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29話《お前が思えばお前なのです。》

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「おげっ、おげっ、おげぇぇぇっ!!え、え、エーテルーフぅぅ゙ぅ゙ぅ゙!?なんでおんの!?!?!?」

 さすがにそれを想定してるはずはなかろうよ!?と俺はブリッジをする勢いで仰け反る。いや、そら、そうでしょぉ!?だってそもそもエーテルーフがおらんという違和感からぜんぶが動き始めたわけで、実際エーテルーフはこのエターニアにはおらんかったわけで……!
 今までなんもかんもその前提で動いてたのに、いきなりご本人様登場はドテンパりあそばせますでしょうがぁッ!?!?

「きっ。きっ。きっ。貴様が──りょうかッ!?」
「なななななぬぅぅぅぅ゙……!?!?!?」

 ドテンパりあそばせる俺と同様に、なぜか俺を見るなりぴゃっと明らか慌てた様子を見せるエーテルーフ。ゲーム内で見てた清楚で高貴な雰囲気はそのままだけど、なぜか拭えぬド天然ポンコツみの空気もそのままだ。しかもそこから発されるのは、なんでか、どうしてか、俺の名前ぇ……ッ!?

「名前を──知っているッ──だとッ!?!?」
「ふっ。……ふふん。当然だッ。ボクは向こうではじめとらぶらぶ♡いちゃいちゃ♡していたのだからなっ。キミのことなど既にお見通しなのだッ!」
「!!!!!!!!!」

 そして発される、脂汗ダラダラの唐突なマウント──。なぜ脂汗ダラダラなのかはさっぱりわからねぇが、この言葉だけでもエーテルーフが俺の代わりに現実へトリップしていたことは確実だ
 が、しかしッ、ら、ら、ら……らぶゥ……!???!!!!!???
 それはつまり、はじめと、エーテルーフが、次元を越えて結ばれてしまったということォ……!?ぉぉおお……。な、なんてこった……!!!!俺がエターニアであれこれ頑張ってる間に……しょ、しょんな……!!!!!!!!!

「ぉぉぉぉぉおおおお゙ん……ッ!!!!!!!!!」

 好きな男の推しによるNTR──。その悲しすぎる現実へ想像以上にショックを受けてしまった俺はうずくまり、ごろごろと転がり、そして天を仰いで大の字になる。この一大事ではあるが、一時的にでも傷心する時間が欲しかった。そして傷を癒やす時間が欲しかった。
 ようやくはじめを好き……好き……好き///////だと気づいた俺にとって、やはり他の相手とはじめがいちゃいちゃ♡らぶらぶ♡しているのはつらみでしんどみなことだったようだ。ああ、感情というものはいつだって、知ったその時が初☆体☆験……。
 目に染みる青空にエアで涙を流していると、エーテルーフが俺を覗き込んでつんつんと俺のほっぺを高速でつつき出す。

「む、むぅ!しまったっ!息絶えてしまったかっ!?は、はじめに「りょうと会えなかったのだけが残念」と伝えたフラグを爆速で回収してしまったことに焦り、ボクがとんだ誇張発言をしてしまったせいで……ッ!」

 つんつんつんつん……つんつんつんつん……。
 俺がただ目を瞑っているだけなどとは知る由もなく、高速つんつんを繰り返しながら衝撃の事実を告白するエーテルーフ。オイオイオイ……フラグ回収……?焦る……?誇張表現……?まさかさっきの脂汗ダラダラでそんなことを考えていたとはよォ、エーテルーフゥ……。

「しかし本当に発言は失礼だし、上げる声は鳴き声だな。さすがりょう。長い付き合いなだけある。表現が的確だ」

 つんつんつんつん……つんつんつんつん……。
 鳴き声ェ……?オイオイオイオイ……はじめェぇ……俺が居ないとばかりに好き勝手言ってくれちゃってんじゃないのォ……さすがに俺だって傷つくぜェ……。
 今まで四方八方、言われたい放題の俺ではあったが、はじめを好きだと知った今、好きな相手からの自由な発言はそこそこにクるモノがある。発見だ。俺にも繊細な乙女ゴコロ、存在してたんだな……。

