142 / 188
第四章「騎士団編」
第百四十一話「勇者と聖戦士」
しおりを挟む
城に戻ると、大広間では兵士達が整列していた。
「エミリア様、勇者様、お戻りですか。これから聖戦士の任命式が行われます。是非ご参加下さい」
「はい。かしこまりました」
今回、陛下から聖戦士を任命されたのは、ゲルストナー、アイリーン、ルナだった。現在、アルテミス王国の聖戦士はクラウディアを合わせても四人にしか居ない。聖戦士は国で五名まで指名出来る。指名を受けた者は断る事も出来るが、聖戦士の称号が有れば優先的にクエストを受けられたり、国が経営する宿に無料で宿泊出来たりと、数多くの特典があるらしい。その他に、毎月国から多額の給料を貰えるらしいが、以前ヘルフリートに金額を聞いた時は適当にはぐらかされてしまった。
「残りの一名の聖戦士は、海賊ギルドのマスターのエドガー様に決まったらしいですよ」
大臣が近づいてきて俺に耳打ちした。エドガーの実力なら聖戦士としても十分に通用するだろう。俺は勇者としても式に参加するようにと大臣から頼まれたので、任命式に出席する事にした。部屋に戻ってデュラハンの魔装を纏い、勇者レオンハルトの剣を腰に差した。流石に普段着のままでは勇者として、騎士団の団長として恰好がつかないからな。
大広間では任命式が始まったようだ。ルナとゲルストナー、それからアイリーンが聖戦士として任命された。式が終わると、兵士達はすぐに王国の復興のために町に向かった。任命式を終えた陛下は俺に手招きをし、二人だけで話がしたいと言った。俺は陛下と共に応接室に入った。
「勇者殿、エミリアと散歩に行ってくれてありがとう。今は王としてではなく、父親として感謝している。エミリアは他人にはなかなか心を許さない子なんだ。勇者殿、父親として頼みたい、これからも時間がある時は、あの子の傍に居てくれないだろうか」
「陛下、私もエミリアから友達になって欲しいと頼まれましたよ。勿論、私はエミリアの良い友達になるつもりです」
「エミリアがそんな事を言うとは……勇者殿は余程エミリアに好かれているようですな」
「陛下、一つ質問があるのですが」
「質問か……何でも聞いてくれ」
「陛下がエミリアに魔法を禁止する理由を教えてくれませんか」
俺が陛下に質問をすると、少し驚いたような表情をして顎鬚を触った。
「実は……エミリアは生まれつき強力な魔力を持っている。力というのは上手く使えば民を守る事も出来るが、魔王の様に間違った使い方をすれば、国を、大陸を滅ぼす事も出来る。故に、エミリアには善悪の区別がつくまで魔法の使用を禁じているのだ」
魔王の様にか……。俺は魔王が勇者レオンハルトだという事を陛下に伝えた。
「勇者殿、実は私も知っていたのだよ。王国に伝わる文献で読んだのだが、魔王は遥か昔、アルテミスの勇者だった。かつては勇者として民を守っていたのだが、魔王に妻を殺されてからは、己の持つ力を民のためにではなく、復讐のために使うようになった」
「陛下もご存知でしたか……」
「うむ。それから勇者は狂ったように力を求めた。そして勇者の願いは達成された。魔王を倒したのだ。だが、魔王を倒した後も、人が変わったように魔物を殺し続け、悪質な人間を殺し続けた。殺戮を繰り返すうちに、勇者は人間を遥かに超える力を身に着けてしまったのだ」
陛下は思いつめた様な表情で俺の顔を見た。
「ある日、魔王の復活を心から願う悪質な連中が勇者を殺害したのだ。魔王の復活を願う者は、強い力を持つ勇者を魔王として再びこの地に召喚したのだ。邪悪な心を持つ者に召喚された勇者レオンハルトの心には、既に勇者としての心は微塵もなく、彼の心は魔王になっていた……」
「邪悪な心を持つ者に召喚されれば、召喚獣も邪悪な心を持った状態で生まれる。召喚学の基礎ですね……」
「そうだ。かつては勇者だった者が魔王として召喚され、魔王レオンハルトは殺戮を繰り返した。彼自身も、もしかするとそれを望んでいたのかもしれない」
「実は陛下、私は魔王から剣を授かりました」
俺は腰に差していた勇者レオンハルトの剣を陛下に渡した。
「これが勇者の剣か。文献でも見たことがある。魔王がこの剣を勇者殿に渡した時、どんな事を想っていたのだろうか……」
