【完結!】すきおし↪だぶる↩とりっぷ

文字の大きさ
上 下
46 / 52

43話《──おはよう。》

しおりを挟む
「ち、ちゅー……!」

 わかってはいたけど、その答えに俺は大声を上げてしまう。そりゃわかってたけど、そんなにハッキリ言われるとは思ってなかったからっ!!

『あーしちゃんにはエッチなプログラムが備わってないから、あくまでチューは純粋な愛情行為なの。でもきっとはじめちゃんは違うんだよね><』
「あっ……そっか。開発者さんもアセクシュアルの人なんだよね。だから健全なBLゲームを作りたいって思ってたって……」
『うん>< だから基本的にゲーム内でもスキンシップには一定以上の意味合いは存在しないんだけど、勿論、プレイヤーちゃん自身の感情は別だから。だから……はじめちゃんにとっては、すごく複雑だと思うんだけど……><』
「うん……それは……ものすごく……複雑です……!!」

 あまりの状況に、俺も本音を隠せない。
 この状況なら仕方ないってことも、あーしちゃんの言ってることもわかるけど、それでも今、りょうを目覚めさせるためにちゅー……キス……口づけをするなんて……あまりに……あまりにも……試練すぎる!!!!
 それなら……せめて……先に告白を、させてほしい……!!!!

「──」

 ……でも、こんなにも具合が悪そうにしているりょうを見ると、ずっとこのままにしておけない、とも思う。いつでも元気で健康なりょうが、こんな青ざめた顔をして苦しそうにしている。それだけで胸が締めつけられるのも、事実だ。
 助けてあげたい。楽にさせてあげたい。それが俺のチカラで可能なら、今すぐにだって……。

「……うん。そう、だよね。俺も……こんな苦しんでるりょうを、ずっと見ていられないよ」
『りょうちゃん……><』
「うん。わかった。俺、やってみるよ!」

 俺は天を見つめて、ハッキリと宣言する。
 そうだ。悩んでいても、漫然と時間が過ぎるだけ。悠長にしていられる余裕はないんだ。できたら告白、なんて……そんな俺の自分勝手な都合を、押しつけてはいられない。
 だけど……。

「ただ、少しだけでも……ふたりきりにさせてくれるかな?こんなこと言うのは……わがまま、かもしれないけど」
『ううん、あーしちゃんもずっとはじめちゃんに付いていられるわけじゃないから。もうすぐテルっちがすべてを終える。あーしちゃんも、エターニアの保存に向かわないと』
「そうなんだ。忙しいのに、ごめんね」
『ううん。ふたりがちゃんと現実へ帰ることは、あーしちゃんの願いだよ。はじめちゃん……あーしちゃんがこんなこと言える立場じゃないけど……。どうかりょうちゃんを、お願いしますっ><』
「……うん。ありがとう、しゃんちゃん!」

 そう告げると、それきりしゃんちゃんの声は聴こえなくなった。
 残される俺とりょう。
 じっと、その顔を見つめる。

「りょう……。やっと、会えたね」

 その顔を見るだけで、なんだか泣けてくる。
 目の前のこのひとは、俺が好きなりょうなんだって実感する。
 好きだ。
 そう思う。
 とても素直に、とても単純に、そんな想いだけが湧き上がってくる。
 好きで。好きで。いとしくて。大好きで。
 でも……やっぱり。
 なにも伝えていない状態でこんなことをするのは。
 卑怯だな、って思いでいっぱいだ。

「……ごめんね。なにも知らないのにこんなことされるのは……違う、よね」

 そっと囁く。
 いくら好きな人でも……いや、好きな人だからこそ。
 勝手に触れることが辛いし、申し訳ない。
 だけど……こうしないとりょうは目覚めない。苦しんだままになる。
 それをぬぐいたくて、俺も覚悟を決めたんだ。
 だから、なるべく早く。
 りょうの苦しさを、受け取ってあげよう。
 
「ごめんね。……すぐ、終わるから」
 
 もう一度だけ、謝罪を伝えて。
 そっと顔を近づけて……俺はゆっくりと、一度だけ、そこに触れた。
 ほんの少しだけ柔らかい感触が響いて、そこですぐに身体を起こす。
 チカラを流し込むんだからもっとしっかりとやらなきゃいけないのかもしれないけど。でも、これ以上は無理だった。
 すべてが終わってからばくばくと鳴り始める心臓と熱くなる体温にじっとりょうを見つめると、みるみるうちに青ざめていたりょうの顔色は良くなって──。

「う、ぅ……ッ。」
「──!」

 小さなうめき声と共に、その身体がかすかに揺れる。
 ゆっくりと開く瞳。うつろに天を見ていた視線があちこちを彷徨って、そして──横に居た、俺を捉える。

「──あ、ぇ……っ?」
「っ、りょう……ッ!」
「は、じめ……っ?」

 呼ばれる名前に、それだけで涙がこぼれてきた。ここに来てから、もう数え切れないくらいに流してきた涙だけれど。それでも、この声から紡がれる自分の名前は、やっぱり俺にとっては特別だった。
 俺は涙を流しながら、どうにか笑う。
 ほんとうは、今日目覚めてから言うはずだったその一言を、りょうへ伝える。
 もう一度、俺達の日常を。
 当たり前の、毎日を。
 ここから……ふたりで……取り戻すように。

「おはよう。──おはよう、りょうっ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

琉海
BL
 不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。  しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。  迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。  異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

【完結】モノトーン

ナカハラ
BL
彼の目は色を写すことが無かった。 だから、彼の描く絵は常に黒と白と灰色ばかり。 そんな彼の事を憎らしいと思っていた。 彼が夢を追い続ける限り、自分の自由なんて何も手に入らないのだから、恨むのも当然だろう?

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...