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進と透
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セックスが好きだ。気持ちいいことも、大好き。好きな相手と、ひとつになっちゃったんじゃないかってくらいとろとろになったときは、こんなぼくでも自然と、世界でいちばん幸せなんだなぁって思える。好きは偉大。そしてセックスは偉大だ。
でも、そう思えないときもある。ヘコんだり落ち込んだり。みじめになったり劣等感に苛まれたり。そういうときは、どんなに大好きだとしても、エッチな気持ちにはなかなかなれない。誰にだってそういうときがある。どんなに好きだと思ってても、うまくその想いと向き合えないときが。
「ただいまぁ」
「おかぁー。メシは?」
ドアを開けて挨拶。
どんなに落ち込んでても、いってきますとただいまとおかえりはちゃんと言おうって約束をしたから。すぐにおたまを片手に顔を出すのは、ぼくの同棲相手の透くんだ。付き合って3年のぼくの恋人。ちょっと毒舌でワガママで自分勝手なところがあるけど、同じくらいに察しがよくて頭もよくて気遣いができてポジティブで、ぼくにはもったいないくらいの人だ。
鼻をくすぐるのはカレーの匂い。透くんはあまり料理がうまくない。うまくないし好きじゃない。ひとりだったらエネルギバーとかお菓子だけでご飯を済ませちゃうようなタイプだ。でも当番のときは必ずちゃんとご飯を作ってくれる。ぼくは透くんのそういうところが好きだ。ワガママで自分勝手な透くんは、それでもいつだってぼくをきちんと見てくれて、ぼくとの生活を大事にしてくれる。
でも残念なことに今日はまったく食欲がなかった。落ち込んだ気持ちが身体の中まで入り込んで、悪さでもしてるみたいだ。気力も食欲もぜんぶそれが吸い取ってて、なにも食べたいと思えない。ああ、透くんのカレー、美味しいのにな。どうしてぼくは、いつもこうやってタイミングが悪いんだろう。
「ん……明日でも、いいかな……?」
「えーっ!?折角作ったのにっ!?」
「ごめん……」
ぼくの断りに、わかりやすく透くんは不満げな態度をあらわにする。申し訳ないのはわかってた。でもきっと今カレーを食べても、ぼくは透くんのカレーを楽しめないし喜べない。どんなにカレーが美味しくても、心からの「美味しい」をきっと言えない。そんなのカレーにも透くんに失礼だ。
だから、ごめんね、とぼくは透くんに深く頭を下げる。透くんはぼくのすぐ謝るところや気弱なところが嫌いだ。でも取り繕う元気もなかったし、どう頑張ったってぼくがぼくであることは変えられない。
今まで薄ぼんやりしていて灰色ににじんでいたぼくの人生は、透くんと出逢ったことで驚くほど鮮やかに色づいた。でもそれは決して、ぼくが変わったからって理由じゃない。それは純粋に透くんが持っていた自分の色をぼくに遠慮もなくぶちまけてきたからで、だからどんなに華やかな色になっても、ぼく自身の形や在り方はそのままなんだ。
もちろん変わった部分もあるとは思う、けど。それでもぼくも透くんも、お互いの根っこは変えられないことを、最初から、わかってるんだ。
「……。じゃあヤろ」
「えッ。」
むすっとした顔を崩さずに透くんはぼくの手を引くと、おたまを鍋へと放り込んで、コンロのスイッチを止めた。そしてぼくをベッドに押し倒すと、ぼくの上へと遠慮なく乗ってくる。
「ちょちょちょ、透くん!?」
「あ?なに」
「ナニって、いやナニ!?」
「言ったじゃん。ヤんの。進、元気ないんだろ」
「ないけど!ソッチの元気もないよ!」
「うそつけ。進、ちんぽはいっつも元気じゃん」
「いやいやいや、そんなこと……っ、うぁ゛!♡」
ぼくの意見も聞かず服をばさばさ脱いでいく透くんに無茶だよ、と反論すると(透くん、こういうところがワガママで自分勝手!)、透くんは乱暴にぼくの股間をぐにぐにと膝で押してくる。でもさすがにこんないきなりで反応できるはずもない。きっとぼくがガチガチになってるのを予想してた透くんは、不満そうに視線を下げる。
「……あれ。ふにふにだ」
「だ、だから言ったろっ。そんないきなりできないって……っ」
「まぁイイや。勃てば官軍」
「えーっ!?ぁ、うわッ!!」
