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第二章「魔法都市編」
第四十五話「騎士の決意」
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部屋を出ると、通路には白い体毛に包まれた巨体の狼が居た。これがスノウウルフだろうか。体長は百三十センチ程。ナイトは敵の姿に動揺してすぐに俺の背後に身を隠した。俺は右手に鉄の玉を持ち、左手にガーゴイルの羽衣を持った。敵がどんな戦い方をするかも分からないので、強力なマジックアイテムを左右の手に持った状態で敵の初撃に備える事にした。
スノウウルフは俺達の様子を伺いながら、鋭い牙を向いて距離を詰めてきた。爪には強烈な冷気が纏っており、目は赤く不気味に輝いている。体の大きさも驚異的だが、爪から感じる魔力の強さは、遥かに俺自身の魔力を上回っている。
バシリウス様は本当に俺達がスノウウルフが巣食うダンジョンで二週間も滞在出来ると思っているのだろうか。ナイトは震えながら魔石を握り締め、俺の背後からスノウウルフを見つめている。普段からアポロニウスや、強い力を持つ仲間に守られているからだろう。敵を前にしても武器を抜かず、ただ俺の背後で隠れている。
バシリウス様の攻撃を受けられるほど物理防御力が高いにも拘らず、ナイトはスノウウルフを警戒している。防御力なら俺よりも遥かにナイトの方が高いのだが……。
スノウウルフは俺達を睨みつけ、口から冷気をこぼしながら近づいて来る。新たに出会うモンスターとの戦闘は緊張するが、自分なら勝てると信じて戦いに臨むしかない。
瞬間、スノウウルフが大きく跳躍した。俺は敵の動きに合わせて鉄の玉を投げ、左手に持ったガーゴイルの羽衣を纏った。翼を開いて一瞬でダンジョンの天井付近まで飛び上がると、地面に残ったナイトはしゃがみ込んでしまった。
スノウウルフは鉄の玉を回避したが、直撃するまで攻撃を止める事の無い鉄の玉は執拗にスノウウルフを追い回した。俺はスノウウルフを追いながら両手を突き出し、ファイアの魔法を使用して炎を飛ばした。
スノウウルフが炎に狼狽した瞬間、鉄の玉が敵の背中を捉えた。スノウウルフが球の攻撃を喰らって悶絶している今が攻撃のチャンスだ。俺は羽衣の効果を解除して地面に着地すると、瞬時にブロードソードとグラディウスを抜き、羽根付きグリーヴに力を込めた。
高速で地面を駆け、左右に持った剣をスノウウルフの体に深々と突き刺した。手には暖かい血が掛かり、スノウウルフは何とか剣を抜こうと抵抗している。俺は体重をのせて更に二本の剣を突き刺すと、剣が心臓に達したのか、スノウウルフは静かに命を落とした。
肉を断つ感覚が手に残り、なんとも言えない気持ち悪さを覚えた。冒険者になった瞬間から、人間を襲う可能性があるモンスターは基本的に討伐する決まりになっている。すなわち相手から攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターだ。
レッサーミノタウロスの様に、人間が挑発や攻撃をしなければ襲い掛かってこない中立のモンスターは、基本的に討伐対象ではない。スノウウルフは心臓付近に魔石を持っていたのか、青い光を放つ美しい魔石を見つけた。スノウウルフの体に手を入れて魔石を取り出すと、適当な布で魔石に付いた血を拭いた。
『そろそろガチャの出番が来たのかな? スノウウルフの魔石でガチャを回そうよ!』
「そうしようか」
力なく地面にしゃがみ込んでいるナイトを呼び、スノウウルフの魔石を持たせた。ガチャは指環から元の姿に戻り、魔石を投入する穴を指差すと、ナイトは楽しそうに魔石を投入した。
ガチャの体の表面には『LV.3 中級冒険者シリーズ』と表示されている。レベル3のガチャでは既にレアカプセルとスーパーレア、レジェンドを引き当てているので、ノーマルカプセルで武器を当てたいところだ。