「しかし目を覚まさないな。ま、まさか本当にポックリ行ってしまったのでは……は、はじめにどう言い訳したら……」

 つんつんつんつん……つんつんつんつん……。
 つんつんつんつん……つんつんつんつん……。
 つんつんつんつん……つんつんつんつん……。

「どおぉぉぉいッ、いつまでつんつんしとんじゃい!?!?!?!?生きとるわッ!!!!!!」
「うおっ!」

 むん!とエーテルーフよろしく目をカッぴらいて、俺は勢いよく起き上がる。またもぴゃっと驚くエーテルーフ。しかし俺はすぐさま立ち上がり、所在なさげにまだほんのり赤い目元でこっちを見ているウンディーネを捕獲にかかる。

「あ……っ。ぅ、うわ……っ!」
「つかいちばん大事なウンディーネを無視すなッ!ぼっちにされてしゅーんとしてるだろうがッ!この隙に逃げられなくてよかったよっ!!」
「むっ!そうかっ!ウンディーネっ!すまない。まさか、ボクが賢者と鉢合わせるとは考えていなくてな」

 そこでようやくウンディーネへ向き直るエーテルーフと、エーテルーフをまじまじと見つめるウンディーネ。

「あ、ぃ、いえ……っ。というか……っ?あ、貴方がエーテルーフ様……っ?リョウが言っていた、エーテルの正式な守護者、だという……っ?」
「うむ。いかにもボクがエーテルの保持者であり守護者のエーテルーフだ。実はこのりょうと入れ替わるカタチで現実にトリップ──モゴゴゴゴゴゴ!」
「バッカオイ!ウンディーネはなんも知らねぇんだぞ、メタネタとか禁忌だろ、ドボケ!ちったぁ話題弁えろっ!」
「モゴゴゴゴォ……ゴゴゴゴッ、ゴゴゴッ、ゴゴゴゴォ……!(そ……そうだったな。ボクとしたことが迂闊だった……!)」
「わかりゃいいの!壊れた洗濯機みたいなお返事、結構結構ッ!」
「ふぅ……っ!うむ。キミが注意してくれて助かった。あぶない所だったな、りょう」
「おーよっ!」
「……。」

 まるで照らし合わせたようにチームワークばっちりんこに口裏を合わせる俺達。正直エーテルーフがナニ言ってたかなどさっぱりわからんかったし、ウンディーネは絶対にこいつらには関わりたくない、と言いたげな珍獣を見るような目で俺らを見比べているが、それどころではない。とにかく、エーテルーフに今の状況を説明をして貰わなきゃならねぇ!

「エーテルーフッ!とにかくお前がなんでここに居るのか今すぐ教えろッ!俺らはさ、お前が居ないって前提でさ、ここで行動してたんですからッ!?いきなり現れた意味を、教えてくんないとさぁ!?」
「むっ……そうだな。まず、ウンディーネ」
「は、はい」

 俺が促すと、エーテルーフはウンディーネをまっすぐに見上げた。その瞬間、空気が変わる。そこに居るのはメタ要素バリバリのふざけた開発室のエーテルーフじゃなく、エターニアのエーテルの守護者へと切り替わる。

「ボクはエーテルーフ。りょうから聞いていたかもしれないが、元々はエターニアに居た正当なエーテルの守護者、そしてエターニアの均衡者だ。諸事情でこの世界から切り離されていたが、親切な者の協力を経て帰還することがた」
「そ……そうでしたか。先程はご挨拶もせず、申し訳ありません」
「いや、構わない。キミはボクの存在を知らなかったのだろう?そんな状態でもエーテルを滞り無く護ってくれて、感謝している」
「いえ、そんな。私は、賢者としての役割を、全うしていただけで……」
「だが、エーテルは四大元素すべてを含んだ複合体。各元素に対応しているわけではない。管理は苦労しただろう」
「そ……そうですね。確かに、私が違和感を感じた発端はエーテルへの手触りだったかもしれません。あれは、明らかにもっと適切な管理方法があると思える造りをしていましたから……」
「うむ……元々はボクのための器だからな。それを無理矢理、キミたちに合わせていたのだから違和感を感じるのも当然だろう。だがボクは帰還した。もう安心していい。ここへ来たのも、祭壇のエーテルをボクの管理に戻す為なのだからな」
「そうでしたか……。で……ですが、今更間に合うのでしょうか?もう世界は、かなり危険な状態に在ると思うのですが……」
「そういや、さっきも言ってたよな。なんか、自然がヘンだとかさ」
「ふむ、キミも感じていたか。確かにキミの感覚通り、この世界は現在非常に不安定な状態になっている。だがボクがエーテルを扱えば、少なからず安定するはずだ」
「今まで姿を消されていたエーテルーフ様が出てくるほどの事態なのですね。やはり、私のせいで……」

 それを聞いたウンディーネは、更に顔面蒼白になって俯く。
 ワタシノセイデ……とか言ってるし、やっぱりありもしねぇ自責の念でいっぱいなんだろう。お日様の下で見ると改めて苛つくというか、解せない。どうしてこっちの話も聞かないで、勝手に勘違いしてんだろう。独りになろうとしてんだろう。

「だからさ、ウンディーネのせいじゃないって言ってんじゃん!?そりゃまったく関係ねぇってわけじゃないかもしんないけど、他の賢者もやりようはあるって言ってんのに!そもそもサラマンダー様はお前が好きだし、お前もサラマンダー様のこと好きなんだろぉ!?」
「む……っ?なんだ?何の話をしているんだ?」
「ウンディーネはさ、自分とサラマンダー様が両想いだから世界がヤバいことになったって思ってんの!しかも、なんか一緒に居たらお互いの在り方を歪めるとか言っちゃってさぁ……!だからお互いは結ばれるべきじゃないって!諦めるって!そういうこと言っちゃってんのっ!エーテルーフも違ェって言ってやってよ!」
「わ……私をわざとらしく責め立てる言い方をしないで下さい!私は事実を述べているだけです!それにこんな状況になった以上、私の我だけを通すわけにはいかないでしょう!?こんなにも不安定になってしまった世界で、私だけが願いを叶えても、意味などありません……!」
「ふむ……。」

 悲痛なウンディーネの叫びに、エーテルーフは俺達を見比べる。
 そして、抑揚もなく──一言。

「そうか。確かにその認識に……間違いはないな」
「な゙ぁっ!?」
「っ──!……や、やはり。そう、なのですね……」

 ウンディーネの叫び以上に悲痛な一言に、俺達は揃って絶句する。ウンディーネなんて顔面蒼白通り越して、雪になっちまったんじゃないかって顔色だ。そりゃそうだろう。エーテルの正式な守護者に、自分の言葉を肯定するような決定的な一言を言われたんだから。
 いよいよ力を無くして、肩を落とすウンディーネ。乾いた笑いがあまりにも痛々しい、そのキツすぎる姿を見て、思わず俺は乱暴にエーテルーフの袖をひっつかむ。

「ば、ばッかぁー!そこはフォローする場面だろっ!?追い打ちかけてどうすんだよッ!」
「最後まで話を聞け。その認識に間違いはないが、正解ではないということだ」
「え……っ?せ……正解じゃない?……ナニ?それって……一体、……どゆこと?」

 俺の力でがっくんがっくんと揺さぶられたまま、変わらないペースで喋り続けるエーテルーフ。ま、真面目な話なんだから、止まってくれぇ!(止めない俺……。)(がっくんがっくん……。)

「確かにウンディーネの言うことは一部分正しい。キミとサラマンダーの行動で、この世界の異変に至る原因が生まれたのは事実だ。しかし言わばこの現象は、ボク達全員に原因があり、責任があると言える」
「な……。それは、どういう意味、ですか?」
「全員って、どれくらいの全員なんだよ?」
「少なくとも、賢者達は全員だ。そこにはボクやキミも含まれる」
「え!?マ、俺もなの!?」
「そうだ。この問題は非常に複雑化していて、説明をするのが難しい。だが、ひとつだけ言えるのは……ウンディーネ。」
「は……はい」
「キミだけがこの現象に責任を持つのは、非常に傲慢だということだ」
「ご。傲慢……っ」

 傲慢、という発言で目に見えてウンディーネが怯む。今の姿勢を、今までとは違う言葉で責められたからだろう。ご、傲慢。その発想はなかった。さ、さすがエーテルーフ……!

「そうだ。キミだけでは到底抱えられる重さではない問題や責任を、キミ独りで背負おうとするのは非常に傲慢で、非常に迷惑な行為だ。キミは今、複数人で力を合わせ、協力すべき問題を、非協力的な態度で独占的に抱えているに他ならないのだから」
「っ。そ、それは……」

 ドストレートにキレッキレの発言で、続けざまにザックザクとウンディーネをブっ刺すエーテルーフ。元々クールなやつだけど、こういう場面だとガチで容赦がねぇなと思い知る。だが……それはこいつがウソをつかないからこそ。こいつが無垢の名の下に、まっさらであるがゆえだ。

「それに、キミはサラマンダーと共に居ることで在り方が歪む、と思っているようだが……残念ながら、キミ達はそれ程脆弱に「造られていない」。キミ達はキミ達の、決して逃げられぬ役割と共に在る。それがキミにとって祝福であるのか災厄であるのか──選ぶのは、キミ自身だ」

 それは俺から聞けば、明らかなメタ発言。
 ここに存在する以上、「キャラクター」としての「役割」からは逃れられない。それほど強固に、「キャラクター」ってモンは造られてる。エーテルーフがどっちの意味で言ってんのかはわかんねぇが……何も知らないウンディーネにとっちゃ、それは「賢者」って自分の立場になるんだろう。

「……。」

 でも……こうやってエーテルーフの言葉を聞くと、メタとか現実とか、そこに大差があんのかな、と思っちまう。現実だって人間もその時々の役割で生きている。家族。友人。恋人。俺だってウンディーネとはじめの前じゃ、もうきっと態度も性格も変わっちまうだろう。
 人はキャラクターじゃない。
 キャラクターも人じゃねぇ。
 でも……そこに重なるモンがあるからこそ、人はフィクションを描いて、いろんな想いをキャラに託して祈るんだろう。
 そうだ。俺から見たって、こいつの、なにがあっても揺らがないキャラクターとしての「ウンディーネ」は……造られていたとしても、間違いねぇ、開発者が与えた『祝福』のひとつ。キャラがキャラであるがゆえの、眩しさだ。それはたぶん、こんなバグが起こりまくった世界だからこそ……光り輝く「強さ」のはずだ。

「……そうだよ。お前はマジマジに頑張って賢者になったんだろ。ちっさい頃からの夢、それで本気で叶えたんだろ?そんだけガチつよの想いでなった立場が、恋くらいで揺らぐわきゃ、ないでしょ!!」
「り、リョウ……」
「お前はちゃんと強いんだよ、ウンディーネ。あとはお前自身がそれを見つけるだけ。そこに覚悟……持つだけなんだって」

 その「強さ」を本当の意味では理解しなくていい。所詮それは、現実側のくっだらねぇ特権思考だからな。でも、いろんなモンが揺らいでるこの世界だからこそ、自分自身に根付いたモンを眼差してほしい。こんなやってられねぇ想いも。フラフラ定まらねぇ弱さも。すべては、自分の芯を知らしめるモンなんだって。
 だからよ、ウンディーネ。
 俺は祈るよ。
 キャラのまま。
 ひとの揺れとブレに触れて。
 誰とも等しくねぇ。
 『ウンディーネ』としての。
 自分自身の答えを……見つけてほしい、って。

