デーモンズブラッド - 「自己再生」と「魔力強奪」で成り上がり -

花京院 光

文字の大きさ
上 下
1 / 78
第一章「剣鬼の誕生」

第一話「復讐者の誕生」

しおりを挟む
 二月一日、今日は妹の十歳の誕生日だ。五歳年下のエルザは好奇心旺盛で、将来は国家魔術師になるのが夢だ。俺はそんなエルザのために、少ない小遣いを一年間貯金し、魔法の杖を購入した。

 妹の誕生日を祝うために、前日にはケーキを焼き、夜遅くまで室内を飾り付けた。俺の家は裕福ではないが、誕生日等のお祝い事にはこうしてケーキを用意し、家族全員で祝う決まりになっている。

 ファステンバーグ王国、王都アドリオンの南部に位置する農村、レーヴェ。窓を開けて空気を換気する。冬の冷たい空気が狭い室内に流れ込み、体温で暖められた布団の熱を奪った。

 四十センチ程の木製の杖を構え、魔術師の真似事をしてみるが、俺は魔法の才能が無いのか、人生で一度も魔法が成功した事はない。しかし、妹のエルザは強い魔力を持っている。生まれつき魔力が高い者は魔法を習得して魔術師となり、地域を守りながら暮らすのが一般的だ。

 俺もエルザの様に魔力が高かったら、きっと魔術師を目指していただろう。俺自身、十五歳の今日まで一度も夢を持った事が無い。農村で暮らしているから、将来は農業に携わり、村で恋人を作り、そのまま結婚するのだろうと思っている。

 エルザは幼いが向上心があり、将来は必ず偉大な魔術師になると心に決めているのだ。この美しい杖は彼女の夢を応援するために購入した物。杖があれば魔法の威力を上昇させる事が出来ると聞いた事がある。きっと妹なら将来は大陸の歴史に名を残す魔術師になれるだろう。

 エルザに贈るための杖を持ち、服装を整えてから、部屋の扉を開けた。すると、俺の目の前には頭部から血を流す父が居た。普段なら綺麗に整えている髪は乱れ、右手にはロングソードを持っている。エルザの誕生日だというのに、村で何か騒動でもあったのだろうか。

 レーヴェは小さな農村だからか、時折魔物が村を襲撃する事がある。そういう時は父の様に力が強く、剣の心得がある者や、魔法を使用出来る村人が魔物を討伐する決まりになっている。きっとゴブリンかガーゴイルのような低級の魔物でも湧いたのだろう。

「大変だ! 村の上空にデーモンが現れた! すぐに逃げる準備をするんだ!」
「デーモン? それは何の冗談だい? 幻獣クラスの魔物がこんな小さな村を襲う訳が無いよ」
「馬鹿者! この怪我を見ろ! 幻獣のデーモンが無数の魔物を従えて襲撃してきた! エルザを起こしてすぐに逃げるぞ!」
「まさか! 本当なのかい……?」
「これは避難訓練ではない! クラウス! 俺や母さんが死んでも、お前がエルザを守り抜くんだぞ! さぁ、すぐにエルザを起こせ!」

 普段は声を荒らげる事も無い父が大声で怒鳴った。幻獣クラスの魔物は一体で村や町を壊滅させる力を持つ。とても一介の村人達では太刀打ち出来る魔物ではない。

 国家魔術師の様な、魔術師の中でも最も優れた、強力な魔法を操る者か、熟練の冒険者集団でも居ない限り、幻獣クラスの魔物を仕留める事は出来ない。村の外から悲鳴が聞こえてきた。木造の家を震わせる程の火の魔法が上空で炸裂すると、俺は自分の死を予感した。人間を殺すには十分すぎる程の強烈な魔法が次々と炸裂しているのだ。

