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12話《こいつは、信頼できる男です。》

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「──エーテルーフ様、……ですか」
「おう。」
「本当……なんですよね」
「おう。」

 真剣な表情で、俺達は頷き合う。
 普段のアッパラパーな雰囲気は今や皆無だ。だが内容が内容だけに、そんな空気になるのも当然だろう。俺とてエーテルーフ不在ほどの重要事実は中々おちゃらけて伝えられない。

「……この世界に、エーテルの守護者が居た……」
「おう。それなのに、エーテルだけ残してどっか行きやがった。お前が言ってたエーテルの詳細と同じように、エーテルーフの痕跡みたいなモンもどこにも見当たらねーんだよ」
「……成程。意図的に隠蔽された可能性があるということですね」

 俺の説明に、真剣な面持ちでウンディーネが眉を寄せる。やっぱりこの話は初耳だったみたいだ。つまり……今のエターニアにはガチのガチにエーテルーフが居ねぇ……存在が伝えられてねぇってことになる。なんだそれ。一体どうしてどうなって、そんなことになっちまったんだ??

「しかしエーテルーフ様なる人物の不在が、どのようにエターニアに影響しているのかは現在も定かではないのでしょう?」
「いや、それはそうかもしんねぇけど。でも……あいつが居る世界を知ってる俺としちゃ、やっぱ落ち着かねんだって。それに元々のエーテルの保持者はエーテルーフだ。そのせいで今の異変が起きてるって可能性もあんだろ?」
「それは……確かにそうですが。実際、少し前まで私達の管理下にあるエーテルによって今までエターニアは平穏を保ってきたのです。だからこそエーテルに問題を感じる賢者は居ませんでしたし、私も別の原因を探っていました」
「おう、そっか……。まぁ、そりゃ、ポッと出の俺がエーテルが原因とは言い切れねぇし……。だがよぉ。俺にはもうひとつ、懸念がある」
「懸念?」
「おう」

 そう……もうひとつの懸念。
 それは、エーテルーフが抱えていた「システム」だ。

「エーテルーフが居ないとよ。俺、帰れねぇかもしれないんだわ」
「は?帰れない……ですか?」
「そう。『来訪者』は、役目が終わったら元の世界に帰るやつも居んだろ?それって、俺が知る限りだとエーテルーフが協力してくれてたからなんだよ」

 エーテルーフの持ってる「リセット」の能力──システムは、『来訪者』のEDにも影響しているシロモノだ。『来訪者』のEDと共にエターニアはリセットされ、最初からゲームを始める状態に戻る。そしてそれはエーテルーフがリセットを行っているからこそ、実現できている挙動なのだ。
 つまりエーテルーフはエターニアの均衡だけじゃなく、この世界が一定以上──プログラムされていない領域まで進まないようにする措置を、その都度とっていたというコトになる。
 まぁそれは実際にそうってワケじゃなくあくまでもエン‥エレ内の「設定」ではあるが……がッ!ここはモノホンエターニア。エーテルーフの不在イコールリセットが行えないってことで、しかるべき時に俺の挙動がどうなるかはさっぱりわからん。
 俺的にもさすがに永遠にエターニアに閉じ込められたままっちゅーのは、なかなかに厳しいモノがある。実際、この世界はゲームの中でプログラムされてる以外の部分もどうなってるかわからねぇ。今こうやって見えてる部分だって、どこまでがそのままちゃんと続いてるのなんてわかんねぇしな。
 つまりエーテルーフの不在は俺にとって、メンタルの不安であると同時に滞在の不安でもあるワケだ。

「エーテルーフ様の不在は、貴方の帰還に関わる重要な事柄であると」
「おうよ。俺もやっぱ、帰りてぇからさ。元の世界に」

 自分でも口に出すと実感する。
 ああ、俺、なんだかんだ向こうに帰りたいんだなって。
 そう考えるとやっぱりはじめの顔がチラついて、なんとも言えない気持ちになる。

「そう、ですか……」

 低くこぼすウンディーネ。真面目な相手にはあくまでも真面目な対処をすんのは、間違いなくこいつのイイトコだな。ウンウン。

「……貴方の話は、判りました。貴方にとって現状が、由々しき事態だと言うことも」
「オッ」
「確かにエーテルーフ様の不在によって、エターニアに異変が生じている……という説も、捨てきれない訳ではありません。私は今までその方の存在を知らなかった。故に、その可能性さえ知らなかった状態です。少なからず、調べてみる価値はあるでしょう」
「オオッ」
「それに当たって──リョウ様に、ご相談があります」
「オッ。オオッ……?」

