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第二章「王都への旅」
第三十二話「旅と野営」
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ヴェルナーを出発して北の森を進み、王都アドリオンを目指す。ヴェルナーからアドリオンまでは馬車で約一ヶ月の距離だ。途中で冒険者が多く暮らす町、レマルクを経由する。レマルクで食料や日用品等を買い足し、再びアドリオンに向けて馬車を走らせる予定だ。
御者台には俺とティファニーが乗っており、ヴィルヘルムさんは荷台で魔法の練習をしている。ヴィルヘルムさんは本格的に国家魔術師を目指し始めてから、暇な時間があれば常に魔法を使用しているのだ。移動の時間にも魔法を学びたいとの事で、俺とティファニーが交代で手綱を握る事にしている。
馬車を牽く大柄のウィンドホースという魔物は、風属性の魔獣クラスの魔物だが、知能は非常に高く、ゴブリンやスケルトン程度の魔物なら軽々と蹴散らして進む事が出来る。冒険者のレベルで換算すると、最低でもレベル二十程度の強さはあるだろうと、俺とティファニーは考えている。
ウィンドホースはアーセナルのギルドマスター、バラックさんが俺達のために用意してくれた魔物だ。馬車を牽くための馬を探していた時、バラックさんが野生のウィンドホースを手懐けてくれたのだ。
馬車の形状は幌馬車で、荷台を守るための幌は雨風を弾くだけでなく、弱い火属性の魔法を打ち消す効果を持つ、非常に高価なファイアリザードの革から作られている。荷台には三人分の毛布と食料、体力を回復させるヒールポーションに魔力を回復させるマナポーション。それから狂戦士の果実から作った狂戦士の秘薬等。旅に必要な物はある程度揃っている。
ヴィルヘルムさんが旅には酒が必要だと言ったので、荷台にはかなりの量の葡萄酒が積まれている。ヴィルヘルムさんは魔物の襲撃に警戒しながら魔法の練習をし、一日の移動が終われば野営地でお酒を飲み出す。ヴィルヘルムさん曰く、退屈な旅はお酒が無ければやっていられてないのだとか。
ティファニーは旅の間に読みたい本があるらしく、分厚い本を二十冊程荷台に積んでいる。保存食やポーションに囲まれた狭い空間で本を読むのが日々の楽しみなのだとか。
今日も移動を終えて野営の支度を始めた。食事はティファニーとヴィルヘルムさんが用意する決まりになっており、俺は野営地の見回りをして魔物が潜んでいないか確認する。
左手に炎を作り出し、暗闇の森を照らしながら進む。魔物が暮らす森に人間が足を踏み入れると、たちまち魔物が姿を現して人間を襲い出す。特に夜の森は魔物が凶暴になっており、闇に潜んで人間を殺めようと無数の罠を仕掛けている場合もある。
力のない者が夜の森を徘徊するのは自殺行為である。熟練の冒険者でも、暗闇で無数の魔物を狩り続けるのは至難の技だが、俺達は魔物討伐を生業としている冒険者。それに、将来は国家魔術師を目指しているのだから、森に巣食う魔物に負ける訳にはいかないのだ。
前方で微かに葉が揺れる音がした。右手にクレイモアを持ち、左手に灯した炎を消して気配を立つ。物音を立てずにゆっくりと近づくと、そこには見た事もない魔物が居た。どうやら殺した人間の肉を喰らっているのか、地面には人間の死体がある。
人間を殺める悪質な魔物は俺の剣で叩き切るまでだ。民を守る冒険者として、人間を襲う存在はいかなる者も討伐すると決めている。身長は百五十センチ程、まるで人間の様な体をしているが、手には石の棍棒を持っており、顔はゴブリンの様に醜い。土色の肌を隠す様にボロの布を纏い、俺の存在に気づかずに一心不乱に肉を喰らっている、
筋肉は大きく盛り上がっており、何日も体を洗っていないのか、魔物の体からは悪臭が漂っている。俺は人間を喰らう魔物の姿を見て無性に怒りがこみ上げてきた。俺達冒険者が民を守ろうとしても、魔物達はこうして当たり前の様に人間を殺すのだ。
左手で木を殴り、魔物に俺の居場所を教える。正面から圧倒的な力でねじ伏せてやる。よくも人間を殺したな……。
筋肉が異常なまでに発達した醜い魔物は、食事をする手を止めてから、静かに俺を見つめた。目は血走っており、髪は乱れ、肝心なところを隠すボロの布には人間の血液が付いている。
「ファイアボルト……」
敵が武器を構える前に、俺は敵の胴体に炎の矢を撃ち込んだ。魔物は悍ましい呻き声を上げると、周囲からは続々と同種族の仲間が現れた。敵の数は全部で四体。駆け付けてきた三体の魔物は身長二メートルを超える巨体だ。きっと人間を仕留めた小柄の個体は、まだ成長中なのだろう。
これ程体が大きく、群れで人間を殺める魔物はヴェルナーの近辺には生息していなかった。生息数が少ない魔物なのだろうか、俺は以前読んだ魔物図鑑の内容を思い出した。『人間に近い容姿をしているが、顔は醜く、体内に地属性の魔力を持つ魔獣クラスの魔物、トロル。体は大きく、筋肉は発達しているが、知能は低いので戦闘方法は非常に単純。有り余る筋肉で敵を叩き潰す以外に戦い方を知らない』確かこんな文章が書かれていた。
それからトロルの説明欄にこうも書かれていた。『トロルは魔物を引き連れて行動する習性を持つ。一体のトロルを見つけたら、最低でも三体の魔物を従えていると思え』と。人間を好んで喰らう地属性の魔物。これはますます生かしておく訳にはいかなくなった。
仲間のトロルは腹から血を流すトロルを見て、激昂し、巨大な石の棍棒を振り上げた。俺は敵が攻撃の動作に入った瞬間、クレイモアで敵の体を真っ二つに切り裂いた。攻撃があまりにも遅すぎる。重い棍棒を振り上げるための動作は大ぶり、攻撃に移るまでの無駄の多い動作。こんなに頭の悪い魔物が人間を殺して喰らっていたと思うと、俺は猛烈に腹が立った。
並の人間では敵わない強力な魔物に殺されるのは仕方ないとして、強くもなく、頭の悪い魔物に殺された人間が居るという事が腹立たしいのだ。大抵森で命を落とす人間は山菜採りをしている者だったり、地元の冒険者だ。森に潜む魔物を見くびって一人で森に入り、魔物から攻撃を受けて命を落とす場合が多い。
森に入れば命を落とす可能性がある、というのはこの大陸に住む者なら幼い頃から言い聞かされている言葉だ。森は人間の領域ではなく、魔物の領域。ヴェルナーの様に多くの冒険者が暮らす地域なら、近隣の森にも冒険者が立ち入る事が多く、森は比較的安全と言えるが、ヴェルナーから王都アドリオンに方面の、冒険者もあまり立ち入る事のない深い森に入る事は、間違いなく自殺行為だ。
トロルはクレイモアの一撃で命を落とし、俺は敵の体を切る事によって、魔力強奪の効果が発生し、体内には魔力が溢れた。残る三体のトロルは怯えながらも棍棒を振り上げて攻撃を仕掛けてきたが、俺は一撃も喰らう事もなく、全ての敵を薙ぎ払った。
トロルに殺害された人間は既に身元を調べる事も難しい程、死体の損傷が激しい。俺はせめて死体を喰われない様にと炎で燃やした。それから小さな墓を作ると、ヴィルヘルムさんとティファニーが駆け付けてきた。
「大丈夫か? クラウス!」
「ええ。大丈夫ですよ。ヴィルヘルムさん」
「人が殺されたの……?」
「ああ。きっと一人で森に入ったんだろうね……」
「トロルが四体か。確かに集団で行動するトロルに出くわせば、冒険者でも生き延びる事は難しいかもしれんな。俺達も気をつけて夜を過ごす事にしよう」
「そうですね」
三人で墓に手を合わせてから、野営地に戻ってヴィルヘルムさんとティファニーが作ってくれた料理を頂く。中途半端に戦闘を行ってしまったからか、体が興奮している。俺は食事を終えてから四時間ほど剣の稽古をする事にした。
クレイモアは既に自分の体の一部の様に動き、筋肉を増やすために徹底的に鍛えているからか、身の丈ほどの両刃の大剣を軽々と片手で触れる様になった。全身の筋肉を刺激する様に、クレイモアで永遠と素振りをし、大量の汗を流してから森で行水をする。
ヴィルヘルムさんが作り出した水を浴びてから、体を隅々まで洗う。風呂に入れたら良いのだが、森での生活にそんな文明的なものはない。それでも冬の洞窟で一人で暮らしていた時よりは体を清潔に保てる事が出来る。
ティファニーは既に疲れて眠ってしまったのか、狭い荷台で心地良さそうに毛布にくるまっている。ヴィルヘルムさんは御者台に座り、周囲を見渡しながら葡萄酒を飲んでいる。時折、魔物が襲撃してくる事があるが、朝を迎えるまでは俺とヴィルヘルムさんはティファニーを守りながら起きている事にしているので、ティファニーに危険が及ぶ事はない。
疲労が限界を迎えた時にのみ、ヴィルヘルムさんと交代で睡眠を取る事にしている。魔物達は人間を殺すために周囲に身を隠し、人間の気が緩んだ時や、眠りに就いた瞬間に襲い掛かってくる。
魔物が接近した瞬間にヴィルヘルムさんが氷の槍を飛ばすと、大抵の魔物は馬車に近づく事は不可能と判断して引き下がるが、知能の低い魔物はそれでも襲い掛かってくる。そんな時は俺がクレイモアで敵を叩き切る。
魔物からいつ襲撃されるかも分からない森での生活は、ヴェルナーで暮らしていた時よりも遥かに過酷だが、この劣悪な環境、少人数でお互いを守りながら過ごす生活が俺達の絆を強め、戦闘技術を高めてくれる。
御者台で葡萄酒を飲むヴィルヘルムさんの隣に座ると、彼は俺に乾燥肉を差し出した。訓練によって傷ついた筋肉を効率良く癒やすために、俺は毎日大量のタンパク質を摂取する事にしている。それから堅焼きパンや堅焼きビスケットの様な、日持ちする炭水化物を多く摂取し、いつ魔物に襲撃されても空腹を感じない様に工夫している。
「ますます剣の腕を上げたな、クラウス。トロルを物音一つ立てずに狩れる様になるとは」
「ありがとうございます。ですが、今の俺ではまだデーモンを仕留める事は出来ません」
「そうだろうな。デーモンは幻獣クラスの中でも聖獣に近い実力を持っている。幻獣といっても強さは種族によって異なる。サイクロプスやオーガの様な巨人に分類される幻獣は、ゴブリンロード等とは比較にならない程の戦闘力を持っているらしい」
「やっぱりデーモンはゴブリンロードよりも強いと考えた方が良いですよね」
「うむ。だが、俺達三人がこのまま鍛え続ければ、いずれはデーモンを倒せる程の力を身に付けられるだろう……」
それからヴィルヘルムさんはローゼさんとの思い出を語りながら、楽しそうに葡萄酒を飲んで眠りに就いた。俺はヴィルヘルムさんに毛布を掛け、彼の近くに炎の球を浮かべて体を冷やさない様にと、朝まで見張りをしながら夜を過ごした……。
御者台には俺とティファニーが乗っており、ヴィルヘルムさんは荷台で魔法の練習をしている。ヴィルヘルムさんは本格的に国家魔術師を目指し始めてから、暇な時間があれば常に魔法を使用しているのだ。移動の時間にも魔法を学びたいとの事で、俺とティファニーが交代で手綱を握る事にしている。
馬車を牽く大柄のウィンドホースという魔物は、風属性の魔獣クラスの魔物だが、知能は非常に高く、ゴブリンやスケルトン程度の魔物なら軽々と蹴散らして進む事が出来る。冒険者のレベルで換算すると、最低でもレベル二十程度の強さはあるだろうと、俺とティファニーは考えている。
ウィンドホースはアーセナルのギルドマスター、バラックさんが俺達のために用意してくれた魔物だ。馬車を牽くための馬を探していた時、バラックさんが野生のウィンドホースを手懐けてくれたのだ。
馬車の形状は幌馬車で、荷台を守るための幌は雨風を弾くだけでなく、弱い火属性の魔法を打ち消す効果を持つ、非常に高価なファイアリザードの革から作られている。荷台には三人分の毛布と食料、体力を回復させるヒールポーションに魔力を回復させるマナポーション。それから狂戦士の果実から作った狂戦士の秘薬等。旅に必要な物はある程度揃っている。
ヴィルヘルムさんが旅には酒が必要だと言ったので、荷台にはかなりの量の葡萄酒が積まれている。ヴィルヘルムさんは魔物の襲撃に警戒しながら魔法の練習をし、一日の移動が終われば野営地でお酒を飲み出す。ヴィルヘルムさん曰く、退屈な旅はお酒が無ければやっていられてないのだとか。
ティファニーは旅の間に読みたい本があるらしく、分厚い本を二十冊程荷台に積んでいる。保存食やポーションに囲まれた狭い空間で本を読むのが日々の楽しみなのだとか。
今日も移動を終えて野営の支度を始めた。食事はティファニーとヴィルヘルムさんが用意する決まりになっており、俺は野営地の見回りをして魔物が潜んでいないか確認する。
左手に炎を作り出し、暗闇の森を照らしながら進む。魔物が暮らす森に人間が足を踏み入れると、たちまち魔物が姿を現して人間を襲い出す。特に夜の森は魔物が凶暴になっており、闇に潜んで人間を殺めようと無数の罠を仕掛けている場合もある。
力のない者が夜の森を徘徊するのは自殺行為である。熟練の冒険者でも、暗闇で無数の魔物を狩り続けるのは至難の技だが、俺達は魔物討伐を生業としている冒険者。それに、将来は国家魔術師を目指しているのだから、森に巣食う魔物に負ける訳にはいかないのだ。
前方で微かに葉が揺れる音がした。右手にクレイモアを持ち、左手に灯した炎を消して気配を立つ。物音を立てずにゆっくりと近づくと、そこには見た事もない魔物が居た。どうやら殺した人間の肉を喰らっているのか、地面には人間の死体がある。
人間を殺める悪質な魔物は俺の剣で叩き切るまでだ。民を守る冒険者として、人間を襲う存在はいかなる者も討伐すると決めている。身長は百五十センチ程、まるで人間の様な体をしているが、手には石の棍棒を持っており、顔はゴブリンの様に醜い。土色の肌を隠す様にボロの布を纏い、俺の存在に気づかずに一心不乱に肉を喰らっている、
筋肉は大きく盛り上がっており、何日も体を洗っていないのか、魔物の体からは悪臭が漂っている。俺は人間を喰らう魔物の姿を見て無性に怒りがこみ上げてきた。俺達冒険者が民を守ろうとしても、魔物達はこうして当たり前の様に人間を殺すのだ。
左手で木を殴り、魔物に俺の居場所を教える。正面から圧倒的な力でねじ伏せてやる。よくも人間を殺したな……。
筋肉が異常なまでに発達した醜い魔物は、食事をする手を止めてから、静かに俺を見つめた。目は血走っており、髪は乱れ、肝心なところを隠すボロの布には人間の血液が付いている。
「ファイアボルト……」
敵が武器を構える前に、俺は敵の胴体に炎の矢を撃ち込んだ。魔物は悍ましい呻き声を上げると、周囲からは続々と同種族の仲間が現れた。敵の数は全部で四体。駆け付けてきた三体の魔物は身長二メートルを超える巨体だ。きっと人間を仕留めた小柄の個体は、まだ成長中なのだろう。
これ程体が大きく、群れで人間を殺める魔物はヴェルナーの近辺には生息していなかった。生息数が少ない魔物なのだろうか、俺は以前読んだ魔物図鑑の内容を思い出した。『人間に近い容姿をしているが、顔は醜く、体内に地属性の魔力を持つ魔獣クラスの魔物、トロル。体は大きく、筋肉は発達しているが、知能は低いので戦闘方法は非常に単純。有り余る筋肉で敵を叩き潰す以外に戦い方を知らない』確かこんな文章が書かれていた。
それからトロルの説明欄にこうも書かれていた。『トロルは魔物を引き連れて行動する習性を持つ。一体のトロルを見つけたら、最低でも三体の魔物を従えていると思え』と。人間を好んで喰らう地属性の魔物。これはますます生かしておく訳にはいかなくなった。
仲間のトロルは腹から血を流すトロルを見て、激昂し、巨大な石の棍棒を振り上げた。俺は敵が攻撃の動作に入った瞬間、クレイモアで敵の体を真っ二つに切り裂いた。攻撃があまりにも遅すぎる。重い棍棒を振り上げるための動作は大ぶり、攻撃に移るまでの無駄の多い動作。こんなに頭の悪い魔物が人間を殺して喰らっていたと思うと、俺は猛烈に腹が立った。
並の人間では敵わない強力な魔物に殺されるのは仕方ないとして、強くもなく、頭の悪い魔物に殺された人間が居るという事が腹立たしいのだ。大抵森で命を落とす人間は山菜採りをしている者だったり、地元の冒険者だ。森に潜む魔物を見くびって一人で森に入り、魔物から攻撃を受けて命を落とす場合が多い。
森に入れば命を落とす可能性がある、というのはこの大陸に住む者なら幼い頃から言い聞かされている言葉だ。森は人間の領域ではなく、魔物の領域。ヴェルナーの様に多くの冒険者が暮らす地域なら、近隣の森にも冒険者が立ち入る事が多く、森は比較的安全と言えるが、ヴェルナーから王都アドリオンに方面の、冒険者もあまり立ち入る事のない深い森に入る事は、間違いなく自殺行為だ。
トロルはクレイモアの一撃で命を落とし、俺は敵の体を切る事によって、魔力強奪の効果が発生し、体内には魔力が溢れた。残る三体のトロルは怯えながらも棍棒を振り上げて攻撃を仕掛けてきたが、俺は一撃も喰らう事もなく、全ての敵を薙ぎ払った。
トロルに殺害された人間は既に身元を調べる事も難しい程、死体の損傷が激しい。俺はせめて死体を喰われない様にと炎で燃やした。それから小さな墓を作ると、ヴィルヘルムさんとティファニーが駆け付けてきた。
「大丈夫か? クラウス!」
「ええ。大丈夫ですよ。ヴィルヘルムさん」
「人が殺されたの……?」
「ああ。きっと一人で森に入ったんだろうね……」
「トロルが四体か。確かに集団で行動するトロルに出くわせば、冒険者でも生き延びる事は難しいかもしれんな。俺達も気をつけて夜を過ごす事にしよう」
「そうですね」
三人で墓に手を合わせてから、野営地に戻ってヴィルヘルムさんとティファニーが作ってくれた料理を頂く。中途半端に戦闘を行ってしまったからか、体が興奮している。俺は食事を終えてから四時間ほど剣の稽古をする事にした。
クレイモアは既に自分の体の一部の様に動き、筋肉を増やすために徹底的に鍛えているからか、身の丈ほどの両刃の大剣を軽々と片手で触れる様になった。全身の筋肉を刺激する様に、クレイモアで永遠と素振りをし、大量の汗を流してから森で行水をする。
ヴィルヘルムさんが作り出した水を浴びてから、体を隅々まで洗う。風呂に入れたら良いのだが、森での生活にそんな文明的なものはない。それでも冬の洞窟で一人で暮らしていた時よりは体を清潔に保てる事が出来る。
ティファニーは既に疲れて眠ってしまったのか、狭い荷台で心地良さそうに毛布にくるまっている。ヴィルヘルムさんは御者台に座り、周囲を見渡しながら葡萄酒を飲んでいる。時折、魔物が襲撃してくる事があるが、朝を迎えるまでは俺とヴィルヘルムさんはティファニーを守りながら起きている事にしているので、ティファニーに危険が及ぶ事はない。
疲労が限界を迎えた時にのみ、ヴィルヘルムさんと交代で睡眠を取る事にしている。魔物達は人間を殺すために周囲に身を隠し、人間の気が緩んだ時や、眠りに就いた瞬間に襲い掛かってくる。
魔物が接近した瞬間にヴィルヘルムさんが氷の槍を飛ばすと、大抵の魔物は馬車に近づく事は不可能と判断して引き下がるが、知能の低い魔物はそれでも襲い掛かってくる。そんな時は俺がクレイモアで敵を叩き切る。
魔物からいつ襲撃されるかも分からない森での生活は、ヴェルナーで暮らしていた時よりも遥かに過酷だが、この劣悪な環境、少人数でお互いを守りながら過ごす生活が俺達の絆を強め、戦闘技術を高めてくれる。
御者台で葡萄酒を飲むヴィルヘルムさんの隣に座ると、彼は俺に乾燥肉を差し出した。訓練によって傷ついた筋肉を効率良く癒やすために、俺は毎日大量のタンパク質を摂取する事にしている。それから堅焼きパンや堅焼きビスケットの様な、日持ちする炭水化物を多く摂取し、いつ魔物に襲撃されても空腹を感じない様に工夫している。
「ますます剣の腕を上げたな、クラウス。トロルを物音一つ立てずに狩れる様になるとは」
「ありがとうございます。ですが、今の俺ではまだデーモンを仕留める事は出来ません」
「そうだろうな。デーモンは幻獣クラスの中でも聖獣に近い実力を持っている。幻獣といっても強さは種族によって異なる。サイクロプスやオーガの様な巨人に分類される幻獣は、ゴブリンロード等とは比較にならない程の戦闘力を持っているらしい」
「やっぱりデーモンはゴブリンロードよりも強いと考えた方が良いですよね」
「うむ。だが、俺達三人がこのまま鍛え続ければ、いずれはデーモンを倒せる程の力を身に付けられるだろう……」
それからヴィルヘルムさんはローゼさんとの思い出を語りながら、楽しそうに葡萄酒を飲んで眠りに就いた。俺はヴィルヘルムさんに毛布を掛け、彼の近くに炎の球を浮かべて体を冷やさない様にと、朝まで見張りをしながら夜を過ごした……。
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