上 下
26 / 188
第一章「冒険者編」

第二十六話「騎士団の防衛力」

しおりを挟む
 俺は檻の鍵を破壊して娘達を救出した。十二人もの村娘が囚われており、中には獣人の姿もあった。猫と人間の中間種だろうか。茶色のふわふわした尻尾が生えており、頭部からは形の整った猫耳が生えている。年齢は十八歳程だろうか。

「助けてくれてありがとうなの」
「え? なの?」
「あ……これはあたしが生まれた地方の方言なの」
「あなたもアシュトバーン村の方ですか?」
「違うの。旅の途中で山賊達に襲われて閉じ込められていたの」
「そうだったんですね。皆さん、直ぐに村に戻りましょう」

 俺達は娘達を連れて馬車に戻った。盗賊から奴隷を買おうとしていた奴隷商が村を襲う可能性もある。防衛手段を持たない村をどうにか守る手段は無いだろうか。やはり召喚獣に村を守って貰うのが良いだろう。

 俺とルナは馬車の御者台に座り、アシュトバーン村に向けて馬車を走らせた。馬車の後方ではゲルストナーが娘達の体調を確認している。栄養失調になっている娘に対して、栄養価の高い食べ物を食べさせている。流石、熟練の育成士だ。ゲルストナー曰く、「魔物の育成も人間も育成も、技術的には大きな違いは無い」のだとか。

 暫く馬車を走らせるとアシュトバーン村に到着した。馬車を村の中心まで走らせると、囚われていた村娘達が飛び出した。涙を流しながら家族と再開している。その様子を見ている猫耳の女は、一人で寂しそうに荷台に残っている。彼女の話によると、旅の途中で仲間を殺され、自分だけが盗賊に囚われたらしい。

 村人達は安堵の表情を浮かべているが、安心するのはまだ早い。盗賊の取引相手である奴隷商がこの村を襲う可能性があるからだ。早急の村の防衛力を高めなければならない。俺は外部からの侵入を防ぐために、硬い土で城壁を作り、村を囲った。

 見張り台を村の四隅に建て、スケルトンの頭骨を使って十体のスケルトンを新たに召喚した。盗賊達が使用していた武器をスケルトンに配り、四体は見張り台に、残りの六体は村を巡回して警備を始めた。ホワイトウルフ達も村の警護に加わり、村の防衛力は瞬く間に向上した。

 それから俺は村人達から頼まれて、アシュトバーン村を騎士団の配下に入れる事にした。村の入り口に自分のステータスを記入した表札を立てる。盗賊や奴隷商などに襲われないようにするためだ。

 『ボリンガー騎士団・アシュトバーン村拠点』
 『管理者:幻魔獣の召喚士 LV85 サシャ・ボリンガー』
 『村の平和を脅かす行為は、騎士団に対して宣戦布告をする行為とみなす』

「皆様。今日から我が騎士団がアシュトバーン村をお守りします。報酬は頂きません。盗賊や奴隷商から皆さんをお守りするのも、冒険者としての役目ですから」
「ありがとうございます……冒険者様」
「皆様のお役に立てるなら光栄です」

 これで村の防衛は完璧だろう。高レベルの盗賊が村を襲撃すれば、ホワイトウルフやスケルトンでは対応出来ないだろうが、その時はフィッツ村のミノタウロスに頼み、アシュトバーン村の防衛に加わってもらう。わざわざ高レベルの召喚士が守る村を襲う者が居るとは思わないが……。

「サシャ、良い事したね」
「ああ。これも冒険者としての務め。ルナにも色々助けてもらったね。これからも俺達を支えてくれるかな」
「当たり前だよ。サシャは私が守る!」
「ありがとう。早くルナに追いつけるように努力するよ」

 ゲルストナーもキングも満足そうな表情を浮かべている。俺達は戦闘の疲れもあって、今日は村に泊まる事にした。村の村長はどうしてもお礼をしたいと言い、村長の家でお祝いの宴が開かれた。

 村長が乾杯の音頭を取ると、俺は村の料理と酒に舌鼓を打った。村人達は娘達が戻ってきたからだろうか、皆幸せそうに宴を楽しんでいる。会場の隅で一人だけ寂しそうに座る猫耳の女が居る。視線が合うと、彼女は俺の隣の席に座った。

「召喚士様。本当に感謝しているの。あたしはアイリーン・チェンバーズ」
「俺はサシャ・ボリンガーです。宜しくお願いします」
「敬語は使わなくても良いの」
「わかったよ。アイリーンって呼んでもいいかな?」
「勿論。あたしもサシャって呼ばせて貰うの」

 アイリーンは握手を求めると、俺は彼女の手を握った。キングの様な優しい魔力を感じる。この魔力の強さはゲルストナーと同等、もしくはそれ以上なのではないだろうか。

「盗賊に捕まった時は、人生なんて良い事も何もないって思ったけど、サシャが助けてくれたから前向きに生きられそうなの」
「間に合ってよかったよ。アイリーンはこれからどうするんだい?」
「あたしは旅をしていたけど、仲間も殺されたし……目的もないの」

 ルナは退屈そうに俺の膝の上に座ると、アイリーンがルナを見つめた。鎧の中に翼を仕舞っているが、ルナが人間ではない事に気がついたのだろう。ルナの翼は折りたためば鎧の中に隠す事も出来る。基本的には翼を人前で開く事はない。

「魔物……? 人間ではない気がするの」
「そうだよ。幻魔獣、ハーピー。名前はルナ」
「ルナはハーピーなの? どうりで強い魔力を感じると思った。だけど幻魔獣が仲間になるなんて信じられないの」
「そうだね。いつも強い仲間達に助けられて生きているよ」

 アイリーンがルナを見つめると、ルナはアイリーンの頭を撫でた。ルナから他人に触れるなんて珍しい。ルナはアイリーンを抱きしめると、アイリーンは涙を流した。仲間を殺されて盗賊に誘拐されるなんて、随分大変な経験をしてきたんだな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

処理中です...