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15話《開発室には──しゃんちゃんがいるみたいです!》

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「しゃ……しゃんちゃん!!!!!!!!!」

 突如映った開発室──。
 そして突如現れた、開発者さんの「代弁者」という開発しゃん……しゃんちゃんに、俺は画面を見つめて絶叫する。

『わ~っ!さっそく呼んでくれてありがとね、はじめちゃんっ!あーしちゃん、お名前呼ばれるの大好きなんだ。いっぱいお名前呼んでくれたらうれしいなっ><』
「こ、これが開発者さん……!?も、モニター!?機械の身体!?に……人間の女の人じゃないんだ!?」
「『しゃんちゃん』は本物の開発者が残した人工知能のナビゲーター……という設定だぞ。はじめ、そんなことも知らないのか?」
「あっ、そうなのぉ!?いやだから俺、まだトゥルーエンドだってクリアしてないんだって……!」
『はじめちゃん……!>< よりによってこんなレアなトラブルに遭うのがエン‥エレ素人さんだなんて、キングさまもビックリだよっ><』
「ご、ごめん。その、ちょうどいまエーテルーフくんのルートを攻略してる最中で……えっと。それと。キングさまって言うのは……?」
『あーしちゃんのコトだよっ。あーしちゃんは開発者さまがここに残したゲーム用のメインプログラムだから、エターニアのキングでもあるんだ。だからキングさま!た~くさんゲーム内のシステム権限が与えられてるんだよっ!』
「な、なるほど……。え!?ってことは、りょうを、助けて貰うこともできる……!?」

 しゃんちゃんの自己紹介に、俺の頭にはすぐさまりょうのことが浮かぶ。メインプログラムなんてすごい名前で、ゲーム内の権限もあるって言われちゃったら当然だ。その力で、りょうをゲーム内から引っ張り出せるんじゃないかって。
 でもしゃんちゃんは画面に「>Д<」という顔文字を出して、申し訳なさそうに謝罪する。

『んんん……っ。ゴメンね、それはムリなのっ>< そもそも今回の「バグ」が起きたのは、あーしちゃんの管理不足が問題なんだぁ……><』
「えっ!?か、管理不足!?」
『うん。実はこのパッケージ版ね……残されたプログラムのせいで新しいバグが出ちゃってるんだ。フツウは主人公ちゃんと賢者ちゃんにしか親密度パラメータが存在しないんだけど、今のバグは賢者ちゃん同士にも親密度が発生しちゃってて……><』
「なぬっ!?賢者同士だとっ!?」
『そうなのっ>< 開発者さまがね、ギリギリまで賢者ちゃん同士のルートを作るか悩んでたんだぁ。賢者ちゃんたちのカップルもプレイヤーちゃんの間では人気があったし、せっかくのパッケージ版だから、そういう要素も足そうかって。でも、やっぱりエン‥エレちゃんで一番大事なのはメタ部分だって結論になって、結局はやめちゃったんだよね。だけどそのプログラム自体は、消去されないまま残ってて……それが今回のりょうちゃんのデータに反映されちゃったのぉ~……><』
「? それが問題なのはわかるけど……でも、それってトリップに関係なくない?」

 うん。確かに大変なバグではあると思うけど……でもパラメータが新しく発生しただけで、なにか問題があるんだろうか?ゲームが進行不能とかシステムやデータそのものがおかしくなるとか、そういうほうが不味い気がするんだけど……。
 でも俺の疑問に、真面目な顔でエーテルーフくんは首を振る。

「いや、はじめ、それは違う。賢者同士のパラメータ──つまり新しい感情が発生するということは、キャラクターの意志がより独立するということ。つまり、僕らの自我がより強まるということになる」
『そうなのっ。要するに、あーしちゃんが管理できない部分が増えるってコトなの。トリップの一番の原因はコレ。つまり、あーしちゃんがテルっちの暴走を止められなかったってコト……><』
「テルっち……え!?エーテルーフくんが暴走したせいなの!?」
「むっ!?確かにボクの気持ちはあの時最大限まで高まったが……暴走とは初耳だぞ」
『もぉ、他人事みたいに~!テルっちはあーしちゃんほどじゃないけど、充分なゲーム内の権限を持ってるでしょ。それが賢者ちゃんの親密度バグと重なって、めちゃつよエネルギーを発揮しちゃったのね』
「めちゃつよエネルギー……」
『ほら、テルっちの「リセット」のシステム。あれは基本的にエターニアの世界を巻き戻してすべてを初期状態にする機能だけど、『来訪者』ちゃんをこの世界へ帰す役割も果たしてるでしょ?その部分がテルっちのらぶ♡高まりで、はじめちゃんに会いた~い!って起動しちゃったんだと思う……愛の予感♡ひとめぼれ♡って感じで……つまりは恋の大暴走だよ~~><』

 な、なるほど……?独特な単語が多いけど、つまりはバグによってエーテルーフくんの感情が増幅して、エーテルーフくんが持ってた力が暴走しちゃったってこと、なのかな?それが、今回のトリップの原因……?

