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3章:少しずつ近づく二人

3-4: 銀の力の代償

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フェンリスでの戦いから数日が経過し、ルーフェリア王国には一時的な平穏が訪れていた。しかし、葉月玲奈は自分の体に起きている異変を感じていた。フェンリスで銀の力を発揮して以来、彼女は常に倦怠感に苛まれていた。体が重く、時折めまいに襲われる。だが、それを誰にも相談できず、ただひたすら耐え続けていた。

「大丈夫……これくらい……」

玲奈は自分にそう言い聞かせていたが、心のどこかでは気づいていた。力を使った代償が、自分の体に影響を与え始めていることに。


---

王宮での訓練

その日、玲奈は王宮内の訓練場でエリオスと共にいた。銀の力を効率的に使う方法を学ぶため、エリオス自らが指導していたのだ。

「お前の力は強大だが、制御が未熟だ。その力を無駄に消耗しないようにすることが重要だ。」

エリオスの厳しい声に、玲奈は頷きながら訓練に励んでいた。しかし、体調が万全ではない彼女にとって、その訓練は酷く負担の大きいものだった。

玲奈が光を生み出す練習をしている最中、体がふらつき、その場に膝をついてしまった。驚いたエリオスがすぐに駆け寄る。

「どうした?」

「少し……目眩が……」

玲奈は無理に立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。エリオスは彼女をじっと見つめ、鋭い声で問いかけた。

「お前、無理をしているな。」

その言葉に、玲奈はハッとしたように顔を上げた。彼の冷たい視線に隠された心配を感じ取り、彼女は嘘をつくことができなかった。

「……力を使った後から、体が少し……重くて……でも、大丈夫です。これくらい……」

玲奈の言葉を聞いたエリオスは眉をひそめ、短く命じた。

「休め。」

「でも、訓練を続けないと……」

「命を削るほど訓練する必要はない。休めと言ったら休め。」

エリオスの声には、いつもの冷徹さとは違う感情が込められていた。それは玲奈を思いやる優しさだった。玲奈はその言葉に反論できず、静かに頷いた。


---

倒れる玲奈

その夜、玲奈は自室でリーナに看病されていた。体調は悪化の一途を辿り、ついに立ち上がることすらできなくなっていた。

「玲奈様、本当にお医者様をお呼びしましょう!」

「……大丈夫、リーナ……ちょっと休めば良くなるから……」

リーナの心配をよそに、玲奈は無理に微笑んでみせた。しかし、その笑顔は次の瞬間には崩れ、玲奈はベッドに倒れ込んでしまった。

その知らせはすぐにエリオスの耳にも届いた。彼はすぐに玲奈の部屋へと向かい、倒れている彼女を見て顔を曇らせた。

「玲奈!」

エリオスは玲奈の側に膝をつき、彼女の顔を覗き込む。その冷静な表情の裏には明らかな動揺が見えた。

「お前……なぜ無理をした?」

玲奈は薄く開けた目でエリオスを見つめ、か細い声で答えた。

「だって……私は……銀の花嫁だから……あなたやこの国の役に立たなきゃいけない……そう思って……」

その言葉に、エリオスの眉がさらに深く寄せられる。

「馬鹿な奴だ……誰もお前にそこまでしろとは言っていない。」

彼の声には、怒りとも悲しみともつかない感情が滲んでいた。玲奈は微かに微笑みながら呟いた。

「でも……私には、それしかできないから……」

その言葉を聞いたエリオスは、初めて感情を露わにしたように彼女を抱きしめた。その力強さに、玲奈は驚きつつも安心感を覚えた。

「もう無理をするな……お前を失うわけにはいかない。」

エリオスの言葉は、彼自身が抑えてきた感情の本音だった。玲奈はその声を聞きながら、薄れゆく意識の中で微笑んだ。


---

目覚めた朝

翌朝、玲奈はぼんやりとした意識の中で目を覚ました。窓から差し込む陽光が彼女の顔を照らし、部屋には静寂が広がっている。

「ここは……?」

目を覚ました玲奈のそばにはエリオスが座っていた。彼は目を閉じたまま、腕を組んで椅子に座っている。その姿を見た玲奈は、彼が自分のためにずっとそばにいてくれたことを悟り、胸がじんと温かくなった。

「……王様?」

玲奈が小さく呼びかけると、エリオスは目を開け、彼女を見つめた。

「起きたか。」

「私……迷惑をかけてしまいましたね……」

玲奈が申し訳なさそうに言うと、エリオスは短く息を吐いた。

「馬鹿なことをするなと言ったはずだ。」

その冷たい言葉の裏には、彼女を心から心配する気持ちが隠されていた。玲奈は少しだけ微笑みながら、エリオスに向き直った。

「ごめんなさい。でも、王様がそばにいてくれて……嬉しかったです。」

その言葉に、エリオスは短く頷き、再び腕を組んで静かに座り直した。その姿には、彼女を守りたいという強い決意が滲んでいた。


---

新たな絆

その日以降、玲奈は無理をせず、少しずつ体を休めながら自分の力と向き合っていくことを決意した。彼女とエリオスの間には、これまで以上に強い絆が生まれつつあった。

玲奈にとって、エリオスはただの王ではなく、信頼できる支えとなりつつあった。一方のエリオスもまた、玲奈の存在が自分の冷徹な心を少しずつ溶かしていくことを感じていた。

二人の絆は深まり、互いにとってかけがえのない存在になりつつあった――しかし、彼らを待ち受ける運命は、決して甘くはないものであった。

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