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第一章「剣鬼の誕生」
第十二話「魔石と少女」
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普段ならダンジョンで狩りをしている朝の時間に、ゆっくりと町を見物しながらヴィルヘルムさんと歩いている。ヴィルヘルムさんは睡眠時間以外のほぼ全てを魔法の訓練に費やし、歩いている最中にも小さな氷の塊を作り、宙に浮かせて制御している。
冒険者登録をしてから三週間で俺はレベル四十五になり、ヴィルヘルムさんはレベル四十まで上昇した。既にダンジョンの八階層までなら、無傷で魔物を狩れる様になった。俺もヴィルヘルムさんも新たな魔法を習得して一気に強くなり、アーセナルで月の一度のクエストに挑戦する事に決めている。
専属契約をしている冒険者はアーセナルで俺以外にはおらず。一体どんな高難易度のクエストを遂行しなければならないのか、不安で仕方がないが、ヴィルヘルムさんの防御魔法があればなんとかなるだろう。
暫く町を歩くと、一軒の魔石店を見つけた。魔法は魔石か魔導書を使用して習得する事が出来る。魔導書の方が魔石よりも高価で、魔法の使用方法や応用技術等も明記されている。より入門者向けなのが魔導書だ。魔石は肌で魔力を感じ、試行錯誤しながら魔法を習得しなければならないが、魔導書は魔法を習得するために必要な練習法や、魔法の効果等を学ぶ事が出来る。
俺達は魔石で魔法を習得する事にした。魔導書は本の書き手の体験談の様なものだ。魔導書は高レベルの魔術師が魔法をより簡単に習得出来る様にと作った物だが、魔石があれば魔法を感じる事が出来るのだが、特に必要はないと思っている。
店内に入ると、色とりどりの魔石が綺麗に陳列されていた。どうやら属性ごとに売り場が分かれているみたいだ。俺は火属性の魔石が並ぶ棚の前に立ち、美しい火の魔力を穏やかに放出する魔石を眺めた。品揃えも豊富で、魔石についての説明も丁寧に書かれている。
使い勝手の良い攻撃魔法を習得したいが、一体どんな魔法を習得すれば良いのか分からない。俺はファイアボルトと書かれた魔石に目が行った。どうやら炎の矢を作り出す魔法らしい。攻撃速度はファイアボールよりも早く、威力は低いが、消費魔力が少ないので、火属性の入門者が好んで使用する攻撃魔法らしい。
カウンターでは恰幅の良い四十代程の女性が紅茶を飲んでいる。恐らくこの店の店主だろう。
「ティファニー、キャサリン、お客さんだよ!」
店主が叫ぶと、店の奥から二人の少女が姿を現した。深紫色のローブを纏い、銀の杖を持つ少女。眼鏡の奥には紫水晶の様な澄んだ瞳が輝いている。以前俺に百ゴールド貸してくれた人だ。きっと店主の娘なのだろう。彼女は俺の事を覚えていたのか、嬉しそうに微笑むと、彼女の美しさに胸が高鳴った。
「こんにちは。また会いましたね」
「お久しぶりです。あの時はありがとうございました」
「ああ、お金ですか。気にしないで下さい。それよりも、魔法を学んでいた方だったんですね」
「はい。最近始めたばかりですが」
「火属性ですか……?」
「はい。火属性の攻撃魔法を探しています」
「討伐対象は決まっていますか?」
「ええ。幻獣のゴブリンロードとデーモンです」
「まぁ、幻獣クラスの魔物に挑戦するんですか?」
「そのつもりですが、今の俺では幻獣を倒す事は難しいと思うので、更に強力な攻撃魔法を習得したいと思いまして」
少女は目を見開いて驚き、俺を見つめた。ヴィルヘルムさんには彼女の妹だろうか。十二歳程の少女が接客している。
「だから、アイスシールドとアイスジャベリン。これは基本だって。氷属性を極めたいんでしょう?」
「そうだが……アイスシールド? 氷の盾の魔法か? 俺は既に氷の壁を作れるのだが」
「壁と盾は使い道が違うでしょう? 魔物が多く巣食うダンジョンで大きな壁なんて作っても邪魔しだ、盾の方が使い勝手が良いんだって!」
