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【はてなカラメル】
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「はぁ……」
──柄じゃない。
分かっている。そうじゃなきゃそもそも、こんな溜息なんてつかない。一体なにが柄じゃない、って?それは、最近のセックスのこと。俺は東雲悟。自他共に認める遊び人。これまでお相手には一切深入りすることなく、ただただ気持ちよくしてあげるセックスを続けてきた。ついでに俺も気持ちよくなれれば万々歳の一石二鳥。そうやって俺は誰とでも、万事安心安全な後腐れのないお付き合いをしてきたんだ。
俺のモットーは「与えること」。相手が望むものを差し出して喜んで貰うことが、小さい頃から一番の喜びだった。だからこの仕事は平凡だけど天職だって思ってるし、色々なお相手と肉体関係を持つことも、その一環の所があった。快楽は人によってまったく形が違う。手触りも、感覚も、なにもかもが異なっている。それをドンピシャで与えられたときの歓びはひとしおだ。だからそこに価値を見出して、俺は数え切れない人達と、数え切れないセックスを繰り返してきた。
でも……最近はそうじゃない。誰かを誘うこともしてないし、ハメカフェにもアダルトイベントにも行ってない。イベントでよく会う至さんからも、「最近は顔を見せないな」なんて連絡を貰ってしまった。そう。俺が最近セックスをする相手は──吉乃さんばっかり、なんだ。
吉乃さんは可愛い。出会ったときから「なにこのドツンデレチョロい超希少種」とか感動していた。からかえば大げさに反応して、強気なのに絆されやすくて、お酒飲んだらびっくりするくらい弱気な甘えんぼになっちゃって。更にはドスケベのくせにウブで奥手で、実は処女で……。そんな知れば知るほどギャップの塊な吉乃さんのことを、可愛く思わない人なんて居ないだろう。それは俺も、同じだった。
今までも抱いた人を可愛いなと思って、継続的に関係を持ったことはあった。それを楽しいとも思っていた。感情が乗るセックスは快楽が段違いだ。だからお相手に夢中になれば、それだけ気持ちのいいセックスができる。前から俺は、そう思っていたはずだった。
でも……セックスするたびに見せる吉乃さんの反応は、段違いに可愛いと思ってしまう。俺の言葉や動きですぐに感じてイっちゃう姿が可愛くって仕方なくて、もっと見たい、もっと欲しいって思っちゃう。その感情が暴走して、理性吹っ飛ぶくらい責めちゃうことも日常茶飯事だ。普段ならもう少しセーブして、お相手が気持ちよくなるのを第一に動けるはずなのに、吉乃さん相手にはどうしても、それができない。
散々セックスしてもすぐにまた吉乃さんとシたくなって、自分からガツガツ連絡とって、毎週レベルでセックスして……。ひとりの人にここまで夢中になっちゃって、いつもの俺らしくないなぁって分かってる。だからそれが、最近の悩み。でも吉乃さん、いつ誘っても絶対OKくれるんだもん。そんなの、完全に甘えちゃうよね?
