召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第四章「騎士団編」

第百三十六話「エミリアとサシャ」

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 宴が始まってすぐに気が付いた事だが、どうやら陛下は俺の事を気に入ってくれているみたいだ。新しい料理が運ばれてくる度に、俺の皿に次々と料理を盛ってくれる。まさか一介の村人だった俺が、国王陛下から料理を盛ってもらう日が来るとは想像もしなかった。

「サシャ。お父様は沢山食べる方が好きなのよ」

 と言われても……。目の前の皿にはありえない量の肉やパン、ステーキやデザートが盛られている。

「サシャはどうして冒険に出たの? それから、サシャの精霊さんともお話がしたいな」

 エミリアはどうやらシルフが気になるらしい。シルフはルナの膝の上で御馳走を食べていたが、俺がシルフに目配せして合図をすると、ルナの膝の上から飛び上がって俺の肩の上に乗った。

「シルフ、こちらはエミリア王女だよ。シルフと仲良くしたいんだってさ」

 俺がシルフに話しかけると、シルフは恥ずかしそうに俺の髪の毛を掴んだ。

「シルフは少し恥ずかしがり屋なんだよ。エミリアの事が嫌いな訳じゃないからね」
「そうなんだ……風の精霊さん。私はエミリアよ。あなたのお友達になりたいの」

 エミリアは恥ずかしそうにするシルフに握手を求めた。シルフは小さな手でエミリアの握手に応じた。

「サシャの様な温かい心を持っているわね。きっと仲間を助けるために召喚されたに違いない……」

 エミリアはシルフの手を握っただけでシルフが生まれた理由まで言い当てた。俺がシルフを召喚したのは、一人でも多くの強力な仲間が必要だと思ったからだ。

「そうよ……私は騎士団の仲間を、サシャを助けるために生まれた精霊」

 珍しくシルフが仲間以外の人間と話している。基本的に俺の召喚獣は、騎士団の仲間以外とはほとんど話す事もない。召喚獣の中でも一番シャイなのはクーデルカだ。勿論、クーデルカは召喚獣ではないが、俺がクーデルカの魂と骨を用いて召喚したから一応召喚獣になるのだろう。

 クーデルカはシャイと言うか少し特殊だ。俺以外の男とは、例え仲間であっても必要以上に話す事も無い。彼女が言うには『私はサシャ以外の男性には興味がない』らしい。彼女は俺に召喚されてからは、俺が他の女性と話をしていると睨み付けるわ、俺の胸元にクーデルカの横顔をモチーフにしたカメオを付けるわ、しまいには毎晩俺に腕枕をせがむ。最初は不思議な女性だと思っていたが、最近ではそんな彼女が愛おしくもある。

 ちなみに、俺の召喚獣の中で一番社交的なのはキングだ。キングは不思議と冒険者や市民から好かれる。ユニコーンに関しては少し反抗的と言うか、俺が毎日の日課であるブラッシングを忘れた日には、巨大な角で容赦ない一撃を放ってくる。ワイバーンは放っておいても勝手に獲物を狩り、楽しそうに暮らしている。たまに高級な肉を食べさせると、嬉しそうに頬ずりするところが可愛い。

 エミリアはシルフの手を握りながら優しく微笑んでいる。彼女の手に触れて分かったが、彼女からはとても優しい魔力を感じた。シルフが気を許すのも納得だ。

「サシャ! 冒険の話を聞かせて!」

 エミリアは食事をしながら俺に話をせがんだ。

「良い提案だなエミリア! 私も是非、勇者殿の冒険の話が聞きたい」

 陛下は右手に巨大な骨付き肉を持ち、左手にはゴブレットになみなみと注がれた葡萄酒を持っている。豪快な性格の様だ。兎に角、よく食べてよく笑う。一緒に居て気分の良くなる男……。まるでゲルストナーの様な雰囲気だ。

 俺は陛下とエミリアにこれまでの冒険の話を聞かせた。キングとの出会い。フィッツ町の卵屋でキングがルナを選んだ話や、ゲルストナーが自分の店を畳んで仲間になった話。それから、囚われていたアイリーンを開放した話や、ブラックライカンを倒してクーデルカを蘇らせた話。

 俺が冒険談を語っていると、知らない間にテーブルの周りは冒険者達で溢れていた。冒険者達は俺の話を目をキラキラさせながら聞いている。彼らは今回の魔王軍との戦いに参加した冒険者達だ。話を聞く者の中には魔術師ギルドのマスターと暗殺ギルドのマスターも居る。俺が冒険の話しをしている最中、エミリアは俺の手を握って離さなかった。

「その歳で数々の修羅場を潜り抜けてきたのだな。レベルが120とは……私の知る限りではアルテミス大陸の最高レベルだ。我が国を救ってくれた勇者殿が正しい心の持ち主で嬉しい限りだ! 勇者と言っても全ての者が心の正しい者とは限らない……」

 国王はゴブレットの中の葡萄酒を見つめている。

「サシャはこれからも冒険を続けるつもり? 私はサシャみたいになりたい!」

 何を言い出すんだ。俺みたいに……か。俺は自分が立派な人間なのか、他人の模範となる人間なのかも分からない。冒険の旅に出てから今日まで、毎日生きる事に必死だった。俺みたいになる、という事は命懸けで魔王と戦ったり、凶悪な魔物と戦ったりするという事でもある。せっかく平和に生きていける王女という地位があるのに、わざわざ冒険者になる事は、自ら苦労の道を選ぶという事だ。

「エミリア。勇者殿の様になりたいなどと、簡単に口にしてはいけないよ」

 国王は優しい口調でエミリアを諭した。

「だって……魔法を使えるって、冒険が出来るって楽しそうじゃない。私なんて毎日、退屈なお勉強と剣術の授業しかしていないのよ」

 王女と言う身分もそれなりの苦労はあるのだろう。農民として生まれた田舎者の俺には分からないが、きっと王女として教育を受けたり、礼儀作法を学んだり、彼女も苦労しているのだろう。だが、彼女が魔法が使えないというのは何故だろうか。彼女の体中には明らかに強力な、神聖な魔力が流れている。陛下が魔法の使用を禁じているのだろうか。

「そうだ、サシャ! 何か魔法を見せてくれない?」

 こういう展開は全く想像出来なかった。十歳のエミリアは好奇心で俺の魔法が見たいと簡単に口に出したのだろうが、宴の場で披露出来る様な、平和的な魔法は持ち合わせていない……。

「エミリア! でかしたぞ! 皆の者! 勇者殿が魔法を披露して下さるぞ!」

 陛下は悪ノリして大広間に居る者を呼び寄せた。まさかサンダーボルトやヘルファイアは使えないし。アースウォールやアイアンメイデンは室内では危険すぎる。

 俺が悩んでいると、向かい側の席に座るクーデルカが俺に合図をした。「王女に武器を作って差し上げたら?」クーデルカは身振り手振りで俺に伝えた。そうか、攻撃魔法ではなく、クラフトの魔法を見せてあげれば良いのか。

 しかし、魔術師ギルドのメンバーに囲まれて魔法を披露するのはかなり恥ずかしい。だが、ここで尻込みは出来ない。俺にも男のプライドがある。騎士団の団長としての立場もある。質の低い魔法を披露しようものなら、たちまち俺に対する不信感を芽生えさせてしまう。面倒な状況ではあるが、やるしかないな……。
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