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第3章 王国の混乱と聖女の疑惑――揺れ動く運命
しおりを挟む私、エリシアは王都から追放されて以降、思いがけない出会いを経て、リヒトベルク公国のジークフリート公爵と行動を共にするようになった。
公国の小さな町でしばし休息を取ったあと、私は公爵の計らいによって公国の首都へ移動し、そこで新たな人生を始める。――かつての栄光も、失墜も振り返っている余裕はない。
それでも、心の片隅には忘れ得ぬ思いがある。私を“冷酷な婚約破棄”と“国外追放”へ追い込んだ王国では、いま何が起こっているのか。
実は王国では、あの平民出身の聖女リリアーナをめぐって、徐々にほころびが生じつつあったのだった。
1.公国首都での日々
ジークフリート公爵との出会いから数週間。私は、公国の首都“リヒトベルク・シティ”に落ち着き、ささやかながら新生活を始めていた。
首都は公国の規模を考えるとさほど大きくはないが、堅牢な城壁に囲まれ、内部には活気ある商業地区が広がっている。石畳の道路には行商人が行き交い、洗練された服装の市民たちが所狭しと歩いている。街角には魔道具を扱う店もあり、若い職人たちが工房でせっせと道具を作っている姿も見られた。
私は、ジークフリート公爵の紹介状を携えて、まずは公国の行政区画を束ねる役所へ出向いた。そこでは文官長が親切に対応してくれ、私の簡単な技能を確かめながら、今後の働き口を提案してくれた。
私は自分の身の上を詳しくは話さなかったが、「一定の会計知識があること」「文字の読み書きに問題がないこと」「貴族的な礼儀作法を心得ていること」を示すだけでも、役所の仕事を手伝うには十分らしかった。
「――それなら、まずは書類整理や文書の起案補助から始めてもらうのがよいかもしれませんね」
文官長は好意的に微笑む。
「公爵様も、あなたに期待しているようですし、行政区の仕事に慣れれば、そのうち宮廷内の役職に就くことも可能でしょう」
私はその申し出をありがたく受け、役所に籍を置いて日々の業務をこなすようになった。はじめは見慣れない書式や法律、税制などに戸惑ったが、もともと学んできた基礎知識があるおかげか、思ったよりもスムーズに慣れていく。
役所の職員たちも、私を奇異の目で見ることはなかった。公爵の推薦がある女性というだけでなく、素直に仕事をこなそうとする姿勢を認めてくれたのだろう。
こうして私は、なんとか公国での新生活の足がかりを得ることができたのだ。
公爵家の離れでの暮らし
住まいについては、首都の安宿を借りてもよかったのだが、ジークフリートが強く勧めてくれた。
「折角のことだし、公爵家の離れの一室を使ったらどうだ? そこなら治安も良いし、女性が一人で住むには心配がない」
まさか公爵家に住むなど……と、最初は恐縮したが、彼の言うことも一理ある。追放されてきた私には、資金面の不安があるし、何より安全を確保するのが大変だ。それに、離れといっても公爵家の本邸から少し離れた建物らしく、ジークフリートの私邸とは別だという。私自身、さすがに同居は気が引けるので助かった。
離れは二階建ての可愛らしい屋敷で、必要最低限の家具がそろっており、小さな庭もある。ここには、私以外にも公爵家の客人や、一時的な滞在者が宿泊する場合があるらしいが、今は他に誰もいないようだ。
そんな空間で、私は日々仕事を終えてから、一人で静かに過ごす。料理は簡単なものなら自分でも作れるし、掃除や洗濯も一通り教わってきたのでこなせる。何より、ここでの生活には“自由”があった。追放される前、王都にいた頃の私にはなかった自由――それをかみしめるように、私は毎日少しずつ心を落ち着けていった。
ジークフリート公爵は相変わらず多忙な身で、辺境への巡回に出かけたり、首都の政務や軍事の会議に立ち会ったりと休まる暇もないようだった。それでも時々、夜遅くに私が暮らす離れに顔を出して、「仕事は慣れたか?」と優しい言葉をかけてくれる。そのたびに、胸が温かくなるのを感じる。
――こんなにも親身になってくれる公爵など、きっとそうはいない。私はいつの日か、彼に恩返しできるよう、しっかり働こうと心に決めていた。
2.王国の揺らぎ――偽りの聖女?