「つまり……本当にボクの恋心が、今回の問題を引き起こしたワケか?」

 しゃんちゃんの説明に、どこか困惑した声でエーテルーフくんが呟く。そっちを見ると髪も雰囲気もしゅんと項垂れて、いかにも落ち込んでいる雰囲気だ。
 あ……っ。
 そうだよね。これまでいろいろ頑張ってきたのに、その原因が本当に自分だったなんて知ったら、さすがにエーテルーフくんだってショックだろう。それを察したように、しゃんちゃんは明るい声でエーテルーフくんをフォローする。

「もちろん他の要因もいっぱいあるよっ!テルっちが最終的なトリガーだったけど、バグもそうだし、はじめちゃんの寸止めスリープや、りょうちゃんの存在だって……ぜんぶが偶然噛み合って、こんな異次元事件が起きちゃったんだと思うっ>< だから、テルっちだけのせいじゃないよっ」
「えっ!?りょうもなの!?てか俺も!?寸止めスリープって……!?」
「ほらぁ、はじめちゃん、一番イイところでゲーム止めちゃったでしょ?トゥルーエンドルートの序盤。テルっちがゲーム内での本当の役割を話して、自分自身を探す旅に出る、その寸前……。これからふたり旅でらぶらぶ♡いちゃいちゃ♡できる寸前にそんなのされちゃったら、テルっちだって焦らされちゃって高まりが増しちゃうよっ。テルっちは好物をいちばん最初に食べたいタイプなんだから、そこは察してあげないとぉ……><」
「えええっ、そんなこと言われても……俺は好物、いちばん最後に食べたいタイプだし……」
「はじめ……。ボク達は、とことん性格も合わないな……」
「うん、そうだね……。……いやいや!?この状況でしみじみしても!?話戻すよっ!?」
「うむ」
「で、しゃんちゃんっ。他の原因って!?りょうもなんだよね!?」
『うんっ。りょうちゃんはスッゴイエン‥エレちゃんフリークで、サラマンダーくんにメロメロだったでしょ?だからね、ある意味テルっちと利害関係が一致してたのかも。現実ではじめちゃんに会いたいテルっちと、エターニアでサラマンダーくんに会いたいりょうちゃん……。そんなりょうちゃんがすぐ近くに居たから、相互のカタチでトリップが起こっちゃったんじゃないかなぁ?』
「そ、そんな。まさか、りょうのエンエレ愛まで影響してたなんて……」
『あくまであーしちゃんの推測だけどね。それにはじめちゃんお手製のネックレスも、エン‥エレに繋がる媒介として作用してたと思う。ほら、りょうちゃん、ネックレスしたままだったでしょ?』
「えっ、あれも……!じゃあ、やっぱり俺のせいでもあるんだね……」
『うん、だからね、テルっちのせいだけじゃないよ!それにテルっちがチカラをソフトに籠めてくれたおかげで、『鍵』の代わりになってあーしちゃんも動けるようになったから!そこはウルトラソーサンクス!』
「むっ。うむ……」

 元気にエーテルーフくんを励ますしゃんちゃん。はつらつとした口調や態度は、本気でそう言っていることが伝わってくる。人工知能って言ってたけど、本当にそのままのキャラクターが存在しているみたいだ。開発者さんが残したって言ってたし、その人の性格や想いも反映されているのかもしれない。
 どっちにしても、申し訳なさそうに縮こまってるのはエーテルーフくんには似合わない。だから俺もぽん、とその肩を叩いて、笑顔を作る。エーテルーフくんはちょっと不遜で自分勝手なほうが彼らしい。いつもの彼に、戻ってほしいな。
 
「ほら、しゃんちゃんもこう言ってくれてるし。そんなに気にしなくても大丈夫だよ」
「だが……まさか、本当にボクがトリップの最大原因だったなんて……。あれだけキミを振り回してきたのに……。すまない、はじめっ」

 俺を見つめて、まっすぐに頭を下げるエーテルーフくん。その対応に、俺はびっくりしてしまう。まさかそこまで、責任を感じているなんて思わなかった。

「いやいやっ。しゃんちゃんもエーテルーフくんだけのせいじゃないって言ってたじゃない!開発者さんのプログラムがあって、しゃんちゃんのことがあって、りょうの想いがあって、それで俺の寸止めとかネックレスがあって……こんなことになっちゃったんだから!強いて言うなら関わった全員の責任だよ。ひとりで背負いこまないで」
「うむ……。ボクのチカラはそれ程強いモノだったのだな。開発者の想いを、越えてしまう程に……」

 まだどこか切ない瞳で、自分の手の平を見つめるエーテルーフくん。それはさみしくて、遠くて、どこか意味深な視線だ。行き場もなく揺れるその表情は、なんだか苦しくてもどかしくて。俺はどんな言葉をかけたらいいのか悩んでしまう。
 だけど……。

『──それでねっ!問題は、他にもあるのっ!』
「!」

 だけど、それをしゃんちゃんの声が遮る。
 ……どうやら、話はまだ終わってないみたいだ。

『すっご~くシリアスな場面でゴメンね……>< でも、大事な話だからっ。あのね、問題っていうのは世界そのもののコト。このままじゃ、エターニア世界が崩壊して強制リセットが起こっちゃうかもしれないのぉ!』
「きょ、強制リセット!?それは、プログラム側で発動する最も重いリセット……だなッ!?」
「え!それ、なんかヤバそうじゃない!?世界崩壊……っ!?」
『そうなの、ヤバいのぉ!なにしろね……それを、絶賛加速中なのが……。』
「か、加速中なのが……っ?」
『誰でもない、りょうちゃんなのぉ~~~~~~!!!!!!!><』
「ああああああ~~~~~!!!!やっぱりっ!!!!!!!」

 世界崩壊に強制リセット。不穏な単語に堂々と躍り出てくる矢來麻りょうの名前に、俺は思いっきり頭を抱える。稀代の浮かれポンチにしていつでもやらかし気味のりょうは、エターニアでも変わらずにトラブルメーカーしているみたいだ……ああ、りょうっ!ほんと、なんで、お前はっ、そうなんだよぉ~~~!!!!!><


【TIPS】
・開発者はパッケージ版に未使用のプログラムを意図的に残したと特典ブックレットのインタビューで語っている。理由は「可能性」を残したとのこと。
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