64 / 78
第三章「アドリオンの冒険者」
第六十四話「発明家の男爵」
しおりを挟む
商業区の闘技場に向かい、入り口で入場のためのチケットを買うと、温めた葡萄酒や軽食も売っていたので、俺とリーゼロッテさんは葡萄酒を購入して観戦席に進んだ。クラウディウスさんも葡萄酒を飲みたがったが、既に人間の体を失っているから食事を摂る事は出来ない。
闘技場にはギルドマスター試験の際に一度だけ入った事があるが、今日は客として席に座っているから何だか新鮮だ。闘技場の中央には魔物が入った檻がいくも置かれている。今日はガーディアンを披露し、魔物と戦わせる闘技会を行うらしい。観戦席は円形の闘技場を見下ろす形で設置されており、最大で八万人収容する事が出来るのだとか。
闘技場には造形の魔法に特化した職員が何人も居るのか、職員達が杖を振ると、そこには小さな町にしか見えない空間が出来上がった。ここが来月、俺達が国家魔術師試験を受ける場所なのだ。観客として闘技場を見渡すと、驚く程巨大な建物だという事に気が付く。
観客の数も意外と多く、少なくとも五千人以上はキルステン男爵の催し物のために入場している。リーゼロッテさんの説明によると、闘技場では基本的に毎日催し物が行われおり、ギルドマスター試験も観戦出来る仕組みになっているらしい。
主に冒険者による魔物との戦闘、それから冒険者同士の模擬戦など。有名なギルド同士の模擬戦が開かれる日には、何万人もの観客が観戦に来るのだとか。
「ラサラスにもいつか出場依頼が来るかもね。ギルド同士の模擬戦を行って、アドリオンで最強のギルドを決めてみるのも面白いんじゃない?」
「そうですが、レベッカさんがこちらに居たら相手が気の毒ですよ。試合にすらならない気がします」
「杖一振りで試合が終わるかもしれないわね。私達が今度闘技場に立つのは来月の国家魔術師試験……何だか緊張するわ」
「はい。三週間後にはここで試験を受ける事になるんですね。やはりアドリオンにも多くの冒険者が滞在する事になりますね」
「受験者は大体一週間前にはアドリオンで滞在を始めるみたいね」
三週間後には国家魔術師試験を受けるのだ。その日にエルザの運命が決まると言っても過言ではない。今の俺は魔力も肉体の状態も極めて最高に近い。今の調子を維持したまま国家魔術師試験に臨めば、確実に合格出来るだろうとレベッカさんは言っている。
しかし、試験は何が起こるか分からない。実際、毎年多くの受験者が命を落としている。冒険者として最高の実力を持っているという事を証明しなければならないのだ。命を懸けて試験に臨まなければならない。
「そろそろ始まるみたいね……」
リーゼロッテさんが呟くとすぐに闘技場の門が開き、キルステン男爵と思われる人物が入場してきた。周囲からは乾いた拍手が上がり、俺は葡萄酒を飲んで体を温め、これから披露されるガーディアンの登場に胸を高鳴らせた。
長身で赤髪、三十代前半程のキルステン男爵が銀のステッキを振り上げると、彼の背後から金属製の魔物が姿を現した。ゴブリンロードをモチーフにしているのだろうか、体の大きな金属製のゴブリンロードがゆっくりと歩いてくると、熱狂的な拍手があがった。
一体どういう仕組で歩行しているのだろうか。手にはロングソードを持っており、檻の中に居る無数の魔物を挑発すると、魔物達は怒り狂って檻を叩き始めた。
檻の中にはゴブリンが十体入っており、今からキルステン男爵のガーディアンとゴブリンが戦闘を始める。観客達はどちらが勝つか予測し、賭けを始める者も居る。
流石にミスリルで作られたガーディアンがゴブリン程度の魔物に負けると考える人は少ないのか、ガーディアンの勝利を予想する人が多い。クラウディウスさんは賭けを始めた人達に近づき、ゴブリンの勝利に千ゴールド賭けた。
ガーディアンはロングソードを構えて檻を見つめると、ついに檻が開いた。中からはナイフやショートソードを持ったゴブリンの群れが飛び出し、一斉にガーディアンに襲いかかった。
ガーディアンの攻撃力は非常に高く、剣一振りでゴブリンを真っ二つに切り裂いた。闘技場がガーディアンの戦いぶりに歓喜の声を上げたが、次の瞬間、仲間を殺されたゴブリンがガーディアンの腹部に土の塊を飛ばして攻撃を仕掛けた。
魔物は基本的に全ての種族が魔法を使用する事が出来る。ファイアゴブリンなら火属性の魔法、ゴブリンなら地属性の魔法。中でもゴブリンは土の魔法に特化しており、土を作り出す事を得意としている。ゴブリンは森で人間を待ち伏せ、遠距離から土の塊を飛ばして奇襲する。単純な魔法だから、駆け出しの冒険者でもなければゴブリンの魔法を直撃する事は無いが、ガーディアンは戦闘経験が少ないのか、ゴブリンの魔法を腹部に受けて倒れた。
それからはゴブリンの一方的な攻撃が始まった。九体のゴブリンがガーディアンを囲んで次々と攻撃を放ち、ミスリル製の腕や足を強引に引きちぎった。ゴブリン達は激昂してガーディアンを袋叩きにすると、ガーディアンは遂に命を落としたのか、黒い煙を上げて小さく爆発した。
ミスリルの様な非常に高価な素材を用いて作られたガーディアンがゴブリンを一体しか倒せなかったからか、会場からはキルステン男爵に対して罵声が浴びせられた。
勝負の結果を予測していたクラウディウスさんは掛け金を受け取ると、満足げに懐に仕舞った。ちなみに彼は普段殆どお金を使う事が無い。自分のためにはお金を使わず、浮浪者や孤児などにお金を配っているのだ。
クラウディウスさんはモーセルで冒険者の教育を行っているから、彼は毎月モーセルから三万ゴールドの報酬を受け取っている。お金を受け取っても貧しい村人や、自分が教育している冒険者に武具を買ってあげるので、モーセルの冒険者達は日増しに力を付けている。
勿論、武具を揃えれば強く慣れるという訳ではないが、切れ味の良い剣や丈夫な防具は冒険者としての生活を向上させてくれる事は間違いない。
「あのガーディアンは腕力は強いみたいだが知能が低い。きっと安い魔石でも使っているのだろう」
「魔石の能力によって魔力と知能が決まるらしいですからね」
「うむ。ミスリルの体を持っていても、実践を積まなければ魔物相手に上手く立ち回る事は出来ない。キルステン男爵は貴族だから、冒険者の動きをガーディアンに教え込む事は出来ないのだろう。私がガーディアンに教育でもすれば、あの金属の塊はもう少しまともな動きが出来たと思うのだが……」
キルステン男爵はガーディアンがゴブリン相手に敗北した事を悔しがったが、不敵な笑みを浮かべ、再びステッキを振り上げた。選手入場口からはガーゴイルをモチーフにした二メートル近い金属製のガーディアンがゆっくりと入場してきた。
青白く光るミスリルの光沢が美しく、目には大粒のルビーが嵌っており、手にはスピアとラウンドシールドを持っている。胸部に魔石が嵌っているのか、胸のパーツの隙間から僅かに小さな魔石の輝きが見える。
ガーゴイルの姿をしたガーディアンが入場口からキルステン男爵を目指して歩くと、魔石の力が切れたのか、黒い煙を上げて力なく倒れた。まさかこんな結末は誰も予測していなかっただろう。観客は入場料を返せとキルステン男爵に対して怒りの声を上げ、会場に来ていた貴族達も失望して席を立った。
ゴブリン達は力なく倒れているガーディアンを何度も殴りつけると、キルステン男爵は涙を流しながらガーディアンを抱きしめた。
「魔石さえあればこいつは幻獣だって倒せるんだ! いいや、剣鬼だって倒せるに違いない! 誰か、私に魔石を恵んでくれ……!」
観客は呆れながらも男爵に罵声を浴びせたが、俺は何だかキルステン男爵が可愛そうになったので、観客席から飛び上がってキルステン男爵の隣に着地した。剣鬼だって倒せると言っていたキルステン男爵は俺を見ると愕然とした表情を浮かべた。
ゴブリン達はガーディアンを守るキルステン男爵に攻撃を始めたので、俺はゴブリンを蹴飛ばして檻に戻した。キルステン男爵は急いで涙を拭うと、俺の手を握って覚悟を決めた表情で俺を見つめた。
「剣鬼、クラウス・ベルンシュタイン! どうか私に魔石を恵んでくれないか! いいや、一時間だけ貸してくれるだけで良いんだ! 私のガーディアンは魔石さえあればゴブリンに負ける事はない!」
「さっきは幻獣や剣鬼にも負けないと言っていましたが、その言葉は本当ですか?」
「すまない! つい興奮して剣鬼にも勝てると言ったが、冷静に考えれば君には勝てないだろう。しかし、魔獣クラスの魔物に負ける事は絶対にない! 幻獣の魔石さえあれば、こいつはもっと強くなれるんだ……! 私は全ての財産を手放してこいつを作り上げた! どうかこいつの強さを証明するためにも、魔石を貸してくれ!」
「わかりました。男爵様、俺はこれから魔石を取りに戻りますから、それまで観客を帰さないようにして下さい」
「ありがとう……ベルンシュタイン殿! 恩に着るよ!」
観客達は俺が闘技場に入ったからか、すぐに席に戻り、闘技場に集まっていた貴族達も再び席に戻った。昨日幻獣を討伐したばかりだから、町が俺に注目しているのだろう。俺は大急ぎでギルドに向かって走り、カウンターの奥に並ぶミノタウロスの魔石を取ると、すぐに闘技場に戻った。
俺が戻ると観客は更に増えており、貴族達が座る貴賓席には更に多くの貴族が押しかけていた。どうやら、キルステン男爵と俺が共同でガーディアンの開発を始めたと噂になっているみたいだ。
俺はただ魔石を一時的に貸すと言っただけなのだが、観客が適当な噂を広めたのだろう、今では一万人以上もの市民が駆け付けている。俺がキルステン男爵の隣に立った瞬間、市民達は熱狂的な歓声を上げた。
「キルステン男爵様。これはミノタウロスの魔石です、これでガーディアンの強さを皆さんに証明して下さい。俺は男爵様の研究を応援しています。人工的に作り上げた魔物が地域を守る事が出来れば、冒険者の負担は減り、衛兵もより安全に働けると思いますから」
「ミノタウロスの魔石! こんなに高価な魔石を私に貸してくれるとは……! 本当にありがとう……! 剣鬼ベルンシュタイン!」
俺はキルステン男爵に魔石を渡すと、彼はガーディアンの胸部を開いてミノタウロスの魔石を嵌めた。瞬間、魔石から爆発的な炎が上がり、ガーディアンの体を包み込んだ。
対になった翼を大きく開くと、上空に向けて大きく口を開き、強烈な炎を吐いた。ガーディアンが放った炎はヴィルヘルムさんのアイスウォールを一撃で破壊出来る程の威力だった。これがミノタウロスの魔石の力を得たガーディアンの強さなのか。
強すぎる魔法の威力に鳥肌が立ち、心臓が高鳴り始めた。人工的に作り上げた魔物が熟練の魔術師をも上回る炎を作り上げたのだ。それからガーディアンはスピアを持ち、ラウンドシールドを構えると、再び檻が開いてゴブリンの群れが飛び出した。
ガーディアンは翼を開いて上空に飛び上がり、地上のゴブリンに向けてスピアを投げて一撃で敵の命を仕留め、炎を吐いて敵の群れを燃やし尽くした。僅か二発の攻撃で九体のゴブリンを仕留めたのだ。これは間違いなく歴史を変える研究だ。貴族が作り上げた金属の塊が、自分の意思で魔物に攻撃を仕掛けたのだ。
知能が低ければ観客に攻撃を仕掛ける可能性もあるが、やはり幻獣の魔石を体内に秘めているからか、キルステン男爵の命令を聞いてゴブリンの群れを一瞬で殲滅した。圧倒的なガーディアンの戦闘力に、会場全体から大きな拍手が上がった……。
闘技場にはギルドマスター試験の際に一度だけ入った事があるが、今日は客として席に座っているから何だか新鮮だ。闘技場の中央には魔物が入った檻がいくも置かれている。今日はガーディアンを披露し、魔物と戦わせる闘技会を行うらしい。観戦席は円形の闘技場を見下ろす形で設置されており、最大で八万人収容する事が出来るのだとか。
闘技場には造形の魔法に特化した職員が何人も居るのか、職員達が杖を振ると、そこには小さな町にしか見えない空間が出来上がった。ここが来月、俺達が国家魔術師試験を受ける場所なのだ。観客として闘技場を見渡すと、驚く程巨大な建物だという事に気が付く。
観客の数も意外と多く、少なくとも五千人以上はキルステン男爵の催し物のために入場している。リーゼロッテさんの説明によると、闘技場では基本的に毎日催し物が行われおり、ギルドマスター試験も観戦出来る仕組みになっているらしい。
主に冒険者による魔物との戦闘、それから冒険者同士の模擬戦など。有名なギルド同士の模擬戦が開かれる日には、何万人もの観客が観戦に来るのだとか。
「ラサラスにもいつか出場依頼が来るかもね。ギルド同士の模擬戦を行って、アドリオンで最強のギルドを決めてみるのも面白いんじゃない?」
「そうですが、レベッカさんがこちらに居たら相手が気の毒ですよ。試合にすらならない気がします」
「杖一振りで試合が終わるかもしれないわね。私達が今度闘技場に立つのは来月の国家魔術師試験……何だか緊張するわ」
「はい。三週間後にはここで試験を受ける事になるんですね。やはりアドリオンにも多くの冒険者が滞在する事になりますね」
「受験者は大体一週間前にはアドリオンで滞在を始めるみたいね」
三週間後には国家魔術師試験を受けるのだ。その日にエルザの運命が決まると言っても過言ではない。今の俺は魔力も肉体の状態も極めて最高に近い。今の調子を維持したまま国家魔術師試験に臨めば、確実に合格出来るだろうとレベッカさんは言っている。
しかし、試験は何が起こるか分からない。実際、毎年多くの受験者が命を落としている。冒険者として最高の実力を持っているという事を証明しなければならないのだ。命を懸けて試験に臨まなければならない。
「そろそろ始まるみたいね……」
リーゼロッテさんが呟くとすぐに闘技場の門が開き、キルステン男爵と思われる人物が入場してきた。周囲からは乾いた拍手が上がり、俺は葡萄酒を飲んで体を温め、これから披露されるガーディアンの登場に胸を高鳴らせた。
長身で赤髪、三十代前半程のキルステン男爵が銀のステッキを振り上げると、彼の背後から金属製の魔物が姿を現した。ゴブリンロードをモチーフにしているのだろうか、体の大きな金属製のゴブリンロードがゆっくりと歩いてくると、熱狂的な拍手があがった。
一体どういう仕組で歩行しているのだろうか。手にはロングソードを持っており、檻の中に居る無数の魔物を挑発すると、魔物達は怒り狂って檻を叩き始めた。
檻の中にはゴブリンが十体入っており、今からキルステン男爵のガーディアンとゴブリンが戦闘を始める。観客達はどちらが勝つか予測し、賭けを始める者も居る。
流石にミスリルで作られたガーディアンがゴブリン程度の魔物に負けると考える人は少ないのか、ガーディアンの勝利を予想する人が多い。クラウディウスさんは賭けを始めた人達に近づき、ゴブリンの勝利に千ゴールド賭けた。
ガーディアンはロングソードを構えて檻を見つめると、ついに檻が開いた。中からはナイフやショートソードを持ったゴブリンの群れが飛び出し、一斉にガーディアンに襲いかかった。
ガーディアンの攻撃力は非常に高く、剣一振りでゴブリンを真っ二つに切り裂いた。闘技場がガーディアンの戦いぶりに歓喜の声を上げたが、次の瞬間、仲間を殺されたゴブリンがガーディアンの腹部に土の塊を飛ばして攻撃を仕掛けた。
