【完結!】すきおし↪だぶる↩とりっぷ

文字の大きさ
上 下
45 / 52

42話《想いの結晶》

しおりを挟む
「──!」

 ボクが籠めたチカラと願いが、柔和して反発する。
 それは彼女の応えだったのかもしれない。彼女の、この世界とボクに対する感情のゆらぎだったのかもしれない。溢れる光。弾ける光。暖かく湿った温度がボクを包む。しゃんちゃん越しでしか知らない彼女が、確かにそこに居るように感じる。
 言葉はない。姿もない。
 しかし光は徐々に収束し、それまでとは異なるカタチとなって、ボクの手の中へと収まる。
 それはひとつではない、いつつの水晶。
 それぞれの元素をたたえた、ボクら全員で抱く器。

「──エッ!なんか数増えたけど!?」
「……うむ。ボクが願うカタチへと、変質させたのだ」
「エーテルーフ様の願う形、ですか?」
「そうだ。このエターニアは賢者があってこそ。ならばボクだけがすべてを包括する器を所持しているより、このほうが適切だ」

 そう……エーテルはあくまでもボクだけの秘器。だが既にエーテルそのものは彼らの元素に馴染んだ物質になり、それ故にこんな状況を呼び起こした。ならばその状態を壊すことなく、ボクが寄り添う形にしたかった。ボクの不在の間、このエーテルによってエターニアを護ってくれたのは紛れもなく彼らなのだから。
 そう考えると、これはボクからの贈り物になるのだろうか?
 ボクは持っている水晶をそれぞれに渡す。サラマンダーは渡された赤い水晶を光に翳し、目を細める。

「それで四大元素に適合する器、か。これを俺達がそれぞれ所持するわけか?」
「その通り。ボクの水晶はキミたちの水晶を収める器だ。これは五人が集まって使用することで、初めて意味を持つ。ボクが、そうしたカタチにしたかったんだ。だからこうしてエーテルを分解し……新しいカタチへ、再構築した」

 ここにはそもそも祭壇の封印が存在しない。つまりこの新たな水晶が、ボクにとっての『無垢の水晶』になるのだろう。
 サラマンダーと同じように、シルフが水晶を手の平で転がす。そしてボクを見て、優しく微笑む。

「そう。つまりエーテルーフは、これからも私達と仲良くしてくれるわけね?」
「むっ?」
「だね。こんなメンドーな形にするってことはそうなんじゃない?コレ、交流を前提にした形だし」
「むむっ。そうだな!確かにそうだ!盲点だったぞっ」

 ノームの発言は最もだ。確かに使用で全員が集まらなければならないのなら、賢者達と絶えず関わりを持つ必要があるだろう。驚くボクに、ウンディーネが更に驚く。

「えっ。そこまでは考えていなかったんですか?」
「うむっ。とにかくボク達賢者全員に相応しいカタチにすることだけを考えていた。これはボクなりの開発者への祈りだったからな」
「そうだったのですね。つまりこれが形になったということは、開発者……創造主様にエーテルーフ様の祈りが届いた、ということなのでしょうか?」
「そうだな……」

 この形が叶った。それはつまり、何かしらが成就したということになるのだろう。
 例えそれが錯覚だとしても。ボクの中だけの、都合のいい解釈だったとしても。ボクはそれを信じていたい。彼女にボクの祈りが、その一端だけでも、一欠片でも届いたのだと、そう思っていたい。
 この、賢者達個々の在り方が顕現したカタチは。
 彼女が……ボクの祈りを……赦してくれた、証明なのだと。

「──うむ。そうであると、ボクも、思いたい」

 故に、ボクも固く頷く。
 そうだな。そうであればいい。
 そうであると……願い続けたい。

「そうに決まってんだろう!ちゃんとコレが形として在るんだからな!」
「わっ!ら、乱暴だなッ、サラマンダー!」
「あら、サラマンダーはいつもこうよ?好きな相手には強引な色男よね、ウンディーネ♡」
「し、シルフっ!だから私に振らないでください……!」
「ウンディーネはさ、ちょっと煽り耐性無さすぎ。いいカモすぎない?」
「いやノーム。お前が言えるタマじゃねぇだろ」
「どういう意味ィ!?」
「ハハッ……賑やかだな」
「そうよ~。私達ってね、とっても煩いの!」
「むっ。むぎゅ~~~~~~」
「いいな!よしよし!皆抱きつけ!!」

 ボクより小さな身体に抱き締められれば、それが呼び水になったようにぎゅうぎゅうと全員から抱き締められる。うれしそうなシルフ。豪快に笑うサラマンダー。あきれたノーム。困っているウンディーネ。
 その姿に。
 その光景に。
 ボクが「キャラクター」としていつか辿り着いたかもしれない景色に。
 やはりボクは、泣きそうになって。

「……うむ。──うむ!」

 そんな自分自身の感情を認めるように、ボクは笑った。
 ボクに新しい感情を与えてくれた彼らに、報いるように笑った。
 ボクを友人と認めてくれた彼らを。
 ボクに新たな居場所を認めてくれた彼らを。
 ボクも、大切な友人だと──そう、間違いなく、伝えるために。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。

琉海
BL
 不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。  しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。  迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。  異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

処理中です...