一方、そのころ私が追放された王国では、不穏な影が広がり始めていた。
王国の内情
王太子アレクシスは、平民出身の聖女リリアーナ・アーデルハイトを新たな“婚約者”として公言し、日々彼女と共に慈善活動をしたり、聖女の“奇跡”を大々的にアピールしていた。
王都の人々は最初こそ、「平民出身の女性が王太子妃になるなんて」と戸惑いを覚えていたが、リリアーナが実際に不思議な力を発揮して病人を癒やしたり、作物の不作を祈りの力で防いだなどという噂が広まり、次第に「この聖女は本物だ」という認識が強まっていったのだ。
しかし、誰もが疑いなく信じていたわけではない。私の父――かつてのルーシェル侯爵は、王家から爵位を剝奪されこそしなかったものの、事実上の軟禁状態に置かれ、口外を許されなかった。だが、彼の周囲に仕えていた一部の家臣や親族の中には「リリアーナの奇跡は本当に正しいのか?」と疑問を抱き、密かに情報を集めようとする者もいた。
また、王太子アレクシスの父たる国王が、ここ最近は公務をほとんど息子に任せきりにしていることも、王宮内にささやかな不満を生じさせていた。病の噂もちらほら出ているが、真偽ははっきりしない。
そんな中で、リリアーナは“聖女”としての地位を確立しつつあった。しかし――。
リリアーナの焦り
リリアーナ自身もまた、王太子の寵愛を得てから数ヶ月を経た今、焦りを募らせていた。
なぜなら、彼女が人々の前で披露していた“奇跡”の多くは、実際には魔法薬や小細工を駆使した偽物だったからだ。
最初にそれを仕組んだのは、リリアーナの背後にいる数名の貴族たちだった。王太子の忠誠心が得られれば、貴族社会で新たな派閥を形成できる――そんな打算を持った者たちが、リリアーナを“聖女”として仕立て上げるよう働きかけていたのだ。
もちろん、リリアーナにも多少の魔力や癒しの才能はあった。だが、“奇跡の聖女”と称するには程遠いレベルでしかない。そこで、特別な魔法薬や幻惑の魔術を使って、あたかも大いなる力を発揮しているように見せかけたのである。
「王太子様は何も疑っていないわ。きっと、すべてうまくいくはず……!」
――そう信じて、リリアーナは毎日王太子の前で微笑みかけた。しかし、問題は生じ始めていた。
王宮内の一部の賢者や神官たちが、リリアーナの“加護”を検証しようと動き出したのだ。もし正式な神殿で“神託の儀”を行うことになれば、リリアーナが本物かどうかは一目瞭然となる。
「そんな儀式、受けられるわけがない……!」
焦ったリリアーナは、裏工作を依頼している貴族たちに泣きついた。しかし、彼らもまた内心では王太子への影響力を確立した今、いつリリアーナを“切り捨てる”かを虎視眈々と狙っている。リリアーナが偽物であることが露見したら自分たちまで危険にさらされる。そうなる前に、さらに計画を進めるか、あるいはリリアーナをスケープゴートにして逃げるか――。
王宮は、表面的には聖女を崇める空気に染まっているものの、その裏で疑惑の火種がくすぶり始めていた。
王国の経済不安と隣国関係の悪化
さらに、王国を不安に陥れる要因は他にもあった。
かつて、王国とリヒトベルク公国の間にはある程度の友好関係が存在した。ルーシェル侯爵家を通じた外交ルートもあり、互いに商業や防衛面で協力してきたのである。
ところが、私(エリシア)の追放劇を発端に、その友好ルートが断絶してしまった。もともとルーシェル家を介して行われていた商談や貿易が滞り始め、何より“公国の武力支援”という隠れたメリットも失われつつある。
リヒトベルク公国は小国だが、軍事や治安維持の実力者が多いことで有名だ。王国は、もし大国との衝突があったとき、公国からの後方支援を期待していた。しかし、ルーシェル家の失脚以来、公国側は徐々に王国との交流を減らしている。
王太子アレクシスには、そういった外交面での配慮が足りなかった。リリアーナを崇め、国内の聖女ブームを盛り上げることに注力するあまり、隣国との関係に目を向けようとしないのだ。
こうした事情が重なり、王国の重臣の中には「王太子は本当に王位を継ぐにふさわしいのか?」と疑問を抱く者さえ出始めていた。
かくして、王国は徐々に内側から崩れ始めている。――そのことを、王太子もリリアーナも、まだしっかりと認識してはいなかった。
