上 下
13 / 20
第4章:敵との直接対峙

4-1 エリザベスの陰謀暴露

しおりを挟む


アルシアとレグニッア公爵の婚姻に向けた準備が進む中で、エリザベスの動きは一層大胆になっていた。アルシアに対する嫌がらせは陰湿さを増し、公爵邸の警備が厳しくなるほど、その手法は巧妙化していた。そしてついに、エリザベス自身の姿がアルシアの前に現れる――。


---

邸内での奇妙な出来事

その日、アルシアは公爵邸の庭で散歩をしていた。婚姻の準備で多忙な日々を過ごす中、唯一心を落ち着けられる時間だった。しかし、彼女の視線が偶然に届いたのは、普段は使われていない倉庫の方角だった。

倉庫の扉がわずかに開き、中から何者かの気配を感じた。警備が厳重な公爵邸で、不審者が潜んでいるとは考えにくい。だが、その直感を無視することはできなかった。

「……誰かいるの?」
アルシアは恐る恐る倉庫に近づいた。中に入ると、そこには誰もいないかのように静まり返っていたが、ふと足元に目をやると、破れた布と何かの封筒が落ちていた。アルシアは封筒を拾い上げ、中身を確認した。

そこにはエリザベスの署名とともに、明らかにアルシアを中傷する計画が記された手紙が入っていた。
「……これは、いったい……。」
その瞬間、背後で足音が響き、アルシアが振り返ると、そこにはエリザベス本人が立っていた。


---

エリザベスとの直接対峙

「ずいぶんとお暇なのね、アルシア嬢。」
エリザベスは皮肉めいた口調で笑みを浮かべた。その瞳には冷たい光が宿り、これまでとは違う狂気を感じさせた。

「エリザベス嬢……この手紙はあなたのものですね。」
アルシアは震える手で封筒を掲げたが、エリザベスの表情には動揺の色はなかった。

「ええ、そうよ。それが何か?」
まるで何事もなかったかのように平然と答える彼女の態度に、アルシアは言葉を失った。

「あなたはなぜこんなことをするのですか? 私が何をしたというの……?」
アルシアの問いかけに、エリザベスは笑いながら答えた。
「何もしていないわ。ただ、あなたが公爵様の隣にいることが許せないだけ。それが理由として十分でしょう?」

その言葉には、純粋な嫉妬と憎悪が込められていた。エリザベスにとって、アルシアはただ存在するだけで敵だった。

「あなたなど一時的な存在に過ぎないわ。いずれ、公爵様も気づくはずよ。私こそが彼の隣にふさわしいと。」
エリザベスは高笑いを浮かべながら、アルシアを見下した。


---

アルシアの決意

エリザベスの言葉に動揺しながらも、アルシアは冷静さを失わなかった。彼女は心を落ち着けるために深呼吸をし、自分の信念を再確認した。

「エリザベス嬢、私はあなたの言葉に屈するつもりはありません。公爵様との関係が契約から始まったものであっても、私は彼を尊敬し、共に未来を築こうとしています。それを邪魔する権利は誰にもありません。」

その毅然とした態度に、エリザベスの表情がわずかに歪んだ。彼女は何か言い返そうとしたが、倉庫の入り口から公爵の低い声が響いた。

「エリザベス、それ以上はやめておけ。」


---

公爵の介入

レグニッア公爵が倉庫に足を踏み入れた瞬間、エリザベスの顔が真っ青になった。彼がこの場に現れるとは思っていなかったのだろう。

「公爵様……。」
アルシアは安堵の表情を浮かべたが、公爵の目は冷たくエリザベスを見据えていた。

「エリザベス、これ以上アルシアを傷つけるなら、容赦はしない。」
彼の言葉には怒りと決意が込められていた。エリザベスは動揺しながらも、最後の抵抗を試みた。

「公爵様! 私がどれだけあなたのために尽くしてきたか分かっていますか? 私こそがあなたにふさわしい存在だと、まだ気づかないのですか?」

彼女の声は震えていたが、どこか必死さが滲んでいた。しかし、公爵の返答は冷徹だった。
「君のしてきたことは知っている。だが、それが正当化されることはない。」

エリザベスはその場に立ち尽くし、何も言えなくなった。その後、公爵の指示で使用人が彼女を倉庫から連れ出した。


---

二人の絆が深まる夜

その夜、公爵はアルシアの部屋を訪れた。彼女は疲労の色を隠せずに座っていたが、公爵の顔を見ると少し微笑んだ。

「ご無事で何よりだ。」
公爵は短く言葉をかけたが、それだけでアルシアは心が軽くなった。

「公爵様……どうして私をここまで守ってくださるのですか?」
アルシアの問いに、公爵は少し考え込んだ後、答えた。
「君が私にとって大切な存在だからだ。それ以上の理由が必要か?」

その言葉に、アルシアは涙を浮かべた。そして、彼の言葉を胸に刻み、自分もまた彼を信じて進む覚悟を新たにした。


---

新たな戦いの始まり

エリザベスの陰謀は表面化し、公爵とアルシアの絆がさらに深まった。しかし、これが終わりではなかった。エリザベスの背後には、さらに大きな影が潜んでいることを二人はまだ知らなかった。

「私は負けない。どんな困難が待ち受けていても、公爵様と共に乗り越える。」
アルシアは心にそう誓い、新たな試練に立ち向かう決意を固めたのだった。


---


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

モラハラ王子の真実を知った時

こことっと
恋愛
私……レーネが事故で両親を亡くしたのは8歳の頃。 父母と仲良しだった国王夫婦は、私を娘として迎えると約束し、そして息子マルクル王太子殿下の妻としてくださいました。 王宮に出入りする多くの方々が愛情を与えて下さいます。 王宮に出入りする多くの幸せを与えて下さいます。 いえ……幸せでした。 王太子マルクル様はこうおっしゃったのです。 「実は、何時までも幼稚で愚かな子供のままの貴方は正室に相応しくないと、側室にするべきではないかと言う話があがっているのです。 理解……できますよね?」

処理中です...