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37話《ひとまず一度のお別れです。》

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「おっけぇ゙~……!だいじょぶッ」
「ッ。だいじょぶっ?」
「んん゙っ。充填完了゙ぉッ。これでイケそぉ~っ」
「おし。ハジメ、お前は筋がいいな。元素が滞りなく流れているのを感じたぞ」
「ええ、本当。きちんと修練すればかなり上達しそうね。鍛えてあげられないのが勿体ないわ」
「そ、そうなの!?嬉しいな……」
「ああ……リョウとは大違いだな!」
「ほんと!リョウくんはおサボり屋さんだったものねぇ」
「りょう……。。」

 サボり屋、というシルフさん評に思わず苦笑してしまう。基本真面目に見えないもんな、りょう。しかも周りに賢者さん達がいたらそっちに夢中になってるだろうから、余計だろう。

「でも、ああ見えてりょうはちゃんとしてて凄いんだよ!エンエレのことだってそうだし、俺の面倒だって見てくれるし!」
「ん?ハジメが面倒見てるんじゃなくか?」
「うん。俺、こう見えて生活ダメダメなんだ。だからいっつもりょうに生活のことサポートして貰ってて」
「サポート?」
「えと、朝起こしてもらったりとか。ご飯作ってもらったりとか」
「ほ~ぉ……。あのリョウが。誰かの。面倒を。」
「へぇ……それは……愛ねぇ……」
「嗚呼……愛だな。」
「え!?……あ、愛ッ!?」

 なぜかしみじみと俺を見つめるサラマンダーさんとシルフさん。非常に意味深であやしい視線に、ぼっと顔が熱くなる。このまま話を続けていたら絶対に藪蛇だ。俺は慌ててノアくんに話題を振る。

「ううう……ッ、で……それでっ!?ノアくん!これをどうするの!?これで、直接エーテルへチカラが送られたのかなっ!?」
「おん゙?くッだらない恋バナ終わったぁ゙?」
「こ、恋バナなんてしてないから……!ど、どうするのか教えてよッ」
「だってぇ゙~。どーする?ウンディーネぇ゙~?」
「えっ、わ、私ですか!?……ふふ、そうですね。ハジメ様も困っていますから、説明してあげては如何ですか?」
「ほ~ん゙。じゃあ。まぁ、してやるかぁ゙~……」

 ウンディーネさんの助言に満更でもない様子で頷くノアくん。その雰囲気は随分和やかだ。俺が二人と頑張っている間に一体なにが。い、いつの間に、そんなに仲良く……!

「この疑似エーテルはさぁ゙、エネルギーの流れが一方通行なのぉ゙。還元されるのは僕らにだけぇ゙。だから擬似なわけぇ゙」
「あら、そうなの?じゃあ君が直接これをエーテルに使いに行くのかしら?」
「わっ。シルフさんいつの間に」
「いや、マナに行って貰ゔ~。僕はこっち離れらんないしぃ゙。あいつにもちょっとは仕事して貰わないとぉ゙~」

 こっちには目もくれず、液晶画面を見つめてカタカタと素早くキーボードを操作するノアくん。しばらくそのまま沈黙が流れる時間に、くるりと椅子ごとノアくんは振り返った。

「……そしたらよーやく、君らの出番゙ってワケぇ」
「俺達?」
「そぉ゙。ノアが動いたらあとは君らの領分。『賢者』としての大事な仕事ぉ゙~」
「どういう、事ですか?」
「今起きてるトラブルの原因はエーテルに於ける元素の不均衡゙。これはキングさまが今のエターニアを維持するための突貫工事でできた弊害゙ねぇ゙。これまでのエーテルの維持によって内部の元素が君らのチカラに馴染みすぎて、エーテルーフの元に還ろうとしていないのぉ゙」
「私達に?でも、エーテルは元々エーテルーフくんのモノなんでしょう?」
「ん゙。確かにエーテルは元々エーテルーフのために用意された秘器゙。でもエーテルの最優先事項は『エターニアの維持』だから、使用者によって相応の変質はあるってことぉ゙」
「だからその始末を俺達につけろってか」
「ま゙ぁ端的に言えばそゆことぉ゙。マナが動けば今君らが注いだチカラでエーテルのロックが多少外れるはず。そうすれば転移が可能になって、君らをエーテルの所まで居り届けられる゙って寸法ぉ゙」
「転移って……あれ!?エーテルーフくんとの旅で使えるテレポート!?」
「ラストのとっておきねぇ゙。使用回数も限られてるし、使い所があるならココでしょお゙。いっちゃん最後゙にはじめくんに使おうと思ってたけど、はじめくんが賢者どもを連れてきちゃったからねぇ゙~゙~゙~゙」

 そう言って、何度でも飽きずに嫌味ったらしく俺を見るノアくん。そ、その話はもう終わったと思っていたのに……!

「だ、だからそれはごめんってば……!え……ってことは、その転移を使って賢者さん達を祭壇へ送るってこと?」
「そうか。つまり……」
「……つまり、ここでハジメくんとは、お別れってことね」
「えっ!」
「そうなりますね。またここに戻ってくるのは、難しいでしょうから」
「お、お別れ……!」

 そんな。やっと会えて、こうして親しくなれたばっかりなのに……もう、お別れだなんて!

「なにショッボい顔してんのぉ゙?どーせ短いトリップって知ってたでしょぉ゙?」
「い、いや……でも。いざお別れなんて言われたら、やっぱりいきなりに感じちゃって……」
「だが、俺達にしか出来ない役目なんだろう?」
「当然゙。エターニアに於いて四大元素を司る賢者にしか為せない仕事ぉ゙。他の誰かじゃ駄目な、絶対替えのきかない務めぇ゙」
「つまり、それは……私達の『役割』、ということですね」
「……そぉ。エント‥エレメントの「キャラクター」じゃなきゃ為し得ない、死ぬほど大事な役目ってことぉ゙」
「……」

 ウンディーネさんの言葉に、真剣な顔でノアくんが頷く。
 役割。『キャラクター』。
 さっきウンディーネさんが示したものが、またここで浮かび上がってくる。

「要するに私達じゃなきゃエターニアを救えない、ってことでしょ?それなら行くしかないわよね」
「だな。そもそも選択肢なんぞねぇ。それは、何よりの俺達の願いだからな」
「……ええ、そうですね。エターニアに生きる賢者としての誇り。その矜持。それらは間違いなく、私達のものですから」
「そうそう。与えられた役割が自発的に産まれた想いに準じるなんて、こんなに幸せなことはないものね!」

 それでも、彼らは笑う。
 キャラクターから外れた一握りの余地を尊びながら、キャラクターである役割でしか為せない使命を誇って笑う。
 そんな姿は、やっぱり俺にとっては人間にしか見えなくて。
 でも、それは、キャラクターとして産まれたからこそ在る笑顔のようでもあって。
 ……だからこそ。
 その境を。
 その、キャラクターという「生」のゆらぎを。
 いま、ここで。
 自分の目で眼差せたことを。
 俺も心から──幸福だと、そう思った。

「そう……ですよね。みんなにしか出来ない役目なら。行かなきゃ、ですよね」

 それなら、悲しむのは違う。
 名残惜しむのは、違う。
 俺も笑って。しっかり見つめて。
 向き合って、彼らを送り出そう。
 俺は一歩進み出て、みんなの前で頭を下げる。
 今、一番伝えたいのは……感謝だった。

「あのっ。えっとっ。ほんとに、ありがとうございましたっ!いきなり来た俺を暖かく迎えてくれて。協力してくれて。力を、貸してくれて……っ。みんなのお陰で、すごく、助けられましたっ」
「あら、『来訪者』くんを助けるのは当然だもの!それに私達も、ハジメくんのお陰で自分達のことを知ることが出来たしね。まだ受け止めきれない部分はあるけど……知れて良かったと思っているわ」
「ああ。なによりお前は、賢者としての俺達の歯痒さを汲んで呑み込んでくれた。それだけで俺にとってお前は、敬う価値のある存在だ。それに……ディーネのことも、助けられたしな」
「ひっ……!♡さ、サラ!止めて下さい、人前で……っ!」
「良いだろう?やっと拒否なくお前に触れられるんだ。少しくらい甘やかせよ」
「ちょっと、サラ……!は、ハジメ様、申し訳ありません……!」
「あっ。えっとっ。だ、だいじょうぶです!えっと!その!俺!おふたりのカップル!好きなので!!」

 自分でもなにがだいじょうぶなのか正直さっぱりわからないけど、元々ふたりがそれなりに好きだった俺にとって目の前でウンディーネさんの腰を抱いて、顔のあらゆる場所にキスをしているサラマンダーさん……というとんでもない威力の光景を見せられているのは、ご褒美に違いないだろう。
 ウンディーネさんが心底困っているのにサラマンダーさんを跳ね除けられないのがラブラブっぷりを表していて更にいい……。このままずっとふたりのイチャイチャを見ていてもいいと思ったけど、さすがにそれはウンディーネさんも本意じゃなかったのか、適度な頃合いで俺へと向き直る。

「はぁ……。すみませんハジメ様。サラがほんとうに、余計なことを……」
「い、いえ!ウンディーネさんも、ここまで来てくれてありがとうございました。もちろん、サラマンダーさんが居たからだけど……ウンディーネさんが来てくれたから、ノアくんも素直に協力してくたんだと思いますっ!」
「うるさいよぉ゙~……!」

 ちらりと横を見ると、相変わらずノアくんはガジガジと帆立ぬいくんを噛んでこっちを睨みつけていた。明らかに「いいから早くしろ」と目で言っているけど、でも……もう少しだけ。

「ふふ……彼とは仲良く出来そうです。良い友人を紹介してくれてありがとうございます、ハジメ様」
「ゆ、ゆうじん!?馬鹿じゃないのおぉぉ゙……ッ!?」
「ゆ……友人!そ、そっか。仲良くできそうなら、よかったです……!」
「はい。……ハジメ様、貴方には一度お会いしたかったのです。こうして会える機会が得られたことを、とても嬉しく思います」
「えっ。俺のこと、知ってたの?」
「ええ。リョウが度々貴方のことを言っていましたから」
「えっ。り、りょうが……!」
「はい。いつも考えていました。あのリョウをあそこまで動揺させ赤面させるなんて、一体どんな人物なのだろう、と……」
「えっ。ええぇ……ッ!?」
「ですが、こうしてお会いしたことで少しですが理解出来ました。きっと貴方の優しさとひたむきさが、彼にも伝わっていたのでしょうね」
「え。え。えええぇ……っ!?」

 にこりと、暖かく柔らかく微笑むウンディーネさんの言葉に、またも俺はプシュウと茹でダコになる。りょうが。りょうがッ。俺のことで……動揺して、赤面!?
 そ、それって!それって!?それってぇ……!?

「お゙ぅお゙ぅ……!恋バナ、終わったかぁ゙~……ッ!?」
「の、ノアくん!だから、恋バナじゃないってば……!」
「どっちでもいいんだよぉ゙ッ。マナが動き始めたから、いつ転移が始まってもおかしくないのぉ゙ッ。言うこと言い゙終わったかって聞いてんのぉ゙ッ!」
「あ……っ!」

 そ、そうか。そもそも時間がないんだった。
 俺は改めて全員を見渡して、改めて大きく声を張り上げる。
 視界が揺れる。鼻がツンとする。泣いちゃうな。そう思っても、今更言わないなんてあり得ない。
 言いたいこと。
 伝えたいこと。
 それは。

「皆さん、ありがとう……っ。ありがとう、ございます!また……また!またゲームの中で、会えたら!俺と、仲良くしてください゙っ!」

 それは、ただ……感謝。
 そして、プレイヤーとしての俺と、もう一度出逢ってほしいという願い。
 言わばエーテルーフくんと交わした約束の逆バージョンだ。
 それをもう完全に泣いてしまった顔と声で叫べば、みんなは揃って。
 俺の頭をわしわしと……かわるがわる……強くやさしく、撫でてくれた。

「──行ったなぁ゙」
「──うん」

 その挨拶から数分も経たない内に、三人は光に包まれて消えてしまった。テレポートが発動したんだろう。
 残されるのは俺とノアくん、ふたりきり。
 ギィっと古ぼけた椅子を鳴らせて、ノアくんが俺を見上げる。

「さてと。じゃあ、次は君の番゙だねぇ゙~」
「俺?」
「そう。君とりょうくんが、帰るための大冒険゙~~」


【EX‥TIPS】
・基本的に『転移』は何人でも同時に行えるが、元素術の高位の応用のため相応に使用者・対象者共に負荷が掛かる。賢者やエーテルーフに限ってはなんの問題もないが、耐性の低い者にとってはかなり体力を奪われてしまう。
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