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第四話「二人の冒険者」

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 魔法関係の店が立ち並ぶ通りで、小さな魔法の杖の店を見つけた。この店でフィリアの杖を選ぼう。店内に入ると店主が近づいてきた。白髪の店主は俺の鎧をまじまじと見つめると、嬉しそうに微笑んだ。

「お前さん達がゴブリンロードを討伐した冒険者かね? 今この町はお前さん達の話題で持ち切りだよ。駆け出しの冒険者がゴブリンの支配者を討伐したとね。私の店に来て貰えて嬉しいよ。杖を探しているのかい?」
「はい、この子のための杖を探しています」
「精霊のための杖か……」

 店主は店内を走り回り、次々と杖を持ってきた。フィリアは店主が勧める杖を持つが、どの杖も相性が合わないようだ。属性には相性がある。聖属性の魔法の使い手は、闇属性の武器は使えない。フィリアの強力な炎の魔法に耐えられる杖となると、探すのは難しいかもしれない。

「この杖はどうだろうか? ドラゴンの牙を削り出して作った杖だ。ドラゴンのブレスを浴び続けた牙なら、もしかするとお嬢さんの炎も制御出来るかもしれん」

 フィリアが店主から杖を受け取ると、杖からは暖かい風が吹いた。

「この杖が私に力を貸してくれるみたい」
「その杖は今までどんな魔術師が触れても反応する事は無かった。精霊の強力な破壊の力に触れて目覚めたのだろう。強い力を持つ者同士惹かれ合っているのだろうな……」
「ユリウス。この杖にするわ」

 杖の代金は400ゴールドだった。入手が困難なドラゴンの牙から作られた物だからか、他の杖と比較してもかなり値段が高い。しかし、長く使う物なので値段は気にせずに購入した。

 さて、冒険者ギルドでクエストを受けよう。フィリアは杖が気に入ったのか、買ったばかりの杖を何度もローブで拭いて磨いている。

「素敵な杖と出会えて良かったね。フィリア」
「そうね……この杖は私と相性が良いんだわ」
「まさかドラゴンと相性が良いなんて。いつかフィリアはドラゴンだって操れる様になるかもしれないね」
「そんな日が来たら面白いわね」

 他愛もない会話をしながら冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドに入ると、昨日食事をご馳走してくれたギルベルト・ブラーシュさんが俺達に手を振っていた。

「おはよう、ユリウス。支配者の装備か……よく似合っているぞ!」
「ありがとうございます! ブラーシュさん。クエストを受けに来たんですか?」
「ああ、そうだ。君達もかい?」
「はい。何か手頃なクエストがないか探しに来たんです」
「それなら……このクエストなんてどうだ?」

 ブラーシュさんは一枚の羊皮紙を持ってきてくれた。ギルド内にはクエストボードという掲示板があり、クエストの内容が書かれた羊皮紙が何枚も掲示されている。クエストを受注するには、羊皮紙を取り、ギルドカードをカウンターで提示すると良いみたいだ。

「魔法都市ハーフェンの西口から徒歩で二時間。墓地に巣食うスノウウルフの討伐。報酬は一体につき3ゴールド」
「あの……ブラーシュさん。俺達は報酬の相場が良く分からないのですが、一体3ゴールドというのは多い方なのでしょうか?」
「まぁ、駆け出しの冒険者が受けられるクエストにしては多い方かもしれないな。スノウウルフは氷属性の魔物で、平均レベルは8。力も弱ければ魔力も弱い。それから、俺の事はギルベルトと呼んでくれ」
「色々教えて下さってありがとうございます! ギルベルトさん」
「なぁに。ゴブリンロードを倒して貰ったお礼だよ」
「それでは、俺達はスノウウルフの討伐クエストを受ける事にしますね」
「ああ、気をつけるんだぞ」

 ギルベルトさんから羊皮紙を受け取ると、俺達は直ぐにカウンターに向かった。ギルドカードと羊皮紙を提出すると、内容を確認した職員はギルドカードに新たな項目を追加してくれた。

