鍵盤上の踊り場の上で

紗由紀

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第5章 Duet

半分の楽譜

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窓の外はまだ昨日の雨の跡が残っていた。葉や花に大きな雫が残っていたり、昇降口に湿り気があって嫌な音が鳴ったり。雨が、自分自身が存在していたことの証明をしているようだった。
それを見ずに感じずに、はやる気持ちで音楽室へ向かったが、水瀬はやはり、来ていなかった。学校には普通に通っているらしいが、練習には来ない。
1人での練習。
いつものことのはずなのに、いつものことではなくなっていた。それほど、僕にとって水瀬は、大切な存在になっていたのだろう。
…水瀬。
大丈夫だろうか。
明日、クラスに行ってみようか。
…いや、今はそっとしておこう。
水瀬には、水瀬なりの考えがあるのだろうから。
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