上 下
9 / 19

2-5: 決意の夜

しおりを挟む


王宮での貿易政策会議を目前に控えた夜、セリカ・ラピッドは自室で膨大な資料に目を通していた。その瞳には冷静さと情熱が宿り、彼女の指先は止まることなくペンを走らせていた。この会議は、単なる政策提案の場ではない。噂を払拭し、自らの価値を証明するための決定的な一歩だった。


---

侍女エリザの心配

夜も更け、侍女のエリザが紅茶を持ってセリカの部屋に入ってきた。彼女は疲れを隠そうともしないセリカの姿に、心配そうに声をかけた。

「セリカ様、少しお休みになられてはいかがでしょうか? 会議の準備はすでに十分かと存じます。」

セリカは書類から目を離し、エリザに穏やかな微笑みを向けた。
「ありがとう、エリザ。でも、まだ完璧ではありませんわ。噂を逆手に取るためには、誰にも隙を与えない準備が必要です。」

「ですが、体を壊してしまっては元も子もありません。噂など、セリカ様の毅然とした態度だけで払拭できるはずです。」

エリザの言葉に感謝しつつも、セリカは首を軽く振った。
「それだけでは足りませんの。王宮での立場を築くためには、目に見える成果が必要です。私が成し遂げたことを、誰も否定できない形で示すことが。」

その強い意志に、エリザはそれ以上何も言えなかった。ただ一言だけ、「ご無理だけはなさらないでくださいませ」と告げて部屋を後にした。


---

レオンの支援

翌朝、セリカのもとに第一王子レオンからの書状が届いた。そこには彼の丁寧な言葉で、会議の流れと彼がセリカを支援するための準備が記されていた。

> 「貿易政策会議では、セリカの提案を最大限活用できるように進めるつもりだ。だが、それ以上に大事なのは、君が自らの力を示すことだ。君の才能を疑う者たちに、それを見せつける好機だと考えてほしい。」



その内容を読み終えたセリカは、深く息をつきながら静かに呟いた。
「殿下は本当に私を信頼してくださっているのですね。」

彼女の胸には、レオンの支援に対する感謝と、それに応えるべき責任感が高まっていた。


---

会議前夜の策略

一方その頃、アルヴィンとマリーヌは別の部屋で密談を交わしていた。彼らは、セリカが会議で提案する内容を事前に潰すため、新たな策略を練っていた。

「会議でセリカが提案する内容は、貴族たちの利益を損なうものに見せかけるのです。」
マリーヌは冷たい笑みを浮かべながら、アルヴィンに進言した。
「貿易商人たちを味方につけ、彼女の提案を公然と批判させれば、彼女の計画は瓦解しますわ。」

「それはうまくいくのか?」
アルヴィンは疑問を抱きつつも、彼女の提案に乗る以外の選択肢はないようだった。

「ご安心ください、アルヴィン様。噂と組み合わせれば、彼女が王族の力を利用して自らの利益を図ろうとしていると思わせることは容易いのです。」

二人の策謀が進む中、彼らはセリカの成功を阻止するための準備を着々と進めていた。


---

セリカの決意

その夜、セリカは机に向かいながら、ふと窓の外に目を向けた。夜空には雲が薄くかかり、月明かりがぼんやりと広がっていた。

(私がここまで来るのに、多くのものを失いましたわ。でも、それが私の進むべき道だということも理解しています。)

彼女は静かにペンを置き、心の中で次の言葉を反芻した。

(この会議で、私はただの婚約破棄された令嬢ではないことを証明します。そして、誰にも揺るがされない立場を築きます。)

セリカの決意は固く、彼女の心には一切の迷いも恐れもなかった。


---

迎える朝

夜が明ける頃、セリカは準備をすべて整え、最後に自らの計画を見直していた。侍女のエリザが朝食を運んできたが、セリカは軽く一口口にしただけで、すぐに立ち上がった。

「セリカ様、どうかお気をつけて。」
エリザは深く頭を下げ、見送った。その目には心配と同時に、主への深い信頼が込められていた。

「ありがとう、エリザ。私は必ず成果を持ち帰りますわ。」

セリカは毅然とした足取りで屋敷を出た。王宮へ向かう道すがら、彼女の心には一つの確信があった。

(どれほどの逆境が待ち受けていようと、私は私の力で未来を切り開いてみせる。)

馬車の窓から見える王宮の塔が、朝日に照らされて輝いていた。それはまるで、彼女の決意を後押しするかのようだった。


---

次の舞台へ

貿易政策会議という舞台で、セリカがどのように噂や策略を跳ね返し、自らの価値を証明するのか。その答えはもうすぐ明らかになる。婚約破棄の痛みを乗り越え、セリカは新たな未来へと歩み出していた。

(これが、私の選んだ戦いの第一歩ですわ。)

その瞳には、強い光と覚悟が宿っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで

雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。  ※王国は滅びます。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【完結】ブスと呼ばれるひっつめ髪の眼鏡令嬢は婚約破棄を望みます。

はゆりか
恋愛
幼き頃から決まった婚約者に言われた事を素直に従い、ひっつめ髪に顔が半分隠れた瓶底丸眼鏡を常に着けたアリーネ。 周りからは「ブス」と言われ、外見を笑われ、美しい婚約者とは並んで歩くのも忌わしいと言われていた。 婚約者のバロックはそれはもう見目の美しい青年。 ただ、美しいのはその見た目だけ。 心の汚い婚約者様にこの世の厳しさを教えてあげましょう。 本来の私の姿で…… 前編、中編、後編の短編です。

悪役令嬢は夜汽車に乗って ~旅の始まりは婚約破棄~

aihara
恋愛
王国で将来は大公位を賜る予定の第二王子の婚約者だった侯爵令嬢・ロベリア・アンジェリカは、ある日の王家の夜会で第二王子から冤罪によって追放刑を受ける。   しかし、婚約破棄とその後の対応を巡って周囲が騒然とする中、「追放刑なら喜んで!」とばかり夜会をさっさと退席し侯爵家のタウンハウスへ急ぐ侯爵令嬢。 どうやら急いでいる理由は…「夜汽車」のようで…。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

処理中です...