 どうやら魔物の討伐数が自動的に追加される仕組みになっているらしい。仕掛けは単純で、ギルドカードが討伐した魔物の魔力を感じ取り、討伐数がカウントされる仕組みになっているのだとか。

 目的地への地図を受け取ると、俺達は直ぐにギルドを出た。まずは出発の前に食料を購入しなければならない。往復で四時間、討伐に時間が掛かれば町に戻るのは夕方になるからな。

「フィリア。食料を市場で買ったらクエストに挑戦しようか」
「そうね。クエストか……私もついに冒険者になったのね」
「そうだよ。これから俺達二人で生きていくんだ」
「私は早く魔法を制御出来るようにならなければいけないわね」
「時間ならあるんだ。ゆっくり学べばいいさ」
「もし魔法が上手く使えなかったらどうしよう……?」
「大丈夫。既にファイアストームが使えるんだ。火属性魔法の中でも最も基本的なファイアの魔法なら、練習をしなくても制御出来ると思うよ」
「そうなら良いけれど……」

 フィリアは心配そうに杖を見つめている。今まで何度かファイアストームを使用した事があるらしいが、それ以外の魔法は使おうとしても成功しなかったらしい。小さな炎を作ろうとしても、巨大な炎の嵐に変化してしまい、一度の魔法で全ての魔力を使い果たしてしまうのだとか。

 魔力は使えば使うほど強くなる。しかし精霊という生き物は、人間と契約しなければ魔力は殆ど成長しないのだとか。今までどの契約者も、フィリアの魔法を制御させようとは思わなかったらしい。フィリアから破壊の加護を得た人間は、加護の力を使って次々と強力な魔法を習得し、用が済んだフィリアを魔石に封印する。彼女は今までそんな生活を繰り返していたのだとか。

 市場で食料を購入してから町を出た。これから二時間程移動し、目的の墓地に行かなければならない。広い場所を見つけたら魔法の練習をしよう。森の中でフィリアが魔法を使用すれば、たちまち森を燃やし尽くしてしまうだろう。俺自身もゴブリンロードの魔法であるウィンドクロスを練習しなければならない。

 朝日が差し込む涼しい森の中をゆっくりと歩く。歩きながら魔法の練習をしようか。まずは風属性の魔法の中でも最も基本的な魔法、ウィンドの魔法から始めよう。小さな風を作り出すだけの魔法だが、威力が高くなれば対象の動きを封じる事も出来る魔法だ。

 破壊の加護により、既にウィンドクロスの魔法を習得し、風属性の才能が開花しているからだろうか、ウィンドの魔法を習得するのに時間は掛からなかった。風を作り出すイメージで右手に魔力を込めると、心地良い風が発生した。その状態で適当な木に向けて風を押しやると、風の魔力を飛ばす事が出来る。

 風の魔力は木に激突すると、辺りに魔力を散らして消滅した。威力は低く、使い道は無いが、こういう基本的な魔法を持続的に練習する事により、強力な上位魔法への道が開かれる。

「もう新しい魔法を覚えてしまったのね」
「ああ。多分フィリアの加護のお陰だよ。こんなに簡単に新しい魔法を覚えられるなんて……」
「普通は新しい魔法を覚えるのにどれくらい時間が掛かるの?」
「俺がホーリーの魔法を練習した時は五ヶ月くらい掛かったよ。聖属性の魔法は他の属性よりも習得が難しいみたいだけど」
「そうね。どの属性よりも習得に時間が掛かる。その代わり対象を回復させる事が出来る唯一の属性」
「破壊魔法の種類が少ないから、魔物との戦闘は苦手だったけど、ホーリーの魔法が使えるから、スケルトンみたいな弱い魔物には負ける事はなかったよ。それだけが俺の取り柄かな」