「どうしたの悟くん?元気……ない?」
「あ……いえいえ。問題ナシです。えと、次の納品は問題ないんですよね?」
「うん、大丈夫!空調が新しくなったお陰か、作業効率も上がってさ。締切よりも早く納品できそうだよ」
涼しい事務所で向かい合って話すのは、ウチの取引先の橘真澄(たちばなますみ)さん。スケベくんスケベちゃんたちに大大大人気のオナニー・アナニーグッズを作る、町工場『TACHIBANA』の社長さんだ。とても優しくてちょっと気弱な性格で、吉乃さんとは別のタイプで可愛い人でもある。普段は「スミさん」と呼んでいて、俺は営業担当として、そしてこの人を純粋に慕うひとりとして、ずっと親しく接してきた。スミさんの商品はウチが今独占販売している関係もあったしね。
スミさんは以前女性と結婚していたバツイチで、元々ヘテロセクシャルの人だった。でも俺の話を聞くうちに男性にも興味を持って、抱かれてみたいと思うようになったんだって。だから俺が立候補して、「接待」って名目で前にスミさんを抱いたんだ。元々スミさんはマゾだなぁって思ってたけど、セックスをしてその才能が大開花。俺がちょっと後押ししただけで驚くぐらいのドスケベなマゾメスさんになって、セックスの最中は沢山、気持ちよくなってくれた。あれ、嬉しかったなぁ♡
「あっ、やっぱり空調新しくなったんですね!道理で涼しいと思った~」
「う、うん。いろいろ、融通を効かせて貰ってね……」
──融通。
言葉を濁して申し訳なさそうにするスミさんの態度に、俺はピンと来る。
俺はスミさんを抱いてから、「接待」として肉体関係を続けていた。スミさんがスケベに目覚めて性欲を持て余してるのもわかってたからね。だけどとあるパーティーでスミさんは緋鷹さんっていうセレブさんと出会って、「愛人」の話を持ちかけられた。その話は前からスミさんに聞いていたけど、実際に緋鷹さんと会って相当お熱なのが窺えたから……俺はそこで、スミさんのお相手をすべて緋鷹さんにお任せすることにしたんだ。俺はセックス抜きでもスミさんとビジネスパートナーとして付き合えるとわかってたし、緋鷹さんがスミさんをいろいろな意味でちゃんと愛してくれるなら、それが一番だなって思ったから。
だからこの『融通』っていうのも、緋鷹さんのことを言っているんだろう。うん、分かるよ。だって緋鷹さんは絶対……スミさんのこと、好きだもんね。
「……いいなぁ。スミさん、すっかり緋鷹さんと仲良くなっちゃったんですね。空調を融資して貰えるくらいに……」
でも、どこか想定内だったスミさんの返答に、何故か俺はまた深く溜息をついてしまう。出てくる言葉は無意識で。そんな俺の反応に、スミさんも驚いたようだった。
「融資!?緋鷹さん!?ど、どうしてそこが結びつくんだよっ♡くっ、空調は折半だよ、折半っ!♡」
「折半?え、スミさんと緋鷹さんが?……えっ、おふたりってそこまで関係が進んでたんですか?やっぱり愛人ってブラフだったんだ……?」
「そ、そこまでってどういう意味だい!?ブラフ、って……♡ひ、緋鷹さんとはそのっ、まだまだ、全然っ♡ゆっくり関係を築いてる段階で……ッ♡」
「えぇっ?いや、それ完全に結婚前提のお付き合いじゃないですか。いいなぁ……」
「ぃ、いいなぁ、って……♡悟くん、どうしたんだい?君が人の関係を羨ましがるなんて、珍しいね……っ?♡」
「……あれっ。えっ?俺、そんなこと言ってました……?」
「言ってたよ~♡」
「「!」」
スミさんの弱々しい指摘に、今度は俺が驚いて顔を上げる。すると同時に事務所のドアが開いて──例のセレブさん、鳳緋鷹(おおとりひだか)さんが、タイミングを謀ったように颯爽と現れた。
