召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第一章「冒険者編」

第十四話「騎士団の方針」

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〈冒険者の宿・食堂〉

 今日のメニューはサラダとウィンナー、それからパンだ。スノウウルフの唐揚げが恋しい。席に着くとシンディさんが隣の席に座った。

「おはようございます、シンディさん!」
「おはよう、サシャ。今日も廃坑に狩りに行くの?」
「いいえ。新しくハーピーが生まれたので、暫くは狩りを控えようと思います」
「ハーピー?」
「そうです」

 頭の上に乗っているルナを指差すと、シンディさんは目を輝かせてルナを見つめた。シンディさんがルナを撫でようとすると、ルナは俺の胸元に飛び込んだ。どうやら他人にはあまり懐かない様だ。シンディさんは寂しそうにモフモフした耳を垂らしながら俺を見つめている。何だか子犬の様でとても可愛らしい。

「幻魔獣のハーピーか。一人の冒険者が二体の幻魔獣を従えるなんて。本当に信じられない事だわ」
「ええ。運が良かったんですよ。こんなに可愛らしい仲間と出会えたのですから」
「運だけではないわ。幻魔獣はとても賢い生き物よ。自分が認めた人間じゃなければ、たちまちサシャを襲うでしょう。スケルトンキングだけでも、この町で噂になっているのに、まさかハーピーまで仲間にしてしまうとは」
「俺って魔物から好かれるんでしょうか。強い魔物を従えているだけではなく、俺自身が一流の冒険者になれる様に努力しなければなりませんね!」
「サシャの名が大陸中に轟くのは時間の問題でしょう。スケルトンキングにハーピーか……サシャは手の届かない人になってしまうのね」
「そんなに寂しそうにしないで下さいよ。朝食を頂きましょうか」
「そうね」

 ルナに食事を与え、シンディさんと他愛のない会話をしながら朝の一時を過ごした。ルナは食欲旺盛で、自分の顔よりも大きなウィンナーを何本も平らげた。まだまだ栄養が足りないみたいだ。食事を終えるとシンディさんが紅茶を持ってきてくれたので、これからしなければならない事を羊皮紙に書き留める事にした。

・ルナの飼育
・騎士団の新しい団員の召喚
・各団員の装備の充実
・召喚魔法に関する文献を読み、召喚獣に対する理解を深める
・次の目的地の決定

「シンディさん、俺達はこれから町に出る事にします。またお会いしましょう」
「ええ、いってらっしゃい」

 シンディさんが手を振ると、ルナは恥ずかしそうに手を振った。まずは町に出てルナの食料を購入しよう。朝の露店街を見物しながらゆっくりと歩く。ルナは初めて見る露店に興味津々な様子だ。ルナの食料を探しながら歩いていると、保存食の専門店を見つけた。どうやら冒険者向けの食品を扱う店らしい。

 大きな乾燥肉の塊を購入し、ナイフで小さく切ってルナに渡した。朝食を食べたばかりだと言うのに、彼女は自分の体よりも大きな乾燥肉と平らげた。やはりルナは人間ではなく、魔物なんだな。店に展示されている乾燥肉の中で、値段が安く、大きな物を選んでいくつも購入した。

「サシャ……サシャ」
「どうしたんだい? まだ食べ足りないのかな?」

 ルナは小さく頷くと、俺はこぶし大の乾燥肉をルナに渡した。ルナは大きな乾燥肉を両手で持ち、美味しそうに齧り付いている。それから保存が利くタイプのパンを購入した。堅焼きパンという種類のパンで、通常のパンよりも日持ちするのだとか。ルナはパンと乾燥肉を交互に食べ、幸せそうに微笑んでいる。

 不思議な事に、朝と比べてルナの体が若干大きくなっている様な気がする。幻魔獣の成長速度は驚異的だな。このまま食事を続ければ、すぐに大人になって仕舞うのではないだろうか。さて、食料も確保出来たから、騎士団の新たな団員を召喚するために、素材を探しに行こう。魔物の素材といえばゲルストナーの店だ。露店街を眺めながら、ルナが欲しがる食料を次々と購入して、ゲルストナーの店に向かった……。


〈ゲルストナーの魔法動物店〉

「サシャか! ついにハーピーが孵化したのだな!」
「はい! 名前はルナにしました。この子は随分食いしん坊みたいで、朝からずっと食べ続けているんですよ。肥満にならないか心配です」
「幻魔獣の様な強力な魔物は、大量の食事を摂る。そして直ぐに完全な体へと成長を遂げる」
「そうなんですか?」
「ああ。早ければ今日中。遅くても数日以内に成長を終えるだろう」

 幻魔獣は生まれて直ぐに体の成長が始まり、数日から数週間掛けて完全な姿に成長を遂げる。ゲルストナーの説明によると、幻魔獣や魔獣等の高等な魔物は、成長を完全に終えると、体が老化する事はないのだとか。そのままの姿で寿命を全うするまで生き続ける様だ。

「それで、今日はどんな要件だ?」
「実は、召喚獣を増やそうと思っているんです。仲間を増やして冒険の旅に出るつもりです」
「召喚獣か。既に二体の幻魔獣を従えているというのに。まだ力を求めるか」
「そうですね。俺は一流の冒険者になると決意して田舎の村を飛び出しましたから、大陸で最高の冒険者になるまで、俺は旅を続けますよ。夢が叶ったら、魔物と人間が共存出来る村を作ろうと思います」
「素晴らしい目標だな。旅に役に立つ魔物と言えば……幻獣のユニコーンなんてどうだろうか? 移動手段としても回復役としても活躍出来る。力も強ければ知能も高く、基本的に人間を襲う事は無い。温厚な性格の持ち主だよ」
「でも、幻獣の素材って高いんじゃないですか?」
「ユニコーンの角は一万ゴールドだよ」
「一万ゴールドですか? そんな大金ありませんよ……」
「確かに、ユニコーンの角は高価だが、ユニコーンは強力な幻獣だ。旅の間は必ずやお前の助けになるだろう」
「実は一万ゴールドも持ってないんです……」

 素直に自分の所持金を伝えると、ゲルストナーは柔和な笑みを浮かべて俺を見つめた。不思議な事に、ルナはゲルストナーに興味があるのか、ゲルストナーの長く伸びた髪を引っ張って遊んでいる。幻魔獣が気を許す育成士か……。
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