「確かに、そういう考え方も出来るな」
「だから、盾と槍を使い分けて戦うの。アイスジャベリンは鋭利な槍を作り出す魔法。防御魔法ばかり学んでいてもしょうがないでしょう?」
「それはそうだが、基本的に攻撃魔法は仲間に任せているんだ」
「魔法職なのに情けない。防御も攻撃も出来て一流の魔術師でしょう?」
「それを言われると反論出来ないな……」
背の低い少女はヴィルヘルムさんに説教をする様な口調で魔石を薦めている。それから二つの魔石を押し付けると、ヴィルヘルムさんは困惑しながら魔石を購入した。
「ごめんなさい、妹は礼儀を知らなくて……」
「まぁ、ヴィルヘルムさんはあれくらいで怒る人じゃありませんから、大丈夫ですよ。妹さんは魔法に詳しいんですね」
「はい。十二歳でレベル三十を超えているんです。将来は国家魔術師になるのが夢なんですって」
エルザも国家魔術師になるのが夢だ。俺は彼女の夢を叶えるためにも、デーモンに復讐するためにも、更に強くならなければならないんだ……。
「実は、俺の妹も国家魔術師を目指していたんですよ」
「目指していた……ですか?」
「はい、今は眠りに就いていますが……」
「それはどういう事です?」
「実は、デーモンから死の呪いを受けて、昏睡状態に陥っているんです。現在は回復の魔法陣による治療を受けていますが。呪いを解除しない限り、妹が目を覚ます事はないみたいです」
「まぁ。デーモンの呪いですか。呪いを解くには恐らく……聖獣クラスの魔物の力を借りなければなりませんね」
瞬時に聖獣の力が必要だと理解出来る彼女は、やはり魔法に関してかなり知識があるのだろう。きっとヴィルヘルムさん以上に魔法に精通しているはずだ。
「はい。ですが、聖獣に関する情報がなかなか入手出来なくて、生息数も少ないみたいですから」
「それなら、私が調べておきます。私は魔石屋ですから、店の倉庫には魔物に関する書物もありますし」
「手伝って貰っても良いんですか?」
「はい! お役に立てるなら。その代わりといってはなんですが、私のお願いも聞いてくれませんか?」
「俺に出来る事なら何でもしますよ」
「実は私、冒険者になるのが夢なんです! ですが、母は私が弱いからと言って冒険者になる事を認めてくれないんです」
「え? 冒険者を目指しているんですか?」
「はい……そうなんですが、一人では魔物も狩れないんです。魔物を狩る方法を教えてくれませんか……?」
彼女が寂しそうに俯くと、買い物を終えたヴィルヘルムさんが近づいてきた。それから彼女の妹が俺の前に立つと、自身に満ち溢れた表情で俺を見つめた。つり目気味で、黒い髪を綺麗に結んでいる。随分気が強そうな見た目をしているな。
「ティファニーは弱いんだから冒険者になんてなれる訳ないの。それよりも、冒険者さんって剣鬼でしょう? アーセナルのマスターと勝負して圧勝したっていう。私に提案があるんだけど」
「提案?」
「そう。私、将来は国家魔術師を目指しているんだ。良かったら私とパーティーを組まない? 未来の国家魔術師が誘ってあげるんだから、感謝しなさいよね」
「え……? 感謝だって?」
「だから、私とパーティーを組んで冒険者として生きるの。私は将来、必ず国家魔術師になるから。その時も私の前衛として使ってあげるわ」
「キャサリン! 使ってあげるなんて失礼でしょう? 早く謝りなさい!」
「どうして? だって未来の国家魔術師が直々に誘ってるんだよ? むしろ感謝されてもいいくらいじゃない?」
俺は呆れて言葉を失った。エルザも国家魔術師を目指していたが、魔法に対する真剣さが違った。仲間を使うと表現するあたりが気に入らない。
「戦闘中には仲間を信じて命を預けながら戦う。仲間のために攻撃を受けて血を流す事もある。長い間、まともに食事をとれない事もある。君にはその覚悟があるのかい?」
「覚悟? 魔物なんて私の魔法で一撃なんだから必要ないよ。ねぇお母さん」