妙にうまい言い回しで透くんはぼくのズボンを引きずり下ろすと、萎えたままのちんこを下着から取り出して、まるでアイスキャンディを舐めるみたいに長い舌で舐め上げる。
「あっ、洗ってないのに!」
「俺、洗ってないほうがすき。知ってんだろ?」
「知ってるけど……んぅ゛!♡」
そのまま透くんはなんの躊躇もなくぼくのちんこを片手で支えると、口に咥えてしゃぶっていく。口を窄ませてぢゅうぢゅう吸い上げながら、じゅぽじゅぽと唇にちんこを擦らせて上下する動きに、ぼくは当然耐えられない。さっきまでしおしおに萎えてたぼくのちんこは、透くんの凄腕テクですっかり臨戦態勢になってしまった。
言ってなかったけど透くんのえっちテクは抜群だ。正直、ぼくがセックスやエッチへ今みたいにのめりこむようになったのは、ほぼ100%透くんの影響だって言っていい。
「んぁ♡あは、勃ったぜ♡ざこちんぽー♡」
「うぅ゛ッ♡こ、こんなの、勃つに決まってるじゃん……ッ♡」
いつものように毒舌を炸裂させる透くんに、ぼくは涙目で反論する。透くんのテクの前じゃどんなやつだって雑魚になるのは当然だ。不可抗力。でもまさか本当にこんなあっけなく勃つとは思わなかった。所詮ぼくの落ち込んだ気持ちなんて、その程度だったってことだろうか。なんだか、情けなくなってくる。快感でにじんでいた涙が、その感情に後押しされて、ぽろっと瞳からこぼれ落ちた。
「……」
「あっ」
跳ねるように頬へ落ちたその涙が、そっと手を伸ばした透くんの指先ですくい取られる。起き上がって、ぺたん、とぼくの足の上に座った透くんが、まっすぐにぼくを見つめてくる。染めた透くんの髪が蛍光灯の光に跳ねて、ぼくに言いようのない、輝きを見せる。
「とっ。とおる、くん……?」
「……すすむ。へこんでる?」
「……。」
それは今までの一方的なやり方と違って、そっと、静かに差し出された問い掛けだった。抑えた透くんの声がぼくに響いて、きれいな輪郭の感情を描く。あんな強引なフェラをしたのに、こんな丁寧にぼくと向き合おうとするのがここまできれいに伝わるのは、透くんじゃなきゃできない芸当だ。
「っ──」
透くんはこういう人だ。毒舌で、ワガママで、自分本位だけど、ぼくを決して蔑ろにはしない。自分のしたいことはやるし、自分の意見も通したがるけど、それを絶対にひとりで決めることはしない。透くんはいつでもちゃんと「ぼく」を見てくれていて、いつだってぼくに対して真摯であろうとしてくれる。だからぼくは──そんな透くんを、いつもまぶしいって思ってるんだ。そんな透くんが、だいすきでだいすきでたまらない、って。
「へ……へこんで、る」
「そっか。」
「ぅ」
だから、透くんがぼくにそうしてくれるのと同じように正直に答える。本当はセックスのことなんか一ミリも考えられないくらい、へこんでて嫌な気持ちになってたって。そう、嘘偽りなく、答える。すると透くんはぼくの頬に手を当てて、ごしごしと撫でてきた。丁寧な差し出し方に反した雑なやり方は、透くんらしい。
「じゃあ、すすむ。俺のこと、すき?」
「えっ。」
「すき?」
「っ……すき。だいすき、だよ」
「どのくらい?」
「い。いっ。言えない、くらい……っ」
まるでぼくの心を見透かすようなストレートな質問が、一直線にぼくの弱いところへ突き刺さる。なんだかそれだけで息が詰まる。だいすきでだいすきでたまらない。さっきだってそう思った。でもそれを言葉できちんと伝えるのなんか不可能だ。ただでさえ口下手で引っ込み思案なぼくの想いを、ぼくが表せるはずない。それこそ言えない。言えないくらいに好きだ。また涙が滲んで、鼻の奥が塩辛くなる。情けなくって、仕方ない。
「ははっ♡」
……でも、そんなぼくを見て、透くんは笑う。屈託なく。あどけなく。まるで、「変顔して」って外でいきなり無茶振りされて、ぼくがひどすぎるくしゃくしゃの顔を見せて、何百枚も写真を連写で撮られたときみたいに。
「じゃーさ。やっぱ俺と、えっちしよ?」
「え……」
「いっしょに、気持ちよくなろ?だって俺のことすきなんだろ?」
「す。すき、だけど……っ」
「じゃ、すすむのその気持ちで、俺のこといっぱいにしてよ。な?♡」
「う゛ッ♡」
もう一度。
くっ、と今度は手でちんこを握られて、ゆるゆると扱かれる。その手付きは絶妙で、透くん自身に気持ちが行っていたぼくも、一瞬でまた勃起してしまう。
ぼくのことを。透くんを。いっぱいに。
