上 下
29 / 188
第一章「冒険者編」

第二十九話「砦の最深部で待つ者」

しおりを挟む
 防御力の高いゲルストナーがブラックウルフの一撃を受けていなかったら、もしかしたら仲間は殺されていたかもしれない。鍛え上げられた体に、パーティーで最も防御力の高い鎧を身に着けていたから即死は防げたのだろう。魔獣クラスの魔物にも、これ程までに強い魔物が存在したとは……。

 俺はブラックウルフの牙を回収し、ブラックウルフを解体して肉を取った。今晩の夕食にするためだ。陣形は俺とルナが前衛としてキングを守り、アイリーンが遊撃として俺達をサポートする事になった。ゲルストナーが一人抜けるだけで、パーティーの防御力が大きく落ちた。改めて彼の強さを実感する。

 魔物の気配を辿りながら、薄暗いジメジメした地下の通路を進む。地下にはいくつもの部屋があり、拷問に使う様な器具が置かれた部屋を見つけた。血の臭いと怨霊のような魔力を感じる。きっとここで人が殺されたのだろう。

 拷問道具を見てみると、大ぶりの斧が立て掛けてあった。手に触れてギルドカードでアイテム名を確認する。武器の名称は処刑人の斧。只ならぬ力を感じたので、俺はマジックバッグに仕舞って持ち帰る事にした。やはりこの鞄は便利だ。鞄の口を広げれば、かなり大きな物でも仕舞う事が出来るからな。

 更に通路を進むと、教会のような広間を見つけた。ここが最深部だろうか。白い石畳が敷かれている美しい空間には、祭壇が設置されており、祭壇の上には白骨化した死体が横たわっている。

 教会に足を踏み入れた瞬間、爆発的な咆哮が轟いた。全身に刺すような強烈な魔力と、空間を震えさせる悍ましい魔物の声が響くと、俺の体は固まった。強さの次元が違う……俺が戦いを挑んで良い相手ではない。本能が逃げ出せと言っている。

 教会の奥からはブラックウルフを二倍程大きくした様な人型の魔物が姿を現した。幻獣のブラックライカンだろう……長く伸びた爪は大勢の人間の血を吸っている様だ。まるでサーペントのレイピアの様な強い魔力を感じる。

 ここで逃げ出す訳にはいかない。俺は最高の冒険者になると誓って村を出たんだ。俺は震える手でグラディウスを握り締め、戦いを挑んだ……。

 グラディウスに魔力を込めて水平切りを放った。ブラックライカンは後退して俺の剣を回避すると、右手の爪に黒い魔力を纏わせて振り下ろした。瞬間、アイリーンの槍がブラックライカン右手を捕らえた。

 アイリーンは敵の攻撃に合わせて精確に突きを放ち、ブラックライカンの手の甲を貫くと、怒り狂ったブラックライカンがアイリーンを標的に定めた。ルナは翼を開いて上空を舞い、魔力の刃を雨の様に降らせている。ルナの攻撃はブラックライカンの体に傷を付けているが、致命傷には至らない様だ。

 キングは魔法のタイミングを計りながら後方で待機している。ブラックライカンはアイリーンに対して爪の一撃を放った。まずい……このままではアイリーンの回避が間に合わないだろう。俺はアイリーンの目の前に土の壁を作り上げた。

 ブラックライカンの一撃が壁を砕くと、攻撃を阻まれたからだろうか、再び爆発的な咆哮を上げて俺を睨みつけた。ルナはレイピアを仕舞い、魔力で作り上げた弓を構えると、風の魔力を込めた矢を放った。ルナの魔法の矢はブラックライカンの肩を貫くと、ブラックライカンは大きく跳躍し、宙を舞うルナの体を掴んだ。

 ルナは抵抗する事も出来ず、ブラックライカンの巨大な手の中で意識を失った。その時、背後から強烈な魔力を感じた。急いで振り返ると、キングが両手から巨大な炎を放出させた。周囲を燃やし尽くす程の爆発的な魔法は、ブラックライカンの右足を捕らえると、瞬く間に足を消滅させた。今が攻撃のチャンスだろう。俺は体内から魔力を掻き集め、地面に右手を付いて地面に注いだ。

 ブラックライカンの足元から無数の土の槍が伸び、槍はブラックライカンを串刺しにした。これが俺の最高の攻撃魔法、アイアンメイデンだ。ブラックライカンは大量の血を流しながらルナを離すと、アイリーンが跳躍してブラックライカンの頭に飛び乗った。アイリーンが槍を脳天に突き立てると、ブラックライカンは息絶えた……。

 地面に倒れるルナを起こし、ヒールポーションを飲ませると、ルナの傷はたちまち回復した。ブラックライカンを目の当たりにした時は、俺では到底敵うはずが無いと思ったが、仲間の力を借りてどうにか敵を討つ事が出来た。

 祭壇からは俺を呼ぶ様に魔力が流れてくる。ブラックライカンが死んだ瞬間から、祭壇の魔力を強く感じる。祭壇の上には白骨化した死体があり、死体の近くには白い炎の様な物が漂っていた。

「何か浮いているね。これはなんだろう」
「鑑定の魔法を使ってみるね」
「頼むよ、アイリーン」

 アイリーンが宙を漂う炎に魔力を注ぐと、炎はこの場所で命を落としたサキュバスの魂だという事が分かった。アイリーンの説明によると、肉体が死んでも魂が傍にあるのは、魂が現世に縛り付けられているからなのだとか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...