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8話《シルフの野郎は策士ですッ!!》
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「シルフ!これむりぃ゙っ!クソしんど!ナニ!?術の修練ってこんなヤベェの!?」
「そりゃそうよ、元素術は選ばれた者しか扱えない高度な元素の使用方法だもの。何事もなく扱うには相応の練習と気力が必要よ」
「いや知らんて~~~~!!!!!!プレイの時はポチ!ポチ!ポチ!で終わってたってぇ~~~~~!!!!!!」
俺はシルフに見守られながらの修練で、泣きながら絶叫する。もちろん泣きながらっつーのは余裕の誇張表現だが、泣けと言われれば余裕で泣ける。
今日は風の賢者、シルフに捕まって前述の通り術の修練をしている。しかもお出かけデートの特別バージョン。これはたまに発生する術のレベルと賢者の親密度を両方一気に上げられるイベントで、プレイヤーとしちゃかなり便利なラッキーオトクイベントだ。だが基本スパルタなシルフ×鬼厳しすぎる術の修練という悪夢の掛け算の前では、ラッキーオトクイベントどころかグロッキージゴクイベントである。
ああ、正直舐めていた。術の修練ナメていた。だってゲームじゃボタンポッチポッチしてりゃ五秒で終わるし。連打すりゃソッコーだし。実際の修練なるモンがこんッなキツいとは思ってなかった。しかもなんか吐き気すごいんですけどぉ!?こんな体調にクるんですかぁ!?コレぇ!?
くっそぉ~~~……ッ。シルフの修練がヤバいのは知ってたのに、エーテルーフのことばっか考えてて、逃げらんなかった……ッ!!!
「もう、我儘言わないの。来訪者は『祝福』のチカラですべての元素に適性があるんだから、頑張ればコツを掴めるはずよ」
「でもぉ~!シルフぜんッぜん甘やかしてくんねぇし!?アホほど指導厳しいじゃんかぁ~~~~!?!?!?」
「あのねぇ、元素術は肉体への負担が相応にあるのよ?半端な扱い方じゃ反動が酷くて危険なの。命にも関わるんだから、指導する側として甘やかすなんて出来るわけないでしょ」
「んだよォ~~~!!!普段はよちよち♡いこいこ♡なでなで♡してくれんのによォ~~~~~~~!!!!」
シルフは現役賢者ん中じゃ一番年上のエルフ族だ。でも見た目は一番若くて、ついでにちまこい。公式プロフだと149cmだけど、実際見ると更にちっこく見えるし、口調が女性節なのも相俟ってマジで年齢も性別もなぞなぞ不詳だ。こいつで人生狂ったやつごまんと居そう。ふぅ……推しにしてたらあぶなかったな。
若干むちっとした身体にトンガリ耳。んでもって金髪という容姿はわかりやすく「エルフ」って感じだ。こういう本気の場面じゃ厳しいが、基本的には母性のかたまりで、なにかとすぐに甘やかしてくれるママでもある。
「もう……しょうがないワガママちゃんねぇ。じゃあ特別にちょっとだけ今甘やかしてあげるから。はい、ぎゅう~♡♡♡」
「むぎゅ~~~~」
ほら……こんな風に。
むっちりむちむちとしたシルフのハグは、抱かれ心地ばっつぐ~ん……♡だがこう見えても攻めの時はそれなりのオスみがあって、そのギャップには俺もグッと来たモンである。最初こそ中性的なキャラはBL的にはあんまりな~って思ってたから、余計だな!
でもシルフも他のキャラと絡んでる時のほうが味があって、俺はソッチのほうを好んでいる。他の賢者全員より年上だから誰にでも強気で余裕だし、ノームとかウンディーネを好き勝手に翻弄してるのはまた別の味がある。……ってもしかして今更だけど、ウンディーネ受けが好きなんかな、俺……。。(でもサラマンダー様は、渡さねぇゾッ!)