ナイトがレバーを回すと、透明なカプセルが地面に落ちた。ナイトが目を輝かせてカプセルを開けると、中からは美しいレイピアが出てきた。丁度ナイトのための武器が無かったから、ナイトには錆びついた剣を捨ててレイピアを使って貰う事にした。
「僕、今までお古の武具しか持たせて貰えなかったから、こんなに綺麗な武器を持てて嬉しいです」
「武具? という事は防具もお古なのかい?」
「はい。実はこの鎧は外せるんです。少し痛みを伴いますが、ある程度古くなったら新しい物に替えるんですよ」
「だけどナイトの鎧は随分使い古されているね」
「故郷を出た時は新品だったのですが、アポロニウス様の攻撃を何度も受けて形もいびつになってしまいました」
「それじゃ、ガチャで防具が出てたら鎧を替えるといいよ」
「そんな……。だって鎧を脱いだら裸になるから……。お兄ちゃんに裸を見られるなんて恥ずかしいです!」
「魔力の体って裸なのか。ごめんごめん。それじゃ俺は見ない様にするから」
「はい……」
ナイトは新しいレイピアを嬉しそうに腰に差すと、錆びついた剣を捨てた。ずっと新しい武器が欲しかったが、アポロニウスが給料を出さなかったから装備を新調する事も出来なかったのだとか。やはりナイトはアポロニウスからひどい虐めを受けていたのだな……。
これから二人でダンジョンを攻略しなければならないのに、ナイトが戦力にならないのでは非常にやりづらい。実質俺一人で敵と戦わなければならないのだから。物理攻撃無効という最強の属性を持っているにも拘らず、何をそんなに恐れているのだろうか。
「ナイト。次に出会った敵は一人で倒してみるんだ」
「でも……! 僕は弱いから……! 一人じゃ倒せません!」
「いつまでも他人から守られながら生きるか、自分の剣で人生を切り開くか、今ここで決めるんだ」
「他人に守られるのは嫌ですが、お兄ちゃんが一緒に戦ってくれないと僕は怖くて仕方がないんです」
「分かったよ。それなら俺が敵の攻撃を受けるから、ナイトがレイピアで反撃してくれるかな」
「僕の剣で敵を倒せばいいんですね……」
「そうだよ。怖いかい?」
「はい……。怖いです。だけど僕は強くなりたいから。お兄ちゃんが僕をアポロニウス様から引き離してくれたから、頑張るしかないんです」
「今頑張らなければ、これからもアポロニウスにこき使われて生きる事になる。俺が付いているからそう心配しなくていいよ」
「ありがとう。お兄ちゃん……」
しかし、食料も無い空間で二週間も過ごさなければならないのか。スノウウルフ達は一体何を食べて暮らしているのだろうか。ゴブリンの死骸があったから、ダンジョン内に侵入するゴブリンを喰らっているのだろうか。
流石に二週間もの間、聖者の袋から作り出したパンをだけを食べて過ごすのは辛い。俺はスノウウルフの毛皮を剥ぎ、肉を切り取ると、フライパンに油をひいて肉を焼いた。空腹を感じる前に栄養を体内に取り入れ、筋肉が作りやすい状態にしておこう。
人生で初めてのダンジョンを、ナイトを守りながらパンと水、葡萄酒だけを頼りに生きるのはあまりにも過酷だ。圧倒的にタンパク質が足りない。それにビタミンも不足しているから、やはりスノウウルフの肉を食べて栄養を摂取した方が良いだろう。
暫く座り込んでスノウウルフの肉を食べていると、ナイトは俺の隣に腰を降ろした。ファントムナイトは魔力の体だから食事をする必要もなく、睡眠も殆ど必要ないのだとか。
「お兄ちゃんはどうして冒険者になったんですか?」
「俺は父が冒険者だったから、昔から憧れていたんだよ。自分の剣で地域を守りながら生きる。そんな人生を歩みたいと思っていたんだ」
「大切な仲間を守りながら生きるのは大変じゃありませんか?」
「勿論毎日大変だけど、幸せの方が大きいかな。俺の仲間はいつも俺を信じてくれるから、俺は皆の期待に答えたいんだ」
「僕もお兄ちゃんの支えになりたいです。アポロニウス様に勝って、お兄ちゃんと一緒に冒険者になりたいです」
「ありがとう。まずは二人で力を合わせてダンジョンを攻略しようか」
『全く、僕の存在を完璧に忘れるなんてギルベルトは酷い男だよ』
