鍵盤上の踊り場の上で

第1章 Encounter

出逢い

肩の辺りまで伸ばした髪。
ぱっちりと開かれた大きな黒い目。
まさしく｢華の高校生｣という言葉が似合うような、そんな人だった。きっと、一般的に見たら｢可愛い｣と言われるような人なのだろう。
見たことのない人だ。けれど、どこかで見たことがあるような、そんな奇妙な感覚に襲われた。ジャージの色彩が、その人と僕が同い年であることが示していた。
「…どうした？」
「ピアノ、すごいね」
あまり聞き慣れない褒め言葉に、なんと返せばいいのかわからなくなる。照れ隠しに顔を俯かせた。
「…どうも」
「聴いていってもいい？」
唐突なその言葉に、目が見開かれた。全く知らない人の演奏を聴く人なんて、僕の経験上いなかったからだ。
断わろうか暫し迷った。けれど、爛々と輝いた彼女の瞳を見てしまえば、それも躊躇される。…伴奏のいいアドバイスを聞けたりとか、人から自分の音を聞いてもらういいチャンスかもしれない。そういうことにしておこう。
「…いいよ」
「え、本当に？ありがとう！」
途端、彼女の表情は明るく彩られた。
天真爛漫ということばが当てはまるようなその笑顔に、僕の心はますます驚きに染められていった。