「陛下、魔王は『お前が新しい勇者なのか』と言っていました。最期は寂しそうに私に剣を授けました。まるで殺される事を望んでいるかのように……」
俺は魔王とのやり取りを全て陛下に伝えた。魔王は死の瞬間、確かに自分の行為を公開しながら息を引き取った。だから俺は、魔王がもう二度と召喚されないように、魔王の体を骨まで焼き尽くしてこの世から消した。
「これは勇者殿が持つにふさわしい剣だ。しかし、武器の名称は変えなければならないな。現代の勇者が魔王の剣を使っていると知られては不便だろう」
国王は剣を受け取り、王室の鍛冶職人に剣の作り直しを依頼した。名前の部分を作り直すのだろうか。剣にはレオンハルトと刻まれているからな……。勇者が魔王の剣を持っている事を部外者に知られると厄介だからな。
「それで、エミリアの魔法の件だが、こういうのはどうかな。勇者殿が責任を持ってエミリアに魔法を教えるなら、教えた魔法に限り使用を許可するというのは」
その条件なら良いだろう。魔法を教えるのは嫌いではない。俺が使える魔法は少ないが、それでも今まで仲間を守りながら生きてきた。
「ありがとうございます。私が責任を持ってエミリア王女に魔法の指南をします」
「勇者殿、暇な時に教えて下されば良いのですぞ。勇者殿は本拠地作りもしなければならないのだろう? 無理はしなさるなよ……」
「はい! ありがとうございます。早速エミリアに伝えてきます!」
俺は国王に一礼して、エミリアを探しに出た。
「エミリア様、勇者様、お戻りですか。これから聖戦士の任命式が行われます。是非ご参加下さい」
「はい。かしこまりました」
今回、陛下から聖戦士を任命されたのは、ゲルストナー、アイリーン、ルナだった。現在、アルテミス王国の聖戦士はクラウディアを合わせても四人にしか居ない。聖戦士は国で五名まで指名出来る。指名を受けた者は断る事も出来るが、聖戦士の称号が有れば優先的にクエストを受けられたり、国が経営する宿に無料で宿泊出来たりと、数多くの特典があるらしい。その他に、毎月国から多額の給料を貰えるらしいが、以前ヘルフリートに金額を聞いた時は適当にはぐらかされてしまった。
「残りの一名の聖戦士は、海賊ギルドのマスターのエドガー様に決まったらしいですよ」
大臣が近づいてきて俺に耳打ちした。エドガーの実力なら聖戦士としても十分に通用するだろう。俺は勇者としても式に参加するようにと大臣から頼まれたので、任命式に出席する事にした。部屋に戻ってデュラハンの魔装を纏い、勇者レオンハルトの剣を腰に差した。流石に普段着のままでは勇者として、騎士団の団長として恰好がつかないからな。
大広間では任命式が始まったようだ。ルナとゲルストナー、それからアイリーンが聖戦士として任命された。式が終わると、兵士達はすぐに王国の復興のために町に向かった。任命式を終えた陛下は俺に手招きをし、二人だけで話がしたいと言った。俺は陛下と共に応接室に入った。
「勇者殿、エミリアと散歩に行ってくれてありがとう。今は王としてではなく、父親として感謝している。エミリアは他人にはなかなか心を許さない子なんだ。勇者殿、父親として頼みたい、これからも時間がある時は、あの子の傍に居てくれないだろうか」
「陛下、私もエミリアから友達になって欲しいと頼まれましたよ。勿論、私はエミリアの良い友達になるつもりです」
「エミリアがそんな事を言うとは……勇者殿は余程エミリアに好かれているようですな」
「陛下、一つ質問があるのですが」
「質問か……何でも聞いてくれ」
「陛下がエミリアに魔法を禁止する理由を教えてくれませんか」
俺が陛下に質問をすると、少し驚いたような表情をして顎鬚を触った。
「実は……エミリアは生まれつき強力な魔力を持っている。力というのは上手く使えば民を守る事も出来るが、魔王の様に間違った使い方をすれば、国を、大陸を滅ぼす事も出来る。故に、エミリアには善悪の区別がつくまで魔法の使用を禁じているのだ」
魔王の様にか……。俺は魔王が勇者レオンハルトだという事を陛下に伝えた。