「ごめんごめん。三人でこの試練を乗り越えよう」
錬金術師の指環が静かに輝くと、俺はナイトの手を握った。瞬間、ナイトの体が美しく輝き始めた。辺りに銀色の光を放つと、次の瞬間、身長百六十センチほどの美少女が現れた……。
スノウウルフは俺達の様子を伺いながら、鋭い牙を向いて距離を詰めてきた。爪には強烈な冷気が纏っており、目は赤く不気味に輝いている。体の大きさも驚異的だが、爪から感じる魔力の強さは、遥かに俺自身の魔力を上回っている。
バシリウス様は本当に俺達がスノウウルフが巣食うダンジョンで二週間も滞在出来ると思っているのだろうか。ナイトは震えながら魔石を握り締め、俺の背後からスノウウルフを見つめている。普段からアポロニウスや、強い力を持つ仲間に守られているからだろう。敵を前にしても武器を抜かず、ただ俺の背後で隠れている。
バシリウス様の攻撃を受けられるほど物理防御力が高いにも拘らず、ナイトはスノウウルフを警戒している。防御力なら俺よりも遥かにナイトの方が高いのだが……。
スノウウルフは俺達を睨みつけ、口から冷気をこぼしながら近づいて来る。新たに出会うモンスターとの戦闘は緊張するが、自分なら勝てると信じて戦いに臨むしかない。
瞬間、スノウウルフが大きく跳躍した。俺は敵の動きに合わせて鉄の玉を投げ、左手に持ったガーゴイルの羽衣を纏った。翼を開いて一瞬でダンジョンの天井付近まで飛び上がると、地面に残ったナイトはしゃがみ込んでしまった。
スノウウルフは鉄の玉を回避したが、直撃するまで攻撃を止める事の無い鉄の玉は執拗にスノウウルフを追い回した。俺はスノウウルフを追いながら両手を突き出し、ファイアの魔法を使用して炎を飛ばした。
スノウウルフが炎に狼狽した瞬間、鉄の玉が敵の背中を捉えた。スノウウルフが球の攻撃を喰らって悶絶している今が攻撃のチャンスだ。俺は羽衣の効果を解除して地面に着地すると、瞬時にブロードソードとグラディウスを抜き、羽根付きグリーヴに力を込めた。
高速で地面を駆け、左右に持った剣をスノウウルフの体に深々と突き刺した。手には暖かい血が掛かり、スノウウルフは何とか剣を抜こうと抵抗している。俺は体重をのせて更に二本の剣を突き刺すと、剣が心臓に達したのか、スノウウルフは静かに命を落とした。
肉を断つ感覚が手に残り、なんとも言えない気持ち悪さを覚えた。冒険者になった瞬間から、人間を襲う可能性があるモンスターは基本的に討伐する決まりになっている。すなわち相手から攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターだ。
レッサーミノタウロスの様に、人間が挑発や攻撃をしなければ襲い掛かってこない中立のモンスターは、基本的に討伐対象ではない。スノウウルフは心臓付近に魔石を持っていたのか、青い光を放つ美しい魔石を見つけた。スノウウルフの体に手を入れて魔石を取り出すと、適当な布で魔石に付いた血を拭いた。
『そろそろガチャの出番が来たのかな? スノウウルフの魔石でガチャを回そうよ!』
「そうしようか」
力なく地面にしゃがみ込んでいるナイトを呼び、スノウウルフの魔石を持たせた。ガチャは指環から元の姿に戻り、魔石を投入する穴を指差すと、ナイトは楽しそうに魔石を投入した。
ガチャの体の表面には『LV.3 中級冒険者シリーズ』と表示されている。レベル3のガチャでは既にレアカプセルとスーパーレア、レジェンドを引き当てているので、ノーマルカプセルで武器を当てたいところだ。
ナイトがレバーを回すと、透明なカプセルが地面に落ちた。ナイトが目を輝かせてカプセルを開けると、中からは美しいレイピアが出てきた。丁度ナイトのための武器が無かったから、ナイトには錆びついた剣を捨ててレイピアを使って貰う事にした。
「僕、今までお古の武具しか持たせて貰えなかったから、こんなに綺麗な武器を持てて嬉しいです」
「武具? という事は防具もお古なのかい?」
