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43話《──おはよう。》
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「ち、ちゅー……!」
わかってはいたけど、その答えに俺は大声を上げてしまう。そりゃわかってたけど、そんなにハッキリ言われるとは思ってなかったからっ!!
『あーしちゃんにはエッチなプログラムが備わってないから、あくまでチューは純粋な愛情行為なの。でもきっとはじめちゃんは違うんだよね><』
「あっ……そっか。開発者さんもアセクシュアルの人なんだよね。だから健全なBLゲームを作りたいって思ってたって……」
『うん>< だから基本的にゲーム内でもスキンシップには一定以上の意味合いは存在しないんだけど、勿論、プレイヤーちゃん自身の感情は別だから。だから……はじめちゃんにとっては、すごく複雑だと思うんだけど……><』
「うん……それは……ものすごく……複雑です……!!」
あまりの状況に、俺も本音を隠せない。
この状況なら仕方ないってことも、あーしちゃんの言ってることもわかるけど、それでも今、りょうを目覚めさせるためにちゅー……キス……口づけをするなんて……あまりに……あまりにも……試練すぎる!!!!
それなら……せめて……先に告白を、させてほしい……!!!!
「──」
……でも、こんなにも具合が悪そうにしているりょうを見ると、ずっとこのままにしておけない、とも思う。いつでも元気で健康なりょうが、こんな青ざめた顔をして苦しそうにしている。それだけで胸が締めつけられるのも、事実だ。
助けてあげたい。楽にさせてあげたい。それが俺のチカラで可能なら、今すぐにだって……。
「……うん。そう、だよね。俺も……こんな苦しんでるりょうを、ずっと見ていられないよ」
『りょうちゃん……><』
「うん。わかった。俺、やってみるよ!」
俺は天を見つめて、ハッキリと宣言する。
そうだ。悩んでいても、漫然と時間が過ぎるだけ。悠長にしていられる余裕はないんだ。できたら告白、なんて……そんな俺の自分勝手な都合を、押しつけてはいられない。
だけど……。
「ただ、少しだけでも……ふたりきりにさせてくれるかな?こんなこと言うのは……わがまま、かもしれないけど」
『ううん、あーしちゃんもずっとはじめちゃんに付いていられるわけじゃないから。もうすぐテルっちがすべてを終える。あーしちゃんも、エターニアの保存に向かわないと』
「そうなんだ。忙しいのに、ごめんね」
『ううん。ふたりがちゃんと現実へ帰ることは、あーしちゃんの願いだよ。はじめちゃん……あーしちゃんがこんなこと言える立場じゃないけど……。どうかりょうちゃんを、お願いしますっ><』
「……うん。ありがとう、しゃんちゃん!」
そう告げると、それきりしゃんちゃんの声は聴こえなくなった。
残される俺とりょう。
じっと、その顔を見つめる。
「りょう……。やっと、会えたね」
その顔を見るだけで、なんだか泣けてくる。
目の前のこのひとは、俺が好きなりょうなんだって実感する。
好きだ。
そう思う。
とても素直に、とても単純に、そんな想いだけが湧き上がってくる。
好きで。好きで。いとしくて。大好きで。
でも……やっぱり。
なにも伝えていない状態でこんなことをするのは。
卑怯だな、って思いでいっぱいだ。
「……ごめんね。なにも知らないのにこんなことされるのは……違う、よね」
そっと囁く。
いくら好きな人でも……いや、好きな人だからこそ。
勝手に触れることが辛いし、申し訳ない。
だけど……こうしないとりょうは目覚めない。苦しんだままになる。
それをぬぐいたくて、俺も覚悟を決めたんだ。
だから、なるべく早く。
りょうの苦しさを、受け取ってあげよう。
「ごめんね。……すぐ、終わるから」
もう一度だけ、謝罪を伝えて。
そっと顔を近づけて……俺はゆっくりと、一度だけ、そこに触れた。
ほんの少しだけ柔らかい感触が響いて、そこですぐに身体を起こす。
チカラを流し込むんだからもっとしっかりとやらなきゃいけないのかもしれないけど。でも、これ以上は無理だった。
すべてが終わってからばくばくと鳴り始める心臓と熱くなる体温にじっとりょうを見つめると、みるみるうちに青ざめていたりょうの顔色は良くなって──。
「う、ぅ……ッ。」
「──!」
小さなうめき声と共に、その身体がかすかに揺れる。
ゆっくりと開く瞳。うつろに天を見ていた視線があちこちを彷徨って、そして──横に居た、俺を捉える。
「──あ、ぇ……っ?」
「っ、りょう……ッ!」
「は、じめ……っ?」
呼ばれる名前に、それだけで涙がこぼれてきた。ここに来てから、もう数え切れないくらいに流してきた涙だけれど。それでも、この声から紡がれる自分の名前は、やっぱり俺にとっては特別だった。
俺は涙を流しながら、どうにか笑う。
ほんとうは、今日目覚めてから言うはずだったその一言を、りょうへ伝える。
もう一度、俺達の日常を。
当たり前の、毎日を。
ここから……ふたりで……取り戻すように。
「おはよう。──おはよう、りょうっ!」
わかってはいたけど、その答えに俺は大声を上げてしまう。そりゃわかってたけど、そんなにハッキリ言われるとは思ってなかったからっ!!