「真澄、こっちに居たんだね♡どこに居るかわからなくて、あげはちゃんに場所を聞いちゃった。「緋鷹っちカッコよウケる~♪」とか言われちゃったよ♡ギャルの子って可愛いねぇ♡」
「ひ、緋鷹さん!?ど、どうしてここに……ッ。来るなら電話してくださればよかったのにっ」
「いや、悟も居るって聞いたからさ。折角だし、サプラ~イズ♡」
両手をパァ♡と開いて、無邪気に笑う緋鷹さん。緋鷹さんはこんな人だ。スリーピーススーツに真っ赤なストールを掛けたダンディな姿からは想像もつかない子供っぽくてお茶目な言動は、誰もが一度は面食らうだろう。スミさんの隣へ当然のように腰を下ろした緋鷹さんは、俺へ向き直ってニコニコと笑う。
「話はこっそり聞かせて貰ったよ。悩んでいるのは悟かな?」
「な、悩んでるって。俺が……ですか?」
「いつもと違う言動は、いつもと違うことを考えている証拠じゃないか。ほら、私達は紛うことなき人生の先輩。アドバイスを受けるなら絶好の機会だよ♡」
「アドバイス……」
でも、それだけの印象で終わらないのがこの人でもある。飄々と笑いながら、俺自身も見えない心の奥を見透かすように獲物を狙う光を瞳へ宿すのは、まさしく人生経験豊富な緋色の鷹。俺はこの眼を見て、舐めて掛かっちゃ駄目な相手だな、と思ったんだっけ。
……それなら抵抗するだけ無駄だ。俺はあっさり白旗を揚げてスミさんと緋鷹さんを見比べると、おふたりに『アドバイス』を請うべく、今の素直な気持ちを素直に吐き出す。
「……俺自身、よくわかんないんです。俺いま、一人のひととしかセックスしたいって思えなくって。……いつもと違うなぁって」
「ええっ!?毎回違う方と遊んだ話を楽しそうにしていた悟くんがっ?」
「そうなんです。別に不満も不安もないんですけど、それがちょっと、モヤモヤしてて」
「な~るほど。悟は自分の感情が判断できずに居心地が悪いんだね。でも、安心して良いよ♡」
「あッ、ぅわっ!?♡」
すると俺の言葉を聞いた緋鷹さんは、真澄さんの肩を抱いてぐっと引き寄せる。満面の笑みと戸惑いの表情。その対照的なちぐはぐさは、けれどふたりの空気にはとても似合っていて。それを見た俺は、また無意識に『いいなぁ』と胸の中で呟いている俺自身に気づく。
「悟、私も同じような状況になったからよく分かるんだ。つまり君は……私と真澄のような関係を求めてる、ってことさ♡」
「「なっ」」
俺とスミさんの声が重なる。
『私と真澄のような関係』。
それが何を意味するのか、分からないほど鈍くはない。でも、それが納得できるかどうかは話が別だ。だってそれは、つまり、俺が……。
「い、いやぁ。俺のはそんなおふたりみたいな、大層なモノじゃないですよ」
「そうかな?私は真澄を一目見た瞬間に、他の相手には欲求を感じなくなってしまったよ?」
「それは緋鷹さんのお話で……俺は、そういう気持ちは苦手というか、不得手というか……」
「でも、一人だけに感情が向かうのは、その人を手放したくないからだよ。現に悟は、すぐに真澄を私に委ねてくれただろう?その時と今とでは、また状況が違うんじゃないかな?」
「……。」
確かにそれは、そうかもしれない。確かに今、別の誰かに吉乃さんのお相手をお任せしろと言われても、正直迷ってしまうだろう。でもだからといって緋鷹さんの言うことを簡単にイコールで考えられるかというと難しい。だってそれで何かあったとき、傷つくのは吉乃さんだ。吉乃さんはあんな強がった態度をとっているけど、本当はとても繊細で、ネガティブな人だ。本当はすごく思いやりのある人で……すごくすごく、優しい人なんだ。そんな砂糖細工みたいな人をもし俺のせいで傷つけてしまうようなことがあったら。俺は俺自身を……許せない、気がする。
「渋い顔だねぇ」
「あっ……いや。もしそうだとしても、安易に決めつけたらお相手を傷つけることになるから、嫌だなぁって。ちゃんと慎重に考えたいなぁ、って……」