「そうね。キャサリンならきっと国家魔術師になれると思うわ。ティファニーとは出来が違うからね」
「それはどういう事です? ティファニーさんが弱いと?」
「ええ。姉妹でこうもレベルが違うなんて変な話だけど、ティファニーは十五歳でレベル二十。キャサリンは十二歳でレベル三十。どっちが優れてるかなんてレベルだけでも判断出来るでしょう? キャサリンは強いから冒険者としてもやっていけるでしょうけど、ティファニーは魔物と戦った事もないし、内気だから冒険者になんてなれやしないわ。ええ、ティファニーは一生この店で魔石を売って過ごせば良いのよ」
「そうね、弱虫のティファニーなんてずっと魔石を売っていればいいのよ」
店主も妹もティファニーさんの事を理解しようともしていない。ティファニーさんは目に涙を浮かべ、静かに店を出た。
「強ければ冒険者になる事を認めるのですか?」
「そうね、せめて魔物を百体狩れるなら、冒険者になる事を認めてもいいかもしれないわね。まぁティファニーには一生かかっても無理だと思うけど」
「それでは奥さん。ティファニーさんが魔物を百体討伐した際には、冒険者になる事を認めるという事ですね?」
「ティファニーばっかりずるい! 私も冒険者登録したい!」
「それじゃ一週間以内にティファニーが魔物を百体狩れたら、その時は冒険者になる事を認めるよ。だけど、もしこの挑戦に失敗したら、ティファニーは一生魔石屋として暮らす。レベッカも同じ条件だよ」
「わかりました。条件をティファニーさんに伝えてきます」
ヴィルヘルムさんは店主からティファニーさんが冒険者になるための条件を聞き出すと、扉を開けて店を出た。魔物討伐の経験すらない人が、果たして一週間で魔物を百体も討伐出来るのだろうか。いや、確実に不可能だ。レベル二十ならゴブリンやガーゴイル程度の魔物は狩れるだろうが、問題は本人が一人では魔物を狩れないと思っている事だ。
魔石を買いに来た筈が、家庭の問題に首を突っ込む事になってしまったが、ティファニーさんは聖獣に関する情報を集めてくれると言ってくれた。その代わり俺は彼女に魔物を倒す方法を教える。あくまで自分自身の力で魔物を百体討伐しなければ、店主は娘が冒険者になる事を認めない。
まずは魔石を買わなければならない。他人を手伝う事も大切だが、俺はエルザを救わなければならない。俺は炎の矢を飛ばす魔法、ファイアボルトの魔石を購入すると、店を出てヴィルヘルムさんを探し始めた……。
冒険者登録をしてから三週間で俺はレベル四十五になり、ヴィルヘルムさんはレベル四十まで上昇した。既にダンジョンの八階層までなら、無傷で魔物を狩れる様になった。俺もヴィルヘルムさんも新たな魔法を習得して一気に強くなり、アーセナルで月の一度のクエストに挑戦する事に決めている。
専属契約をしている冒険者はアーセナルで俺以外にはおらず。一体どんな高難易度のクエストを遂行しなければならないのか、不安で仕方がないが、ヴィルヘルムさんの防御魔法があればなんとかなるだろう。
暫く町を歩くと、一軒の魔石店を見つけた。魔法は魔石か魔導書を使用して習得する事が出来る。魔導書の方が魔石よりも高価で、魔法の使用方法や応用技術等も明記されている。より入門者向けなのが魔導書だ。魔石は肌で魔力を感じ、試行錯誤しながら魔法を習得しなければならないが、魔導書は魔法を習得するために必要な練習法や、魔法の効果等を学ぶ事が出来る。
俺達は魔石で魔法を習得する事にした。魔導書は本の書き手の体験談の様なものだ。魔導書は高レベルの魔術師が魔法をより簡単に習得出来る様にと作った物だが、魔石があれば魔法を感じる事が出来るのだが、特に必要はないと思っている。
店内に入ると、色とりどりの魔石が綺麗に陳列されていた。どうやら属性ごとに売り場が分かれているみたいだ。俺は火属性の魔石が並ぶ棚の前に立ち、美しい火の魔力を穏やかに放出する魔石を眺めた。品揃えも豊富で、魔石についての説明も丁寧に書かれている。