「……それにな!立場が変わりゃ性格変わんのなんて、フツーだからな!はじめの話題出された俺のこと見てたろ!毎度の俺じゃなかったろッ!」
「そ。それは、確かに……そうですね。まったく、いつものリョウではありませんでした」
「つまり結局全部、見方次第ってことだろッ!祝福って思えば全部祝福なんだよッ!だからいつまでも逃げ回ってねーで、自分の好きな気持ち、ちゃんと認めろッ!!」

 ビシィ……!と俺はウンディーネを指差して、そう言い放つ。カッコつけたウエメセのこと言って、ちょいと照れ臭いのもあった。でも……俺は「キャラクター」が好きだ。「フィクション」が好きだ。ウンディーネが、好きだ。
 こいつの恋のために俺はこの世界を護りたいと思った。サラディネが幸せになるために世界を救う強火担になってもいいと思った。それなら伝えたい。伝えたっていい。
 水の賢者の、ウンディーネっていうキャラクターとしてのお前も。
 ただサラマンダー様に恋するウンディーネって男としてのお前も。
 俺は、どっちも、好きになっちまったんだ、って。

「……ふっ」

 そんな俺を見て、エーテルーフも澄んだ顔で含み笑う。それは勝者のスカした笑みじゃなく、この世界を知るがゆえの、柔らかで豊かな笑顔だ。エン‥エレ経験者なら誰もが一度は見惚れたことがあるだろう、エーテルーフという存在の、一点の曇りもない笑顔。

「ウンディーネ、りょうの言う通りだ。キミが心を痛める理由は分かる。自己の欲求ではなく他者の想いや現状を尊重する精神は、キミを水の賢者足らしめるものだろう。だからこそ、今はその優しさと責任を自らにも向けてほしい。それが、この世界を護ることにも繋がるのだから」
「エーテルーフ様……」

 その思いやりに溢れた言葉に、ウンディーネが声を上擦らせる。無自覚にして無垢なアメとムチ。なにをも知っているがゆえになにをも知らない、叡智と無垢が両立するこいつの境遇から生まれるそんな言葉は、人を素直に感動させる圧倒的なパワーがある。俺もゲーム中に何度もそれを実感し、とんでもねぇなエーテルーフ、と恐れ入っていた。
 それはこんな賢者様相手でも同じ。目元を拭う仕草からも、染み入っている様子が溢れている。

「そーだそーだっ、いっそサラマンダー様にめたくそに甘えちまえッ!どーせなら我ァ通しまくって吠えまくれッ!」
「なッ。す、好きな事を言いますね。私が、彼に甘える?我を、通す……?」
「おう!サラマンダー様と居て在り方が変わっちまうならよォ!そういう自分を、見せつけちまえッ!」
「……っ。ふふ……。本当に無茶ばかり言いますね、貴方は……」

 俺のヤケクソ言葉にさっきまでの暗さを少しだけ消して、赤らんだ頬で恥ずかしそうに俯くウンディーネ。なんだよ、殊勝にしてりゃこんなに可愛いのに……その表情をサラマンダー様に見せてやれ……しみじみとそう思えば、胸元のネックレスを思い出す。

「……。」

 はじめからの贈り物。サラマンダー様への想いの証。その両方が等しく乗った、どっちつかずの場所に在るアクセサリー。
 俺にとってはとても大切な、ここと現実を繋ぐもの。
 でも……俺もここまで言ったなら、覚悟するべきかもな、と思った。
 ここの住人じゃないからこそ。託すことで、示すべきかもな、って。