「それにリョウくん、なんだか元気もないみたいだったしね。あんなにお熱だったサラマンダーにもぎこちない態度をとってるみたいじゃない?」
「あ~、うん。それはそのまぁ……ちっとねぇ……」
「濁しちゃって。やっぱり異世界に来て不安になっちゃったのかしら?」
「う~~~ん……それもあるのかな。なんちゅーか……思ってたんと違う、っちゅーか……」
確かにシルフが見抜く通り、エーテルーフがここに存在しないんか……?という恐ろしすぎる仮説に辿り着いてしまってから、俺は最初のマックステンションなどどこへやら、若干魂が抜けたようにエターニアでの毎日を過ごしていた。もちろんサラマンダー様やウンディーネ、ノームやシルフと関わるのは楽しいし、ゲームで体験していたイベントをこうやって自分でやってみるってのは、まったく感覚が違ってサイコーに新鮮だ。
でもエーテルーフが最初から居ないような態度を賢者たちから取られたら、また落ち込んじまうんじゃないかって、そういう不安もあった。
正直、自分でもここまでショックを受けるなんて驚きだ。別に推しでもなんでもねぇエーテルーフでも、存在そのものを抹消されるのはさすがにキツいモンがあるんだって、実際にやられて思い知った。俺の触れたエン‥エレには確かに実存していたこのエターニアの均衡者が、他のキャラには当然のように居ないものとして扱われてる。そんな残酷なことがあっていいんかよとさえ思ってしまった。
そりゃこいつらは所詮はプログラムで、現実には存在しねぇフィクションのキャラクター。それをわかってても、ここに居るとこいつらに人と近しい感覚を感じちまう。話をしてふつうに感情を揺さぶられて。その表情や仕草に、いちいち想いを掻き立てられる。
それだけじゃなく綺麗な装飾や建物、日々移ろう天気や景色だって、感動的に俺の心へ残っている。
そんなやけに手触りのあるリアル、現実感の中で、この世界に関わってたやつ一人の痕跡がごっそりなくなっちまってるってのは……やっぱり俺にとっては、ヒジョーに重たいことだったんだ。
「ああ、そういえば君は『記憶者』って噂だものね。その割には力の扱いがものすご~く下手っぴだけど」
「カーッ!物言いがなぁ!ハッキリしてんだよなァ!」
サラマンダー様とは別の意味で隠し事をしないシルフに、俺は痰を吐き出す勢いで叫び散らす。実際こうやって触れ合うとエン‥エレのメンツってどいつもこいつもズケズケ言うやつばっかだな。いや、それも気持ちいいっつか、フィクションならではの遠慮のなさの良さではあるんだけど。
それにこうして話してると、ちょっと不安も薄れる気がする。エーテルーフが居ないのはめちゃくちゃ不安だけど。でも、今ここに居るやつらは、俺が好きになったみんななんだよな、と。そう実感できるような、気もする。
目の前だって草原に花畑に山々、都会じゃそうそう見れない雄大な自然の風景だ。シルフは俺を気遣って、わざわざこんな場所まで連れ出してくれたのかもしれない。弱っちい心と孤独な本音は隠してるやつだから、ガッツリ本筋ルート入るまでは言ってくれないだろうけど。
あ……てか……そういえば。『記憶者』。また出てきたな、この単語。今日は外で誰にも話を聞かれる心配がないし、なんかこの世界の違和感……聞いちゃっても……いいかね?
「あのさ、シルフ。その『記憶者』っちゅーの、ここの常識?あとさ、異変もなんかいつもと違うらしいじゃん。そこ、詳しく教えてよ」
「え?ああ、そうねぇ……『記憶者』については良く知らないけど……異変については、間違いなく元素の乱れが原因ね。特に今回のものはかなり大規模に広がっているから、賢者の間でもそれなりに注視されているわ」
「エッ。そうなん?それってヤバいんじゃないの?」
「まぁ、エーテルをきちんと管理していればいずれ収まってゆくでしょうけど。あの秘器のチカラは、それだけのものだからね」
「……」
う……っ。で……出ちまった、エーテル。
結局話してりゃこの話題になるわけか。まぁ……そりゃエターニアの根幹に関わるモンだもんな。避けるほうが無理って話か。
でも今エーテルは四賢者が管理してるっつう話だけど……もしかしたらそのせいで異変が起こったりしてんじゃねぇのかな。さすがにそれは考え過ぎか?けど、エーテルは俺ん中じゃどうしたってエーテルーフが持ってるモンだ。守護者で均衡者のあいつが持つことで、エターニアが護られる──ゲーム内じゃ、それがエターニアの常識だった。それが適応されてないってことは……そういうコトに感じちまうよなぁ。
「……でも、馬鹿なことを考えてる子も居るみたいだから先輩賢者としてはちょっと心配ね」
「バカなこと?しんぱい?なにそれ??」
「異変は色々な要因があると言われてるわ。元素の不和。エーテルの不和。そして、賢者の不和ね」
「ケンジャ。フワ」
「判らない時はちゃんと聞きなさい?」
「フワ。」
「フワでお返事しないの!」
何事も風のように受け流すか包容するシルフの華麗なるツッコミに感動する。まさかあのシルフがここに来てツッコミするとは思わんかった……フワ、恐るべし……!