魔物は基本的に全ての種族が魔法を使用する事が出来る。ファイアゴブリンなら火属性の魔法、ゴブリンなら地属性の魔法。中でもゴブリンは土の魔法に特化しており、土を作り出す事を得意としている。ゴブリンは森で人間を待ち伏せ、遠距離から土の塊を飛ばして奇襲する。単純な魔法だから、駆け出しの冒険者でもなければゴブリンの魔法を直撃する事は無いが、ガーディアンは戦闘経験が少ないのか、ゴブリンの魔法を腹部に受けて倒れた。
それからはゴブリンの一方的な攻撃が始まった。九体のゴブリンがガーディアンを囲んで次々と攻撃を放ち、ミスリル製の腕や足を強引に引きちぎった。ゴブリン達は激昂してガーディアンを袋叩きにすると、ガーディアンは遂に命を落としたのか、黒い煙を上げて小さく爆発した。
ミスリルの様な非常に高価な素材を用いて作られたガーディアンがゴブリンを一体しか倒せなかったからか、会場からはキルステン男爵に対して罵声が浴びせられた。
勝負の結果を予測していたクラウディウスさんは掛け金を受け取ると、満足げに懐に仕舞った。ちなみに彼は普段殆どお金を使う事が無い。自分のためにはお金を使わず、浮浪者や孤児などにお金を配っているのだ。
クラウディウスさんはモーセルで冒険者の教育を行っているから、彼は毎月モーセルから三万ゴールドの報酬を受け取っている。お金を受け取っても貧しい村人や、自分が教育している冒険者に武具を買ってあげるので、モーセルの冒険者達は日増しに力を付けている。
勿論、武具を揃えれば強く慣れるという訳ではないが、切れ味の良い剣や丈夫な防具は冒険者としての生活を向上させてくれる事は間違いない。
「あのガーディアンは腕力は強いみたいだが知能が低い。きっと安い魔石でも使っているのだろう」
「魔石の能力によって魔力と知能が決まるらしいですからね」
「うむ。ミスリルの体を持っていても、実践を積まなければ魔物相手に上手く立ち回る事は出来ない。キルステン男爵は貴族だから、冒険者の動きをガーディアンに教え込む事は出来ないのだろう。私がガーディアンに教育でもすれば、あの金属の塊はもう少しまともな動きが出来たと思うのだが……」
キルステン男爵はガーディアンがゴブリン相手に敗北した事を悔しがったが、不敵な笑みを浮かべ、再びステッキを振り上げた。選手入場口からはガーゴイルをモチーフにした二メートル近い金属製のガーディアンがゆっくりと入場してきた。
青白く光るミスリルの光沢が美しく、目には大粒のルビーが嵌っており、手にはスピアとラウンドシールドを持っている。胸部に魔石が嵌っているのか、胸のパーツの隙間から僅かに小さな魔石の輝きが見える。
ガーゴイルの姿をしたガーディアンが入場口からキルステン男爵を目指して歩くと、魔石の力が切れたのか、黒い煙を上げて力なく倒れた。まさかこんな結末は誰も予測していなかっただろう。観客は入場料を返せとキルステン男爵に対して怒りの声を上げ、会場に来ていた貴族達も失望して席を立った。
ゴブリン達は力なく倒れているガーディアンを何度も殴りつけると、キルステン男爵は涙を流しながらガーディアンを抱きしめた。
「魔石さえあればこいつは幻獣だって倒せるんだ! いいや、剣鬼だって倒せるに違いない! 誰か、私に魔石を恵んでくれ……!」
観客は呆れながらも男爵に罵声を浴びせたが、俺は何だかキルステン男爵が可愛そうになったので、観客席から飛び上がってキルステン男爵の隣に着地した。剣鬼だって倒せると言っていたキルステン男爵は俺を見ると愕然とした表情を浮かべた。
ゴブリン達はガーディアンを守るキルステン男爵に攻撃を始めたので、俺はゴブリンを蹴飛ばして檻に戻した。キルステン男爵は急いで涙を拭うと、俺の手を握って覚悟を決めた表情で俺を見つめた。
「剣鬼、クラウス・ベルンシュタイン! どうか私に魔石を恵んでくれないか! いいや、一時間だけ貸してくれるだけで良いんだ! 私のガーディアンは魔石さえあればゴブリンに負ける事はない!」
「さっきは幻獣や剣鬼にも負けないと言っていましたが、その言葉は本当ですか?」
