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第一章「迷宮都市フェーベル編」
第十六話「氷の精霊」
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〈エミリア視点〉
氷山で精霊として生を受けた私は、生まれつき高い魔法能力を持っていた。天界で暮らす創造神・イリス様から魔法の力を授かり、人間を守るために地上に誕生をした私は、すぐに契約者を探す旅に出た。
様々な村や町を訪れ、契約者になる器を持つ人間を探し始めた。どんな人間も私が精霊だと知れば加護を授かろうと近付いてきた。私は加護を授ける価値のある人間を見極めるために、時間を掛けて人間の事を知ろうとした。
人間達は一日でも早く精霊の加護を授かり、微精霊の加護を授かる者を上回る力を得ようと私を焦らせた。毎日私を訪ねてきては、自分がいかに強いか、自分と共に居ればいかに裕福な生活を送れるかを力説した。
どんな人間も欲のために私に近付きていた。そのうち人間同士が私を巡って争い始め、遂に殺人まで起こった。私のために人間が命を落としたのだ。私の容姿だけを見て近付いてくる男も多い。欲を剥き出しにした人間に追われながら暮らす生活に疲れ果てた時、精霊狩りの集団が私を襲った……。
命からがら精霊狩りを振り切って森に逃げ込んだが、私は追手から逃げる途中に一人の精霊狩りを氷漬けにしてしまった。それから私はシュルツ村から程近い迷いの森で暮らし始めた。
もう人間には近づいてはいけない。私が居れば争いが起こると思っていた。森で暮らし始めても平和な生活は送れなかった。森には精霊と敵対する魔物が生息しているからだ。それでも私は人間に追われるよりも、魔物に狙われて暮らす事を選択した。
人間を守るために生まれた私が、人間と争う事自体間違っているのだ。いっそ誰かに加護を授けてしまおうとも思った。だけど、どんな人間も私の加護を有効に使えると言いながら、他人を守るために働く様な人間ではなかった。
森での孤独な生活が続いた時、私は一人の少年を見つけた。彼は微精霊の加護を持たない無属性の人間だった。剣と盾を持ち、父親と共に森で訓練を積み、魔物討伐を始めたのだ。最初は頼りなかった彼の剣技も、次第に威力を増し、肉体の成長と共に筋力も増え、一対一ならゴブリンやスライムを狩れるまでに成長した。
他の人間が当たり前に持っている微精霊の加護すら持たないのに、誰よりも長く森で魔物と戦い、訓練を積んでいた。私はそんな彼のひたむきな性格に心を打たれた。彼の成長を見守りたかった。精霊として彼を守りたかった。
彼がゴブリンやスライムに囲まれない様に、予め魔物を倒しておく事もあった。絶対に死なせたくなかったのだ。毎日森に入っては微精霊を探して回り、微精霊を見つけると、自分なら加護の力によって他人を守る事が出来ると力説した。
彼は加護を得たら他人を守るために力を使うと言ったのだ。まさに私が求めていた素質を持つ善良な人間。私は彼の様な人間なら、強力な力を得ても慢心しないだろうと確信した。
だけど私は踏み出せなかった。彼に加護を授ければ、彼は精霊狩りから私を守りながら暮らす事になる。シュルツ村で平和な暮らしを送る彼の人生を終わらせる事になってしまうのではないかと思った。だけど私は大陸自体が持つ魔力から生まれた精霊。私もまた人間なしでは生きられない存在なのだ。
自分自身を守るために魔力を使い続け、私の魔力は既に枯渇状態に近く、あと一度でも魔法を使えば、私の存在が消滅する様な、生命の終わりが近い事を悟った。既に自分を守る手段さえ失ったのだ。
たった一度、魔法を使えば私は全ての魔力を失い、命を落とすという極限の状態の中で、私は彼を見守り続けた。肩まで伸びた黒髪に、明るい茶色の瞳。身長は私よりも高く、まだ若いにもかかわらず、筋肉はしっかりと付いており、足場の悪い森を走り回っても息切れ一つしない屈強な村人。精霊の加護さえあれば彼はすぐに優れた冒険者になると思っていた。