3.エリシアに届く噂
私はリヒトベルク公国で働き始めてから、一ヶ月ほどが経過していた。書類整理や会計補助の仕事も少しずつ板についてきて、役所の人々との雑談の中で笑い合える瞬間も増えてきた。
そんなある日、私は何気なく役所の同僚たちと昼食をとっていたときに、ある噂を耳にした。
「そういえば、最近王国のほうがざわついているらしいな。聖女が実は本物ではないかもしれないって話が、ちらほら聞こえてきてる」
「ええっ、そうなの? あの聖女リリアーナって子は、王太子の婚約者なんだろう? 今さら偽者だなんて、ただの噂じゃない?」
「確かに、ただの噂だろうな。けど、王国が妙に落ち着かない雰囲気なのも事実らしい。最近、王国からの商隊が減ってるんだけど、その人たちもなんだか元気がなかったよ」
私は、スープを飲む手が止まった。――リリアーナが偽物かもしれない。そんなこと、私が追放される前から薄々感じていた。
もしその噂が王宮全体に広がり始めているのだとしたら、王太子アレクシスはどう対応するのだろうか。私を平然と追放し、リリアーナこそが“真の婚約者”と宣言した彼は、今ごろ何を思っているのだろう。
(――とはいえ、私にはもう関係のないこと……のはず)
そう自分に言い聞かせても、どこか胸騒ぎがするのは否めなかった。何より、ルーシェル家の父や母のことが心配だ。もし王宮が混乱しているなら、彼らの身に危険が及ぶ可能性もある。
昼食後、私は一人書庫に向かうと、こっそりと王国に関する外交記録や近況報告の公文書を確認してみた。公国の役所には、各国との連絡や情報を集積した資料が保管されており、“必要な職員”ならある程度の情報を閲覧できるのだ。
そこで目にしたのは、王国の貿易量がここ半年ほどで激減しているという報告。そして、近隣の大国との交渉で不利な条件を押しつけられつつあるという報せだった。王国全体がまるで浮き足立っているように見える。
(私を追放したことで、まさかこんなに悪影響が出ているなんて……? いや、それだけが原因ではないだろうけど)
複雑な思いを抱えながら、私は書類をそっと戻した。今さら私がどうこうする問題ではない。あの国を治めるのはアレクシスたちの役目だ。私は、自分の新しい場所で生きる。それだけだ。
――そう思いながらも、心のどこかで「ざまあみろ」と言いたくなる感情が湧き上がるのも事実だった。彼らは私を切り捨てた。その結果、何かが狂い始めたのなら、それは自業自得なのではないか、と。
4.公国での新たな役目
その噂を聞いてから数日後、私のもとに役所の文官長から呼び出しがあった。
「エリシアさん、あなたに少し重要な職務をお願いしたいのです」
文官長は私の履歴や業務成果を確認しながら、神妙な面持ちで続ける。
「ジークフリート公爵閣下からの直接の依頼でね。公国の対外文書の作成や、貴賓を迎える際の対応を担当する“宮廷役”の一角を担ってほしいのです。具体的には、他国の使節団へのアテンドや、国賓を迎える際の儀典準備、そして重要文書の翻訳や校正などが主な仕事になります」
「そんな大切なお仕事を、私が……?」
驚きのあまり言葉を失う。確かに私は、王太子妃教育の一環で貴族社会の礼儀や外交儀礼についてそれなりに学んではいた。だが、それは“王国流”のものであり、公国の慣習とは微妙に異なる部分もあるはずだ。
それでも文官長は、「あなたならやれるでしょう」と断言する。
「ジークフリート公爵閣下も、あなたの働きぶりを高く評価しておられる。今の公国には、他国の上流階級と同等の礼儀作法を理解しながら、柔軟に動ける人材が足りないのです。……エリシアさん、改めてお聞きします。引き受けていただけますね?」
「……はい。全力を尽くします」
こうして、私はさらに一歩、公国の中枢へ足を踏み入れることになった。
その日のうちに、私は公国宮廷の事務局へ配属され、短期間の研修を受けることになった。そこでは、宮廷独特の礼式や公国流の儀典の進め方、使節をもてなす際の段取りなどを一気に詰め込まれる。
幸い、私は幼い頃から厳格な礼儀作法を仕込まれていたので、それらの知識を短期間で吸収するのは得意だった。――むろん、これは“王太子妃”になるために頑張っていた過去の自分の努力が生きた形になる。いつかアレクシスの傍でこの知識を発揮するはずだったのが、まさか別の国で役立つとは思いもしなかったが……。
