク自身が感じたことだ』
『幸と不幸は表裏にある。それはシステムとしてのボクであっても、決して変わりがないだろう。今のボクにも幸いはあり、それはこのボクでしか享受出来ない。だがボクは、キミが居たからこそそれを『観測』出来た。他者によって、初めて露わになる価値観があるのだと──キミと出逢ってボクは、初めて知ることが出来たんだ』
『ボクはこの世界の全てを知っていた。だが何も知らなかったのだと、キミに出逢って、この世界へ直に触れて気づいた。全てを知ることは全能でも王者でもない。ただ傍観者であるだけ。決して、当事者にはなれないんだ』
『ボクは『エント‥エレメント』を愛している。ボクなりに、とても大切な存在だと想っている。だからこそ、ボクはエント‥エレメントの当事者でありたい。内部に生きるものとして、キミたちに観測される立場でありたいんだ』
『キャラクターは世界へ閉ざされる代わりに永遠を得る。キミ達の愛を、観測を得る。ボクは──その全てを、このエターニアで享受したい』
『ボクはヒトではない。人間にはなれない。キミのような実存を得ることは出来ない。だからこそ──ボクは、選びたい。キミが居たからこそ、ボクは己の叡智を、己の無知を、己の欲望を、己の愛情を知ることが出来た。ここを愛しているのだと気づいた。エターニアを愛していると。ここで、彼らと、キミ達に眼差されながら、生きてゆきたいと──』
『だから……ハジメ。』
『ボクは、選択したい。』
『ボクだけの答えを。ボクだけの──生き方を。』
『ボクは、この、エターニアで。』
『……キャラクターとして、存在して、いたい。』
そしてエーテルーフくんは選ぶ。
『システム』としての自らを、「終える」ことを選ぶ。
自らに与えられた役割を手放して、開発者さんの管理から離れることを望む。
親の元から子が去るように。
自らが望む将来を、選択するように。
きっとそうだ。
きっと……どんな「キャラクター」だって、そうなんだ。
フィクションを創り上げるのはひとで。
キャラクターを生み出すのもひとで。
けれど、フィクションという世界そのものを、形にして維持していくのはキャラクターそのものなんだろう。
役割を決められながらも、立場を強いられながらも、世界へ委ねられた時点で彼らは創った人々の手を離れて、自由に、豊かに、その世界の中で生きてゆく。
このエーテルーフくんのように。
このエーテルーフくんが……自ら「役割」を離れて、自分自身の望みを獲得するように。
それを俺達は『観測』するだけだ。
エーテルーフくんが言うように。こうやって。ゲームやマンガ、アニメや小説、さまざまな媒体を通して。その答えを、眺めるだけ。
でもその『観測』の瞬間だけ、『存在』は確固たるものになる。
自由に生きるキャラクター。
それをただ観測する人々。
現実とフィクション。
キャラとひと。
どちらもあってはじめて……フィクションは「存在」という幻想を獲得することができる。
このシーンは、この選択はきっと、それを示すものなんだろう。
それこそが『祝福』。
俺が。『来訪者』が。
俺という、ゲームプレイヤーという、人間が。
キャラクターを自ら選んだきみへと贈る──紛れもない、『祝福』。
『口づけてくれ、ハジメ。ボクのために。ボクだけの、ために。』
→キスをする
キスをしない
この願いも、エーテルーフくんの願いであったらいい。開発者さんが考えたものじゃなく。俺が出逢ったエーテルーフくんが、このエーテルーフくんに託した、そんな願いであったらいい。
俺は「キスをする」を選んで、彼に愛を捧げる。
的夬利りょうではなく。
『来訪者』のリョウとして。
彼の答えを導く。
このエターニアの中で唯一、キャラと関われる……ちっぽけな人間として。
『……ハジメ、ありがとう。ボクの答え。その答えは──。』
エーテルーフくんは答えを選ぶ。俺が連れたその道筋、俺が答えたその言葉を抱いて、彼だけの答えを選ぶ。
それを確かに、俺だけへの宣誓にする。
他の誰にも語られない、ただ無垢な愛の誓い。
そこに在るのは感謝。笑顔。
それを見て、ああ、彼の感謝はこんなにも重かったんだ、とそう思う。
「……うん。俺も。ありがとう……エーテルーフくん。」
俺は言う。
かつてエーテルーフくんから受け取った言葉を、ここに還す。
この世界に出逢えてよかった。
きみに出逢えてよかった。
リョウが、きみと、恋を育めてよかった。
「──。」
エーテルーフくんが消えていく。
俺が出逢ったエーテルーフくんが消えてゆく。
エーテルーフくん自身が選んだ『おわり』は、この物語の終わり。
真っ暗な画面にエンドロールが流れて、一番最後に、画面の右端に『了.』という文字が浮かび上がる。
「ああ……。」
そこで俺は気づく。
エーテルーフくんは、エント‥エレメントの中で『はじめ』と『おわり』を掌る存在だったんだって。
そして俺達が、その象徴だったんだって。
それはただの偶然。
あるいはすべてが、最初から定められていた必然。
でも……だけど、だからこそ。
俺達が、この世界へ入ることを「選ばれた」のかもしれない、って。
そんなことを、俺は思う。
「ふふ……あはは……っ」
自然と笑みがこぼれてきた。
涙だってこぼれてきた。
でもそれは悲しいからじゃなくて。
さみしいからでもなくて。
はじめから終わりまでぜんぶ……決められていたわけじゃ、なくて。
俺が、俺達が、自分の手でそのはじまりと終わりを選べた、ただその「実感」から生まれるものだった。
俺達はトリップという大事件に巻き込まれた中で、確かに俺達だけの物語を選んで導いたんだって──。
それをどこまでも、確信したからだった。
ありがとう。
ありがとう、エターニアのみんな。
ありがとう、エント‥エレメント。
俺達に物語を選ばせてくれて。
結末を導かせてくれて。
──ああ。
──ほんとうに、ありがとう。
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