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第3章: 雪と月の対立
セクション1: 慎一の決意
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冷たい風が村を吹き抜ける中、慎一は家の中で一人、考え込んでいた。
ユキが雪女だということを知ってから数日が経つが、彼の心は未だ整理がつかず、ユキともまともに話せていない。それでも、彼女の涙を思い出すたびに胸が締めつけられた。
「僕は……どうしたいんだ?」
慎一は小さく呟いた。彼の中にはまだ迷いが残っていた。しかし、その迷いを打ち消すように、一つの記憶がよみがえる。初めてユキと出会ったときの彼女の優しさ、不器用ながらも一生懸命だった姿。それは誰よりも人間らしいもので、彼にとって特別な存在だった。
「僕はユキさんが好きだ……。」
慎一は自分の気持ちを改めて自覚し、その思いを伝えなければならないと決意した。彼女が雪女だろうと、人間だろうと関係ない。自分が彼女のそばにいることで彼女を支えられるなら、それだけで十分だと思えた。
---
翌朝、慎一は意を決してユキの家を訪れた。小さな木製の扉を叩くと、ユキが現れた。彼女の表情は硬く、目の下には薄いクマができている。慎一の姿を見た瞬間、ユキは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにその目を伏せた。
「慎一さん……どうして?」
「話がしたいんだ。時間をもらえないかな?」
慎一の真剣な声に、ユキは戸惑ったように彼を見つめたが、結局、小さく頷いて家の中へと招き入れた。
---
部屋の中は相変わらず冷たかったが、慎一はそれを気にせずに話を切り出した。
「ユキさん、僕は君に伝えたいことがあるんだ。」
「……なんですか?」
ユキは慎一をじっと見つめた。その瞳には恐れと期待が混ざり合っていた。
「僕は……君のことが好きだ。」
慎一の言葉に、ユキの目が大きく見開かれた。彼女の口元がわずかに震える。
「君が雪女だってことも知ってる。それでも……それが君そのものなんだって思う。僕にとってはそれが大事なんだ。」
ユキは言葉を失ったように慎一を見つめていた。彼の告白は、彼女にとって予想以上に重く、嬉しいものだった。しかし、それ以上に彼女の中には恐れがあった。
「私……あなたに何も返せません。」
ユキは震える声でそう言ったが、慎一は首を振った。
「何も返してほしくない。ただ、僕が君を支えたいんだ。それだけでいい。」
慎一の目は真剣だった。その目を見たユキは、心の中で渦巻く不安を少しずつ感じなくなっていった。
---
しかし、その瞬間、ドアの向こうから誰かが静かに拍手をしている音が聞こえた。二人が振り返ると、そこには沙耶が立っていた。
「素敵な告白ね。おめでとう。」
沙耶の声には皮肉が混ざっていた。彼女の銀髪が月光を反射し、部屋の中を冷たい光で満たしているように感じられる。
「沙耶さん……。」
慎一が驚きながら名前を呼ぶと、沙耶は余裕のある笑みを浮かべた。
「でも慎一さん、あなたは分かっているの? 彼女と一緒にいるということがどういうことなのか。」
「どういう意味だ?」
「彼女の力は、あなたを傷つけるわ。いくら彼女を支えたいと思っても、あなた自身が無事でいられる保証なんてないのよ。」
沙耶の言葉に、慎一は反論しようとしたが、ユキが一歩前に出た。彼女は沙耶に向き直り、静かに言った。
「やめてください。彼を惑わすのは……。」
「惑わす? いいえ、私はただ現実を教えてあげているだけよ。あなたが自分の力をコントロールできない限り、慎一さんにとってあなたは危険な存在なの。」
ユキの体がわずかに震えた。沙耶の言葉が彼女の心の奥深くに刺さったのだ。慎一が何かを言おうとしたが、ユキは彼を制するように手を上げた。
「慎一さん……私にはあなたを傷つけたくない。でも、それを防ぐことができる自信がない。」
ユキの言葉には、慎一を突き放すような冷たさがあった。その冷たさに、慎一は言葉を失った。
「だから……近づかないで。」
ユキはそう言い残し、部屋の奥へと姿を消した。
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