鍵盤上の踊り場の上で

紗由紀

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第3章 Challenge

提案

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5分程経って。
コンッ、コンッ
いつもと同じノック音が音楽室に響く。音楽を中断させ、いつも通り僕はそっとドアを開けた。そこにはやはり水瀬がいた。
「相原くん、やっほー…ってあれ?先生ー!」
水瀬は早速、先生のことを見つけたようで、嬉しそうに手を振った。
「先生とは適切な距離感でね」
「すいませーん。でも去年、一年間も同じ教室で過ごした仲じゃないですか~」
「確かにそうだけど駄目よ」
先生とも仲良さげに話している水瀬を見て、僕は失笑してしまった。先生ともこの距離感なのか。けれど、それが許されるのは、水瀬の人柄故なのだろう。
「ほら、相原さん。笑ってないでここ座って」
その言葉に誘導されて、僕と水瀬は近くの椅子に座った。ピアノ椅子とは感覚が違う。きっとそれは、いつもあのピアノ椅子が僕らの重力を適切に受け入れていた証拠だった。
「今日私が来たのは、2人に提案したいことがあったからなの」
そう言って先生は、ある資料を出した。
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