使い勝手の良い攻撃魔法を習得したいが、一体どんな魔法を習得すれば良いのか分からない。俺はファイアボルトと書かれた魔石に目が行った。どうやら炎の矢を作り出す魔法らしい。攻撃速度はファイアボールよりも早く、威力は低いが、消費魔力が少ないので、火属性の入門者が好んで使用する攻撃魔法らしい。
カウンターでは恰幅の良い四十代程の女性が紅茶を飲んでいる。恐らくこの店の店主だろう。
「ティファニー、キャサリン、お客さんだよ!」
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「はい。火属性の攻撃魔法を探しています」
「討伐対象は決まっていますか?」
「ええ。幻獣のゴブリンロードとデーモンです」
「まぁ、幻獣クラスの魔物に挑戦するんですか?」
「そのつもりですが、今の俺では幻獣を倒す事は難しいと思うので、更に強力な攻撃魔法を習得したいと思いまして」
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「だから、アイスシールドとアイスジャベリン。これは基本だって。氷属性を極めたいんでしょう?」
「そうだが……アイスシールド? 氷の盾の魔法か? 俺は既に氷の壁を作れるのだが」
「壁と盾は使い道が違うでしょう? 魔物が多く巣食うダンジョンで大きな壁なんて作っても邪魔しだ、盾の方が使い勝手が良いんだって!」
「確かに、そういう考え方も出来るな」
「だから、盾と槍を使い分けて戦うの。アイスジャベリンは鋭利な槍を作り出す魔法。防御魔法ばかり学んでいてもしょうがないでしょう?」
「それはそうだが、基本的に攻撃魔法は仲間に任せているんだ」
「魔法職なのに情けない。防御も攻撃も出来て一流の魔術師でしょう?」
「それを言われると反論出来ないな……」
背の低い少女はヴィルヘルムさんに説教をする様な口調で魔石を薦めている。それから二つの魔石を押し付けると、ヴィルヘルムさんは困惑しながら魔石を購入した。
「ごめんなさい、妹は礼儀を知らなくて……」
「まぁ、ヴィルヘルムさんはあれくらいで怒る人じゃありませんから、大丈夫ですよ。妹さんは魔法に詳しいんですね」
「はい。十二歳でレベル三十を超えているんです。将来は国家魔術師になるのが夢なんですって」
エルザも国家魔術師になるのが夢だ。俺は彼女の夢を叶えるためにも、デーモンに復讐するためにも、更に強くならなければならないんだ……。
「実は、俺の妹も国家魔術師を目指していたんですよ」
「目指していた……ですか?」
「はい、今は眠りに就いていますが……」
「それはどういう事です?」
「実は、デーモンから死の呪いを受けて、昏睡状態に陥っているんです。現在は回復の魔法陣による治療を受けていますが。呪いを解除しない限り、妹が目を覚ます事はないみたいです」
「まぁ。デーモンの呪いですか。呪いを解くには恐らく……聖獣クラスの魔物の力を借りなければなりませんね」
瞬時に聖獣の力が必要だと理解出来る彼女は、やはり魔法に関してかなり知識があるのだろう。きっとヴィルヘルムさん以上に魔法に精通しているはずだ。
「はい。ですが、聖獣に関する情報がなかなか入手出来なくて、生息数も少ないみたいですから」
「それなら、私が調べておきます。私は魔石屋ですから、店の倉庫には魔物に関する書物もありますし」
「手伝って貰っても良いんですか?」
「はい! お役に立てるなら。その代わりといってはなんですが、私のお願いも聞いてくれませんか?」
「俺に出来る事なら何でもしますよ」
「実は私、冒険者になるのが夢なんです! ですが、母は私が弱いからと言って冒険者になる事を認めてくれないんです」
「え? 冒険者を目指しているんですか?」
「はい……そうなんですが、一人では魔物も狩れないんです。魔物を狩る方法を教えてくれませんか……?」
