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【余談】
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「ごちそーさまでしたっ!トリュフなんて初めて食ったっ」
「そう?お口に合ったなら良かった。食事にまで文句言われたらたまらないからね」
「文句なんか言わないよっ。理平さんと食べるなら生ゴミだっておいし~♡」
「冗談に聞こえないから止めてくれる?」
馴染みの店で食事を終え、街を歩く。爽に厄介な懐かれ方をされて数週間。彼の快活で病的な盲目さは相変わらずだ。こうやって会話をしていても彼のペースに呑まれている気がして、なんとも解せない。今も隙間なく纏わり付かれて、隙あらばセックスをねだって来そうだ。
「──あれ?もしかして……理平?」
「……げっ。ヴィクトール……!」
──そこに現れたのは、犬猿の仲であるヴィクトール。親しくしているヴィオの兄で、色々と因縁のある相手だ。最悪の偶然に顔を顰めると、愉しげにヴィクトールは爽とこちらとを見比べる。
「こっちに戻って来てたのか。相変わらず貧相な身体使って豪遊してるの?ペットまで飼い始めて、良いご身分」
「アンタこそ最近は良い噂を聞かないけど。私に口出ししてる暇あるの?さもしい貧乏人上がりなんだから、もっと頑張らなきゃ駄目なんじゃない?」
探るような視線を一蹴し、刺々しく言葉を返す。一触即発、龍虎の対峙と言わんばかりの応酬。しかし……すっかり図太さを得て空気を読まなくなった爽が、そこに堂々と割り入ってくる。
「あのッ、理平さんのこと、知ってるんですかっ!?よかったら素性とか教えて貰えます!?」
「はぁ!?ちょっと……爽くん!?」
「爽……?……へぇ、凄い躾の悪さ。理平、こんなの飼ってて恥ずかしくないの?」
「……煩い。アンタには関係ないでしょ、ちょっと黙って」
「ふふ……。君、お名前は?」
「日暮史爽ですっ!」
「ふぅん……」
ストレートに失礼な物言いから邪気もなくヴィクトールの質問へ答える爽に、いよいよ理平も眉間を押さえる。この振る舞い、躾が悪いのは実際図星でしかなく、言い返す余地もない。そんな理平を快く嗤ったヴィクトールは一歩を進み、まじまじと爽を見つめてその顎をとる。緩く笑んで、開く唇。
「ねぇ、日暮史爽くん。こんな謎だらけの針金男止めて、俺の所へ来ない?俺ならもっと、君を満足させられるよ」
「なっ……!」
爽と同じように真正面な誘い文句に、思わず理平は声を上げる。ヴィクトールのやり方は嫌がらせだと理平も当然判っていたが、あまりに手が早いと思ったからだ。ヴィクトールは嫌味で悪辣だが人の物に手を出すような真似はしない。それがあまりにハイリスクローリターンな手段だと、経験によって理解しているからだ。
それなのにこの物言い。この秒の誘い。何と答えるのかと爽の反応が気になってしまい、じっとそちらを見つめると……。
「えっ?あ、ヤです!俺、理平さん専属ストーカーなんで!他の人、眼中にないんで!」
……爽ははっきりと否定を示し、ヴィクトールの胸を押し返す。見る者が見れば(具体的にはヴィオやサニー辺りだろうか)顔面蒼白になるシーンだが、爽の答えを聞いたヴィクトールは呆気にとられたように一拍の間を置き、大声を上げて笑い出す。
「──アハハ!ちょっと、理平!こんな面白い子、一体どこで見つけたの!?」
「見つけられてませんっ。育てられました!!」
「な……っ。くくく……っ。ちょっと待って。冗談だろ、お腹痛い……っ」
「ヴィクトール、本当に煩い。爽くん、アンタはもう喋んないで」
「なんでっ?事実じゃん!」
事実だからだ、だ。
……と言えるわけもなく、理平は苦虫を噛み潰した表情で笑い転げるヴィクトールと口を尖らせる爽に天を仰ぐ。青い空。白い雲。厄介で面倒な男しか居ない、どうしようもなくやっていられない空間。
それに大仰な溜息を吐き、この場をどう切り抜けようかと、茫洋に理平は考える。爽の返事へ何故か無性に安堵した胸には、そっと──目を瞑りながら。
「そう?お口に合ったなら良かった。食事にまで文句言われたらたまらないからね」
「文句なんか言わないよっ。理平さんと食べるなら生ゴミだっておいし~♡」
「冗談に聞こえないから止めてくれる?」
馴染みの店で食事を終え、街を歩く。爽に厄介な懐かれ方をされて数週間。彼の快活で病的な盲目さは相変わらずだ。こうやって会話をしていても彼のペースに呑まれている気がして、なんとも解せない。今も隙間なく纏わり付かれて、隙あらばセックスをねだって来そうだ。
「──あれ?もしかして……理平?」
「……げっ。ヴィクトール……!」
──そこに現れたのは、犬猿の仲であるヴィクトール。親しくしているヴィオの兄で、色々と因縁のある相手だ。最悪の偶然に顔を顰めると、愉しげにヴィクトールは爽とこちらとを見比べる。
「こっちに戻って来てたのか。相変わらず貧相な身体使って豪遊してるの?ペットまで飼い始めて、良いご身分」
「アンタこそ最近は良い噂を聞かないけど。私に口出ししてる暇あるの?さもしい貧乏人上がりなんだから、もっと頑張らなきゃ駄目なんじゃない?」
探るような視線を一蹴し、刺々しく言葉を返す。一触即発、龍虎の対峙と言わんばかりの応酬。しかし……すっかり図太さを得て空気を読まなくなった爽が、そこに堂々と割り入ってくる。
「あのッ、理平さんのこと、知ってるんですかっ!?よかったら素性とか教えて貰えます!?」
「はぁ!?ちょっと……爽くん!?」
「爽……?……へぇ、凄い躾の悪さ。理平、こんなの飼ってて恥ずかしくないの?」
「……煩い。アンタには関係ないでしょ、ちょっと黙って」
「ふふ……。君、お名前は?」
「日暮史爽ですっ!」
「ふぅん……」
ストレートに失礼な物言いから邪気もなくヴィクトールの質問へ答える爽に、いよいよ理平も眉間を押さえる。この振る舞い、躾が悪いのは実際図星でしかなく、言い返す余地もない。そんな理平を快く嗤ったヴィクトールは一歩を進み、まじまじと爽を見つめてその顎をとる。緩く笑んで、開く唇。
「ねぇ、日暮史爽くん。こんな謎だらけの針金男止めて、俺の所へ来ない?俺ならもっと、君を満足させられるよ」
「なっ……!」
爽と同じように真正面な誘い文句に、思わず理平は声を上げる。ヴィクトールのやり方は嫌がらせだと理平も当然判っていたが、あまりに手が早いと思ったからだ。ヴィクトールは嫌味で悪辣だが人の物に手を出すような真似はしない。それがあまりにハイリスクローリターンな手段だと、経験によって理解しているからだ。
それなのにこの物言い。この秒の誘い。何と答えるのかと爽の反応が気になってしまい、じっとそちらを見つめると……。
「えっ?あ、ヤです!俺、理平さん専属ストーカーなんで!他の人、眼中にないんで!」
……爽ははっきりと否定を示し、ヴィクトールの胸を押し返す。見る者が見れば(具体的にはヴィオやサニー辺りだろうか)顔面蒼白になるシーンだが、爽の答えを聞いたヴィクトールは呆気にとられたように一拍の間を置き、大声を上げて笑い出す。
「──アハハ!ちょっと、理平!こんな面白い子、一体どこで見つけたの!?」
「見つけられてませんっ。育てられました!!」
「な……っ。くくく……っ。ちょっと待って。冗談だろ、お腹痛い……っ」
「ヴィクトール、本当に煩い。爽くん、アンタはもう喋んないで」
「なんでっ?事実じゃん!」
事実だからだ、だ。
……と言えるわけもなく、理平は苦虫を噛み潰した表情で笑い転げるヴィクトールと口を尖らせる爽に天を仰ぐ。青い空。白い雲。厄介で面倒な男しか居ない、どうしようもなくやっていられない空間。
それに大仰な溜息を吐き、この場をどう切り抜けようかと、茫洋に理平は考える。爽の返事へ何故か無性に安堵した胸には、そっと──目を瞑りながら。
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