それはやっぱりちょっと自分本位で、自分勝手な透くんらしいワガママだ。でもそれはきっと違う。透くんはぼくの気持ちをぜんぶ透くん自身に注がせて、空っぽにする気なんだ。ぼくのいやな気持ちを。へこんでる気持ちを。ぜんぶぜんぶ、受け止める気なんだ。
「と♡とおる、くんっ♡」
「俺もすすむのこと、すきだよ。すっげ、すき」
「う゛♡ぅ゛うッ♡」
「だから、俺のすきは、ぜーんぶ、すすむにあげるから」
「ぅ、う゛……ッ♡」
ほら。
やっぱり、そうだ。
この言葉に表れている。ぼくを空っぽにした代わりに、透くんはぜんぶぼくにくれる気なんだ。だからシンプルなただそれだけの言葉で、ただこんな笑った透くんを見るだけで、濁っていた心がゆっくりと濾過されて、くるしいくらいに嬉しくなってくる。こんなやり方で、でもすごく自分らしくぼくのことを慰めてくれる透くんの、こんなにあっけらかんとした明け透けな健気さが。……かわいくてかわいくて、仕方なく、なってくる。
「とおるくん……っ!♡」
「わっ!」
ぎゅっと、透くんを抱きしめる。やっと気持ちが動き出して、欲望も動き出して、がまん、できなくなってくる。透くんが好きだ。透くんがほしい。透くんにぼくのなにもかもをぜんぶぜんぶ注いで。透くんといっしょに、きもちよく、なりたい。
抱きしめたまま、柔らかいお尻を揉むようにすれば、耳元でくすくすと笑い声。
「おーおー♡やあっとスイッチ挿入ったかぁ、スケベ♡」
「うん……っ♡透くんと、エッチしたい……ッ♡」
「んー♡いーこいーこ♡じゃあすっげスケベなエッチ、シよ……ッ♡」
「ぁ、う゛ッ♡」
ぴん、といたずらに亀頭を指で弾かれて、透くんはゆっくりと腰を上げる。
「じゃ、すすむの……♡ナカ、挿れて、い?♡」
「ん、うん……っ♡と、透くんが、うえに、なる……っ?」
「んー……いや、抱き合お♡ぎゅーってくっついて……っ♡いっぱいべろちゅ、しよ……っ♡」
「ぁ、んぅッ♡とおるく、んぅ♡んぅ……ッ♡」
透くんはすぐにぼくへ唇を押しつけてそのままぼくのちんこをお尻へ宛てがうと、ぴたりとくっつくようにぼくの首へ手を回して、ゆっくりと腰を下ろしてくる。スムーズに拡がって、なんの引っ掛かりもなくぼくのちんこは透くんのナカに吸い込まれていく。そういえばすっかり忘れてたけど、今日って週末だ。もしかして透くん、準備、してくれてたのかな……っ?♡
「ぁ♡ぉ゛♡ばかっ♡でっかく、なってん、ぞ……ッ♡」
「だってとおるくんッ♡えっちの準備、してた、からぁ……ッ♡」
「ん♡してた♡休みはずうっとすすむとスケベしたくて♡帰ってくるまで、ずうっとケツいじってた♡」
「ッ♡♡♡と、とおるくんッ!♡」
「んぉ゛!♡」
耳元でやらしく囁いて、くいくい腰を動かして煽ってくる透くんに我慢できなくなって、ぼくは下から一気に透くんのナカへと突き上げる。その動きで仰け反りながら透くんは汚く喘いで、その姿がかわいくって、かわいくって、とまれなくなる。
「とおるくんっ♡とおるくんっ♡とおる、くんッ♡」
「ぉ゛♡すすッ♡すす、むぅ゛ッ♡」
透くんをぎゅうっと抱え込んで、ガツガツ、そのままがむしゃらに腰を動かす。透くんの奥を夢中でこじ開けるように、何度も、何度も、ピストンを繰り返す。
「お゛♡お゛ッ♡すすむッ♡もっ♡さっきまでっ♡へこんでた、くせにっ♡がっつき、すぎぃッ♡」
「だってっ♡だってッ♡とおるくんかわいいっ♡えっちでっ♡すけべでッ♡かわいいッ、からぁッ!♡」
「お゛!♡ん♡んぁ゛ッ♡す、すむっ♡んぅ゛♡んぅぅ゛ッ♡」
「んぅ゛♡う゛♡とおるくんっ♡とぉる、くッ♡」
ぼくをなじる透くんがかわいい。ぼくで感じる透くんがかわいい。ぼくをこんな気持ちにさせてくれた透くんがかわいい。だからぼくは透くんのぜんぶを満たすように、舌を絡めながらぐちゅぐちゅと透くんが好きなところをかき回す。もっと。もっと。もっと。きもちよくなって、とおるくん……ッ♡
「ぉ゛♡お゛♡いぐッ♡いぐぅ、すすむっ♡」
「いこ♡いこ♡ぉ゛♡しまっ♡しまるよ、とおる゛、くッ♡」
「あ♡あ♡あ゛♡ふくらッ♡すすむのちんぽふくらんでるッ♡クる♡キちゃ♡すすッ♡すすむぅッ♡ぉ゛♡お゛ッ♡ん、ぉお゛ぉ……ッ!♡♡♡」
「ぉ゛♡とおるく♡とおるくッ♡んぉ゛♡おおぉぉ゛……ッ!♡」