ジークフリートとの再会
研修中、実務指導の責任者から「公爵閣下が直接、あなたに話があるそうです」と呼び出しを受けた。
通されたのは、公国宮殿の一角にある小さな応接室。家具や調度品は質素だが、細部にまで職人のこだわりが感じられる。私が緊張しながら部屋に入ると、そこにはジークフリートが立っていた。
「エリシア、よく来たな」
彼は私の姿を見ると、ほっとしたように微笑み、席を勧める。
「突然、役目を押しつけて悪かった。しかし、いまこの国にはお前のような人材が必要だ。……本当に、助かるよ」
「いいえ、私もお役に立てるなら嬉しいです。……ただ、私なんかが務まるのか、不安もありまして……」
「お前は貴族としての教育を受けていたんだろう? 書類仕事も他の文官より早く正確だと聞いている。ならば、問題はないはずだ。それに、いずれ公国も“他国との交渉”に本腰を入れる時が来る。そのとき、お前の力がきっと必要になる」
ジークフリートの言葉には力強い確信があった。私は、彼が言う“他国との交渉”に王国も含まれているのではないか、という思いが頭をよぎる。
しかし、彼はそのあたりを多く語ろうとはしなかった。ただ、「お前を信頼している」と言ってくれる。――私の中に芽生えた感情は、憧れや感謝だけではない。じわりと、熱い何かが胸を締め付けるようだった。
(王国とは違う。こんなにも個々を大切にして、真っ直ぐに向き合ってくれる公爵がいるなんて……)
その夜、私は離れの屋敷へ戻ってからも、なかなか眠れなかった。ジークフリートへの思いが、静かに、しかし確かに、胸を満たしていく。その感情を、私はまだ“恋”と呼んでいいのかどうか分からなかったが――。
5.王国との接触――思わぬ使節団
そんなある日、公国の宮廷に王国からの使節団が到着するという報せが駆け巡った。
王国側の正式な書状によれば、「貿易と交流の再開について改めて協議したい」とのこと。どうやら、王国も本格的に経済状況の危機を感じ始めたのか、リヒトベルク公国との関係修復を図る意図があるらしい。
宮廷内は、突然の訪問にやや慌ただしくなった。公国としては、以前のような友好をすぐに取り戻すつもりはないが、決して門前払いをするわけにもいかない。外交は慎重さと柔軟性を必要とする――ましてや、相手は私が育ったあの王国だ。
私は、文官たちとともに使節団の受け入れ準備を進めていた。だが、その胸中は穏やかではなかった。
――もしかしたら、あのアレクシスやリリアーナが関係してくるかもしれない。王国の上層部が公国との関係修復を真剣に考えているのなら、いつか私の存在が知られる日が来るだろう。
(できれば顔を合わせたくない。けれど、逃げるわけにもいかない。私は、もう公国の官吏として働いているのだから……)
そう自分に言い聞かせながら、私は必死に業務に集中した。使節団の人数や地位を確認し、部屋の割り当てを決め、歓迎の晩餐会のメニューを検討する。そして、彼らの到着当日にジークフリート公爵が出席する会談の準備も抜かりなく行わなければならない。
私は半ば無我夢中で動き回り、時には宮廷内の料理長や執事と連絡を取り合い、花の飾り付けを指示し、会議室の席次を調整する。まるで王宮で仕えていた頃のような忙しさだ。――しかし、今回は自分が中心となって動ける分、やりがいも大きい。
使節団の到着
使節団が公国の首都に到着したのは、晴れわたる青空の日だった。馬車や護衛兵、そして数名の貴族たちが隊列を組んでやってくる様子は、一見壮麗に見える。
私は宮廷正門の控え室で、彼らの入城を待つ。ジークフリート公爵は正門前に立って出迎える予定だ。そこで一通りの挨拶を交わし、使節団を宮殿の応接室へ案内する――その役目が、私に与えられていた。
(……深呼吸、深呼吸。落ち着かなきゃ)
扉の外で近衛兵から「使節団が到着しました」と声がかかった。私は自らの姿勢を整え、努めて穏やかな笑みを作りながら、大きく扉を開く。
そこには、数名の貴族らしき人物が立っていた。――幸いにも、アレクシスやリリアーナの姿はない。先頭に立っているのは、セスティアン子爵と名乗る初老の男性だった。かつて王宮の宴で見かけたことがあるが、直接言葉を交わしたことはない。
