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しおりを挟む一口、二口。
ちょびちょびと液体を口に入れて小さく息を吐く。甘い、市販のジュースとは少し違う味のそれに首を傾げながらその液体を体へ入れた。
「ここへはよく来られるんですか」
「実は初めてで…」
「ああ、だから。こんなに綺麗な方を初めて見たなと思いまして」
「お口が上手なんですね」
そこから青年はいくつも話をしてくれてそれに一つ一つ返していく。会話とは言えない、どちらかと言えば質疑応答にちかいコミュニケーション。
が、自分の変化に気がつくのには十分な時間だった。
ふるふると震えていく指先。視界は何枚ものガラスが反射したように白く揺れ、ぼんやりと幕がかかる。
「どうかされました?」
「あ、いえ…っ」
名前をつけられない感情。中心部分に集まる熱を言葉と共に飲み込み、丸くなるように体を小さくした。
なにこれ。
波のように私を襲うなにかにどうしたらいいのか分からない。抑えようと必死になるもうまくいかず気がつけば自分の足と足をこすり合わせていた。
「体調が優れないようなら違うお部屋に案内しますよ」
「……ぃ、や」
振り払いたいのに力が入らない。生まれて始めてのこの感覚は理解し難い程に熱を帯びた情で私自身をその中に沈めるように引きずり込んだ。
心配するように青年は腕を回し体を密着させるように私に近づく。他人にこんな距離で触れられたことがなく恐怖を感じるも抵抗ができない。
どうしよう、いみわからない。
真っ白になる頭の中でただただ考えたのはあの男のことで、図々しくも助けを求めたのもやつだった。
「あき……」
「ほんとダメな女」
視界に入る黒い革靴。ピカピカに磨かれたそれは誰のものかもすぐに分かってゆっくりと顔を上げれば願った彼が冷たい瞳でこちらを見ていた。
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