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21話《フィクションの責任をとるのは人間です。》

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「オイッ、りょう、落ち着けボケッ!テメェがガチで暴走したら、もう誰も止められなくなるじゃねぇかッ!」
「うるせ~~~~~!!!!知らね~~~~~~!!!!!!」

 俺はマナ先生の制止もきかず、好き勝手にバンバカ術を使いまくる。元素術を使うときは常に冷静で感情を波立たせることなかれ──そう賢者先生各位に教えられたことなんて完全に頭からパーン状態──発見だ!感情が昂ぶってると術もコントロールできねぇし力も無駄に拡散しまくりでクッソ疲れる!修練以上の吐き気もマックス!
 だが、そんなチャチな疲労で立ち止まってなどいられない。俺にだって俺なりの、みみっちくも手放せねぇプライドなんちゅうモンがあるからだ。

「エーテルーフだってエターニアを知って、キャラクターを理解して、フィクションの在り方を認めて、自分を一回終わらせることで世界に寄り添ったじゃん!!!それなのに今更日和ってなにもかもスルーするなんて、あいつがエン‥エレで示したなによりも大事な選択を、無視してるのと同じじゃんかぁ!!」

 そう──それは、エン‥エレを愛しているということ。
 一端の消費者、やっとこ酒が飲めるようになったひよっ子、俗に言う非生産枠とかいうヤツだとしても、俺はエン‥エレを、エターニアを、そしてそこに生きるこいつらを愛している。そしてそれは、エーテルーフも同じだった。プレイヤー以上にゲームに近しい存在として、プレイヤーと同じ視点で、ゲームというエント‥エレメントを、エターニアを、そこに生きるキャラクターをどうしようもなく愛していた。そして俺はそれを、最後の最期まで、見守った。
 だから俺も、ここまで来て傍観することなんてできない。こんな場所までトリップしてやってきた人間として、今更キャラクターを見捨てることなんてできるワケがない。

「人間はな~!!!!フィクションとキャラクターに救われてんだよぉ!!!!命生かしてもらってんのおおおぉぉっ!!」

 アニメやゲームやマンガ。動画や音楽。
 それは俺にとって生まれた時から存在していた、暇つぶしのエンタメだった。
 つまらない時間を埋めるための道具。それ以上でも以下でもない、夢中になることはあってもその場だけの、決して長続きはしない感情であり消費行為だった。
 エン‥エレだってそうだ。お気楽で怠惰な大学生活の隙間を埋めるため、話題のゲームをプレイする。それだけのはずだった。
 ……だけど、そこには救われてる人が居た。かつてフィクションに救われたからこそ、こんなゲームを生み出したやつが居るんだと知った。衝撃だった。だって、俺が適当に触れていた世界に、こんなにも真剣に向き合ってるやつが居るなんて、今まで思いもしなかったんだから。
 その重さ。
 その熱量。
 その、狂ってるとしか言いようのない感謝と執着。
 それは、当たり前にエンタメに触れてきた俺の意識を変えた。世界にあふれるあらゆるエンタメやフィクションが、そういう狂気的なくらいの、人間の愛としんどさと意地で作られてるってことを、俺はエン‥エレをプレイしてようやく理解した。
 そこではじめて。
 エント‥エレメントに出会って……はじめて。
 俺はフィクションという仮想のはずの、偽物のはずの、俺が軽い気持ちで放り投げていた世界に、こんなにも……救われてるひとが居るんだと、知ったんだ。

「そんなら、こっちも、キャラ救ってやんなきゃダメだろーがっ!!!そりゃ救うとか自己満だけどっ!そんなんただの、ワガママだけどっ!!そこに居るキャラが望んでることがあんなら、それを聞いたんならっ、そいつを叶えなくてなにが人間よっ!?現実よぉっ!?キャラの存在と命と生き方に責任負うのは、ぜったいに、人間でしょおおおぉぉ~~~~~~がッ!!!!」

 フィクションを作り上げるのはひとだ。
 キャラクターを生み出すのも、ひと。
 ひとはそこに祈りを込める。願いを込める。
 良いことも。悪いことも。
 切実に。あるいは身勝手に。
 自分の想いをフィクションとキャラクターに託して、送り出す。
 だからこそ、その作品の中でキャラクターに自由はない。
 どうしたって決められた役割を、どこまでも強いられる。
 そんなことすら、俺はエン‥エレに出会ってはじめて知った。
 でも、だから……だからこそ。
 それをどうにかできねぇかって俺は思う。
 こんな世界に来て、そいつらと直に触れ合ったからこそ、尚更思う。
 いつだってひとの欲望と身勝手で振り回されて、数え切れないの運命の中で、永遠に切り刻まれるキャラクター。
 だけど今ここには本来のエン‥エレん中でエーテルーフが掴んだモンとまったく同じ奇跡が、間違いなく存在してる。
 ちっぽけでささやかで、だけどどうしようもなく大切なモンが、確かに俺の前に存在してる。
 それならそれを護らなくてどうすんだ。
 俺が護らなくてどうすんだ。
 フィクションに、キャラクターに救われていたからこそ、同じくらい勝手に理想や恋愛感情や衝動や性的欲求をぶつけまくった、ばかみたいに一方的でおこがましい罪悪感を。
 ここで、掬わないでどうすんだ。

「俺はぁっ。サラマンダー様もっ。ウンディーネもっ。ノームもっ。シルフもっ。エーテルーフもっ。マナ先生だってノアだってっ。大事なんだよっ!俺の中で、しあわせになってほしいやつらなんだよっ!そんなら、俺が、やるしかねぇじゃん!俺はプレイヤーでっ!人間でっ!なんでも、選べる!どんなことだって、自分の意志で選択できる!そんならあいつらが望んでること!叶えてやるのがッ!!道理でしょおおぉぉ~~~~!!!っ!!!!!」

 そのわがままであり贖罪は、このゲームの中では『選択』だった。
 選ぶという、『自由』だった。
 そのかりそめのような、それでも切実な祈りを、開発者はこのゲームに籠めた。
 それなら、それを尊重したっていいだろ。
 このゲームが与えた、このゲームが示した手段を、俺が、あいつらに差し出したっていいだろ。
 俺はここまで来た。
 エーテルーフの代わりの埋め合わせでも。
 たまたま、偶然、そうなっただけだとしても。
 ここへ、トリップできたんだ。
 それならきちんと向き合いたい。
 ここへ来た人間としての役割を全うしたい。
 だってそうだろ。
 人がフィクションにできることなんて、それだけだろ。
 勝手に好きになって、理想を好き勝手詰め込んだ、キャラに対する誠意なんて。
 実在する、そういう、現実世界の人間ができることなんて。
 あいつらに対するなにもかもの責任を。
 ただ、全力で、とることだけだろ。

「だからっ!俺はっ!退きませぇぇぇぇぇ~~~~~~~~んッ!!!!!!!」

 とにかくワタシは我を通すッ!!!!と、憚り無く俺は力を使う。
 これが俺の、エターニアに関わった責任。
 ここまで自由に動いた責任だ。
 俺は矢來麻りょう。
 エーテルーフの代わりに、エターニアに引きずり込まれた『来訪者』。
 だから俺の全部を使って。
 俺ができるぜんぶを注いで。
 俺は。
 あいつらに。

 ──すべてを捧げて、報いてやるんだ。


【EX‥TIPS】
・矢來麻(やくるま)りょうの『来訪者』としての元素術適性は10段階評価中最低の1である。無論ゲームプレイ時の攻略にはさほど影響しないが、このように世界そのものへトリップした際には著しい肉体的負担が伴う。
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