 それから父が飛び出すと、俺は妹の部屋を叩いた。可愛らしいピンク色のパジャマを着た愛らしい妹が眠たそうに扉を開くと、エルザは俺が手に持っている杖を見て微笑んだ。

「おはよう! お兄ちゃん! こんなに早くからどうしたの? 大好きな妹の顔を見たくなったのかな……?」
「エルザ。落ち着いて聞いてくれ。今、俺達の村が魔物の襲撃を受けている。残念だけどエルザの誕生日パーティーはお預けだ」
「嘘! どうして私の誕生日にそんな嘘をつくの? お兄ちゃんなんて大嫌い……! 今日は私の十歳の誕生日なのに!」
「エルザ。頼むから良い子にしておくれ。今はそんな事を言っている場合じゃないんだ!」
「そんな事って! 妹の誕生日なんてどうでもいいんだ……もう知らない! 勝手にすれば! 魔物が村まで入ってくる訳が無いじゃない! いつものゴブリンかガーゴイルでしょう? そんな魔物なんてお父さんが倒してくれるもん!」

 エルザはエメラルド色の瞳に涙を溜め、すっかり機嫌を悪くして座り込んだ。話していても埒が明かない。俺はエルザの小さな体を無理矢理抱き上げ、家を飛び出した。

 そこには凄惨な光景が広がっていた。巨大な石の魔物、ゴーレムが民家を叩き潰し、ガーゴイルが上空から村に炎を放っている。木造の住宅がゴーレムに叩き潰される爆音が静かな村に轟き、上空には一体の黒い体をした魔物が旋回している。

「クラウス! 森に逃げろ! 俺達は魔物を食い止める!」
「娘を任せたわ……! クラウス!」

 魔術師の母は氷の魔法をゴーレムに対して放ち、敵を食い止めようとしているが、体長が四メートルをも超える石の魔物には母の魔法は通用しなかった。父は上空を舞うガーゴイルに対して跳躍し、ロングソードの一撃を放った。父の剣は大理石の様な肌をしたガーゴイルを砕いたが、ガーゴイルの群れの注意を引いたのか、無数のガーゴイルが父に炎を放った。こんな時に魔法が使えたら父に加勢するのだが。俺は何と無力なのだろうか……。

 しかし、十五歳から冒険者として魔物討伐を生業としていた父が魔物との勝負で負けた事はない。だが、今回は敵があまりにも多すぎる。俺の瞳には自然と涙が溢れ出し、幼い妹は村の状況を理解したのか、俺の手から魔法の杖を奪い取り、上空を旋回する人型の幻獣、デーモンに向けて掲げた。

「何をしているんだ! デーモンを挑発するな!」
「私の村を襲うなんて許さない! 私は国家魔術師になるんだから! デーモンだって倒してみせる!」
「やめろ! 殺されるぞ!」

 エルザは以前母から教わった、氷の塊を飛ばすアイスショットの魔法を使用すると、杖の先端が輝き、小さな氷が宙に浮かんだ。エルザは杖で突きを放つ様に、デーモンに向けて氷の塊を飛ばすと、デーモンはエルザの魔法を退屈そうに手で払った。

 まるで人間が小さな虫を追い払う様に、圧倒的な力の差を見せつけながら、俺とエルザを睨みつけた。瞬間、デーモンは爆発的な咆哮を上げて、急降下を始めた。エルザの魔法がデーモンの気に障ったのか、背中から黒い翼が生えた悍ましい魔物が接近してくると、俺はエルザを抱き上げて冬の森に入った。

 背後から母の悲鳴が聞こえた。母がデーモンの注意を引くために攻撃を仕掛けたのだろう。それから父の叫び声が聞こえると、俺は泣きじゃくりながら森を駆けた。体力が限界に達しても、決して後ろを振り向かず、エルザを抱えながら走った。瞬間、俺達の目の前にデーモンが着地した。