 ご相談。
 こいつにしちゃ大変珍しい「頼み事」ってヤツに、俺は若干気圧される。一体どんなことを言われるのかと、ビビっちまったのだ。しかし……。

「私と、協力関係を結びませんか?」
「なっ。きょっ。協力ッ!?」
「ええ。今私達が話した内容は、軽い気持ちで公にして良いものではないでしょう。賢者間でさえ、混乱をきたしてしまいそうですから……今の所は私達の間で内密にしておいたほうが良い、との判断です」
「じゃあ……さっきの話をナイショでヒミツにするための協力関係っつこと?」
「そうです。お互いの秘密を保持する代わりに、お互いに協力する。悪い話ではないでしょう?」

 俺を見つめてあくまで穏やかに、やらかく微笑むウンディーネの表情に、ああ、こいつ、俺のこと信じてんだなぁ、などと思う。元からツンツンしてる割に悪意には縁がなさそうなやつだとは感じてたが、こんなときでもやっぱりそうなんか……と。
 そんな顔を見てると、なんだか毒気が抜けてくる。そりゃ俺にとっちゃどうしてもサラマンダー様のライバルではあるが……ッ、それでも。それでも……なんつうか、こんなにしっかり純粋なモンを向けられたら、それを返さねぇのはどうも尻の座りが悪いというか、ムズムズしちまうのだ。

「まぁ。悪い話では……ねぇな」
「そうでしょう。私もエーテルーフ様なる人物は気になるのです。エーテルの正式な守護者……貴方以上に、大切な秘密を知っていそうですからね」

 うむ……それは……ご名答。
 確かにエーテルーフが握っている秘密や情報は、俺の比ではないだろう。名探偵ウンディーネというスピンオフを企画したい勢いだ。つまりこいつは、それだけ聡明で博識で──信用できるやつ、ってことなんだろう。

「おし……わかった!俺の話を信じてくれんなら、これ以上ねぇ協力者だ。その案……飲むッ!!!」

 ならば、否定する理由はない。このウンディーネという男を、拒否する理由はどこにもない。
 俺はヴァッと右手を伸ばし、それを躊躇いなくウンディーネへと差し出す。こいつが差し出してくれたモンを、きちんとカタチにして見せるために。

「……。」

 それをウンディーネは見た。ひどく驚いた顔をして。俺が遠慮なく差し出した信用を、長い時間見つめた。
 沈黙。
 静寂。
 なにを、ウンディーネは考えてたんだろう。

「……はい。私こそ。どうぞ、よろしくお願い致します。」

 俺にとってはなにも定かじゃあねぇが、ウンディーネは、自分の右手を伸ばして俺の手をとった。そしてそれを、硬く握った。俺が差し出したモンを。しっかりと。きっちりと。その手からひとつもこぼさず受け取るように。俺の手を。硬く、握った。
 それは俺とこいつの、新しい契約の証。
 新しい……信頼の証。
 そんなモンを感じると、なんだかやけに胸が熱くなって、嬉しくなった。
 きっとそれは、こいつが味方になってくれたって安心もあるんだろう。
 ああ……プレイヤーから封印を解いて貰ったときのエーテルーフも。もしかしたら、こんな気持ちだったんかな。

「それでは、行きましょうか?」
「へっ?」

 少しだけ……ほんのちょっとだけ感傷的なことを思えば、ゆっくりと手を離してすっくりとウンディーネは立ち上がる。長い三つ編みが、軽やかに揺れる。
 それでは。
 行く……。

「なッ。どこに!?」
「今日は丁度、私がエーテルを調整する担当日なのです」
「なッ!!!」

 俺の過剰ビックリに、爽やかに笑うウンディーネ。その表情は、以前と違って。
 俺の反応を愉しむように……どこか可笑しげなのだった。

「エーテルそのものが悪、とは思えませんが……折角です。協力のお祝いに、敵情視察、と行きましょうか?」


【TIPS】
・ウンディーネのルートでは彼が賢者という立場に人生のすべてを捧げて努力してきたことや、役割へのプレッシャーや責任感など、彼の内面が強調されて描かれている。
 このルートに於いて「異変」の原因はウンディーネ自身の心の弱さとなり、それを『来訪者』と共に克服する展開となる。
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