セスティアン子爵はジークフリート公爵を見るなり、恭しく頭を下げる。
「リヒトベルク公爵閣下、このたびは突然の訪問をお許しいただき、感謝いたします。王国の命により、使節団を率いてまいりましたセスティアンと申します」
「ようこそ、公国へ。長旅だっただろう。まずは中へお入りください。詳しいお話は応接室でうかがおう」
ジークフリートは少しも偉ぶった態度を見せず、彼らを穏やかに迎え入れる。
しかし、セスティアン子爵が私の姿を見ると、一瞬驚いたように目を見開いた。――そう、子爵は私のことを知っている可能性が高い。私は咄嗟に目を伏せ、表情を崩さぬように気をつけた。
「……こちらのご婦人は……?」
「公国の官吏だ。今回の会談や歓迎の段取りを仕切ってもらっている。エリシア、といいます」
ジークフリートがあっさり紹介してしまう。その名を聞いた子爵の表情が、さらに強張った。周囲の貴族たちも微妙な空気を漂わせる。
――だが、彼らは言葉を発しなかった。王宮の中では有名だった私の名だが、“婚約破棄された元侯爵令嬢”の姿を、まさかここで見るとは予想だにしなかったのだろう。どう対応すべきか迷っているのが手に取るように分かる。
(……気づかれた、でも何も言わないつもりなのかしら?)
私もまた沈黙を貫く。無理に挨拶をすれば、かえって使節団を動揺させるだけだ。――どうせ、いずれは話題になるだろう。この場では、ただ冷静に“公国の官吏”として職務を全うしなければ。
「こちらへどうぞ。応接室にご案内いたします」
私が先導する形で、ジークフリートと使節団を宮殿の奥へ案内する。彼らの視線が、時折私に向けられるのを感じるが、私は動じずに歩み続けた。
初日の会談
応接室での会談は、あくまで“友好再開”を目指すための顔合わせに近いものだった。セスティアン子爵たちは、王太子やリリアーナの名を出さず、王国側の重臣の承諾のもと、貿易や防衛協力の復活を望むという意向を述べる。
ジークフリートはそれを淡々と受け止め、「公国としても協力や友好に前向きではあるが、いくつかの条件を確認したい」と返す。
「――具体的には、過去に結んでいた貿易協定の見直しと、ここ数年で滞っている支払いの精算。さらに、我が国から派遣している技術者が王国に滞在する際の安全保障。これらが明確に保証されなければ、我々としても本格的な協力には踏み切れない」
ジークフリートが穏やかながらもしっかりとした口調で伝えると、子爵は慌てたように書記官へ目配せをし、記録を取らせる。
私も文官として別の席に座り、議事録を作成しながら会談の様子を見守った。王国の使節団は、やはりどこか余裕がない。私の知っている王宮の外交官たちなら、もう少し堂々と取り繕うはずなのに、今の彼らには焦りが見え隠れしている。
やがて、初日の会談が終わり、使節団は公国宮殿の一角に用意された客室へ案内された。ジークフリートは私たち公国側のスタッフと簡単に打ち合わせを行い、翌日以降の協議も続けることになった。
「エリシア、今日はお疲れだったな。しばらくこの交渉が続くだろうが、うまくサポートを頼む」
「はい、公爵様。全力で務めさせていただきます」
私が深く頭を下げると、ジークフリートは小さく微笑み、言葉少なに退室していく。その背中を見送りながら、私はどっと疲労が押し寄せてきたのを感じる。――子爵たちが私を見てどう思ったのか、いずれ何らかの動きがあるかもしれない。
それでも、今はただ“公国の官吏”としての仕事に集中するしかない。あの人たちに、過去の私の姿を重ねられたくはない。
6.背後から忍び寄る闇
会談が行われた翌日の夜。私は、まだ執務室で書類整理をしていた。今日も使節団と公国側の細かい条項のすり合わせがあり、議事録や参考資料をまとめる作業が山積みになっていたのだ。
ふと、廊下に人の気配を感じる。夜も更けているこの時間、通常なら警備の兵士以外はほとんど残っていないはずだ。私は怪訝に思いつつ、扉を開けてみた。すると、そこには見覚えのある男性が立っていた。――王国の使節団に属するセスティアン子爵だ。
「……子爵様。こんな時間に、いかがなさったのですか?」
私が問いかけると、子爵はぎこちなく微笑む。
「いや、エリシア……いや、エリシア“様”と呼ぶべきだろうか。あなたに少し話があってね」
私は眉をひそめながらも、「どうぞ、中へお入りください」と勧める。子爵は執務室に入ると、周囲に誰もいないことを確かめ、ひそひそ声で切り出した。
「……まさか、あなたが公国で働いているとは知らなかった。王宮では、“行方知れず”と聞いていたんだ。まさか、リヒトベルク公爵に拾われていたとは……。私も驚いたよ」
「ええ。私も、こうして子爵様と再会する日が来るとは思いませんでした」
努めて冷静に応じる。子爵は苦い顔をしながら続ける。
「率直に問うが……あなたは今、どのような立場でここにいる? ルーシェル侯爵家の名を捨てたのか? それとも、やはり王国に戻るつもりはないのか?」
「それを聞いてどうするおつもりですか?」
遠慮のない言い方になってしまったが、私は子爵の真意を探りたかった。子爵が王国へ帰還したとき、私の情報を流す可能性は高い。そうすれば、王宮の上層部――あるいはアレクシスやリリアーナの耳に入るだろう。
子爵は少し戸惑ったように目を伏せる。そして、思いがけない言葉を口にした。
「実は……我々としても、今の王国の状況は非常に危ういと思っている。何か一つ歯車が外れれば、国内の混乱が一気に爆発しかねない。――そこで、もしあなたが王国に戻ってくれるなら、私としては喜んで迎える手筈を整えたいのだ」
「戻る、ですか……?」
思わず、子爵の顔を見返す。彼は苦しげに息を吐き、私を真剣な目で見据えた。
「アレクシス殿下は、いま“聖女リリアーナ”にのめり込んでいる。だが、彼女の奇跡が本物であるかどうかを疑う声が日に日に大きくなっている。もしリリアーナが偽物だと判明すれば、王宮は大混乱に陥るだろう。
そこで……何とかそれを回避するために、あなたの存在を利用できないかと考えている者もいる。たとえば、“本来の王太子妃であったエリシア様が戻ってきてくれれば、王都は安定する”と期待している貴族も、少なくないのだよ」
――冗談ではない。私は思わず唇を噛む。彼らは、私を追放しておいて今さら何を言っているのか。
子爵は私の怒りを察したのか、申し訳なさそうに眉を下げる。
「もちろん、あなたにとっては屈辱だろう。しかし、もし王宮が混乱に陥った場合、あなたのご両親やルーシェル家の人々がどうなるか分からない。あなたが戻り、状況を収めてくれれば、あなた自身も名誉を取り戻せるだろう」
「名誉を取り戻す……? それは“王太子妃”の座に返り咲けということですか?」
想像するだけで胃が痛くなるような話だ。王太子妃になるために努力してきた過去の私なら、喜んだだろうか。……いや、もうそれは遠い昔の夢だ。今さらそんな地位など望んでいない。
子爵は力なく首を振る。
「そこまで言い切れない。リリアーナが本物かどうかによっても変わるだろう。だが、王太子が彼女に失望したとき、残る選択肢は“あなた”だ。――だから、私があなたに忠告したいのは、もし王国に戻る気が少しでもあるなら、早めにそちらの糸口をつかんだほうがいいということなんだ。手遅れにならないうちに……」
私はしばらく沈黙したまま、子爵を見つめた。――彼の言うことにも一理ある。王国が混乱すれば、ルーシェル家がどんな扱いを受けるか分からない。私の父母が再び不当に扱われるかもしれない。
だが――今の私にとって、一番大切なのは王宮に戻ることではない。
「子爵様、あなたのご厚意は理解しました。ですが、私はもう王太子妃になるつもりはありません。私はリヒトベルク公国で新たな人生を歩んでいます。それを捨ててまで、あの国に戻るつもりはないのです」
はっきりとそう告げると、子爵は痛むような表情を浮かべた。
「……そうか。だが、あなたが戻らなければ、今の王国は本当に危うい。もしリリアーナの正体が暴かれれば、王太子の権威は失墜し、ひいては王家全体が不安定になる。そのとき、あなたのご両親はどうなるか……」
「……っ」
父と母の安全。それを盾に取られるのは、正直辛い。私にできることがあるなら、助けたいという思いはある。
しかし、子爵は自分の都合で私を説得しているに過ぎない。王太子やリリアーナに振り回された結果、“保険”として私を利用しようとしているのだ。