『あーしちゃんにはエッチなプログラムが備わってないから、あくまでチューは純粋な愛情行為なの。でもきっとはじめちゃんは違うんだよね><』
「あっ……そっか。開発者さんもアセクシュアルの人なんだよね。だから健全なBLゲームを作りたいって思ってたって……」
『うん>< だから基本的にゲーム内でもスキンシップには一定以上の意味合いは存在しないんだけど、勿論、プレイヤーちゃん自身の感情は別だから。だから……はじめちゃんにとっては、すごく複雑だと思うんだけど……><』
「うん……それは……ものすごく……複雑です……!!」
あまりの状況に、俺も本音を隠せない。
この状況なら仕方ないってことも、あーしちゃんの言ってることもわかるけど、それでも今、りょうを目覚めさせるためにちゅー……キス……口づけをするなんて……あまりに……あまりにも……試練すぎる!!!!
それなら……せめて……先に告白を、させてほしい……!!!!
「──」
……でも、こんなにも具合が悪そうにしているりょうを見ると、ずっとこのままにしておけない、とも思う。いつでも元気で健康なりょうが、こんな青ざめた顔をして苦しそうにしている。それだけで胸が締めつけられるのも、事実だ。
助けてあげたい。楽にさせてあげたい。それが俺のチカラで可能なら、今すぐにだって……。
「……うん。そう、だよね。俺も……こんな苦しんでるりょうを、ずっと見ていられないよ」
『りょうちゃん……><』
「うん。わかった。俺、やってみるよ!」
俺は天を見つめて、ハッキリと宣言する。
そうだ。悩んでいても、漫然と時間が過ぎるだけ。悠長にしていられる余裕はないんだ。できたら告白、なんて……そんな俺の自分勝手な都合を、押しつけてはいられない。
だけど……。
「ただ、少しだけでも……ふたりきりにさせてくれるかな?こんなこと言うのは……わがまま、かもしれないけど」
『ううん、あーしちゃんもずっとはじめちゃんに付いていられるわけじゃないから。もうすぐテルっちがすべてを終える。あーしちゃんも、エターニアの保存に向かわないと』
「そうなんだ。忙しいのに、ごめんね」
『ううん。ふたりがちゃんと現実へ帰ることは、あーしちゃんの願いだよ。はじめちゃん……あーしちゃんがこんなこと言える立場じゃないけど……。どうかりょうちゃんを、お願いしますっ><』
「……うん。ありがとう、しゃんちゃん!」
そう告げると、それきりしゃんちゃんの声は聴こえなくなった。
残される俺とりょう。
じっと、その顔を見つめる。
「りょう……。やっと、会えたね」
その顔を見るだけで、なんだか泣けてくる。
目の前のこのひとは、俺が好きなりょうなんだって実感する。
好きだ。
そう思う。
とても素直に、とても単純に、そんな想いだけが湧き上がってくる。
好きで。好きで。いとしくて。大好きで。
でも……やっぱり。
なにも伝えていない状態でこんなことをするのは。
卑怯だな、って思いでいっぱいだ。
「……ごめんね。なにも知らないのにこんなことされるのは……違う、よね」
そっと囁く。
いくら好きな人でも……いや、好きな人だからこそ。
勝手に触れることが辛いし、申し訳ない。
だけど……こうしないとりょうは目覚めない。苦しんだままになる。
それをぬぐいたくて、俺も覚悟を決めたんだ。
だから、なるべく早く。
りょうの苦しさを、受け取ってあげよう。
「ごめんね。……すぐ、終わるから」
もう一度だけ、謝罪を伝えて。
そっと顔を近づけて……俺はゆっくりと、一度だけ、そこに触れた。
ほんの少しだけ柔らかい感触が響いて、そこですぐに身体を起こす。
チカラを流し込むんだからもっとしっかりとやらなきゃいけないのかもしれないけど。でも、これ以上は無理だった。
すべてが終わってからばくばくと鳴り始める心臓と熱くなる体温にじっとりょうを見つめると、みるみるうちに青ざめていたりょうの顔色は良くなって──。
「う、ぅ……ッ。」
「──!」
小さなうめき声と共に、その身体がかすかに揺れる。
ゆっくりと開く瞳。うつろに天を見ていた視線があちこちを彷徨って、そして──横に居た、俺を捉える。
「──あ、ぇ……っ?」
「っ、りょう……ッ!」
「は、じめ……っ?」
呼ばれる名前に、それだけで涙がこぼれてきた。ここに来てから、もう数え切れないくらいに流してきた涙だけれど。それでも、この声から紡がれる自分の名前は、やっぱり俺にとっては特別だった。
俺は涙を流しながら、どうにか笑う。
ほんとうは、今日目覚めてから言うはずだったその一言を、りょうへ伝える。
もう一度、俺達の日常を。
当たり前の、毎日を。
ここから……ふたりで……取り戻すように。
「おはよう。──おはよう、りょうっ!」
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