「はい。実はこの鎧は外せるんです。少し痛みを伴いますが、ある程度古くなったら新しい物に替えるんですよ」
「だけどナイトの鎧は随分使い古されているね」
「故郷を出た時は新品だったのですが、アポロニウス様の攻撃を何度も受けて形もいびつになってしまいました」
「それじゃ、ガチャで防具が出てたら鎧を替えるといいよ」
「そんな……。だって鎧を脱いだら裸になるから……。お兄ちゃんに裸を見られるなんて恥ずかしいです!」
「魔力の体って裸なのか。ごめんごめん。それじゃ俺は見ない様にするから」
「はい……」
ナイトは新しいレイピアを嬉しそうに腰に差すと、錆びついた剣を捨てた。ずっと新しい武器が欲しかったが、アポロニウスが給料を出さなかったから装備を新調する事も出来なかったのだとか。やはりナイトはアポロニウスからひどい虐めを受けていたのだな……。
これから二人でダンジョンを攻略しなければならないのに、ナイトが戦力にならないのでは非常にやりづらい。実質俺一人で敵と戦わなければならないのだから。物理攻撃無効という最強の属性を持っているにも拘らず、何をそんなに恐れているのだろうか。
「ナイト。次に出会った敵は一人で倒してみるんだ」
「でも……! 僕は弱いから……! 一人じゃ倒せません!」
「いつまでも他人から守られながら生きるか、自分の剣で人生を切り開くか、今ここで決めるんだ」
「他人に守られるのは嫌ですが、お兄ちゃんが一緒に戦ってくれないと僕は怖くて仕方がないんです」
「分かったよ。それなら俺が敵の攻撃を受けるから、ナイトがレイピアで反撃してくれるかな」
「僕の剣で敵を倒せばいいんですね……」
「そうだよ。怖いかい?」
「はい……。怖いです。だけど僕は強くなりたいから。お兄ちゃんが僕をアポロニウス様から引き離してくれたから、頑張るしかないんです」
「今頑張らなければ、これからもアポロニウスにこき使われて生きる事になる。俺が付いているからそう心配しなくていいよ」
「ありがとう。お兄ちゃん……」
しかし、食料も無い空間で二週間も過ごさなければならないのか。スノウウルフ達は一体何を食べて暮らしているのだろうか。ゴブリンの死骸があったから、ダンジョン内に侵入するゴブリンを喰らっているのだろうか。
流石に二週間もの間、聖者の袋から作り出したパンをだけを食べて過ごすのは辛い。俺はスノウウルフの毛皮を剥ぎ、肉を切り取ると、フライパンに油をひいて肉を焼いた。空腹を感じる前に栄養を体内に取り入れ、筋肉が作りやすい状態にしておこう。
人生で初めてのダンジョンを、ナイトを守りながらパンと水、葡萄酒だけを頼りに生きるのはあまりにも過酷だ。圧倒的にタンパク質が足りない。それにビタミンも不足しているから、やはりスノウウルフの肉を食べて栄養を摂取した方が良いだろう。
暫く座り込んでスノウウルフの肉を食べていると、ナイトは俺の隣に腰を降ろした。ファントムナイトは魔力の体だから食事をする必要もなく、睡眠も殆ど必要ないのだとか。
「お兄ちゃんはどうして冒険者になったんですか?」
「俺は父が冒険者だったから、昔から憧れていたんだよ。自分の剣で地域を守りながら生きる。そんな人生を歩みたいと思っていたんだ」
「大切な仲間を守りながら生きるのは大変じゃありませんか?」
「勿論毎日大変だけど、幸せの方が大きいかな。俺の仲間はいつも俺を信じてくれるから、俺は皆の期待に答えたいんだ」
「僕もお兄ちゃんの支えになりたいです。アポロニウス様に勝って、お兄ちゃんと一緒に冒険者になりたいです」
「ありがとう。まずは二人で力を合わせてダンジョンを攻略しようか」
『全く、僕の存在を完璧に忘れるなんてギルベルトは酷い男だよ』
「ごめんごめん。三人でこの試練を乗り越えよう」
錬金術師の指環が静かに輝くと、俺はナイトの手を握った。瞬間、ナイトの体が美しく輝き始めた。辺りに銀色の光を放つと、次の瞬間、身長百六十センチほどの美少女が現れた……。
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