「……そーだ!じゃあ、コレ、持ってけ!」
「えっ?で、ですがそれは、貴方の大切なものなのでは……?」
「大事だけど……っ!お前が持ってるほうがいいと思うんだよっ!オラッ!俺からの応援!餞別!だから、受け取ってくれって!」
「あ……。り、リョウがそう言うなら……」

 完全に気圧された形だが、俺が首から抜き取って差し出したネックレスを受け取って、ウンディーネはサラマンダー様のアクセを自分の首に掛ける。ワイルドバリバリなそのアクセは今のウンディーネの服装にはまったく似合ってなかったが、ウンディーネは案外満更でもなさそうだった。そんなやり取りを見守っていたエーテルーフもそっと俺の横に並び、強く頷く。

「そうだ、気にせずともいい。キミの味方は沢山居る。ボクも。りょうも。同じ気持ちだ。それだけは、忘れないでくれ」
「おう……忘れんなッ!」

 うむ……確かにその通りだ。ウンディーネは独りぼっちで悩むのが好きなんだろーが、味方はたくさん居る。むしろこの世界なら目立った敵なんて居ないと言ったほうがいいだろう。ウンディーネがもーちっとだけでも自分から心を開いて委ねれば。皆、それに応えてくれるはずだから。
 するとコクコクと連チャンで頷いたエーテルーフは、なにを思ったか自信満々でガッツポーズし、その腕を堂々を振り上げる。

「それにな……ウンディーネっ!今のニャンニャンはかなり効果的だぞ。その調子でどんどんサラマンダーへニャンニャンするのだ。男は、ニャンニャン、大好きッ!」
「……。……ニャンニャン?」
「……………………………。」

 呆けるウンディーネと、黙りこくる俺。
 エーテルーフとガッツポーズという、同文字数でありながら最も世界で食い合わせの悪い奇跡の組み合わせと、どこから仕入れたんだよそのエロダサクソ情報とその平成越して昭和まで至ったポーズはよ、と悪夢的コンボにただただ脱力するしかない。
 さっきまでのいい雰囲気は台無し。しかし、エーテルーフに罪はない。こいつはただただ、こういうどうしようもねぇやつなのだ。

「……。あー。エーテルーフには。その。悪気がないから。どんなことも、本当に、そう思って言ってるから。だからさっきの言葉も、悪いほうに考えなくて、いーからな」
「は、はい……。エーテルーフ様に目に見えた悪意がないことは、私にも判ります。まぁ、そのほうがタチが悪いということも理解できてしまいますが……」
「まぁ……そうなるよな。でも、ちゃんとエーテルーフは味方だから!大丈夫!ニャンニャン、だいすき~!」
「……えぇ!?結局、貴方もそっち側なんですかッ!?」









「……では。少しだけ、席を外させて頂きます。申し訳ありません、お手伝いが出来ず……」
「いや、今はキミ自身を優先してくれ。そう願ったのはボクに他ならないのだから」
「……ありがとうございます。それでは──。」
「あっ。ウンディーネっ」
「はい……?なんですか、リョウ?」
「これ、あげる」
「えっ?これは……」
「俺の大事な人が、作ったやつ。お守り代わりくらいにはなるかもしんないし」
「大事な……、ああ、ハジメ様のことですね」
「名前を言うなッ!とにかく!がんばって!」
「はい。リョウも……本当にありがとうございます」
「おう!いってらっしゃい!」


「──行ったね。」
「──行ったな。」
「さて。そんじゃ、大事なキャラクター様も行ったことですし。詳しいメタメタ説明は祭壇でヨロシクな、『開発室』のリセバエーテルーフくん!」


【EX‥TIPS】
・りょうが今の今まで装着していたネックレスは2週間かけてはじめが作成したもの。材料を購入する際はりょう自らが同行し、ゲーム内の素材に近づけるため目を光らせていた。
 またりょうの友人が許可をとってSNSにてこのネックレスの写真をUPした所、大バズりしてしまい大慌てだったらしい。(はじめとりょう自身はSNSをあまり利用していない。)
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