「勇者殿、実は私も知っていたのだよ。王国に伝わる文献で読んだのだが、魔王は遥か昔、アルテミスの勇者だった。かつては勇者として民を守っていたのだが、魔王に妻を殺されてからは、己の持つ力を民のためにではなく、復讐のために使うようになった」
「陛下もご存知でしたか……」
「うむ。それから勇者は狂ったように力を求めた。そして勇者の願いは達成された。魔王を倒したのだ。だが、魔王を倒した後も、人が変わったように魔物を殺し続け、悪質な人間を殺し続けた。殺戮を繰り返すうちに、勇者は人間を遥かに超える力を身に着けてしまったのだ」
陛下は思いつめた様な表情で俺の顔を見た。
「ある日、魔王の復活を心から願う悪質な連中が勇者を殺害したのだ。魔王の復活を願う者は、強い力を持つ勇者を魔王として再びこの地に召喚したのだ。邪悪な心を持つ者に召喚された勇者レオンハルトの心には、既に勇者としての心は微塵もなく、彼の心は魔王になっていた……」
「邪悪な心を持つ者に召喚されれば、召喚獣も邪悪な心を持った状態で生まれる。召喚学の基礎ですね……」
「そうだ。かつては勇者だった者が魔王として召喚され、魔王レオンハルトは殺戮を繰り返した。彼自身も、もしかするとそれを望んでいたのかもしれない」
「実は陛下、私は魔王から剣を授かりました」
俺は腰に差していた勇者レオンハルトの剣を陛下に渡した。
「これが勇者の剣か。文献でも見たことがある。魔王がこの剣を勇者殿に渡した時、どんな事を想っていたのだろうか……」
「陛下、魔王は『お前が新しい勇者なのか』と言っていました。最期は寂しそうに私に剣を授けました。まるで殺される事を望んでいるかのように……」
俺は魔王とのやり取りを全て陛下に伝えた。魔王は死の瞬間、確かに自分の行為を公開しながら息を引き取った。だから俺は、魔王がもう二度と召喚されないように、魔王の体を骨まで焼き尽くしてこの世から消した。
「これは勇者殿が持つにふさわしい剣だ。しかし、武器の名称は変えなければならないな。現代の勇者が魔王の剣を使っていると知られては不便だろう」
国王は剣を受け取り、王室の鍛冶職人に剣の作り直しを依頼した。名前の部分を作り直すのだろうか。剣にはレオンハルトと刻まれているからな……。勇者が魔王の剣を持っている事を部外者に知られると厄介だからな。
「それで、エミリアの魔法の件だが、こういうのはどうかな。勇者殿が責任を持ってエミリアに魔法を教えるなら、教えた魔法に限り使用を許可するというのは」
その条件なら良いだろう。魔法を教えるのは嫌いではない。俺が使える魔法は少ないが、それでも今まで仲間を守りながら生きてきた。
「ありがとうございます。私が責任を持ってエミリア王女に魔法の指南をします」
「勇者殿、暇な時に教えて下されば良いのですぞ。勇者殿は本拠地作りもしなければならないのだろう? 無理はしなさるなよ……」
「はい! ありがとうございます。早速エミリアに伝えてきます!」
俺は国王に一礼して、エミリアを探しに出た。
1
お気に入りに追加
1,403
あなたにおすすめの小説

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る
咲阿ましろ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。
だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。
それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。
世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。
快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。
●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。
魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。
『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる