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第一章「迷宮都市フェーベル編」
第二話「精霊の加護」
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シュルツ村の南口を出て迷いの森に向かって歩く。深い森を一時間程進むと強い魔力を秘める木々が見えてきた。人間を拒絶する様な禍々しい魔力が漂う森に恐怖を覚えながらも、弱い自分を変えるために、勇気を振り絞って迷いの森に入った。
右手に鋼鉄製のショートソードを持ち、左手に木製のラウンドシールドを持つ。これが俺の戦闘時の装備だ。魔術師なら杖一本で魔物を狩れるが、俺は武装しなければ魔物と対等に戦う事さえ出来ない。
グリムはたった一発の魔法でゴブリンを燃やす事が出来るが、俺は敵に奇襲を仕掛け、何度も剣で切りつけなければ仕留められない。グリムと俺には圧倒的な力の差があるが、俺は魔法が使えない分だけ体力作りに励んできた。
迷いの森を暫く進むと、突然背後から強烈な魔力を感じた。急いで後ろを振り返ってみると、通常のゴブリンよりも遥かに体格の良い、黒い鎧を纏った巨体のゴブリンが居た。幻獣クラスの魔物であるグレートゴブリンだ。
幻獣クラスの魔物は熟練の魔術師が集団で奇襲を掛けなければ討伐は不可能と言われており、魔獣クラスの魔物を凌駕する魔力と知能を持つ。幻獣は一体で村や町を壊滅させる力を持つと言われており、討伐すれば一気に名を上げる事が出来るが、幻獣に立ち向かって生き延びられた者は少ない。
体長は二メートルを超えており、全身の筋肉が異常なまでに発達している。通常のゴブリンは体長百三十センチから百五十センチ程だが、グレートゴブリンは体長二メートルを超える個体が多く、筋肉が通常のゴブリンとは比較にならない程肥大しているので、一目でグレートゴブリンだと判別出来る。
突如出現した敵は黒い金属から出来た鎧を纏い、手には両刃の剣を持っている。グレートゴブリンは年に数回シュルツ村を襲撃して人間を殺める幻獣で、何度も村の魔術師達が討伐に挑戦したが、討伐には一度も成功していない。
襲撃の度に大勢の村人が命を落とし、何とか村を守り抜いてきた。グレートゴブリンはまるで殺戮を楽しむかの様に、数十人の村人を殺め、人間が作り上げたきた建物を軽々となぎ倒し、徹底的に村人を痛めつけてから迷いの森に戻る。
まさかグレートゴブリンと遭遇する事になるとは思わなかった。体は勝手に震え出し、瞳には自然と涙が浮かんだ。俺は今日死ぬのだろう。最後まで加護を授かれなかった。俺は弱い男だ。結局グリムに負けたまま俺は死ぬんだ……。
最低の人生だった。負けるために生まれてきた様なものだ。どうして俺だけ加護がないんだ。どうして精霊は俺に力を貸してくれないんだ……!
「死にたくない……! 森に住む精霊よ、一度で良いから俺に力を貸してくれ!」
俺が叫んだ瞬間、グレートゴブリンは血走った目で俺を睨みつけ、静かに両刃の剣を振り上げた。恐怖のあまり逃げ出す事も出来ない。森を走って逃げたところで、グレートゴブリンから逃げ続ける事は不可能。
終わった。最低な十四年間だった。誰よりも弱く、魔法すら使えず、両親の期待に応える事も出来なかった。
「せめて加護さえあれば……」
俺が呟いた瞬間、周囲に爆発的な風が吹いた。まるで真冬の様な冷たい風が一瞬で木々を凍らせ、涼しい春の森の気温を一気に下げた。
吹雪の様な圧倒的な魔力が徐々に近付いてくると、一人の少女が俺の前に立った。腰まで伸びた長い銀髪にエメラルド色の瞳。肌は雪の様に白く、グレートゴブリンを遥かに上回る強い魔力を体内に秘めている。まさか、この子が氷の精霊なのか……?
グレートゴブリンが少女の登場に狼狽した瞬間、少女はグレートゴブリンに右手を向けて冷気を発生させた。
「アイスショット!」
氷属性の基本的な攻撃魔法、アイスショット。氷の塊を飛ばすだけの単純な魔法だが、やはり彼女は人間ではないのだろう、直径三十センチ程の鋭利な氷の塊が現れると、グレートゴブリンに向かって高速で飛んだ。
少女の魔法がグレートゴブリンの鎧を軽々と突き破り、肩を貫くと、グレートゴブリンは爆発的な咆哮を上げ、怒り狂って剣を振り下ろした。
「危ない!」
俺は少女を守るために、咄嗟に彼女の小さな体を吹き飛ばし、グレートゴブリンの一撃を剣で受けた。父の剣を何倍にも強くした様な圧倒的な力に俺は耐えられなくなり、グレートゴブリンの剣が俺の右肩を切り裂いた。肩に耐え難い痛みを感じながらも、俺は少女を助けると決意した。
どうせ死ぬなら精霊を守って死のう。どんな微精霊も自ら俺に近付いてくる者は居なかった。それでも氷の精霊は俺を守るためにグレートゴブリンに攻撃を仕掛けてくれた。どうせ尽きるこの命、氷の精霊を守るために使おう。
地面に倒れた少女がゆっくりと立ち上がると、俺の体に手を触れた。
「氷の精霊・エミリアの名によって、あなたに氷の加護を授けます」
精霊が呟いた瞬間、俺の体内に爆発的な魔力が流れ込み、両手から冷気が発生して剣を包み込んだ。俺が最も必要としていた魔法の力が剣に宿っているのだろう。
強烈な冷気を纏う剣を力づくで振り上げると、グレートゴブリンは俺の剣の力に圧倒されて後退した。これは氷属性のエンチャントなのだろう。剣が爆発的な冷気に包まれており、攻撃力が驚異的なまでに上昇している。
まさか、一介の村人である俺がグレートゴブリンを圧倒出来るとは。これが精霊の加護の力なんだ。氷の精霊・エミリア。彼女は俺を信じて加護を授けてくれた。
美しい氷姫は魔力が枯渇したのか、力なく倒れると、俺はグレートゴブリンに向かって走り出した。人生で感じた事も無い程の魔力が体内に溢れており、初めて魔法を使用しているからか、気分は最高に高揚している。
これが魔法なんだ。俺は遂に加護を授かったのだ! それも、幻獣を圧倒する程の力を持つ氷の精霊から加護を受けたのだ。微精霊を遥かに上回る精霊から加護を授かったのだ。
グレートゴブリンは肩から血を流しながらも、鋭い突きを放ってくると、俺は瞬時に敵の剣を受け流し、一気に懐に飛び込んだ。十四年間の人生で温存してきた全ての魔力を剣に注ぎ、最高の一撃で最強のゴブリンを仕留める!
盾を投げ捨て、両手でショートソードを握り、体内から掻き集めた魔力を剣に注いで冷気を発生させる。借りるぞ……、氷の精霊・エミリアの力……!
グレートゴブリンの腹部に全力で水平切りを放つ。強烈な一撃がグレートゴブリンの鎧を砕き、腹を深々と切り裂くと、傷口が一瞬で凍りつき、グレートゴブリンの体が徐々に氷り始めた。
これが精霊の加護を授かった俺の力なのか? 傷口から徐々にグレートゴブリンの体が氷り始め、全身が氷に覆われると、俺は勝利を確信した。俺は精霊と協力して幻獣を仕留めたのだ!
グレートゴブリンの体に垂直斬りを放つと、凍りついた体が粉々に砕け、直径二十センチ程の巨大な魔石が地面に落ちた。幻獣クラスの魔石は魔獣クラスの魔石よりも遥かに大きく、強い魔力を秘めている。
グレートゴブリンは地属性の魔物。地の微精霊が持つ魔力を何倍にも強くした力が魔石の中に漂っている。魔石は魔物が体内に作り上げた魔力の結晶。金属と共に梳かして武器を作る事も出来れば、魔導書に作り変えて魔物が使用する魔法を習得する事も出来る。
見た事も無い程の巨大な魔石を鞄に仕舞い、少女に駆け寄ると、俺は不意に肩の痛みを思い出し、力なく地面に倒れた。戦闘中は気が付かなかったが、俺はグレートゴブリンの一撃を肩に受けている。
急いでヒールポーションを飲んで傷を癒やすと、騒音を聞きつけたゴブリンの群れが現れた。最悪な状況でゴブリンの群れに囲まれてしまった。敵の数は四体。あまりにも多すぎる。
少女は未だに意識が戻らず、まるで眠る様に倒れている。精霊が魔力を全て失えば命が尽きる。すぐに魔力を注いで体内を魔力で満たさなければ、たちまち命を落とすだろう。ゴブリン相手に手間取っている場合ではない。
俺は少女を守る様にゴブリンの前に立つと、剣と盾を構えて敵の出方を伺った……。
右手に鋼鉄製のショートソードを持ち、左手に木製のラウンドシールドを持つ。これが俺の戦闘時の装備だ。魔術師なら杖一本で魔物を狩れるが、俺は武装しなければ魔物と対等に戦う事さえ出来ない。
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幻獣クラスの魔物は熟練の魔術師が集団で奇襲を掛けなければ討伐は不可能と言われており、魔獣クラスの魔物を凌駕する魔力と知能を持つ。幻獣は一体で村や町を壊滅させる力を持つと言われており、討伐すれば一気に名を上げる事が出来るが、幻獣に立ち向かって生き延びられた者は少ない。
体長は二メートルを超えており、全身の筋肉が異常なまでに発達している。通常のゴブリンは体長百三十センチから百五十センチ程だが、グレートゴブリンは体長二メートルを超える個体が多く、筋肉が通常のゴブリンとは比較にならない程肥大しているので、一目でグレートゴブリンだと判別出来る。
突如出現した敵は黒い金属から出来た鎧を纏い、手には両刃の剣を持っている。グレートゴブリンは年に数回シュルツ村を襲撃して人間を殺める幻獣で、何度も村の魔術師達が討伐に挑戦したが、討伐には一度も成功していない。
襲撃の度に大勢の村人が命を落とし、何とか村を守り抜いてきた。グレートゴブリンはまるで殺戮を楽しむかの様に、数十人の村人を殺め、人間が作り上げたきた建物を軽々となぎ倒し、徹底的に村人を痛めつけてから迷いの森に戻る。
まさかグレートゴブリンと遭遇する事になるとは思わなかった。体は勝手に震え出し、瞳には自然と涙が浮かんだ。俺は今日死ぬのだろう。最後まで加護を授かれなかった。俺は弱い男だ。結局グリムに負けたまま俺は死ぬんだ……。
最低の人生だった。負けるために生まれてきた様なものだ。どうして俺だけ加護がないんだ。どうして精霊は俺に力を貸してくれないんだ……!
「死にたくない……! 森に住む精霊よ、一度で良いから俺に力を貸してくれ!」
俺が叫んだ瞬間、グレートゴブリンは血走った目で俺を睨みつけ、静かに両刃の剣を振り上げた。恐怖のあまり逃げ出す事も出来ない。森を走って逃げたところで、グレートゴブリンから逃げ続ける事は不可能。
終わった。最低な十四年間だった。誰よりも弱く、魔法すら使えず、両親の期待に応える事も出来なかった。
「せめて加護さえあれば……」
俺が呟いた瞬間、周囲に爆発的な風が吹いた。まるで真冬の様な冷たい風が一瞬で木々を凍らせ、涼しい春の森の気温を一気に下げた。
吹雪の様な圧倒的な魔力が徐々に近付いてくると、一人の少女が俺の前に立った。腰まで伸びた長い銀髪にエメラルド色の瞳。肌は雪の様に白く、グレートゴブリンを遥かに上回る強い魔力を体内に秘めている。まさか、この子が氷の精霊なのか……?
グレートゴブリンが少女の登場に狼狽した瞬間、少女はグレートゴブリンに右手を向けて冷気を発生させた。
「アイスショット!」
氷属性の基本的な攻撃魔法、アイスショット。氷の塊を飛ばすだけの単純な魔法だが、やはり彼女は人間ではないのだろう、直径三十センチ程の鋭利な氷の塊が現れると、グレートゴブリンに向かって高速で飛んだ。
少女の魔法がグレートゴブリンの鎧を軽々と突き破り、肩を貫くと、グレートゴブリンは爆発的な咆哮を上げ、怒り狂って剣を振り下ろした。
「危ない!」
俺は少女を守るために、咄嗟に彼女の小さな体を吹き飛ばし、グレートゴブリンの一撃を剣で受けた。父の剣を何倍にも強くした様な圧倒的な力に俺は耐えられなくなり、グレートゴブリンの剣が俺の右肩を切り裂いた。肩に耐え難い痛みを感じながらも、俺は少女を助けると決意した。
どうせ死ぬなら精霊を守って死のう。どんな微精霊も自ら俺に近付いてくる者は居なかった。それでも氷の精霊は俺を守るためにグレートゴブリンに攻撃を仕掛けてくれた。どうせ尽きるこの命、氷の精霊を守るために使おう。
地面に倒れた少女がゆっくりと立ち上がると、俺の体に手を触れた。
「氷の精霊・エミリアの名によって、あなたに氷の加護を授けます」
精霊が呟いた瞬間、俺の体内に爆発的な魔力が流れ込み、両手から冷気が発生して剣を包み込んだ。俺が最も必要としていた魔法の力が剣に宿っているのだろう。
強烈な冷気を纏う剣を力づくで振り上げると、グレートゴブリンは俺の剣の力に圧倒されて後退した。これは氷属性のエンチャントなのだろう。剣が爆発的な冷気に包まれており、攻撃力が驚異的なまでに上昇している。
まさか、一介の村人である俺がグレートゴブリンを圧倒出来るとは。これが精霊の加護の力なんだ。氷の精霊・エミリア。彼女は俺を信じて加護を授けてくれた。
美しい氷姫は魔力が枯渇したのか、力なく倒れると、俺はグレートゴブリンに向かって走り出した。人生で感じた事も無い程の魔力が体内に溢れており、初めて魔法を使用しているからか、気分は最高に高揚している。
これが魔法なんだ。俺は遂に加護を授かったのだ! それも、幻獣を圧倒する程の力を持つ氷の精霊から加護を受けたのだ。微精霊を遥かに上回る精霊から加護を授かったのだ。
グレートゴブリンは肩から血を流しながらも、鋭い突きを放ってくると、俺は瞬時に敵の剣を受け流し、一気に懐に飛び込んだ。十四年間の人生で温存してきた全ての魔力を剣に注ぎ、最高の一撃で最強のゴブリンを仕留める!
盾を投げ捨て、両手でショートソードを握り、体内から掻き集めた魔力を剣に注いで冷気を発生させる。借りるぞ……、氷の精霊・エミリアの力……!
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