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2章:契約の裏に潜む真実
2-5: 王と花嫁の絆
しおりを挟むヴィルザリアによる襲撃が失敗に終わった後、宮廷には一時的な平穏が訪れた。しかしその裏で、葉月玲奈は「銀の花嫁」としての自分に対する期待と責任に押しつぶされそうになっていた。彼女は未だに、自分が本当にこの世界で役立つ存在なのか、自信を持てずにいた。
---
庭園での語らい
玲奈は心を整理するため、宮廷の美しい庭園を歩いていた。満開の花々と爽やかな風が彼女を少しだけ落ち着かせてくれる場所だった。すると、遠くにエリオスの姿が見えた。彼もまた、一人で庭園の片隅に佇んでいる。
玲奈は思い切って彼に近づいた。彼女が歩み寄ると、エリオスは気配に気づいて振り返る。
「どうした?」
エリオスの冷静な声に、玲奈は一瞬躊躇したが、意を決して口を開いた。
「少しお話ししたいことがあって……」
「話せ。」
エリオスが短く答えると、玲奈は小さく息を吸い込み、心の中に抱えていた不安をぶつけた。
「私は本当に『銀の花嫁』として、この国の役に立てるんでしょうか? 命を削る力だって言われても、怖くて……。でも、ただ怖がっているだけではいけないとも思うんです。」
玲奈の言葉に、エリオスはしばらく何も言わなかった。ただじっと彼女の顔を見つめ、考え込むように視線を少しだけ遠くに移す。
「恐怖を抱くのは当然だ。だが、それに屈するかどうかはお前次第だ。」
冷たくも真っ直ぐな言葉に、玲奈は少し胸が締め付けられる思いがした。しかし、彼の言葉が責めるためのものではなく、彼女を奮い立たせようとする意図を持っていることを感じ取る。
「……でも、どうやってその恐怖を乗り越えればいいんですか?」
玲奈がそう尋ねると、エリオスは彼女をじっと見つめた。そして、低い声で静かに答えた。
「お前は一人ではない。その力を使うとき、国も私も、お前を支える。それを忘れるな。」
玲奈はその言葉に驚き、目を見開いた。冷酷と噂されるエリオスの口から、こんなにも温かい言葉を聞くとは思ってもみなかったからだ。
「王様……」
玲奈が言葉を詰まらせると、エリオスは視線を逸らしながら静かに立ち上がった。
「話はそれだけか?」
玲奈は慌てて頷いた。エリオスは軽く肩をすくめると、その場を去ろうとする。だがその背中には、わずかな孤独が滲んでいるように見えた。
---
秘密の図書室
その夜、エリオスから突然呼び出された玲奈は、彼の案内で宮廷の奥深くにある秘密の図書室へと連れて行かれた。その場所は、王とごく少数の者しか立ち入ることを許されていない特別な部屋だった。
「ここには、銀の花嫁に関するすべての記録が残されている。お前の力について知りたいことがあれば、この部屋を使え。」
エリオスがそう言って壁際の棚を示すと、玲奈は驚きとともに尋ねた。
「どうして私に、こんな特別な場所を見せてくれるんですか?」
エリオスはしばらく黙った後、低い声で答えた。
「お前が自分の力を理解し、受け入れる必要があるからだ。それが、お前がこの国で果たすべき役割の第一歩だ。」
玲奈はその言葉に小さく頷いた。エリオスの背中には、彼がどれだけ多くの責任を背負っているかが垣間見えた。彼女は、この冷徹な王が自分に期待を寄せていることに、少しだけ誇りを感じた。
---
銀の力の意味
図書室の中で玲奈が見つけた記録には、銀の花嫁の力についての詳細が書かれていた。その力は国を守るために与えられるものであるが、代償として使う者の命を削ると明記されている。
「命の代償……」
玲奈はその言葉を読み返し、自分の心に湧き上がる恐怖を抑え込もうとした。しかし、記録の最後に記された一文が彼女の目に留まった。
「銀の花嫁の力は、愛によって真の力を発揮する。」
その言葉に、玲奈は首を傾げた。愛とは一体何を指しているのだろうか? 自分が愛を与えられる存在なのか、それとも愛を与えるべきなのか――彼女には答えが分からなかった。
「愛……」
小さく呟いた玲奈の背後で、エリオスが再び声をかけた。
「力の本質を知りたいなら、まずお前自身がそれを信じることだ。」
彼の言葉は、まるで玲奈の胸の迷いを見透かしているかのようだった。玲奈は静かに頷きながら、エリオスを見上げた。
「私、頑張ります。この力が役に立つなら、怖がってばかりじゃいけませんね。」
その決意に、エリオスは短く頷いた。彼の表情に変化はなかったが、玲奈はわずかな優しさを感じ取った。
---
結び
その夜、玲奈は自室で左手首の銀の紋章をじっと見つめていた。その輝きは、彼女に大きな責任を背負わせるものだが、同時に自分がこの世界で果たすべき役割を示しているようにも思えた。
「私は一人じゃない……」
エリオスの言葉を胸に刻みながら、玲奈は少しだけ前向きな気持ちになっていた。彼女の中で、銀の花嫁としての自覚と使命感が芽生え始めている。そして、エリオスとの絆が少しずつ深まっていく中で、玲奈は新たな一歩を踏み出そうとしていた。
しかし、その道にはさらなる試練が待ち受けていることを、彼女はまだ知らない――。
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