名も知らない村人に恋心を抱き始めた私の甘い生活が遂に終わりを迎える時が来た。彼がいつもの様に森に入り、微精霊を探し始めた時、幻獣のグレートゴブリンが姿を現したのだ。何度か森で見かけた事はあったけど、まさか微精霊の加護すら持たない人間が遭遇してしまうとは思わなかった。
私は自分の命を捨ててでも彼を守ろうと思った。全身から魔力を掻き集め、最後の魔法を放った。命懸けの一撃でグレートゴブリンに怪我を負わせる事は出来ても、グレートゴブリンを仕留める事は出来なかった。
グレートゴブリンが私の攻撃を受けて咆哮を上げ、私を見下ろしながら武器を構えた瞬間、私は生命の終わりを感じた。これで良かったんだ。私は精霊狩りを殺した。人間を守るために生まれた精霊の私が、人間を殺してしまったのだ。
私は自分の死を悟りながらも、初めて彼の近くに立ち、彼の顔を見られた事に喜びを感じながら、静かに目を瞑った。私がこの体に攻撃を受けて彼を守れば一瞬の隙きが出来る、私は彼のために命を差し出す覚悟を決めてグレートゴブリンを見つめた瞬間、彼が私の体を突き飛ばした。
グレートゴブリンが剣を振り下ろし、彼の肩を深々と切り裂いた。彼は見ず知らずの私を守ってくれたのだ。やはり私が信じた人間は正しい心を持っていた。私は人生で感じた事もない喜びと充実感を味わった。
同時に魔力を使い果たした恐怖が襲ってきた。間もなく私の命が尽きる。その前に私は彼に加護を授ける事に決めた。彼なら私の加護を正しく使い、迫害されている精霊や、魔物の襲撃に苦しむ人達を救えると確信したからだ。
「氷の精霊・エミリアの名によって、あなたに氷の加護を授けます」
初めて加護を授け、初めて人間に恋をした私は、彼の傍で死ねる事に喜びを感じながらも、精霊として役目を果たせなかった事を後悔しながら、徐々に意識が遠のいた……。
氷山で命を授かった時の様な無上な喜びと、体内に流れる魔力を感じて目を覚ました。彼が私の体に触れて魔力を与えてくれたのだ。死の淵から生還した私の体は生まれたての精霊の様に充実しており、彼と共に生きられる事に涙を流した。
若き村人は私を守りながらゴブリンと戦ったのか、彼の回りにはゴブリンの死骸が散乱していた。私が彼を守りながら自分の命を捨てると誓った様に、彼もまた私を守るために全ての力を出し切り、意識を失いながらも私の肉体を守り続けてくれた。
長年の彼への想いが遂に叶ったと思った。私は彼を遺跡に運び、彼が目を醒ますまでゆっくりと彼の頭を撫で、彼の魔力を感じてた……。
レオンさんとの幸せな生活が続き、私は精霊として人間と共に生きる喜びを覚えた。そんなある日、殺意を隠すつもりもない圧倒的な魔族の力が流れてきた。深夜まで剣と魔法の鍛錬を積んでいたレオンさんは魔族の力を感じても目を覚まさなかった。私を守る男になるためにと、死ぬ気で努力をしているのだ。
私はレオンさんから頂いた杖を持ち、最後に彼の頬に口づけをしてから、遺跡を出て魔族との戦いに挑んだ。魔族は私の攻撃魔法を軽々と避けたが、魔法能力なら私の方が遥かに高い。魔族は人間として生まれた者が精霊石を体内の取り込み、精霊の力を得た種族。
生まれつき精霊として生きている私の方が、魔法を自在に扱えるのだ。三人の精霊狩りと魔族に囲まれた私は、魔族との戦いに集中するあまり、背後から繰り出される魔法を受けきれずに直撃した。
私の意識は徐々に遠のき、私は魔族に担がれて遺跡を出た。このまま何処かに拉致されて、体を切り裂いてい精霊石を取り出すつもりなのだろう。それともレオンさんを先に殺すつもりなのだろうか。
私は自分自身を守るために、氷を作り出して体を包み込んだ。精霊魔法を極めた者以外は私の氷を破壊する事は出来ないだろう。自分自身を氷漬けにし、いつの日かレオンさんが私の氷を溶かすまで待ち続ける。彼なら絶対に私を救ってくれると確信している。
体内のほぼ全ての魔力を氷に変えて、最高の防御魔法で自分の体を包み込んだ私は、氷の中でレオンさんを想いながら長い眠りに就いた……。
氷山で精霊として生を受けた私は、生まれつき高い魔法能力を持っていた。天界で暮らす創造神・イリス様から魔法の力を授かり、人間を守るために地上に誕生をした私は、すぐに契約者を探す旅に出た。
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人間達は一日でも早く精霊の加護を授かり、微精霊の加護を授かる者を上回る力を得ようと私を焦らせた。毎日私を訪ねてきては、自分がいかに強いか、自分と共に居ればいかに裕福な生活を送れるかを力説した。
どんな人間も欲のために私に近付きていた。そのうち人間同士が私を巡って争い始め、遂に殺人まで起こった。私のために人間が命を落としたのだ。私の容姿だけを見て近付いてくる男も多い。欲を剥き出しにした人間に追われながら暮らす生活に疲れ果てた時、精霊狩りの集団が私を襲った……。
命からがら精霊狩りを振り切って森に逃げ込んだが、私は追手から逃げる途中に一人の精霊狩りを氷漬けにしてしまった。それから私はシュルツ村から程近い迷いの森で暮らし始めた。
もう人間には近づいてはいけない。私が居れば争いが起こると思っていた。森で暮らし始めても平和な生活は送れなかった。森には精霊と敵対する魔物が生息しているからだ。それでも私は人間に追われるよりも、魔物に狙われて暮らす事を選択した。
人間を守るために生まれた私が、人間と争う事自体間違っているのだ。いっそ誰かに加護を授けてしまおうとも思った。だけど、どんな人間も私の加護を有効に使えると言いながら、他人を守るために働く様な人間ではなかった。
森での孤独な生活が続いた時、私は一人の少年を見つけた。彼は微精霊の加護を持たない無属性の人間だった。剣と盾を持ち、父親と共に森で訓練を積み、魔物討伐を始めたのだ。最初は頼りなかった彼の剣技も、次第に威力を増し、肉体の成長と共に筋力も増え、一対一ならゴブリンやスライムを狩れるまでに成長した。
他の人間が当たり前に持っている微精霊の加護すら持たないのに、誰よりも長く森で魔物と戦い、訓練を積んでいた。私はそんな彼のひたむきな性格に心を打たれた。彼の成長を見守りたかった。精霊として彼を守りたかった。
彼がゴブリンやスライムに囲まれない様に、予め魔物を倒しておく事もあった。絶対に死なせたくなかったのだ。毎日森に入っては微精霊を探して回り、微精霊を見つけると、自分なら加護の力によって他人を守る事が出来ると力説した。
彼は加護を得たら他人を守るために力を使うと言ったのだ。まさに私が求めていた素質を持つ善良な人間。私は彼の様な人間なら、強力な力を得ても慢心しないだろうと確信した。
だけど私は踏み出せなかった。彼に加護を授ければ、彼は精霊狩りから私を守りながら暮らす事になる。シュルツ村で平和な暮らしを送る彼の人生を終わらせる事になってしまうのではないかと思った。だけど私は大陸自体が持つ魔力から生まれた精霊。私もまた人間なしでは生きられない存在なのだ。
自分自身を守るために魔力を使い続け、私の魔力は既に枯渇状態に近く、あと一度でも魔法を使えば、私の存在が消滅する様な、生命の終わりが近い事を悟った。既に自分を守る手段さえ失ったのだ。
たった一度、魔法を使えば私は全ての魔力を失い、命を落とすという極限の状態の中で、私は彼を見守り続けた。肩まで伸びた黒髪に、明るい茶色の瞳。身長は私よりも高く、まだ若いにもかかわらず、筋肉はしっかりと付いており、足場の悪い森を走り回っても息切れ一つしない屈強な村人。精霊の加護さえあれば彼はすぐに優れた冒険者になると思っていた。
名も知らない村人に恋心を抱き始めた私の甘い生活が遂に終わりを迎える時が来た。彼がいつもの様に森に入り、微精霊を探し始めた時、幻獣のグレートゴブリンが姿を現したのだ。何度か森で見かけた事はあったけど、まさか微精霊の加護すら持たない人間が遭遇してしまうとは思わなかった。
私は自分の命を捨ててでも彼を守ろうと思った。全身から魔力を掻き集め、最後の魔法を放った。命懸けの一撃でグレートゴブリンに怪我を負わせる事は出来ても、グレートゴブリンを仕留める事は出来なかった。
グレートゴブリンが私の攻撃を受けて咆哮を上げ、私を見下ろしながら武器を構えた瞬間、私は生命の終わりを感じた。これで良かったんだ。私は精霊狩りを殺した。人間を守るために生まれた精霊の私が、人間を殺してしまったのだ。
私は自分の死を悟りながらも、初めて彼の近くに立ち、彼の顔を見られた事に喜びを感じながら、静かに目を瞑った。私がこの体に攻撃を受けて彼を守れば一瞬の隙きが出来る、私は彼のために命を差し出す覚悟を決めてグレートゴブリンを見つめた瞬間、彼が私の体を突き飛ばした。
グレートゴブリンが剣を振り下ろし、彼の肩を深々と切り裂いた。彼は見ず知らずの私を守ってくれたのだ。やはり私が信じた人間は正しい心を持っていた。私は人生で感じた事もない喜びと充実感を味わった。
同時に魔力を使い果たした恐怖が襲ってきた。間もなく私の命が尽きる。その前に私は彼に加護を授ける事に決めた。彼なら私の加護を正しく使い、迫害されている精霊や、魔物の襲撃に苦しむ人達を救えると確信したからだ。
「氷の精霊・エミリアの名によって、あなたに氷の加護を授けます」
初めて加護を授け、初めて人間に恋をした私は、彼の傍で死ねる事に喜びを感じながらも、精霊として役目を果たせなかった事を後悔しながら、徐々に意識が遠のいた……。
氷山で命を授かった時の様な無上な喜びと、体内に流れる魔力を感じて目を覚ました。彼が私の体に触れて魔力を与えてくれたのだ。死の淵から生還した私の体は生まれたての精霊の様に充実しており、彼と共に生きられる事に涙を流した。
若き村人は私を守りながらゴブリンと戦ったのか、彼の回りにはゴブリンの死骸が散乱していた。私が彼を守りながら自分の命を捨てると誓った様に、彼もまた私を守るために全ての力を出し切り、意識を失いながらも私の肉体を守り続けてくれた。
長年の彼への想いが遂に叶ったと思った。私は彼を遺跡に運び、彼が目を醒ますまでゆっくりと彼の頭を撫で、彼の魔力を感じてた……。
レオンさんとの幸せな生活が続き、私は精霊として人間と共に生きる喜びを覚えた。そんなある日、殺意を隠すつもりもない圧倒的な魔族の力が流れてきた。深夜まで剣と魔法の鍛錬を積んでいたレオンさんは魔族の力を感じても目を覚まさなかった。私を守る男になるためにと、死ぬ気で努力をしているのだ。
私はレオンさんから頂いた杖を持ち、最後に彼の頬に口づけをしてから、遺跡を出て魔族との戦いに挑んだ。魔族は私の攻撃魔法を軽々と避けたが、魔法能力なら私の方が遥かに高い。魔族は人間として生まれた者が精霊石を体内の取り込み、精霊の力を得た種族。
生まれつき精霊として生きている私の方が、魔法を自在に扱えるのだ。三人の精霊狩りと魔族に囲まれた私は、魔族との戦いに集中するあまり、背後から繰り出される魔法を受けきれずに直撃した。
私の意識は徐々に遠のき、私は魔族に担がれて遺跡を出た。このまま何処かに拉致されて、体を切り裂いてい精霊石を取り出すつもりなのだろう。それともレオンさんを先に殺すつもりなのだろうか。
私は自分自身を守るために、氷を作り出して体を包み込んだ。精霊魔法を極めた者以外は私の氷を破壊する事は出来ないだろう。自分自身を氷漬けにし、いつの日かレオンさんが私の氷を溶かすまで待ち続ける。彼なら絶対に私を救ってくれると確信している。
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