お互いにお互いの状態をナカの全身で感じながら、ぼくたちは同時にイった。びりびりとしびれるようなアクメがカラダを駆け巡る。抱き合ったまま、見つめ合ったままの、とろとろにとろけるような、ひとつになっちゃったような快感の前で、とまれるわけなんかなくて、だからぼくたちは夢中で、舌先をこすり合わせる。
「ふぁ♡ぁ゛♡すすっ♡みゅ♡ふぁ♡この、ままぁ♡ちゅー、イキっ♡ちゅう、イキ……ぃッ♡♡♡」
「する♡する、ぅ♡ちゅー、いき……ッ♡と、るくんっ♡すき♡とぉる、くんっ♡」
「んぅ♡ふぅッ♡すすむ♡すすむっ♡すすみゅぅ……ッ♡♡♡」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と挿入ったまま何度も何度もキスを繰り返して、何度も何度も視線を交わして、あげて、渡して、貰って、うけとる。お互いぜんぶを空っぽにして、お互いぜんぶをまっさらにして、そのすべてを、お互いへ、お互いへ、捧げ合う。
えっちが好きだ。でもそれと同じくらい透くんが好きだ。同じ好きが等しくここにあって、なんだかそれを教えられてるみたいで、胸がいっぱいになってくる。好きはいつも同じように心にあるわけじゃない。何気ない言葉で曇って、簡単な行動で濁ってしまう。ぼくは弱いから、大事だと思っているものだってすぐに見失ってしまって、毎日毎日、後悔してる。
でも、透くんはいつもそれを丁寧に手繰り寄せて、いつもぼくへ示してくれる。ぼくが遠ざけて逃げたものを、「でも好きだろ?」って、ちょっと強引に、でもやさしく、いつも透くんは、ぼくのだいすきなだいすきなひとは、そうやって示してくれるんだ。
「ぉ゛♡お゛ッ♡ん、ぅぅ゛……ッ!♡♡♡」
「あ♡ぅ゛♡うぅ゛……ッ!♡♡♡」
お互いにぢゅうっと舌を吸ったところで、お互い、またイった。つぅんと頭まで引っ張られるような快感が一気に弛緩して、溶けたバターみたいに身体のナカへ溶け出していく。ああ、きもちいい。きもちいいよ。きもちいいよぉ、とおるくん……ッ♡
「はぁ♡はぁっ♡すす、む♡んぅ……ッ♡」
「んぅ♡とおるく♡とおる、く……ッ♡」
イってもキスをやめたくなくて、何度も、何度も、何度も、啄んで舌を絡め合う。このままもう一回キスでイきたいって、ぼくは透くんをつかまえて、何度も、何度も、何度も、しつこく透くんを愛し続ける。
でも……。
『ぐぅぅぅ……』
「!」
キスの最中に容赦なく鳴る、ぼくのお腹。
そ、そういえば、まだ夕ご飯食べてなかったんだっけ……!?
「ッぶはっ!すすむっ、腹鳴ってんじゃんっ」
「う、うぅ……!い、いつの間にか、お腹減ってたのかも……っ」
「だよなぁ♡もうすっかり、元気って感じだし♡」
「ぁ、う゛ッ♡」
「あはは♡じゃ、先に、メシ食おっか♡」
ぼくの腹の虫へうれしそうにわらって、透くんはゆっくりと腰を上げて、ちんこを抜いた。そしてそのままなんの躊躇いもなく下着を穿いて、ハーフパンツを履く。
「あ、ナカ、出たまま……」
「いーの♡どーせメシ食ったらすすむと風呂入るもん♡」
「と、透くん……っ♡」
「あ、ッ♡」
ご飯が食べたらお風呂、とこれからの甘い予定を囁かれて、やっぱりそれに我慢できなくて、透くんを引き寄せる。くすんでたぼくをきれいにしてくれた、そんな愛おしい恋人を、だいすきだよって引き寄せる。
「んっ♡ぁ♡すすむ……っ♡ご飯が、さき、だろ……っ♡」
「うん……っ♡でもっ♡とおるくんのこと、ぎゅって、したいから……っ♡」
「はは……っ♡もぉ……♡お前も大概、わがままだよなぁ……っ♡」
ああ、確かにそうかもしれない。ぼくも透くんに対してはワガママで自分勝手になるところがあるって、自覚はしてる。正反対なようでいて、どっちもどっち。お互い様。むしろ正反対だからこそ、似てるところが強くなるのかもしれない。だってぼくたちは、もう、ふたりでいっしょなんだから。
「ほーら♡離せって……♡」
「ん……♡とーるくん……♡」
「さき俺の自信作食べようぜ?♡ほんとに美味いんだから♡」
「ん……食べたら、またいっぱい、えっちしよ……?♡」
「あははっ♡ヤる気になってえらいえらい♡ん♡ヤろ♡今度はいっぱい♡進が、気持ちよくしてよ……っ♡」
「うん♡する……っ♡透くん……っ♡」
するりとぼくの身体から、そしてベッドから抜け出す透くんの手をぼくはとって、指を絡めながらぼくもあとを追って立ち上がる。うん、まずは、ご飯から。やっと美味しいと感じられるはずの、透くんのカレーから。