 魔法は幼い頃から使用していたが、回復魔法のヒール、異常状態を改善するキュア、闇属性の魔物を消滅させるホーリーの魔法以外は成功した事が無い。これから風属性の攻撃魔法を習得すれば、より効率良く魔物を狩れるだろう。

「もう歩き初めて一時間くらい経ったかな? 少し休憩しようか」
「私はまだ疲れていないわ」
「まぁまぁ。そう急ぐ事はないよ」
「そうね……ユリウス。堅焼きパンを出して頂戴。それから乾燥肉もお願い」

 冒険者向けの日持ちする堅焼きパンと、小さく裂いた乾燥肉をフィリアに渡した。今までは一人で食事をしていたが、やはり誰かと共に食事が出来る事は幸せだ。田舎の村を出て十日間、俺は一人でハーフェンの町を目指して旅をしてきたからな……。

 道中でスケルトンやゴブリンに襲われ、何度も旅の中断を考えたが、どうにかハーフェンに辿り着く事が出来た。魔法都市ハーフェンは魔法関連の教育機関が多く集まる都市で、大陸で最も冒険者の数が多い町として有名だ。

「ユリウスはどうして冒険者になろうと思ったの?」
「そうだね……元々魔法の練習が好きだったから、魔法を使って自活出来る方法を模索していたんだ。十五歳で成人を迎えたら、家から出て一人で暮らそうと思ってね。そんな時、村に一人の冒険者が訪れてきたんだ。大剣使いの彼は、村の近くに湧いた強力な魔物を、いとも簡単に倒して見せたんだ」
「それで剣士になろうと思ったの?」
「ああ。それから剣の練習を始めたんだよ。ゴブリン程度なら倒せるようになったけど、まだまだ練習が必要みたいだ」
「魔法と剣の力で生計を建てる。冒険者か……それがユリウスの夢なんだね」
「そうだよ。魔物を狩り、地域を守る冒険者として生きる」
「私は外で暮らせる時間が少なかったから、夢なんて持った事がなかった。だけどこれからは夢を探すのも悪くないかも……」

 彼女はこれから冒険者として生きながら、自分自身の夢を探せば良い。俺は決してフィリアを封印するつもりはない。時間ならあるんだ。二人でゆっくり生きれば良い。

「フィリア。魔石から勝手に君の事を召喚してしまったけど、大丈夫だったかな? 何か生活で不満とかがあるなら言って欲しいんだ。俺は君の契約者だからね」
「うんん。今の生活は満足よ。こんな生活が永遠に続くなら、私は幸せに生きられると思うの。これからも宜しくね、ユリウス」
「ああ、こちらこそよろしく」

 フィリアは手を差し出すと、俺はフィリアの小さな手を握った。心地の良い魔力が流れてくる。食事も終えた事だし、そろそろ移動を再開するか……。

 それから俺達は一時間ほど森を進むと、ついに目的の墓地に辿り着いた。墓地の周辺にはスライムが生息しており、辺りを警戒するように液体状の体を引きずって移動している。フィリアのファイアストームで墓地を燃やし尽くす事も出来るが、それでは付近の森も燃やしてしまうだろう。環境を破壊せずに、人間を襲う悪質な魔物だけを狩らなければならない。

「私、ファイアの魔法を試してみるね」
「ああ。きっとドラゴンの杖があれば使える筈だよ。杖に少量の魔力を込めて放出してみるんだ」

 フィリアは自分自身の魔力をどうにか抑えて、杖の先端に小さな炎を作り出す事に成功した。杖に灯した炎をスライムに向けて飛ばすと、スライムは一瞬で火だるまになった。威力は申し分ないが、まだ魔力を制御する事に慣れていないのか、小さな炎を作り出すだけでも大量の魔力を消費しているみたいだ。

「まずは墓地の周辺に巣食うスライムを狩ろうか。全て倒したら墓地に入ってスノウウルフを探そう」

 それから俺達は墓地の周辺に巣食うスライムを倒し続けた……。
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