召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第一章「冒険者編」

第十話「幻魔獣の卵」

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「サシャとは長い付き合いになりそうだ。なぜなら、どんなに優れた召喚士でも、召喚魔法の歴史に名を残した召喚士でも、幻魔獣の召喚に一人で成功した者はいない。それで、卵について聞きたいんだってな、卵を見せてみな」
「この卵なんですが」
「この魔力の強さ……並の魔物の卵ではあるまい。俺の予想では、これは幻魔獣の卵だ。鑑定の魔法を使ってみようか」

 ゲルストナーさんは杖を卵に向けて魔法を唱えると、空中には光の文字が浮かんだ。

「こいつは幻魔獣のハーピーだ。一人の人間が二体もの幻魔獣を引き寄せるとは……やはりお前さんは只者では無いようだな」
「え? この卵の中身も幻魔獣なんですか? まさか……」
「鑑定の結果に間違いはない。だが、この卵はどこで手に入れたんだ? この町には幻魔獣の卵を扱っている店は無いぞ」

 俺は路上販売をしている男性から卵を買い取った事をゲルストナーさんに伝えた。彼は憤慨した表情を浮かべ、長く伸びた髪を撫で付けながら、俺の顔を覗き込む様に見つめた。

「信じられない話だな……幻魔獣の卵は、あんな低俗な卵屋が扱えるような代物ではない」
「本当なんですよ! 昨日キングと一緒に選んだんです。百ゴールドで購入した卵なんですよ」
「百ゴールドだって? サシャよ、お前さんは魔法動物に関する知識が無いのだろうが、幻魔獣の卵というのは百ゴールドで買うことは出来ない。幻魔獣の中でも最も価値が低い魔物だとしても、十万ゴールドはくだらない」
「幻魔獣の卵ってそんなに高価な物なんですか!」
「うむ。ところで少し気になる事があるのだが、卵を買ってから何か特別な事はしたか? 卵に魔力を注ぐ様な行為に心当たりはないか?」

 卵に魔力を注ぐ? 俺とキングが交代で卵を持っていたが、ガントレットの魔力が卵に流れたのだろうか? そうだとして、それが卵とどう関係するのだろうか。俺は卵を手に入れてからの行動を全てゲルストナーさんに伝えた。

「廃坑の前でスケルトンキングが魔法を使用したのだな? 俺の予想では、キングの魔力が卵に流れ、卵の中身がより高位な幻魔獣に成長を遂げたと推測している。サシャは知らないだろうが、魔物の卵は通常、魔力を吸収して育つ。孵化するまでに注ぐ魔力が強ければ強い程、卵から生まれてくる魔物は強靭で高位な生物になる」
「魔力が卵の中身に影響した、という事ですね」
「そうだ。卵は魔力を糧に成長する。強すぎるスケルトンキングの魔法を吸収し、幻魔獣に生まれ変わったのだろう。生まれるまでに注いだ魔力の量が雛の強さを決める」

 これで辻褄があった。偶然にも卵の近くで放たれたキングの爆発的な魔力を、近くに置いてあった卵が吸収した。卵を孵化させるには魔力を注げば良いのだ。これで孵化の方法が分かった。

「サシャよ。この卵を売れば莫大な金を手にする事が出来る。俺が買い取ってくれそうな相手を探してやっても良いぞ」
「キングが選んだ物なので、俺達の手で育てようと思います」
「ハーピーの卵なら二十万ゴールドはくだらないだろう。富よりも卵を選択するのか?」
「ウラナイ……」

 キングが小さく呟くと、ゲルストナーさんはキングの頭を撫でた。柔和な笑みを浮かべながらキングを見つめている。確かに二十万ゴールドは大金だが、今はお金よりも自分自身が強くなる事。強いパーティーを作り、安全に狩りを行える様になる事の方が大切だ。冒険者として一流の人間になれば、富や名声は後で付いてくるだろう。今は金銭よりも仲間だ。幻魔獣のハーピーは、きっと俺達を支えてくれる強力な存在になるだろう。

「金よりも卵を選んだか。お前のキングは立派だな! よし気に入った。俺が育成についてのノウハウを教えてやろう!」

 と言ってゲルストナーさんは魔物の育成について重要な事を簡単に教えてくれた。ゲルストナーさんの教え方は非常に理解しやすかった。だが一日では覚えきれないだろう。彼は店内から数冊の本を選ぶと、嬉しそうに俺に差し出した。どうやら俺にプレゼントしてくれるらしい。お金よりも卵を選んだ事が嬉しかったのだとか。

 ・『魔法動物の歴史と現代の魔法動物』
 ・『卵の孵化と育成・強力な魔物を生み出す方法』
 ・『幻魔獣と幻獣の育成法』
 
「この三冊の本を全て理解する頃には、サシャも立派な育成士になっているだろう。サシャは召喚士だろうが、魔物の育成の知識があれば、魔物をより強靭に育てる事が出来る。召喚学と魔法動物の育成学は共通している点も多い。毎日の勉強を怠らないように」
「ゲルストナーさん、色々教えて下さってありがとうございます!」
「なぁに、気にするな。それから俺の事はゲルストナーと呼んでくれ。サシャの方が遥かにレベルが高いのだからな。これからも頻繁に会う事になるだろう」

 俺達はゲルストナーにお礼を言ってから店を出た。それから本屋に立ち寄って冒険に役立ちそうな本を探す事にした。様々な本の中からハーピーに関する本を見つけた。それからキングが言葉を覚えるための本を選んだ……。

 ・『ハーピーとは』
 ・『幻魔獣・ハーピーの生息地と歴史』
 ・『図解で学ぶ・アルテミス大陸語(0才~5才用)』
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