「すまない! つい興奮して剣鬼にも勝てると言ったが、冷静に考えれば君には勝てないだろう。しかし、魔獣クラスの魔物に負ける事は絶対にない! 幻獣の魔石さえあれば、こいつはもっと強くなれるんだ……! 私は全ての財産を手放してこいつを作り上げた! どうかこいつの強さを証明するためにも、魔石を貸してくれ!」
「わかりました。男爵様、俺はこれから魔石を取りに戻りますから、それまで観客を帰さないようにして下さい」
「ありがとう……ベルンシュタイン殿! 恩に着るよ!」
観客達は俺が闘技場に入ったからか、すぐに席に戻り、闘技場に集まっていた貴族達も再び席に戻った。昨日幻獣を討伐したばかりだから、町が俺に注目しているのだろう。俺は大急ぎでギルドに向かって走り、カウンターの奥に並ぶミノタウロスの魔石を取ると、すぐに闘技場に戻った。
俺が戻ると観客は更に増えており、貴族達が座る貴賓席には更に多くの貴族が押しかけていた。どうやら、キルステン男爵と俺が共同でガーディアンの開発を始めたと噂になっているみたいだ。
俺はただ魔石を一時的に貸すと言っただけなのだが、観客が適当な噂を広めたのだろう、今では一万人以上もの市民が駆け付けている。俺がキルステン男爵の隣に立った瞬間、市民達は熱狂的な歓声を上げた。
「キルステン男爵様。これはミノタウロスの魔石です、これでガーディアンの強さを皆さんに証明して下さい。俺は男爵様の研究を応援しています。人工的に作り上げた魔物が地域を守る事が出来れば、冒険者の負担は減り、衛兵もより安全に働けると思いますから」
「ミノタウロスの魔石! こんなに高価な魔石を私に貸してくれるとは……! 本当にありがとう……! 剣鬼ベルンシュタイン!」
俺はキルステン男爵に魔石を渡すと、彼はガーディアンの胸部を開いてミノタウロスの魔石を嵌めた。瞬間、魔石から爆発的な炎が上がり、ガーディアンの体を包み込んだ。
対になった翼を大きく開くと、上空に向けて大きく口を開き、強烈な炎を吐いた。ガーディアンが放った炎はヴィルヘルムさんのアイスウォールを一撃で破壊出来る程の威力だった。これがミノタウロスの魔石の力を得たガーディアンの強さなのか。
強すぎる魔法の威力に鳥肌が立ち、心臓が高鳴り始めた。人工的に作り上げた魔物が熟練の魔術師をも上回る炎を作り上げたのだ。それからガーディアンはスピアを持ち、ラウンドシールドを構えると、再び檻が開いてゴブリンの群れが飛び出した。
ガーディアンは翼を開いて上空に飛び上がり、地上のゴブリンに向けてスピアを投げて一撃で敵の命を仕留め、炎を吐いて敵の群れを燃やし尽くした。僅か二発の攻撃で九体のゴブリンを仕留めたのだ。これは間違いなく歴史を変える研究だ。貴族が作り上げた金属の塊が、自分の意思で魔物に攻撃を仕掛けたのだ。
知能が低ければ観客に攻撃を仕掛ける可能性もあるが、やはり幻獣の魔石を体内に秘めているからか、キルステン男爵の命令を聞いてゴブリンの群れを一瞬で殲滅した。圧倒的なガーディアンの戦闘力に、会場全体から大きな拍手が上がった……。
1
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
天才テイマーが変態である諸事情記
蛇ノ眼
BL
天才テイマーとして名をはせる『ウィン』。
彼の実力は本物だが……少し特殊な性癖を持っていて……
それは『魔物の雄しか性的対象として見る事が出来ない』事。
そんな彼の夢は……
『可愛い魔物ちゃん(雄のみ)のハーレムを作って幸せに過ごす!』事。
夢を実現させるためにウィンの壮大な物語?が動き出すのだった。
これはウィンを取り巻く、テイマー達とその使い魔達の物語。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる