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しおりを挟む「っ!なに!?」
触れることはないけれどすぐ近くに広がる彼の顔。咄嗟に体を引き思いきり突き飛ばしても向こうは余裕そうに小さく笑いこちらを見下ろしていた。
「隙きばかりですね」
「あ、あんないきなり近づかれたら反抗出来ないでしょ!?」
「ほら初心だ」
「うるさい」
ふかふかの上品なソファーから勢いよく立ち上がり亜喜を無視するように歩き出す。音はしないものの着いてきている感覚に歩くスピードを早くする。
それでもあいつは着いてくる。
「一人にさせて」
「ここからつまみ出されたいんですか」
「あんたをつまみ出したいのよ」
「それは無理です」
「着いてこないで」
「分からず屋ですね」
「お花を摘みにいくんです!!」
上品な音楽が包む空間に響く私の声。
周りの大人達は何だなんだとこちらを見つめ集まる視線に俯きながら広いホールを進んでいく。
なんで恥をかかなきゃいけないの。
クスクスと笑う声も聞こえてきそうで振り向くこともなく進む。初めてここへ来た日にこんなことになるなんて。
一人でうろうろする予定だったのになんで父はこの男を護衛に付けたのだろう。家に帰ったら抗議しなきゃ。
「案内しましょうか」
「結構です」
「お一人では危ないですよ」
「貴方と居るほうが身の危険を感じる」
「それはそれは」
それでも着いてくる亜喜を無視して女子トイレへ一直線。するつもりもなかったお手洗いを済ませ少し待ってからトイレを出たが少し離れたところに無表情のあいつが立っていた。
くそが。
違う方向を見ている隙きにトトトっと駆け出しその場を去る。
嫌い、うざい、金魚のフンかよ。
少し距離を置いて椅子に座って周りを見渡す。楽しそうに微笑みながらゆったりとした時間を過ごす男女。自分が描いていた大人の世界は目の前に広がるが何処か遠くに光景は広がり、やはり自分が交じることができない。
あの時に見た泥臭い笑顔は何だったんだろう。欲の塊のような人々がダーツやビリヤードといった遊戯のためにあんな笑みを浮かべていたのか。
春を売るつもりか、亜喜の問も引っかかる。その言葉が繋がる場所は何処にもない。
それに”トキネ”という男も見当たらない。
自分が想像した煩悩の渦は何処にあるのか。渦の先の底はどの扉へ繋がっているのか。
未知の塊に溜息を吐いた。
「お疲れならどうぞ」
かけられた声に顔を上げれば若い青年が飲み物が入ったグラスを差し出す。赤ワインの色をした液体に咄嗟に首を左右に振った。
「お酒はちょっと……」
「ノンアルコールですよ。スッキリするのにぴったりなので是非飲んでください」
持たされたグラスから甘い香りが届く。アルコール臭がしないから彼のいうことは確かなんだろう。
はーっと息を吐き彼に小さく頭を下げてその液体を口にした。
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