だって毎日のいただきますとごちそうさまをちゃんと言うのも、ぼくたちがはじめに決めた、大事な大事なふたりの約束、なんだから。
でも、そう思えないときもある。ヘコんだり落ち込んだり。みじめになったり劣等感に苛まれたり。そういうときは、どんなに大好きだとしても、エッチな気持ちにはなかなかなれない。誰にだってそういうときがある。どんなに好きだと思ってても、うまくその想いと向き合えないときが。
「ただいまぁ」
「おかぁー。メシは?」
ドアを開けて挨拶。
どんなに落ち込んでても、いってきますとただいまとおかえりはちゃんと言おうって約束をしたから。すぐにおたまを片手に顔を出すのは、ぼくの同棲相手の透くんだ。付き合って3年のぼくの恋人。ちょっと毒舌でワガママで自分勝手なところがあるけど、同じくらいに察しがよくて頭もよくて気遣いができてポジティブで、ぼくにはもったいないくらいの人だ。
鼻をくすぐるのはカレーの匂い。透くんはあまり料理がうまくない。うまくないし好きじゃない。ひとりだったらエネルギバーとかお菓子だけでご飯を済ませちゃうようなタイプだ。でも当番のときは必ずちゃんとご飯を作ってくれる。ぼくは透くんのそういうところが好きだ。ワガママで自分勝手な透くんは、それでもいつだってぼくをきちんと見てくれて、ぼくとの生活を大事にしてくれる。
でも残念なことに今日はまったく食欲がなかった。落ち込んだ気持ちが身体の中まで入り込んで、悪さでもしてるみたいだ。気力も食欲もぜんぶそれが吸い取ってて、なにも食べたいと思えない。ああ、透くんのカレー、美味しいのにな。どうしてぼくは、いつもこうやってタイミングが悪いんだろう。
「ん……明日でも、いいかな……?」
「えーっ!?折角作ったのにっ!?」
「ごめん……」
ぼくの断りに、わかりやすく透くんは不満げな態度をあらわにする。申し訳ないのはわかってた。でもきっと今カレーを食べても、ぼくは透くんのカレーを楽しめないし喜べない。どんなにカレーが美味しくても、心からの「美味しい」をきっと言えない。そんなのカレーにも透くんに失礼だ。
だから、ごめんね、とぼくは透くんに深く頭を下げる。透くんはぼくのすぐ謝るところや気弱なところが嫌いだ。でも取り繕う元気もなかったし、どう頑張ったってぼくがぼくであることは変えられない。
今まで薄ぼんやりしていて灰色ににじんでいたぼくの人生は、透くんと出逢ったことで驚くほど鮮やかに色づいた。でもそれは決して、ぼくが変わったからって理由じゃない。それは純粋に透くんが持っていた自分の色をぼくに遠慮もなくぶちまけてきたからで、だからどんなに華やかな色になっても、ぼく自身の形や在り方はそのままなんだ。
もちろん変わった部分もあるとは思う、けど。それでもぼくも透くんも、お互いの根っこは変えられないことを、最初から、わかってるんだ。
「……。じゃあヤろ」
「えッ。」
むすっとした顔を崩さずに透くんはぼくの手を引くと、おたまを鍋へと放り込んで、コンロのスイッチを止めた。そしてぼくをベッドに押し倒すと、ぼくの上へと遠慮なく乗ってくる。
「ちょちょちょ、透くん!?」
「あ?なに」
「ナニって、いやナニ!?」
「言ったじゃん。ヤんの。進、元気ないんだろ」
「ないけど!ソッチの元気もないよ!」
「うそつけ。進、ちんぽはいっつも元気じゃん」
「いやいやいや、そんなこと……っ、うぁ゛!♡」
ぼくの意見も聞かず服をばさばさ脱いでいく透くんに無茶だよ、と反論すると(透くん、こういうところがワガママで自分勝手!)、透くんは乱暴にぼくの股間をぐにぐにと膝で押してくる。でもさすがにこんないきなりで反応できるはずもない。きっとぼくがガチガチになってるのを予想してた透くんは、不満そうに視線を下げる。
「……あれ。ふにふにだ」
「だ、だから言ったろっ。そんないきなりできないって……っ」
「まぁイイや。勃てば官軍」
「えーっ!?ぁ、うわッ!!」
妙にうまい言い回しで透くんはぼくのズボンを引きずり下ろすと、萎えたままのちんこを下着から取り出して、まるでアイスキャンディを舐めるみたいに長い舌で舐め上げる。
「あっ、洗ってないのに!」
「俺、洗ってないほうがすき。知ってんだろ?」
「知ってるけど……んぅ゛!♡」
そのまま透くんはなんの躊躇もなくぼくのちんこを片手で支えると、口に咥えてしゃぶっていく。口を窄ませてぢゅうぢゅう吸い上げながら、じゅぽじゅぽと唇にちんこを擦らせて上下する動きに、ぼくは当然耐えられない。さっきまでしおしおに萎えてたぼくのちんこは、透くんの凄腕テクですっかり臨戦態勢になってしまった。
言ってなかったけど透くんのえっちテクは抜群だ。正直、ぼくがセックスやエッチへ今みたいにのめりこむようになったのは、ほぼ100%透くんの影響だって言っていい。
「んぁ♡あは、勃ったぜ♡ざこちんぽー♡」
「うぅ゛ッ♡こ、こんなの、勃つに決まってるじゃん……ッ♡」
いつものように毒舌を炸裂させる透くんに、ぼくは涙目で反論する。透くんのテクの前じゃどんなやつだって雑魚になるのは当然だ。不可抗力。でもまさか本当にこんなあっけなく勃つとは思わなかった。所詮ぼくの落ち込んだ気持ちなんて、その程度だったってことだろうか。なんだか、情けなくなってくる。快感でにじんでいた涙が、その感情に後押しされて、ぽろっと瞳からこぼれ落ちた。
「……」
「あっ」
跳ねるように頬へ落ちたその涙が、そっと手を伸ばした透くんの指先ですくい取られる。起き上がって、ぺたん、とぼくの足の上に座った透くんが、まっすぐにぼくを見つめてくる。染めた透くんの髪が蛍光灯の光に跳ねて、ぼくに言いようのない、輝きを見せる。
「とっ。とおる、くん……?」
「……すすむ。へこんでる?」
「……。」
それは今までの一方的なやり方と違って、そっと、静かに差し出された問い掛けだった。抑えた透くんの声がぼくに響いて、きれいな輪郭の感情を描く。あんな強引なフェラをしたのに、こんな丁寧にぼくと向き合おうとするのがここまできれいに伝わるのは、透くんじゃなきゃできない芸当だ。
「っ──」
透くんはこういう人だ。毒舌で、ワガママで、自分本位だけど、ぼくを決して蔑ろにはしない。自分のしたいことはやるし、自分の意見も通したがるけど、それを絶対にひとりで決めることはしない。透くんはいつでもちゃんと「ぼく」を見てくれていて、いつだってぼくに対して真摯であろうとしてくれる。だからぼくは──そんな透くんを、いつもまぶしいって思ってるんだ。そんな透くんが、だいすきでだいすきでたまらない、って。
「へ……へこんで、る」
「そっか。」
「ぅ」
だから、透くんがぼくにそうしてくれるのと同じように正直に答える。本当はセックスのことなんか一ミリも考えられないくらい、へこんでて嫌な気持ちになってたって。そう、嘘偽りなく、答える。すると透くんはぼくの頬に手を当てて、ごしごしと撫でてきた。丁寧な差し出し方に反した雑なやり方は、透くんらしい。
「じゃあ、すすむ。俺のこと、すき?」
「えっ。」
「すき?」
「っ……すき。だいすき、だよ」
「どのくらい?」
「い。いっ。言えない、くらい……っ」
まるでぼくの心を見透かすようなストレートな質問が、一直線にぼくの弱いところへ突き刺さる。なんだかそれだけで息が詰まる。だいすきでだいすきでたまらない。さっきだってそう思った。でもそれを言葉できちんと伝えるのなんか不可能だ。ただでさえ口下手で引っ込み思案なぼくの想いを、ぼくが表せるはずない。それこそ言えない。言えないくらいに好きだ。また涙が滲んで、鼻の奥が塩辛くなる。情けなくって、仕方ない。
「ははっ♡」
……でも、そんなぼくを見て、透くんは笑う。屈託なく。あどけなく。まるで、「変顔して」って外でいきなり無茶振りされて、ぼくがひどすぎるくしゃくしゃの顔を見せて、何百枚も写真を連写で撮られたときみたいに。
「じゃーさ。やっぱ俺と、えっちしよ?」
「え……」
「いっしょに、気持ちよくなろ?だって俺のことすきなんだろ?」
「す。すき、だけど……っ」
「じゃ、すすむのその気持ちで、俺のこといっぱいにしてよ。な?♡」
「う゛ッ♡」
もう一度。
くっ、と今度は手でちんこを握られて、ゆるゆると扱かれる。その手付きは絶妙で、透くん自身に気持ちが行っていたぼくも、一瞬でまた勃起してしまう。
ぼくのことを。透くんを。いっぱいに。
それはやっぱりちょっと自分本位で、自分勝手な透くんらしいワガママだ。でもそれはきっと違う。透くんはぼくの気持ちをぜんぶ透くん自身に注がせて、空っぽにする気なんだ。ぼくのいやな気持ちを。へこんでる気持ちを。ぜんぶぜんぶ、受け止める気なんだ。
「と♡とおる、くんっ♡」
