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7話《りょうは俺の大切な存在です。》

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「りょ、りょ、リョウって、これっ、リョウって、りょうのこと……っ!?」
「むむぅ……ッ?」

 画面を見つめたまま混乱に絶叫する俺と、眉を寄せるエーテルーフくん。彼がこっちへトリップしてきた以上に、なにが起こったのかわからないまま。それでも、推測するようにエーテルーフくんは口を開く。

「……彼は、ボクの代わりにゲーム内に入ってしまったと言うことか?」
「え!?りょ、りょうが……げっ……ゲームの中にっ!?!?!?」

 あまりにも突拍子もない仮説。
 いくらエーテルーフくんがここへトリップしてきたからって、りょうが同じようにゲームの中にトリップしちゃったなんて、そんなの信じられるわけがない。

「だが、ボクはここに居る。ボクはエント‥エレメントに存在する、エターニアのエーテルーフ。それは絶対に、間違いがない」
「う、うぅ……っ」

 でも……確かに、目の前に居るのは俺の知っているエーテルーフくん。
 そして画面の中に映っている『来訪者』くんが着けてるのは、俺が作ったネックレスに違いない。昨日まで確かにこの家に居た、りょうが首に掛けていた……手作りの、ネックレスだ。

「で、でもっ、この『リョウ』はプレイヤー……主人公だよっ?入れ替わるなら、エーテルーフくんの立場じゃなきゃおかしくないっ?」
「むむぅ、それは確かに。だが役割の代替が目的ではないのなら、あり得ない話でもないぞ?そもそもこのゲーム内で他者が介入できるプログラムは、『来訪者』という役割だけなのだからな」
「だっ。だいたい」
「うむ。ボクの存在を埋め合わせるために誰かをゲーム内にトリップさせたわけではない、ということだ。確かに状況そのものは相互のトリップ。だが『立場』まで相互である必要はなかったのではないか?」
「?? つまり、エーテルーフくんが現実世界に引っ張り出されて……その埋め合わせにりょうがプレイヤーとしてゲームの中に引っ張り込まれちゃったってこと!?」
「そうとしか思えない。そんなことが出来る手段も、そんなことをする理由も判らないが……現に、ボクはここに居るんだから」
「うわ……っ♡」

 そっと手を伸ばして、エーテルーフくんは俺の両頬を包むように触れてくる。俺へ自分の存在を、改めて示すように。白い髪に白い肌。そして、白い衣服。すべてが白に包まれたエーテルーフくんは、まるで雪の妖精みたいだ。まぁ、実際はエーテルの守護者なんだけど……。
 それでも現実離れした容姿はこんな時でも俺を吸い寄せて、惹き寄せてしまう。実際の、ゲームの、攻略の相手。エント‥エレメントの中で、一番好きなキャラクター。俺のことを好きになってくれるその相手に濡れた瞳でじっと見つめられて。どきん、と胸が跳ねる。

「だっ……だめだよっ!今はそれどころじゃないってば!」
「だが、ボクがここへ来たのは間違いなくキミに逢うためだ。なにが理由で、なにが原因でこうなったのかは判らないが……現実のハジメに逢いたいと想う気持ちが、こんな状況を引き起こしたんだ。それを、無視しないでくれ」
「で、でも……っ。でも、俺は……っ」

 あからさまに俺を「攻略」しようとしてくるエーテルーフくんの胸を、俺はぐっと押し返す。そうだ。エーテルーフくんが本気でそう想ってくれていたとしても、俺は応えられない。だって俺にはりょうが居る。ま……まだ片思いだけど、俺が好きなのは、りょうなんだ。だから……それこそそれを無視して、今ここに居るエーテルーフくんといちゃいちゃべたべたなんてできるわけがない。そ、そりゃこんなことされたらドキドキするし、こんな綺麗な顔で、まつげも長くて、なにもかもがふわふわでいい匂いで……ああ、触りたい、もっと近くに居たい……なんて思っちゃったりもするけどっ。でも、りょうがどんな状況になってるかもわからないのに、そんな不義理なことできないよぉ!

「りょうは、大事な友達なんだっ。エンエレを教えてくれた、エーテルーフくんに逢わせてくれた、すっごく大事な友達なんだよっ!そんな相手がいきなり居なくなっちゃって、ゲームの中に入ったなんて言われたのに……俺だけ好きなことして、ひとりで楽しむなんてできないよっ!」
「むっ。むむっ……」
「大変な目に遭ってるかもしれない。怪我してるかもしれない。今りょうがどうなってるか、なんにもわからないんだ。だから……今はエーテルーフくんの想いには応えられない。せめてこの問題が解決するまで、待ってほしいんだ。……ごめんっ!」
「むむっ。むむむっ……!」

 エーテルーフくんの身体を遠ざけて、俺は床に額をつけるぐらいに頭を下げる。本当はりょうが好きなのに「友達」なんて言葉でごまかしちゃったのは後ろめたいけど、言っている言葉自体は本物だ。この問題が解決するまで……りょうがここへ戻ってくるまで。俺は、それ以外のことを考えられない。必死にそう伝えると、しばらく唸っていたエーテルーフくんは途端にキラキラと目を輝かせる。あっ。この反応。わかって、くれたかな……っ?

「ハジメ……!」
「う、うん」
「なんて……」
「なんて?」
「──なんて、格好いいんだッ!♡」
「……えっ!?」
「こんなにも魅力的なボクにここまで迫られても、友人をとるその姿勢。その誠意ッ。正にボクが恋したハジメそのものッ!♡むふぅ!ボクは!ますます!キミへのらぶ♡が高まってしまったぞぉッ!♡」
「ええぇっ!?うわぁ゙!?♡」

 二度の引き剥がしにもまったく怯まず、エーテルーフくんは三度俺に抱きつき、今度はスリスリと頬ずりをしてくる。

「わかったっ♡キミの言う通り、今はボクもリョウの現状確認と救出を第一に考えよう。ハジメが不安な気持ちなままで居るのは、ボクも本意ではないからなっ」
「え、エーテルーフくん……」

 正直今回が今までで一番のスキンシップだけど、言っていることは冷静で真面目そのもの。きちんと俺の言葉と思いを受け止めて、前向きに協力してくれるエーテルーフくんの姿勢に俺も感動してしまう。
 この分なら、さっきまでの強引なスキンシップもなくちゃんと二人でりょうを探せそうだ。元々ゲームの中に居たエーテルーフくんなら、俺には想像もできない力で助けてくれるかもしれない。これは、ものすごい協力者だぞ……!

「むふぅ~~~っ♡♡♡ハジメっ♡ますますらぶ♡らぶぅ~~~~っ♡♡♡」

 そ、そうだ。
 こ、この分なら。
 さっきまでの強引なスキンシップも、なく……!

「ちょ、ちょっとエーテルーフくんっ!ほっぺスリスリしないで!現状確認と救出第一なら!くっついてくるの!もぉやめてぇ~~っ!♡♡♡」


【TIPS】
・エン‥エレのセーブは複数可能。特にデータ数にも制限はなく、ゲーム機内の容量いっぱいまでデータ保存を行える。
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