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30話《フラグ発言はやめましょう!》

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「んえ!?はじめのデータが見つかったァ!?」
「嗚呼。それを利用して、ここへトリップしてきたんだ」
「さっすがしゃんちゃん……エン‥エレ内じゃ最強無敵のチートだな。リセバエーテルーフをそのまんまデータ保存してただけのことはある」
「その時と同じ原理で、この世界も保存しようとしているらしい。キミの叫びに感化されたようだぞ」
「へ?俺?なんの話をしてんの」
「キミがマナに啖呵を切った時の話だ」
「え!?ウッソあれ聞かれてたん!?ばっ!ちょっ!早く言ってよ~っ!!!」

 突然の告白に俺は赤面してバン!バン!とエーテルーフの背中を叩きまくる。いや、さすがに俺の行動がしゃんちゃんにロックオンされてるとは思ってなかった。いや、アレとかコレとかはバレてないよな?あっソレとかドレとかモロモロアレソレ……。

「だがそのお陰で、しゃんちゃんの覚悟も決まったんだ。立派なものだったぞ」
「へへ……照れるぜ……。でもエーテルーフが来たとこで、ここがヤバいのは変わんないんだろ?お前の持ってるリセット能力だって、今のまんまじゃ稼働は無理だって話だし」
「そうだったな。だが安心しろ。これさえあれば万事解決だ。\\\\ エ ~ テ ル ////~!」
「オッ……やけに国民的だけどそこだいじょぶ?」

 未来から丸くて青くて可愛いアイツが出てきそうな雰囲気で、よいしょぉ!とエーテルーフはその胸元から天高くエーテルを掲げる。俺とサシだと完全に気が抜けてるクソマズコーラ状態のエーテルーフだが、どうあれこいつは間違いなくエーテルの正式な守護者だ。この神秘の秘具を扱うに、これほど相応しい相手も居ない。

「ボクがこれを使えば相応に世界の状態は安定するだろう。無論、キミの協力は不可欠だがな」
「今更だけど俺、マジで『来訪者』なんだな。ガチで術使えてビビっちったよ」
「そうだな。『祝福』のチカラはすべての『来訪者』が授かるモノ……。だがキミの『祝福』のチカラは想像以上に貧弱だ。これは完全に盲点だったぞ」
「エッ!?嘘ぉ!?なにそのレビュー星1最低評価ッ!?」
「キミは賢者達と真面目に元素の修練を行っていなかったな?トリップが楽しくて遊び呆けていたと見える」
「ウッ……!当たらずとも遠からず……!確かにもう二度とねぇぞこんな機会、と思って半分くらいは賢者とイチャイチャしてたわ……。エッ?なに?それってマズイの?」
「不味いと言えば不味い。あくまで『来訪者』のチカラはサポートだが、その出力が高いほどエーテルや元素が安定性を増すのも事実だからな」
「ま、マジか……想像以上に責任重大だった……いや!でも全力出すわ!俺のワガママ叶えて貰うんだから、その責任には全ツッパ!やったるで!」
「うむ。頼むぞ。それでは……始めるか」

 今更ながら、問題に立ち戻ろう。
 この世界──BLゲーム『エント‥エレメント』、通称エン‥エレの舞台である「エターニア」は、パッケージ版に含まれていた未使用のプログラムによって、賢者同士にも好感度が生まれるバグが発生した。そこで起こったのはトリップ。ちょうどゲームをプレイしていた俺の友人、的夬利(まとわり)はじめに逢いたい気持ちが抑えられなくなったエーテルーフが、無自覚に力を暴走させてしまったせいでトリップが発生した。現実世界へ行ってしまったエーテルーフの穴はエン‥エレにとっては大問題で、その穴を埋めるために選ばれたのが俺、矢來麻(やくるま)りょうだった。俺はエーテルーフの代わりにエターニアに放り込まれて、俺達は世にも珍しい、「相互トリップ」という現象に陥った。
 なにも知らないままエン‥エレの舞台である「エターニア」で目覚めた俺。生粋のエン‥エレフリークだった俺は、エーテルーフの不在や今まで見たこともない設定がぽんぽん出てくるこの世界にすぐ違和感を覚えた。そして同じように違和感を覚えていたウンディーネと協力関係を結ぶことになる。
 その過程で俺はこの世界で想像以上に想い合っていたサラマンダー様とウンディーネの恋を知り、それを叶えてやることに決めた。
 一方、俺と代わる形で現実へ行ったエーテルーフは念願のはじめに会えて狂喜乱舞。理由も説明せずはじめに迫りまくって、積極的にはじめを「攻略」しようとしていた。
 しかし接するうちに現実の「はじめ」とゲーム内の「ハジメ」の差異に気づいたエーテルーフは冷静さを取り戻す。ようやくはじめの話を聞き、自分の代わりに友人がゲーム内にトリップしてしまったことを知り、原因と解決を模索し始めるエーテルーフとはじめ……。
 そこで見つけたのがパッケージ版の『エント‥エレメント』。元々PCゲームとして配信版のみが販売されていたエン‥エレは、家庭用ゲーム機への移植を記念してパッケージ版のソフトを新たに発売していたのだった。
 それを見つけたエーテルーフはこの具現化された物質なら自分の力を籠められると主張。合意の上エネルギーを籠めると──そこに、ゲームコンプリートのおまけコンテンツである『開発室』と、その部屋の主「開発しゃん」が現れる。なんでもエーテルーフの力のお陰で表に出て来れ、はじめ達と接触できたらしい。
 開発しゃんはトリップが起こった原因と現在エターニアに起こっている「バグ」を説明し、このままでは「強制リセット」が起きてしまうとふたりへ話す。
 さまざまな状況が重なって元々のプログラムや既存ルートから逸脱した今の状況は、いつ崩壊してもおかしくない。そこで起こるのが「強制リセット」。今まで起きた世界のなにもかもをゼロにして、元のエターニアに戻すという強引極まりない再起動だ。
 一方、違和感の正体を模索する俺は、医療舎担当の医者、NPCキャラであるマナ先生からはじめ達と同じく今までの経緯やトリップの原因を聞かされる。
 突然の真実に動揺を隠せない俺──。しかしこのバグだらけ、ゆえにキャラが束の間の自由を得ているこの世界は、既に俺にとって大切な世界となっていた。そしてなにも知らずに世界を引っ掻き回し、キャラたちと関わった責任をとるため、この世界をどうにか保ってほしいと吠えることとなる。
 俺の必死の主張はゲーム内のプログラムを管理する開発しゃんへ届き、現実へとトリップしていたエーテルーフをここに呼び戻すまでに至った。
 その目的は、「この世界の保存」。かつてゲーム内で開発しゃんがエーテルーフをデータ化して保護したように、世界をまるごと保存する計画のようだ。
 そのためにはこの世界の維持、及び安定化が不可欠。ゆえにエーテルーフによって、エーテルの管理をする必要がある。元々トリップでエーテルーフが居ない扱いをされていたエーテルは、本来の力を発揮していなかったからだ。
 ここで、現状に話は戻る。
 エーテルの管理……それはつまり、その権限をエーテルーフの手に戻すということ。そのためには俺の『来訪者』としての『祝福』の能力の補助が欠かせない。そのために俺は現在こうして祭壇でエーテルーフと共にエーテルと対峙しているのだ。
 はいこれにて──5分でわかるこれまでのあらすじ──終わりっ!!!><

「うむ、よくやったりょう!説明はバッチリだ!」
「こうかはばつぐんだ!よぉーしっ!いくぞぉ~っ!!」

 どうしてもシリアスになりきれねぇ空気のまま、俺とエーテルーフはエーテルに力を籠める。ここが正念場。言うなりゃ終盤のデカい山場だ。ここを過ぎりゃあとは消化試合、無事におけおけいけいけハッピーエンドを待つばかりの状態に違いない。え?フラグ??だいじょーぶだいじょーぶ、エーテルーフみたいな強キャラがわざわざ来てくれて、俺だってガチに頑張ってる時点で、勝利なんか確定してんだから。みなさんはどうぞこのまま安心して背もたれに全身をお預けになりながら、優雅に結末を──。

「──うわッ!?」

 しかし、そんな俺の希望的観測は呆気なく秒で即時な2コマ堕ちで破られる。力を籠めたエネルギーがものの見事に反発して、激しい光と共にエーテルが弾き飛ばされる。カラカラカラン、と軽い音を立てて床へ転がるエーテルを、俺達は呆然と見つめるしかない。

「えっ──」
「えっ……」

 エーテルーフはエーテルの守護者。通常の状態では、エーテルはエーテルーフと一心同体になって融合した形で現れる。エーテルはエーテルーフ自身に内包されて、実体がない状態なのだ。
 だからこそ、エーテルがエーテルーフの管理下に戻れば物質としてのエーテルは体内に吸収されることになる。
 だけどそのエーテルが、まだ実体を保ったまま存在しているということは──。

「……駄目だ!エーテルがボクの力に従わない──今のままでは、吸収は無理だ!」
「えええええええっ!?ウッソぉ!?そんなことある!?」
「っ、恐らく四賢者が管理していた弊害だ……!力がそれぞれの元素に散って、今のボクでは収めきれない!これは賢者が全員揃わないと……駄目かもしれないぞっ!」
「えぇ!?賢者全員って、もはや全員居ませんけど!?ウンディーネなんか自ら送り出しちゃいましたし!俺の力だけじゃダメ!?足りねぇ!?」
「いや……キミの問題というよりも、賢者達の四大元素によってエーテルが根本的に変質してしまっているようだ。「キャラクター」による変化は、キャラクターにしか変えられない。それが、この世界のルールだからな」
「キャラクターァァァ~~~~!!!!!!!!」

 ああ……そうだ。このエン‥エレは、キャラと人間の区切り……区別がおっそろしいほど強くて厳しい。それは現実とフィクションをとことん切り離して考える開発者の理念であり執念で、メタにメタを重ねたこのゲームのコンセプトそのものでもある。つまりは、ハナからゲーム全体に効いてる「ルール」ってことなんだろう。その例外が『来訪者』……とはいえ、それも結局最終的には「人間」のカテゴリになるようだ。まぁ、俺自身も自覚がヒトだしな。
 もちろんそのコンセプトがゆえに俺はこのゲームへガチガチにハマったわけだが、ここまでルールもガチガチだとさすがにキレたくなってくる。

「じゃあ……どうするッ!?俺が、誰か呼んでくっかッ!?ウンディーネならまだワンチャン追いつけるかね……っ!?」
「……。」

 入り口を見つめて尋ねる俺と、転がったエーテルを拾い上げてただ黙ったまま思い詰めた表情をとるエーテルーフ。ここに来て手詰まりか。やはりフラグを立てるような不用意な発言をすべきではなかった……!頭を抱えて後悔にもんどり打つ俺……!
 ……しかし、そう思った、その時ッ!!
 停滞した空気を吹き飛ばすように、高慢にして不遜な声が響き渡る。

「バッカだなぁ。そこはオレ、ノームサマの出番でしょ?」
「……!!!」

 そこに救世主のごとく光を背負って颯爽と現れたのは──現在までの賢者活躍率最下位をぶっちぎり、影の薄さで圧倒的な濃さを見せる闇と光のコントラスト、土の賢者──ノームくんの姿であったッ!!!!!!!

「いや!そこッ!影薄いとか言わないでくれる!?!?」


【TIPS】
・ノームのルートは最年少で賢者になったノームのプレッシャーや、研究での苦悩などが描かれる。普段はウエメセで強がっているノームの弱い一面や可愛い一面が垣間見える。ノーム攻略までに研究を効率よく進める必要があり、ルートの中ではもっともゲーム性が高い。
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