「私には、ジークフリート公爵様がいます。もし王国が何らかの形で大きな混乱に陥るようなら、公爵様を通じて対処する方法を考えます。――それでも間に合わないほど、王宮が崩壊するのなら……それは、王国自身の責任ではないでしょうか」
突き放すように言い放つ。私自身、あまりにも冷たい態度だと思うが、子爵の言い分に付き合うほどの未練はもうない。
子爵はうなだれて、「……そう、か」と呟き、しばらく沈黙した。
「分かった。無理強いはしない。――だが、もし心変わりしたら、いつでも連絡してほしい。我々は数日のうちに公国を発つが、帰国後も“王太子とリリアーナの騒動”は続くだろう。そのとき、あなたの判断で行動してもらえるよう、せめて連絡手段だけは残しておきたい」
そう言って、子爵は私に一枚の紙片を差し出す。そこには王国の屋敷の所在地と、連絡先が記されていた。万一私が王国へ戻る決意をしたら、まずここを訪ねてほしい――ということらしい。
私はためらったが、紙片を受け取り、「検討はします」とだけ告げた。子爵は複雑そうにうなずき、深いため息をついてから夜の廊下へ消えていった。
7.揺れる想い――ジークフリートとの会話
子爵と別れたあと、私はどうにも落ち着かず、執務室の椅子に腰掛けたまま天井を見つめていた。
――本当に、このまま王国を見捨てるのか? 父や母の無事はどうなる? その不安が頭を支配する。
しかし、だからといって戻ったところで、私に何ができるのか。もう王太子妃になる意思など毛頭ない。あの国に対して未練など一欠片も持ちたくない。
悶々としているうちに、いつの間にか夜も更けていた。窓の外を見ると、月が高く昇り、宮廷の静まり返った中庭が見える。私はそろそろ帰宅しようと腰を上げ、書類を鞄にしまって執務室を出た。
そのまま廊下を歩き、玄関ホールへ向かおうとしたとき――。
「エリシアか。こんな遅くまで仕事を?」
低く落ち着いた声が聞こえ、驚いて振り返ると、そこには公爵服姿のジークフリートが立っていた。政務で遅くなったのだろうか。少し疲れた様子だが、その黒い瞳は相変わらず鋭い光を宿している。
「ジークフリート様……! こんな時間まで、お疲れさまです。私は、あの……少し残務がありまして」
「そうか。夜道は危険だ、送っていこう。馬車を呼ぶから、ついてこい」
ジークフリートがあまりにも自然に言うので、私は思わず遠慮しそうになる。しかし、彼は「俺も帰るところだ」と言って、私を促した。二人で宮廷を出て、裏口のほうに回ると、すでに公爵専用の小ぶりな馬車が待機している。
私は馬車に乗り込み、ジークフリートの隣に腰を下ろした。閉塞感のある車内で、彼の体温を間近に感じると、不思議と先ほどまでの悶々とした思いが和らいでいくような気がする。
「……エリシア。ずいぶん顔色が悪いな。何かあったのか?」
ジークフリートはすぐに私の異変に気づいたらしい。その瞳に宿る優しさに、胸がきゅうと締めつけられる。私は一瞬言葉に詰まったが、嘘をつく気にはなれなかった。
「実は、王国の使節団のセスティアン子爵様に呼び止められまして……。私を王国に戻すような話をされました」
「戻す、だと?」
ジークフリートの声が低くなる。私が詳細を話すと、彼は目を伏せて黙り込んだ。その表情からは、はっきりとした感情が読み取れない。
やがて、彼は深く息をつき、少し硬い声音で問う。
「それで、お前はどうしたい?」
「私は、戻る気はありません。王国がどうなろうと、自業自得かと……そう思いたいんです。でも、私の家族のことを考えると、どうしても不安が拭えなくて……」
そう告げると、ジークフリートは小さく頷き、車窓の外へ目を向ける。夜の街灯りが微かに馬車の窓を照らし、その横顔が浮かび上がる。
彼は少し考えているようだったが、やがて私のほうへ目を戻した。
「お前の家族を助けたいなら、手段はいくらでもある。……もし王国が完全に崩壊し、争乱に巻き込まれそうになったら、俺が動いてやってもいい。お前がそれを望むならな」
「ジークフリート様が……?」
「俺を頼れ。お前を追放した国だが、お前の家族は別だろう? 公爵の立場として、王国に介入するのはそう簡単ではない。だが、公国にも損得がある。もし王国が傾き、混乱が周辺国に波及するなら、公国の安全を確保するために動くのは当然だ」