「えと。不和ってナニ?特に賢者のヤツ。俺、それも聞いたことねぇ」
「賢者は元素を司る存在でしょ?つまりその立場の者が関わり合うことで元素が乱れて「異変」が起こる、って考え方ね。ご丁寧に色々と記録や文献や伝承も残されてるけど……まぁ、勿論私は猜疑的」
「あ~。シルフも隠れ恋多き男子って噂だもんな。かつてはあらゆる賢者と浮名を上げてたっちゅう……」
「ちょっと、それ、どこで聞いたの?」
「え、裏設定……?」
ウン……クリア後の『開発室』で聞ける、本編では語られない裏設定ってヤツだな。シルフは初代から今までずっと変わらず風の賢者の立場を守ってるとかそういうボツ設定もあったっけか。さすがにエターニアのキャラにメタの真実をベラベラ話すわけにゃいかないが、まぁ……これくらいなら許容範囲だろう。
「そもそも私は記録や伝承には猜疑的なのよ。昔の情報は、得てして残された者が都合良く物事を改変していることも多いから。特に賢者同士の接触なんて、過去何度もあったことだもの。勿論彼らは相応の対策をとっていたけど……外部が情報を統制してそもそも関わらせない、という判断をしたと私は思ってるわ」
「ほーん……そっかぁ」
「でも、あくまでそれは私の考えで……それを良しと思う子も居るってことね。もう、本当に頭が硬くて困っちゃうわ」
……頭が硬い?
……それって、もしや……。
「……ああ、そうだ。そういえば、『記憶者』についてウンディーネが気になることを言っていたわよ」
「! う、ウンディーネ、だと……ッ!?」
「ほら、あの子はこの国の歴史に明るいでしょ。今の時間は蔵書舎に居るはずよ。行ってみたらどう?」
「ぞ、蔵書舎……ッ!」
「それに蔵書舎には私がさっき言っていた賢者の接触に関する記録資料も残されているわ。気になるなら読んでみるのも参考になると思うわよ?」
「ぬぬぬぬッ。ぬぬぬぬぬぬ……ッ!!!!!」
この……この明らかな誘導ッ!
どう考えても、俺とウンディーネを会わそうとしているとしか思えんッ!
「シルフッ!おまえっ!俺がウンディーネをライバル☆彡と知っていての狼藉かッ!!」
「まぁ、仲が良くないのは確かよね。『来訪者』はすべての元素と親和が在る存在。私としては賢者全員と仲良くして欲しいのよ」
「それはお前の都合だろォ~~~ッ!?」
「あら、ウンディーネを嫌うのだってただの君の都合でしょ?そうね……じゃあ、蔵書舎でお勉強してくれるなら今日の私の修練はここで終わり。それで納得して貰うのはどう?」
「ぬっ!?ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ……ッ!」
修練が!ここで!終わりッ!
まだ一時間は続くと思われたッ!元素をコントロールするだけで体内が脂汗と悪寒と吐き気のミックスジュースと化すッ!あの大変苦しい時間がこれで終わり……ッ!?だが、シルフの甘言に俺はたやすく屈していいのかッ!?俺だって『来訪者』のはしくれっ!『祝福』のチカラを持つものッ!!
俺にだって、相応の、プライドがぁ……ッ!!!!!!
「──ハイ!来訪者、リョウ!!!!!エターニアの歴史を知りさらなる見聞を広めるため!!今すぐッ、蔵書舎に行かせて頂きますッ!!!!!
【TIPS】
・『来訪者』の「元素術」には適正の隠しステータスが存在し、データを作成した時点でランダムに決定される。攻略にはさほど影響しない。
・おまけコンテンツの『開発室』では作品の設定資料集の閲覧や各キャラのボツ設定などを聞くことが出来る。
・シルフは身長149cm。好きなものは愛情の多いスキンシップ。齢不詳。
「そりゃそうよ、元素術は選ばれた者しか扱えない高度な元素の使用方法だもの。何事もなく扱うには相応の練習と気力が必要よ」
「いや知らんて~~~~!!!!!!プレイの時はポチ!ポチ!ポチ!で終わってたってぇ~~~~~!!!!!!」
俺はシルフに見守られながらの修練で、泣きながら絶叫する。もちろん泣きながらっつーのは余裕の誇張表現だが、泣けと言われれば余裕で泣ける。
今日は風の賢者、シルフに捕まって前述の通り術の修練をしている。しかもお出かけデートの特別バージョン。これはたまに発生する術のレベルと賢者の親密度を両方一気に上げられるイベントで、プレイヤーとしちゃかなり便利なラッキーオトクイベントだ。だが基本スパルタなシルフ×鬼厳しすぎる術の修練という悪夢の掛け算の前では、ラッキーオトクイベントどころかグロッキージゴクイベントである。
ああ、正直舐めていた。術の修練ナメていた。だってゲームじゃボタンポッチポッチしてりゃ五秒で終わるし。連打すりゃソッコーだし。実際の修練なるモンがこんッなキツいとは思ってなかった。しかもなんか吐き気すごいんですけどぉ!?こんな体調にクるんですかぁ!?コレぇ!?
くっそぉ~~~……ッ。シルフの修練がヤバいのは知ってたのに、エーテルーフのことばっか考えてて、逃げらんなかった……ッ!!!
「もう、我儘言わないの。来訪者は『祝福』のチカラですべての元素に適性があるんだから、頑張ればコツを掴めるはずよ」
「でもぉ~!シルフぜんッぜん甘やかしてくんねぇし!?アホほど指導厳しいじゃんかぁ~~~~!?!?!?」
「あのねぇ、元素術は肉体への負担が相応にあるのよ?半端な扱い方じゃ反動が酷くて危険なの。命にも関わるんだから、指導する側として甘やかすなんて出来るわけないでしょ」
「んだよォ~~~!!!普段はよちよち♡いこいこ♡なでなで♡してくれんのによォ~~~~~~~!!!!」
シルフは現役賢者ん中じゃ一番年上のエルフ族だ。でも見た目は一番若くて、ついでにちまこい。公式プロフだと149cmだけど、実際見ると更にちっこく見えるし、口調が女性節なのも相俟ってマジで年齢も性別もなぞなぞ不詳だ。こいつで人生狂ったやつごまんと居そう。ふぅ……推しにしてたらあぶなかったな。
若干むちっとした身体にトンガリ耳。んでもって金髪という容姿はわかりやすく「エルフ」って感じだ。こういう本気の場面じゃ厳しいが、基本的には母性のかたまりで、なにかとすぐに甘やかしてくれるママでもある。
「もう……しょうがないワガママちゃんねぇ。じゃあ特別にちょっとだけ今甘やかしてあげるから。はい、ぎゅう~♡♡♡」
「むぎゅ~~~~」
ほら……こんな風に。
むっちりむちむちとしたシルフのハグは、抱かれ心地ばっつぐ~ん……♡だがこう見えても攻めの時はそれなりのオスみがあって、そのギャップには俺もグッと来たモンである。最初こそ中性的なキャラはBL的にはあんまりな~って思ってたから、余計だな!
でもシルフも他のキャラと絡んでる時のほうが味があって、俺はソッチのほうを好んでいる。他の賢者全員より年上だから誰にでも強気で余裕だし、ノームとかウンディーネを好き勝手に翻弄してるのはまた別の味がある。……ってもしかして今更だけど、ウンディーネ受けが好きなんかな、俺……。。(でもサラマンダー様は、渡さねぇゾッ!)
「それにリョウくん、なんだか元気もないみたいだったしね。あんなにお熱だったサラマンダーにもぎこちない態度をとってるみたいじゃない?」
「あ~、うん。それはそのまぁ……ちっとねぇ……」
「濁しちゃって。やっぱり異世界に来て不安になっちゃったのかしら?」
「う~~~ん……それもあるのかな。なんちゅーか……思ってたんと違う、っちゅーか……」
確かにシルフが見抜く通り、エーテルーフがここに存在しないんか……?という恐ろしすぎる仮説に辿り着いてしまってから、俺は最初のマックステンションなどどこへやら、若干魂が抜けたようにエターニアでの毎日を過ごしていた。もちろんサラマンダー様やウンディーネ、ノームやシルフと関わるのは楽しいし、ゲームで体験していたイベントをこうやって自分でやってみるってのは、まったく感覚が違ってサイコーに新鮮だ。
でもエーテルーフが最初から居ないような態度を賢者たちから取られたら、また落ち込んじまうんじゃないかって、そういう不安もあった。
正直、自分でもここまでショックを受けるなんて驚きだ。別に推しでもなんでもねぇエーテルーフでも、存在そのものを抹消されるのはさすがにキツいモンがあるんだって、実際にやられて思い知った。俺の触れたエン‥エレには確かに実存していたこのエターニアの均衡者が、他のキャラには当然のように居ないものとして扱われてる。そんな残酷なことがあっていいんかよとさえ思ってしまった。
そりゃこいつらは所詮はプログラムで、現実には存在しねぇフィクションのキャラクター。それをわかってても、ここに居るとこいつらに人と近しい感覚を感じちまう。話をしてふつうに感情を揺さぶられて。その表情や仕草に、いちいち想いを掻き立てられる。
それだけじゃなく綺麗な装飾や建物、日々移ろう天気や景色だって、感動的に俺の心へ残っている。
そんなやけに手触りのあるリアル、現実感の中で、この世界に関わってたやつ一人の痕跡がごっそりなくなっちまってるってのは……やっぱり俺にとっては、ヒジョーに重たいことだったんだ。
「ああ、そういえば君は『記憶者』って噂だものね。その割には力の扱いがものすご~く下手っぴだけど」
「カーッ!物言いがなぁ!ハッキリしてんだよなァ!」
サラマンダー様とは別の意味で隠し事をしないシルフに、俺は痰を吐き出す勢いで叫び散らす。実際こうやって触れ合うとエン‥エレのメンツってどいつもこいつもズケズケ言うやつばっかだな。いや、それも気持ちいいっつか、フィクションならではの遠慮のなさの良さではあるんだけど。
それにこうして話してると、ちょっと不安も薄れる気がする。エーテルーフが居ないのはめちゃくちゃ不安だけど。でも、今ここに居るやつらは、俺が好きになったみんななんだよな、と。そう実感できるような、気もする。
目の前だって草原に花畑に山々、都会じゃそうそう見れない雄大な自然の風景だ。シルフは俺を気遣って、わざわざこんな場所まで連れ出してくれたのかもしれない。弱っちい心と孤独な本音は隠してるやつだから、ガッツリ本筋ルート入るまでは言ってくれないだろうけど。
あ……てか……そういえば。『記憶者』。また出てきたな、この単語。今日は外で誰にも話を聞かれる心配がないし、なんかこの世界の違和感……聞いちゃっても……いいかね?
「あのさ、シルフ。その『記憶者』っちゅーの、ここの常識?あとさ、異変もなんかいつもと違うらしいじゃん。そこ、詳しく教えてよ」
「え?ああ、そうねぇ……『記憶者』については良く知らないけど……異変については、間違いなく元素の乱れが原因ね。特に今回のものはかなり大規模に広がっているから、賢者の間でもそれなりに注視されているわ」
「エッ。そうなん?それってヤバいんじゃないの?」
「まぁ、エーテルをきちんと管理していればいずれ収まってゆくでしょうけど。あの秘器のチカラは、それだけのものだからね」
「……」
う……っ。で……出ちまった、エーテル。
結局話してりゃこの話題になるわけか。まぁ……そりゃエターニアの根幹に関わるモンだもんな。避けるほうが無理って話か。
でも今エーテルは四賢者が管理してるっつう話だけど……もしかしたらそのせいで異変が起こったりしてんじゃねぇのかな。さすがにそれは考え過ぎか?けど、エーテルは俺ん中じゃどうしたってエーテルーフが持ってるモンだ。守護者で均衡者のあいつが持つことで、エターニアが護られる──ゲーム内じゃ、それがエターニアの常識だった。それが適応されてないってことは……そういうコトに感じちまうよなぁ。
「……でも、馬鹿なことを考えてる子も居るみたいだから先輩賢者としてはちょっと心配ね」
「バカなこと?しんぱい?なにそれ??」
「異変は色々な要因があると言われてるわ。元素の不和。エーテルの不和。そして、賢者の不和ね」
「ケンジャ。フワ」
「判らない時はちゃんと聞きなさい?」
「フワ。」
「フワでお返事しないの!」
何事も風のように受け流すか包容するシルフの華麗なるツッコミに感動する。まさかあのシルフがここに来てツッコミするとは思わんかった……フワ、恐るべし……!
「えと。不和ってナニ?特に賢者のヤツ。俺、それも聞いたことねぇ」
「賢者は元素を司る存在でしょ?つまりその立場の者が関わり合うことで元素が乱れて「異変」が起こる、って考え方ね。ご丁寧に色々と記録や文献や伝承も残されてるけど……まぁ、勿論私は猜疑的」
「あ~。シルフも隠れ恋多き男子って噂だもんな。かつてはあらゆる賢者と浮名を上げてたっちゅう……」
「ちょっと、それ、どこで聞いたの?」
「え、裏設定……?」
ウン……クリア後の『開発室』で聞ける、本編では語られない裏設定ってヤツだな。シルフは初代から今までずっと変わらず風の賢者の立場を守ってるとかそういうボツ設定もあったっけか。さすがにエターニアのキャラにメタの真実をベラベラ話すわけにゃいかないが、まぁ……これくらいなら許容範囲だろう。
「そもそも私は記録や伝承には猜疑的なのよ。昔の情報は、得てして残された者が都合良く物事を改変していることも多いから。特に賢者同士の接触なんて、過去何度もあったことだもの。勿論彼らは相応の対策をとっていたけど……外部が情報を統制してそもそも関わらせない、という判断をしたと私は思ってるわ」
「ほーん……そっかぁ」
「でも、あくまでそれは私の考えで……それを良しと思う子も居るってことね。もう、本当に頭が硬くて困っちゃうわ」
……頭が硬い?
……それって、もしや……。
「……ああ、そうだ。そういえば、『記憶者』についてウンディーネが気になることを言っていたわよ」
「! う、ウンディーネ、だと……ッ!?」
「ほら、あの子はこの国の歴史に明るいでしょ。今の時間は蔵書舎に居るはずよ。行ってみたらどう?」
「ぞ、蔵書舎……ッ!」
「それに蔵書舎には私がさっき言っていた賢者の接触に関する記録資料も残されているわ。気になるなら読んでみるのも参考になると思うわよ?」
「ぬぬぬぬッ。ぬぬぬぬぬぬ……ッ!!!!!」
この……この明らかな誘導ッ!
どう考えても、俺とウンディーネを会わそうとしているとしか思えんッ!
「シルフッ!おまえっ!俺がウンディーネをライバル☆彡と知っていての狼藉かッ!!」
「まぁ、仲が良くないのは確かよね。『来訪者』はすべての元素と親和が在る存在。私としては賢者全員と仲良くして欲しいのよ」
「それはお前の都合だろォ~~~ッ!?」
「あら、ウンディーネを嫌うのだってただの君の都合でしょ?そうね……じゃあ、蔵書舎でお勉強してくれるなら今日の私の修練はここで終わり。それで納得して貰うのはどう?」
「ぬっ!?ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ……ッ!」
修練が!ここで!終わりッ!
まだ一時間は続くと思われたッ!元素をコントロールするだけで体内が脂汗と悪寒と吐き気のミックスジュースと化すッ!あの大変苦しい時間がこれで終わり……ッ!?だが、シルフの甘言に俺はたやすく屈していいのかッ!?俺だって『来訪者』のはしくれっ!『祝福』のチカラを持つものッ!!
俺にだって、相応の、プライドがぁ……ッ!!!!!!
「──ハイ!来訪者、リョウ!!!!!エターニアの歴史を知りさらなる見聞を広めるため!!今すぐッ、蔵書舎に行かせて頂きますッ!!!!!
【TIPS】
・『来訪者』の「元素術」には適正の隠しステータスが存在し、データを作成した時点でランダムに決定される。攻略にはさほど影響しない。
・おまけコンテンツの『開発室』では作品の設定資料集の閲覧や各キャラのボツ設定などを聞くことが出来る。
・シルフは身長149cm。好きなものは愛情の多いスキンシップ。齢不詳。
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