「俺もすすむのこと、すきだよ。すっげ、すき」
「う゛♡ぅ゛うッ♡」
「だから、俺のすきは、ぜーんぶ、すすむにあげるから」
「ぅ、う゛……ッ♡」
ほら。
やっぱり、そうだ。
この言葉に表れている。ぼくを空っぽにした代わりに、透くんはぜんぶぼくにくれる気なんだ。だからシンプルなただそれだけの言葉で、ただこんな笑った透くんを見るだけで、濁っていた心がゆっくりと濾過されて、くるしいくらいに嬉しくなってくる。こんなやり方で、でもすごく自分らしくぼくのことを慰めてくれる透くんの、こんなにあっけらかんとした明け透けな健気さが。……かわいくてかわいくて、仕方なく、なってくる。
「とおるくん……っ!♡」
「わっ!」
ぎゅっと、透くんを抱きしめる。やっと気持ちが動き出して、欲望も動き出して、がまん、できなくなってくる。透くんが好きだ。透くんがほしい。透くんにぼくのなにもかもをぜんぶぜんぶ注いで。透くんといっしょに、きもちよく、なりたい。
抱きしめたまま、柔らかいお尻を揉むようにすれば、耳元でくすくすと笑い声。
「おーおー♡やあっとスイッチ挿入ったかぁ、スケベ♡」
「うん……っ♡透くんと、エッチしたい……ッ♡」
「んー♡いーこいーこ♡じゃあすっげスケベなエッチ、シよ……ッ♡」
「ぁ、う゛ッ♡」
ぴん、といたずらに亀頭を指で弾かれて、透くんはゆっくりと腰を上げる。
「じゃ、すすむの……♡ナカ、挿れて、い?♡」
「ん、うん……っ♡と、透くんが、うえに、なる……っ?」
「んー……いや、抱き合お♡ぎゅーってくっついて……っ♡いっぱいべろちゅ、しよ……っ♡」
「ぁ、んぅッ♡とおるく、んぅ♡んぅ……ッ♡」
透くんはすぐにぼくへ唇を押しつけてそのままぼくのちんこをお尻へ宛てがうと、ぴたりとくっつくようにぼくの首へ手を回して、ゆっくりと腰を下ろしてくる。スムーズに拡がって、なんの引っ掛かりもなくぼくのちんこは透くんのナカに吸い込まれていく。そういえばすっかり忘れてたけど、今日って週末だ。もしかして透くん、準備、してくれてたのかな……っ?♡
「ぁ♡ぉ゛♡ばかっ♡でっかく、なってん、ぞ……ッ♡」
「だってとおるくんッ♡えっちの準備、してた、からぁ……ッ♡」
「ん♡してた♡休みはずうっとすすむとスケベしたくて♡帰ってくるまで、ずうっとケツいじってた♡」
「ッ♡♡♡と、とおるくんッ!♡」
「んぉ゛!♡」
耳元でやらしく囁いて、くいくい腰を動かして煽ってくる透くんに我慢できなくなって、ぼくは下から一気に透くんのナカへと突き上げる。その動きで仰け反りながら透くんは汚く喘いで、その姿がかわいくって、かわいくって、とまれなくなる。
「とおるくんっ♡とおるくんっ♡とおる、くんッ♡」
「ぉ゛♡すすッ♡すす、むぅ゛ッ♡」
透くんをぎゅうっと抱え込んで、ガツガツ、そのままがむしゃらに腰を動かす。透くんの奥を夢中でこじ開けるように、何度も、何度も、ピストンを繰り返す。
「お゛♡お゛ッ♡すすむッ♡もっ♡さっきまでっ♡へこんでた、くせにっ♡がっつき、すぎぃッ♡」
「だってっ♡だってッ♡とおるくんかわいいっ♡えっちでっ♡すけべでッ♡かわいいッ、からぁッ!♡」
「お゛!♡ん♡んぁ゛ッ♡す、すむっ♡んぅ゛♡んぅぅ゛ッ♡」
「んぅ゛♡う゛♡とおるくんっ♡とぉる、くッ♡」
ぼくをなじる透くんがかわいい。ぼくで感じる透くんがかわいい。ぼくをこんな気持ちにさせてくれた透くんがかわいい。だからぼくは透くんのぜんぶを満たすように、舌を絡めながらぐちゅぐちゅと透くんが好きなところをかき回す。もっと。もっと。もっと。きもちよくなって、とおるくん……ッ♡
「ぉ゛♡お゛♡いぐッ♡いぐぅ、すすむっ♡」
「いこ♡いこ♡ぉ゛♡しまっ♡しまるよ、とおる゛、くッ♡」
「あ♡あ♡あ゛♡ふくらッ♡すすむのちんぽふくらんでるッ♡クる♡キちゃ♡すすッ♡すすむぅッ♡ぉ゛♡お゛ッ♡ん、ぉお゛ぉ……ッ!♡♡♡」
「ぉ゛♡とおるく♡とおるくッ♡んぉ゛♡おおぉぉ゛……ッ!♡」
お互いにお互いの状態をナカの全身で感じながら、ぼくたちは同時にイった。びりびりとしびれるようなアクメがカラダを駆け巡る。抱き合ったまま、見つめ合ったままの、とろとろにとろけるような、ひとつになっちゃったような快感の前で、とまれるわけなんかなくて、だからぼくたちは夢中で、舌先をこすり合わせる。
