【完結!】すきおし↪だぶる↩とりっぷ

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9話《エンエレは親密度10がMAXです。》

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「こっ、これ。プレイしても、大丈夫なのかな……?」

 らぶ~♡らぶ~♡を続けるエーテルーフくんをようやく引き離して、俺達はきちんとTVの前に座っていた。ひとまずゲームがどうなっているか確認しよう、という話に落ち着いたのだ。エーテルーフくんが言ってた「現状確認」ってやつだね。画面の中は相変わらず、「リョウ」という名前の『来訪者』くんの立ち絵が映ったままの状態だ。

「そもそも操作が出来るのか?ハジメ、一度操作を試みてくれ」
「う、うん!」

 促されて、俺はコントローラーを手にとってボタンを押す。するとすぐに画面が切り替わって、エターニアの全体像と、各施設へ向かうアイコンが映ったマップ画面に遷移した。

「あっ。マップ画面には行けるみたい……?んっ。でも、施設には行けないな……?」

 マップ画面ではここから目的ごとに各施設へ移動して、『来訪者』としての一日を過ごすことになる。つまりはエンエレの基本のような画面だ。けど……スティックを傾けてもカーソルが効かなくて、自由な移動ができない。

「どうしよう。ここから操作はできないみたい」
「他の画面切り替えはできないか?メニュー画面に戻ったりステータス画面へ移動したり……」
「あっ、そっか。エーテルーフくん、エンエレの操作方法もバッチリなんだね……」
「しゃんちゃんが度々画面越しにエターニアを確認していることがあるからな。何度か見たことはあるんだ」
「さっきも言ってたよね。しゃんちゃんって、一体誰のこと──あっ!」

 危機的状況には似合わない世間話みたいな話を続けていると、『+』ボタンを押した瞬間画面が切り替わった。そこは『来訪者』のステータス画面。今の術の習得具合や賢者さんたちとの親密度、滞在何日目なんかの基本データが一目でわかる画面だ。

「す、すごい。この画面は見れるんだ。あ……もう滞在六日目になってる!」
「うむ。先程の挙動を見るに、新しいデータとしてリョウが登録されたようだな」
「しかも受け主人公だ!しかもいきなりサラマンダーさんとの親密度が、5!」

 俺がエンエレをプレイした時は攻め主人公で始めたから、確かにこれだけでも新しいデータになっているのは確認できる。まだりょうがエンエレの世界にトリップしちゃったなんて全然実感がないけど、このサラマンダーさんぶっちぎりのステータスを見てるとちょっと理解できちゃうのがこわいな……。

「そのリョウとやらはサラマンダーが好きなのか?」
「うん、一番好きなキャラだよ。これ、親密度っていうよりリョウの好感度なんじゃない?もし親密度にマイナスステータスがあったらウンディーネさんがマイナス10になってそう……」
「むっ。リョウはウンディーネが嫌いなのか」
「嫌いっていうか、サラマンダーさんとウンディーネさんの絡みが好きじゃないんだって。なんか、ライバル感情になっちゃうみたい」
「成程。ボクにとってのリョウというわけだな」
「んっ?」

 なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするけど……いや、今はしっかりデータを確認しよう!
 
「もう六日目ということは、時間の流れ方もゲーム内に準拠しているようだな」
「そうだね、エンエレは三回行動で一日が経過するもんね」

 エンエレで主人公である『来訪者』くんは賢者と協力する相棒的な役回りとして、色々と行動が可能になっている。好きな賢者の所へ手伝いに行ったり話をしたりして親密度を上げたり、予め持ってる『祝福』の力を上げるための修練をしたり、外に出て買い物をしたり、アイテムを作るための素材を取りに行ったり。
 その行動を行うことで時間が流れて、計三回の行動で一日が終わる。トリップの期間は一年と定められていて、その期間内に主人公はなにかしらの結末にたどり着くように行動しなくちゃならない。つまりは一日一日、目的のルートを意識して行動する必要があるわけだ。このへんは往年の育成シミュレーションと同じシステムだってりょうが言ってたっけ。
 期間は一年だけどうまく行動すれば一ヶ月位で賢者と親密度がMAXになって、すぐにクリアすることもできるせっかちな人にも安心な仕様だ。ただ一年の間には色々イベントがあってそれ用のスチルも用意されてるから、わりと一年しっかりプレイする人のほうが多いみたい。

「うむ。ゲーム内の一年は普通にプレイを想定すると概ね15時間。一度誰かのルートをクリアすれば帰還のフラグは立つようになっているから、もしなにも問題がなければリョウは明日には帰ってくる計算だ。だが……」
「帰ってこなかったら……やっぱりゲーム自体に問題があるってこと?」
「あるいは彼自身が帰らない選択肢をするか、だ」
「えっ!り、りょうがっ!?」
「残留もエンドルートのひとつとして設定されてはいるだろう?可能性はゼロではないという意味だ」
「う。まぁ、確かに。りょうなら一周目は残って二周目で帰ればいいとか思っても不思議じゃないな……」
「む。リョウとやらはそんなに浮かれポンチなのか」
「まぁ、かなりの浮かれポンチかな……」

 不安になってないかな、大丈夫かな、無事かな……最初こそそう考えたけど、よくよく思うとあのりょうのことだ、異世界に行ってもピンピンしてそうだし、帰るギリギリまでエターニアをできるだけ全部楽しもうと思うに違いない。サラマンダーさんが存在する世界に行けるチャンスなんて、二度とないかもしれないんだから。
 でも……。

「……でも、やっぱり俺は心配だよ。りょうが、俺の手の届かない所に行っちゃったなんて。怖くて、仕方ない……」

 ……だけど。
 残されてただ待つしかないほうからすれば、不安も心配も募るばっかりだ。向こうでなにをしているのかもわからない。なにが起こっているのかもわからない。
 異世界転生は最近マンガとかアニメとかでもよく見かける題材だけど、大体は転生したほうの話がメインで、そりゃそのほうが面白いんだから当然なんだけど……残された側が描かれることは少ない。だから俺みたいなやつの気持ちは、どこにも伝わることなく消えていってしまう。
 転生をする人はふとしたきっかけだけじゃなく、相応の理由があったり、人生に疲れ切ってもうこんな場所が嫌だって思った願いが届いたりして、別世界へ、行くのかもしれないけど。それも所詮、全部は、フィクションの話なのかもしれないけど。
 でも。もしかしたら。そんな相手を。その人を。大事に想ってて。心配してる、元の世界の人だって。俺みたいな人だって。居るかも、しれないんだよな……。

「……」

 俯く俺を、じっと見つめるエーテルーフくん。
 その瞳は……なぜか淡く憂いを帯びている……ようにも、見える。

「……ふむ。そうか……そうだな。ボクは人間ではないが、開発者やプレイヤーを通じて少しはヒトの機微を知ったつもりだ。キミの不安は……完全ではないが、理解出来る」
「エーテルーフくん……」
「しかし、このままでデータだけを追っていても、なにが起こっているのか判別するのは難しいな」
「そうだよね。しばらくマップ画面と切り替えてデータが更新されてるか確かめてみる?」
「そうだな……むっ!?ハジメ!見てみろ!」
「──あ!ああああっ!」

 エーテルーフくんが指を差した先。そこには、マップ画面の端っこにさっきに存在しなかった『!』マークが浮かんでいる。
 こっ。こっ。これは……ッ!!!

「これッ!ららららっ、来訪者くんのひとりごとメモっ!詰まるとさりげなくヒントくれるやつッ!」
「おお、お助け機能というやつだなッ!こまめに見ているとさらっと隠しイベントも教えてくれるという……ッ!」
「そう!そのお陰で俺もシルフさんのレアなよわよわ風邪イベントをクリアできましたっ!」
「よし、ハジメ!ならば──早速確認だっ!」
「はいっ!」

 新たな進展に俺とエーテルーフくんは興奮して、ひとりごとメモを確認する。
 するとポップアップ画面から、すぐに一言のメッセージが映し出された。

「なんと書いてある?」
「えと……っ。『祭壇にはエーテルだけ。なんでエーテルーフはいねーの?』だって……!こ、これ、この喋り方!すっごいりょうっぽい……っ!これ、りょうが見てきたことなんじゃない!?やっぱりゲームの中には、エーテルーフくんが居ないんじゃないかなっ……!」
「むむぅ、何故だ……ッ!?ボクはゲーム内に存在しないのかッ!?」
「さっきは違うエーテルーフくんが中に居るから大丈夫、って言ってたよね?実際はそうじゃないのかな……?」
「ボクが、居ない……?ボクの居ない、エターニア……?」

 ……画面を見つめたまま、呆然と呟くエーテルーフくん。
 そこにはさっき俺へ迫っていた元気や明るさは全然存在しなくて。拠り所を失ったように──暗く、不安げな顔をしていた。

【TIPS】
・エン‥エレの賢者ルートはEDでの最後の選択肢によって『帰還者』と『残留者』の二種を選択可能。どちらの場合もED後は「リセット」が行われ、ゲームを最初から始める状態に戻る。どの賢者のルートでも「その後」は描かれない。
・「来訪者のひとりごとメモ」は未到達イベントのフラグに逐一対応しており、バッドED埋めやイベントスチル埋めなど、エン‥エレの最終目標である「到達率100%」に役立つ。
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