それはまるで、“お前のために軍勢を率いて王国に乗り込んでもいい”とまで言っているように聞こえる。私は、あまりのことに息を呑んだ。そんな大がかりな事態になったら大変なことだが、ジークフリートの言葉に嘘はないように感じられる。
彼は私を見つめ、柔らかい笑みを浮かべた。
「お前は公国に必要な存在だ。お前が望むなら、できるだけ手を貸そう。だから、王国に無理に戻る必要はない。……ただし、お前自身が“どうしても王国を救いたい”と望むのなら、そのときは俺に相談してくれ。お前の意思を尊重する」
その言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。この人は、私の過去も立場もすべて飲み込んで、支えようとしてくれている。追放という苦しみを味わった私に、新たな生き方を与えてくれただけでなく、私の大切なものまで守ろうとしてくれている。
「ありがとうございます……。本当に……ありがとうございます」
私は思わず涙ぐんだ。ジークフリートは少し照れたように視線をそらし、「気にするな。俺がそうしたいだけだ」と呟く。
馬車はやがて公爵家の離れに着き、私は降りる前にもう一度お礼を言い、頭を下げた。そんな私の様子を見て、ジークフリートは僅かに頬を緩める。
「エリシア、疲れただろう。今日はもう休め。明日も交渉が続くからな」
「はい。おやすみなさい、ジークフリート様……」
馬車の扉が閉まり、彼が立ち去るのを見送る。夜の街灯が石畳を照らす中、胸の奥にじんわりと暖かい炎が灯っているのを感じた。
――いずれ、王国と決着をつける日は来るかもしれない。そのとき、私はこの人の力を借りながら、堂々と立ち向かってやる。私を追い落とした連中に“ざまぁ”を見せつけるためにも。
8.聖女の破綻――王国に忍び寄る断罪
その夜、私はふと眠りの中で奇妙な夢を見た。王都の大広間で婚約破棄を言い渡されたあの日の光景が繰り返され、リリアーナが高笑いしながら私を見下ろす――そんな悪夢。目が覚めると、額に冷や汗をかいていた。
しかし、その翌日。王国から届いた一通の急報が、公国宮廷を大きく揺るがすことになる。
そこには、こう記されていた。
「リリアーナ・アーデルハイトが“聖女としての力”を失い、奇跡が効かなくなった。その真偽を確かめるため、神殿の検証が行われる予定である」
もしこれが事実であり、リリアーナが偽物だと露呈すれば、王太子アレクシスの立場は危機に瀕する。そして、王宮全体が混乱に陥るのは避けられないだろう。
――王国に訪れる破滅の足音。私はその報せを、ジークフリートから直接告げられた。
「王国の混乱は、もはや時間の問題かもしれない。エリシア、お前の父母が危険にさらされる可能性は高い。どうする?」
ジークフリートの問いかけに、私は静かに目を閉じて思案する。
私はもう王国に仕える義務はない。ましてや王太子妃の座を取り戻すつもりもない。――しかし、父母は心配だ。放っておくことなどできない。
私は決意のこもった声で答えた。
「私が……公国の人間として、父と母を救いに行きます。もし王宮が混乱に陥り、ルーシェル家が巻き込まれるような事態になったら、ジークフリート様に力をお貸しいただきたいです」
それを聞いたジークフリートは頷き、手のひらを差し出す。
「当然だ。お前は俺にとって大切な存在だし、今や公国の官吏でもある。お前の家族を救うことは、公国としても必要な行動と言えるだろう。――すべてが動き出すのは“聖女の真偽”が白日の下にさらされるときだ。そこからが本番だな」
私は彼の手を、そっと握る。かつてアレクシスの手を取ったときの感情とはまったく違う安心感が、全身に満ちていく。
――王国が自ら招いた破滅の道。その先で、私はもう一度、彼らに“ざまぁ”を突きつけることになるだろう。追放された私が、いまや隣国の公爵と共に家族を守り、王国に毅然と立ち向かう。その展開は、きっと誰もが予想していない。
そう遠くない未来、聖女リリアーナの偽りが暴かれ、王国が混乱に陥ったとき――私の真の反撃が始まる。
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