偽りの契約は甘く燃えて――政略結婚ざまあ物語」

第1章：契約の花嫁

1−2 結婚式の裏側

翌週、アストリアとアルヴェリックの結婚式は、誰もが羨むような豪華な形式で執り行われた。王国中の貴族たちが招かれ、華やかな装飾が施された公爵家の大広間には、美しい音楽と笑い声が響いていた。

しかし、その華やかさとは裏腹に、花嫁であるアストリアの胸には、重く冷たい感情が渦巻いていた。


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「美しい……」

アストリアは、着せられた純白のウェディングドレスを鏡越しに眺めた。豪華なレースと繊細な刺繍が施されたそのドレスは、王国最高の仕立て屋によって作られた一品だった。身にまとっているだけで特別な存在になった気分になる――はずだった。しかし、彼女はこのドレスに幸福を感じることができなかった。

「お嬢様、とてもお似合いです。」

侍女の一人が微笑む。アストリアはその言葉に、礼儀正しい笑みを返した。だが、その笑顔はどこか硬く、侍女たちはそれ以上何も言えなくなった。

大広間に向かう途中、父ルイスが彼女に近寄った。

「アストリア、今日という日を無駄にするな。この結婚は、家の未来を左右する。」

厳しい口調で告げる父に、アストリアはただ静かにうなずいた。彼女の内心を知る者はいない。


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式の開始が告げられ、大広間の扉がゆっくりと開かれる。煌めくシャンデリアの光の中、アストリアは慎重に足を運んだ。目の前に待つのは、冷たい仮面をつけた夫――アルヴェリック。

彼は変わらず無表情で、まるでこれがただの儀式でしかないと告げるように立っていた。

式典が進む中、牧師が二人の誓いを促した。

「アストリア・レーヴェント、あなたはアルヴェリック・カシウスを愛し、敬い、苦楽を共にすることを誓いますか？」

その言葉に、アストリアは一瞬、息を呑んだ。愛――それは、彼女の結婚には存在しないはずのもの。形式だけの問いかけだとわかっていても、心に鋭い棘が刺さったような痛みを感じた。

「はい、誓います。」

声は震えず、穏やかに響いた。その瞬間、彼女は心の中で、自分自身に問いかけた。この答えは本当に正しいのか、と。

続いて、アルヴェリックが同じ問いを受けた。

「アルヴェリック・カシウス、あなたはアストリア・レーヴェントを愛し、敬い、苦楽を共にすることを誓いますか？」

アルヴェリックは一瞬も迷わず答えた。

「はい、誓います。」

その言葉に、まるで感情は感じられなかった。ただ形式的に口にしただけのものだった。それでも、アストリアの心は微かに傷ついた。


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式が終わり、披露宴が始まると、大広間は一層の賑わいを見せた。貴族たちは互いに笑顔を浮かべながら談笑し、次々に二人のもとへ祝いの言葉を届けに来た。

「美しい花嫁だね、アストリア様。」

「さすがアルヴェリック公爵様、幸運な方だ。」

祝いの言葉はどれも表面的なものばかりだった。アストリアは微笑みながら礼を言い続けたが、内心ではその場から逃げ出したい衝動を必死に抑えていた。

そんな中、アルヴェリックは冷静そのものだった。彼はアストリアをちらりとも見ず、ただ必要最低限の言葉で応じていた。その姿はまるで鉄壁の壁のようで、誰も彼の真意を掴めない。


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夜も更け、披露宴が終わる頃、二人はついに二人きりとなった。新居となる公爵家の寝室に案内されたアストリアは、緊張を抑えながら立っていた。アルヴェリックはそんな彼女に目を向けることなく、無感情な声で言った。

「今日から君は公爵夫人だが、私の生活に口出しすることは一切許さない。必要なことは侍女を通じて伝えてくれ。」

その冷たい言葉に、アストリアは唇を噛んだ。

「わかりました。」

震える声を抑えながら答える彼女に、アルヴェリックは一瞥もくれず、部屋を出て行った。その瞬間、アストリアは初めて一人になったことを実感し、涙が頬を伝った。


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翌朝、陽の光が差し込む部屋で目覚めたアストリアは、決意を新たにしていた。

「このままでは終わらない。私の人生は私自身が切り開く。」

彼女の中に、小さな反発心と希望が芽生えていた。冷酷な夫に対して、自分の存在を示すために何ができるのか。その答えを探すために、彼女は新たな一歩を踏み出すのだった。