「ふぁ♡ぁ゛♡すすっ♡みゅ♡ふぁ♡この、ままぁ♡ちゅー、イキっ♡ちゅう、イキ……ぃッ♡♡♡」
「する♡する、ぅ♡ちゅー、いき……ッ♡と、るくんっ♡すき♡とぉる、くんっ♡」
「んぅ♡ふぅッ♡すすむ♡すすむっ♡すすみゅぅ……ッ♡♡♡」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と挿入ったまま何度も何度もキスを繰り返して、何度も何度も視線を交わして、あげて、渡して、貰って、うけとる。お互いぜんぶを空っぽにして、お互いぜんぶをまっさらにして、そのすべてを、お互いへ、お互いへ、捧げ合う。
えっちが好きだ。でもそれと同じくらい透くんが好きだ。同じ好きが等しくここにあって、なんだかそれを教えられてるみたいで、胸がいっぱいになってくる。好きはいつも同じように心にあるわけじゃない。何気ない言葉で曇って、簡単な行動で濁ってしまう。ぼくは弱いから、大事だと思っているものだってすぐに見失ってしまって、毎日毎日、後悔してる。
でも、透くんはいつもそれを丁寧に手繰り寄せて、いつもぼくへ示してくれる。ぼくが遠ざけて逃げたものを、「でも好きだろ?」って、ちょっと強引に、でもやさしく、いつも透くんは、ぼくのだいすきなだいすきなひとは、そうやって示してくれるんだ。
「ぉ゛♡お゛ッ♡ん、ぅぅ゛……ッ!♡♡♡」
「あ♡ぅ゛♡うぅ゛……ッ!♡♡♡」
お互いにぢゅうっと舌を吸ったところで、お互い、またイった。つぅんと頭まで引っ張られるような快感が一気に弛緩して、溶けたバターみたいに身体のナカへ溶け出していく。ああ、きもちいい。きもちいいよ。きもちいいよぉ、とおるくん……ッ♡
「はぁ♡はぁっ♡すす、む♡んぅ……ッ♡」
「んぅ♡とおるく♡とおる、く……ッ♡」
イってもキスをやめたくなくて、何度も、何度も、何度も、啄んで舌を絡め合う。このままもう一回キスでイきたいって、ぼくは透くんをつかまえて、何度も、何度も、何度も、しつこく透くんを愛し続ける。
でも……。
『ぐぅぅぅ……』
「!」
キスの最中に容赦なく鳴る、ぼくのお腹。
そ、そういえば、まだ夕ご飯食べてなかったんだっけ……!?
「ッぶはっ!すすむっ、腹鳴ってんじゃんっ」
「う、うぅ……!い、いつの間にか、お腹減ってたのかも……っ」
「だよなぁ♡もうすっかり、元気って感じだし♡」
「ぁ、う゛ッ♡」
「あはは♡じゃ、先に、メシ食おっか♡」
ぼくの腹の虫へうれしそうにわらって、透くんはゆっくりと腰を上げて、ちんこを抜いた。そしてそのままなんの躊躇いもなく下着を穿いて、ハーフパンツを履く。
「あ、ナカ、出たまま……」
「いーの♡どーせメシ食ったらすすむと風呂入るもん♡」
「と、透くん……っ♡」
「あ、ッ♡」
ご飯が食べたらお風呂、とこれからの甘い予定を囁かれて、やっぱりそれに我慢できなくて、透くんを引き寄せる。くすんでたぼくをきれいにしてくれた、そんな愛おしい恋人を、だいすきだよって引き寄せる。
「んっ♡ぁ♡すすむ……っ♡ご飯が、さき、だろ……っ♡」
「うん……っ♡でもっ♡とおるくんのこと、ぎゅって、したいから……っ♡」
「はは……っ♡もぉ……♡お前も大概、わがままだよなぁ……っ♡」
ああ、確かにそうかもしれない。ぼくも透くんに対してはワガママで自分勝手になるところがあるって、自覚はしてる。正反対なようでいて、どっちもどっち。お互い様。むしろ正反対だからこそ、似てるところが強くなるのかもしれない。だってぼくたちは、もう、ふたりでいっしょなんだから。
「ほーら♡離せって……♡」
「ん……♡とーるくん……♡」
「さき俺の自信作食べようぜ?♡ほんとに美味いんだから♡」
「ん……食べたら、またいっぱい、えっちしよ……?♡」
「あははっ♡ヤる気になってえらいえらい♡ん♡ヤろ♡今度はいっぱい♡進が、気持ちよくしてよ……っ♡」
「うん♡する……っ♡透くん……っ♡」
するりとぼくの身体から、そしてベッドから抜け出す透くんの手をぼくはとって、指を絡めながらぼくもあとを追って立ち上がる。うん、まずは、ご飯から。やっと美味しいと感じられるはずの、透くんのカレーから。
だって毎日のいただきますとごちそうさまをちゃんと言うのも、ぼくたちがはじめに決めた、大事な大事なふたりの約束、なんだから。
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