彼女が寂しそうに俯くと、買い物を終えたヴィルヘルムさんが近づいてきた。それから彼女の妹が俺の前に立つと、自身に満ち溢れた表情で俺を見つめた。つり目気味で、黒い髪を綺麗に結んでいる。随分気が強そうな見た目をしているな。
「ティファニーは弱いんだから冒険者になんてなれる訳ないの。それよりも、冒険者さんって剣鬼でしょう? アーセナルのマスターと勝負して圧勝したっていう。私に提案があるんだけど」
「提案?」
「そう。私、将来は国家魔術師を目指しているんだ。良かったら私とパーティーを組まない? 未来の国家魔術師が誘ってあげるんだから、感謝しなさいよね」
「え……? 感謝だって?」
「だから、私とパーティーを組んで冒険者として生きるの。私は将来、必ず国家魔術師になるから。その時も私の前衛として使ってあげるわ」
「キャサリン! 使ってあげるなんて失礼でしょう? 早く謝りなさい!」
「どうして? だって未来の国家魔術師が直々に誘ってるんだよ? むしろ感謝されてもいいくらいじゃない?」
俺は呆れて言葉を失った。エルザも国家魔術師を目指していたが、魔法に対する真剣さが違った。仲間を使うと表現するあたりが気に入らない。
「戦闘中には仲間を信じて命を預けながら戦う。仲間のために攻撃を受けて血を流す事もある。長い間、まともに食事をとれない事もある。君にはその覚悟があるのかい?」
「覚悟? 魔物なんて私の魔法で一撃なんだから必要ないよ。ねぇお母さん」
「そうね。キャサリンならきっと国家魔術師になれると思うわ。ティファニーとは出来が違うからね」
「それはどういう事です? ティファニーさんが弱いと?」
「ええ。姉妹でこうもレベルが違うなんて変な話だけど、ティファニーは十五歳でレベル二十。キャサリンは十二歳でレベル三十。どっちが優れてるかなんてレベルだけでも判断出来るでしょう? キャサリンは強いから冒険者としてもやっていけるでしょうけど、ティファニーは魔物と戦った事もないし、内気だから冒険者になんてなれやしないわ。ええ、ティファニーは一生この店で魔石を売って過ごせば良いのよ」
「そうね、弱虫のティファニーなんてずっと魔石を売っていればいいのよ」
店主も妹もティファニーさんの事を理解しようともしていない。ティファニーさんは目に涙を浮かべ、静かに店を出た。
「強ければ冒険者になる事を認めるのですか?」
「そうね、せめて魔物を百体狩れるなら、冒険者になる事を認めてもいいかもしれないわね。まぁティファニーには一生かかっても無理だと思うけど」
「それでは奥さん。ティファニーさんが魔物を百体討伐した際には、冒険者になる事を認めるという事ですね?」
「ティファニーばっかりずるい! 私も冒険者登録したい!」
「それじゃ一週間以内にティファニーが魔物を百体狩れたら、その時は冒険者になる事を認めるよ。だけど、もしこの挑戦に失敗したら、ティファニーは一生魔石屋として暮らす。レベッカも同じ条件だよ」
「わかりました。条件をティファニーさんに伝えてきます」
ヴィルヘルムさんは店主からティファニーさんが冒険者になるための条件を聞き出すと、扉を開けて店を出た。魔物討伐の経験すらない人が、果たして一週間で魔物を百体も討伐出来るのだろうか。いや、確実に不可能だ。レベル二十ならゴブリンやガーゴイル程度の魔物は狩れるだろうが、問題は本人が一人では魔物を狩れないと思っている事だ。
魔石を買いに来た筈が、家庭の問題に首を突っ込む事になってしまったが、ティファニーさんは聖獣に関する情報を集めてくれると言ってくれた。その代わり俺は彼女に魔物を倒す方法を教える。あくまで自分自身の力で魔物を百体討伐しなければ、店主は娘が冒険者になる事を認めない。
まずは魔石を買わなければならない。他人を手伝う事も大切だが、俺はエルザを救わなければならない。俺は炎の矢を飛ばす魔法、ファイアボルトの魔石を購入すると、店を出てヴィルヘルムさんを探し始めた……。
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