「……。」
それを聞いて、口を開いたのはスミさんだった。綺麗に揃えた太ももへ乗せた両手を握りしめて、まっすぐに、俺を見る。
「さ……悟くん。そう思うのは、その人が大切な人だっていう証拠だよ。自分じゃなくて相手のことを第一に考えてるってことだもの。欲望や体裁だけじゃ、絶対……そういう気持ちには、なれないよ」
「スミさん……。」
「わぁ、真澄は本当に良いことを言うねぇ♡私、ますます尊敬しちゃう♡」
「ひゃっ♡ちょッ、緋鷹さん……!♡」
まるで俺へ見せつけるように、スミさんのほっぺへキスをする緋鷹さん。どこからどう見てもラブラブにしか見えないそんなふたりを見て、やっぱり消えてくれない感情が、俺の中に舞い上がる。
──いいなぁ。
今度ははっきりと聞こえたその羨望を俺は自嘲するように……そっと、肩をすくめてみせた。
──柄じゃない。
分かっている。そうじゃなきゃそもそも、こんな溜息なんてつかない。一体なにが柄じゃない、って?それは、最近のセックスのこと。俺は東雲悟。自他共に認める遊び人。これまでお相手には一切深入りすることなく、ただただ気持ちよくしてあげるセックスを続けてきた。ついでに俺も気持ちよくなれれば万々歳の一石二鳥。そうやって俺は誰とでも、万事安心安全な後腐れのないお付き合いをしてきたんだ。
俺のモットーは「与えること」。相手が望むものを差し出して喜んで貰うことが、小さい頃から一番の喜びだった。だからこの仕事は平凡だけど天職だって思ってるし、色々なお相手と肉体関係を持つことも、その一環の所があった。快楽は人によってまったく形が違う。手触りも、感覚も、なにもかもが異なっている。それをドンピシャで与えられたときの歓びはひとしおだ。だからそこに価値を見出して、俺は数え切れない人達と、数え切れないセックスを繰り返してきた。
でも……最近はそうじゃない。誰かを誘うこともしてないし、ハメカフェにもアダルトイベントにも行ってない。イベントでよく会う至さんからも、「最近は顔を見せないな」なんて連絡を貰ってしまった。そう。俺が最近セックスをする相手は──吉乃さんばっかり、なんだ。
吉乃さんは可愛い。出会ったときから「なにこのドツンデレチョロい超希少種」とか感動していた。からかえば大げさに反応して、強気なのに絆されやすくて、お酒飲んだらびっくりするくらい弱気な甘えんぼになっちゃって。更にはドスケベのくせにウブで奥手で、実は処女で……。そんな知れば知るほどギャップの塊な吉乃さんのことを、可愛く思わない人なんて居ないだろう。それは俺も、同じだった。
今までも抱いた人を可愛いなと思って、継続的に関係を持ったことはあった。それを楽しいとも思っていた。感情が乗るセックスは快楽が段違いだ。だからお相手に夢中になれば、それだけ気持ちのいいセックスができる。前から俺は、そう思っていたはずだった。
でも……セックスするたびに見せる吉乃さんの反応は、段違いに可愛いと思ってしまう。俺の言葉や動きですぐに感じてイっちゃう姿が可愛くって仕方なくて、もっと見たい、もっと欲しいって思っちゃう。その感情が暴走して、理性吹っ飛ぶくらい責めちゃうことも日常茶飯事だ。普段ならもう少しセーブして、お相手が気持ちよくなるのを第一に動けるはずなのに、吉乃さん相手にはどうしても、それができない。
散々セックスしてもすぐにまた吉乃さんとシたくなって、自分からガツガツ連絡とって、毎週レベルでセックスして……。ひとりの人にここまで夢中になっちゃって、いつもの俺らしくないなぁって分かってる。だからそれが、最近の悩み。でも吉乃さん、いつ誘っても絶対OKくれるんだもん。そんなの、完全に甘えちゃうよね?
「どうしたの悟くん?元気……ない?」
「あ……いえいえ。問題ナシです。えと、次の納品は問題ないんですよね?」
「うん、大丈夫!空調が新しくなったお陰か、作業効率も上がってさ。締切よりも早く納品できそうだよ」
涼しい事務所で向かい合って話すのは、ウチの取引先の橘真澄(たちばなますみ)さん。スケベくんスケベちゃんたちに大大大人気のオナニー・アナニーグッズを作る、町工場『TACHIBANA』の社長さんだ。とても優しくてちょっと気弱な性格で、吉乃さんとは別のタイプで可愛い人でもある。普段は「スミさん」と呼んでいて、俺は営業担当として、そしてこの人を純粋に慕うひとりとして、ずっと親しく接してきた。スミさんの商品はウチが今独占販売している関係もあったしね。
スミさんは以前女性と結婚していたバツイチで、元々ヘテロセクシャルの人だった。でも俺の話を聞くうちに男性にも興味を持って、抱かれてみたいと思うようになったんだって。だから俺が立候補して、「接待」って名目で前にスミさんを抱いたんだ。元々スミさんはマゾだなぁって思ってたけど、セックスをしてその才能が大開花。俺がちょっと後押ししただけで驚くぐらいのドスケベなマゾメスさんになって、セックスの最中は沢山、気持ちよくなってくれた。あれ、嬉しかったなぁ♡
「あっ、やっぱり空調新しくなったんですね!道理で涼しいと思った~」
「う、うん。いろいろ、融通を効かせて貰ってね……」
──融通。
言葉を濁して申し訳なさそうにするスミさんの態度に、俺はピンと来る。
俺はスミさんを抱いてから、「接待」として肉体関係を続けていた。スミさんがスケベに目覚めて性欲を持て余してるのもわかってたからね。だけどとあるパーティーでスミさんは緋鷹さんっていうセレブさんと出会って、「愛人」の話を持ちかけられた。その話は前からスミさんに聞いていたけど、実際に緋鷹さんと会って相当お熱なのが窺えたから……俺はそこで、スミさんのお相手をすべて緋鷹さんにお任せすることにしたんだ。俺はセックス抜きでもスミさんとビジネスパートナーとして付き合えるとわかってたし、緋鷹さんがスミさんをいろいろな意味でちゃんと愛してくれるなら、それが一番だなって思ったから。
だからこの『融通』っていうのも、緋鷹さんのことを言っているんだろう。うん、分かるよ。だって緋鷹さんは絶対……スミさんのこと、好きだもんね。
「……いいなぁ。スミさん、すっかり緋鷹さんと仲良くなっちゃったんですね。空調を融資して貰えるくらいに……」
でも、どこか想定内だったスミさんの返答に、何故か俺はまた深く溜息をついてしまう。出てくる言葉は無意識で。そんな俺の反応に、スミさんも驚いたようだった。
「融資!?緋鷹さん!?ど、どうしてそこが結びつくんだよっ♡くっ、空調は折半だよ、折半っ!♡」
「折半?え、スミさんと緋鷹さんが?……えっ、おふたりってそこまで関係が進んでたんですか?やっぱり愛人ってブラフだったんだ……?」
「そ、そこまでってどういう意味だい!?ブラフ、って……♡ひ、緋鷹さんとはそのっ、まだまだ、全然っ♡ゆっくり関係を築いてる段階で……ッ♡」
「えぇっ?いや、それ完全に結婚前提のお付き合いじゃないですか。いいなぁ……」
「ぃ、いいなぁ、って……♡悟くん、どうしたんだい?君が人の関係を羨ましがるなんて、珍しいね……っ?♡」
「……あれっ。えっ?俺、そんなこと言ってました……?」
「言ってたよ~♡」
「「!」」
スミさんの弱々しい指摘に、今度は俺が驚いて顔を上げる。すると同時に事務所のドアが開いて──例のセレブさん、鳳緋鷹(おおとりひだか)さんが、タイミングを謀ったように颯爽と現れた。
「真澄、こっちに居たんだね♡どこに居るかわからなくて、あげはちゃんに場所を聞いちゃった。「緋鷹っちカッコよウケる~♪」とか言われちゃったよ♡ギャルの子って可愛いねぇ♡」
「ひ、緋鷹さん!?ど、どうしてここに……ッ。来るなら電話してくださればよかったのにっ」
「いや、悟も居るって聞いたからさ。折角だし、サプラ~イズ♡」
両手をパァ♡と開いて、無邪気に笑う緋鷹さん。緋鷹さんはこんな人だ。スリーピーススーツに真っ赤なストールを掛けたダンディな姿からは想像もつかない子供っぽくてお茶目な言動は、誰もが一度は面食らうだろう。スミさんの隣へ当然のように腰を下ろした緋鷹さんは、俺へ向き直ってニコニコと笑う。
「話はこっそり聞かせて貰ったよ。悩んでいるのは悟かな?」
「な、悩んでるって。俺が……ですか?」
「いつもと違う言動は、いつもと違うことを考えている証拠じゃないか。ほら、私達は紛うことなき人生の先輩。アドバイスを受けるなら絶好の機会だよ♡」
「アドバイス……」
でも、それだけの印象で終わらないのがこの人でもある。飄々と笑いながら、俺自身も見えない心の奥を見透かすように獲物を狙う光を瞳へ宿すのは、まさしく人生経験豊富な緋色の鷹。俺はこの眼を見て、舐めて掛かっちゃ駄目な相手だな、と思ったんだっけ。
……それなら抵抗するだけ無駄だ。俺はあっさり白旗を揚げてスミさんと緋鷹さんを見比べると、おふたりに『アドバイス』を請うべく、今の素直な気持ちを素直に吐き出す。
「……俺自身、よくわかんないんです。俺いま、一人のひととしかセックスしたいって思えなくって。……いつもと違うなぁって」
「ええっ!?毎回違う方と遊んだ話を楽しそうにしていた悟くんがっ?」
「そうなんです。別に不満も不安もないんですけど、それがちょっと、モヤモヤしてて」
「な~るほど。悟は自分の感情が判断できずに居心地が悪いんだね。でも、安心して良いよ♡」
「あッ、ぅわっ!?♡」
すると俺の言葉を聞いた緋鷹さんは、真澄さんの肩を抱いてぐっと引き寄せる。満面の笑みと戸惑いの表情。その対照的なちぐはぐさは、けれどふたりの空気にはとても似合っていて。それを見た俺は、また無意識に『いいなぁ』と胸の中で呟いている俺自身に気づく。
「悟、私も同じような状況になったからよく分かるんだ。つまり君は……私と真澄のような関係を求めてる、ってことさ♡」
「「なっ」」
俺とスミさんの声が重なる。
『私と真澄のような関係』。
それが何を意味するのか、分からないほど鈍くはない。でも、それが納得できるかどうかは話が別だ。だってそれは、つまり、俺が……。
「い、いやぁ。俺のはそんなおふたりみたいな、大層なモノじゃないですよ」
「そうかな?私は真澄を一目見た瞬間に、他の相手には欲求を感じなくなってしまったよ?」
「それは緋鷹さんのお話で……俺は、そういう気持ちは苦手というか、不得手というか……」
「でも、一人だけに感情が向かうのは、その人を手放したくないからだよ。現に悟は、すぐに真澄を私に委ねてくれただろう?その時と今とでは、また状況が違うんじゃないかな?」
「……。」
確かにそれは、そうかもしれない。確かに今、別の誰かに吉乃さんのお相手をお任せしろと言われても、正直迷ってしまうだろう。でもだからといって緋鷹さんの言うことを簡単にイコールで考えられるかというと難しい。だってそれで何かあったとき、傷つくのは吉乃さんだ。吉乃さんはあんな強がった態度をとっているけど、本当はとても繊細で、ネガティブな人だ。本当はすごく思いやりのある人で……すごくすごく、優しい人なんだ。そんな砂糖細工みたいな人をもし俺のせいで傷つけてしまうようなことがあったら。俺は俺自身を……許せない、気がする。
「渋い顔だねぇ」
「あっ……いや。もしそうだとしても、安易に決めつけたらお相手を傷つけることになるから、嫌だなぁって。ちゃんと慎重に考えたいなぁ、って……」
「……。」
それを聞いて、口を開いたのはスミさんだった。綺麗に揃えた太ももへ乗せた両手を握りしめて、まっすぐに、俺を見る。
「さ……悟くん。そう思うのは、その人が大切な人だっていう証拠だよ。自分じゃなくて相手のことを第一に考えてるってことだもの。欲望や体裁だけじゃ、絶対……そういう気持ちには、なれないよ」
「スミさん……。」
「わぁ、真澄は本当に良いことを言うねぇ♡私、ますます尊敬しちゃう♡」
「ひゃっ♡ちょッ、緋鷹さん……!♡」
まるで俺へ見せつけるように、スミさんのほっぺへキスをする緋鷹さん。どこからどう見てもラブラブにしか見えないそんなふたりを見て、やっぱり消えてくれない感情が、俺の中に舞い上がる。
──いいなぁ。
今度ははっきりと聞こえたその羨望を俺は自嘲するように……そっと、肩をすくめてみせた。
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