 体長は三メートル程だろうか。黒い皮膚に血走った瞳。爪は刃物の様に鋭利で、頭部からは二本の黒い角が生えている。俺は巨体のデーモンを見上げた瞬間、生命の終わりを予感した。人間を殺すには十分すぎる程の体格、体から感じる強烈な闇の魔力。右手には黒い魔力が纏わり付いており、俺はデーモンの初撃で確実に命を落とすと悟った。人間が立ち向かって良い相手ではないのだ。とても一介の村人が倒せる相手ではない。

 だが、両親からエルザを任されているんだ。せめて妹だけでも助けなければ……。俺はエルザの前に立ち、両手を広げた。

「殺すなら俺を殺せ!」
「お兄ちゃん! 何してるの……? 本当に殺されちゃうよ!」
「良いんだ! エルザを守れるなら! さぁ、俺を殺せ! その代わり妹は逃してくれ! 俺一人の命で満足だろう? 逃げろ! エルザ!」
「お兄ちゃんを置いて逃げるなんて……」

 エルザは大粒の涙を浮かべながらゆっくりと後退を始めると、デーモンは悍ましい表情を浮かべてエルザを睨みつけた。まるで俺の事など眼中に無い様だ。せめてデーモンに一撃でも喰らわせてから死にたいものだ。妹を守って死ねるなら本望。エルザが生き延びれば、彼女はきっと偉大な魔術師になり、俺の仇を討ってくれる筈だ。死ぬ事は恐ろしいが、家族を守りながら死ねるのだから、人生に悔いはない。

 デーモンが翼を開き、エルザを睨みつけた瞬間、敵の狙いがエルザだと分かった。男が命を捨てて妹を守る覚悟で立っているというのに、俺を無視するとは……。

 俺は拳を握り締め、全力でデーモンの腹部を殴った。デーモンの皮膚は鉄の様に固く、俺の拳は一撃で砕けた。手には激痛が走り、俺は痛みに悶えながら左手でデーモンの腕を掴み、敵の手に噛み付いた。格好悪くても良い。一秒でも長くデーモンの注意を引けるならそれで良いんだ……。

 全力でデーモンの手を噛むと、黒い皮膚が裂け、口にはデーモンの血が流れてきた。デーモンは人間に体を傷つけられた事が気に触ったのか、まるで服に付いた埃でも落とす様に手を払うと、俺の体は宙を舞った。

 上手く着地出来ずに地面に落下すると、両足に激痛が走った。きっと骨が折れているのだろう。意識を失いそうな激痛に耐えながら、俺はデーモンの足首を掴み、何度も敵の足を噛んだ。

「そんなに死にたいのか……?」

 デーモンが低い声で訪ねると、俺は返事をせずに敵の皮膚を噛み切った。デーモンは森を逃げる妹を見たあと、俺の体を持ち上げて妹の傍に投げた。体はまるで言う事を聞かないが、俺はそれでも必死に這いつくばってデーモンの前に進んだ。

「逃げろ……! エルザ!」
「お兄ちゃん……ごめんね……いつか国家魔術師なったら……お兄ちゃんの仇を討つから! 絶対に私がデーモンを倒すから!」

 エルザが叫ぶと、デーモンは右手を突き出して妹に向けた。瞬間、黒い魔力の塊が空を裂き、エルザの体に激突した。殺された……。俺は妹の死を悟った。俺は何と無力なのだろうか。愛する妹すら救えなかった。俺に魔法の力があったら、国家魔術師級の力があったらデーモンを殺せたかもしれない……。

「生かすべきは勇敢な者。いつか俺を殺しに来い」
「よくもエルザを……! 復讐してやる……力を付けて必ずお前を殺す!」
「いつでも相手になろう」

 デーモンは捨て台詞を吐き、巨大な翼を開いて上空に飛び上がった。それからデーモンは暫く村の上空を旋回すると、村からは魔物が撤退を始めた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

天才テイマーが変態である諸事情記

蛇ノ眼
BL
天才テイマーとして名をはせる『ウィン』。 彼の実力は本物だが……少し特殊な性癖を持っていて…… それは『魔物の雄しか性的対象として見る事が出来ない』事。 そんな彼の夢は…… 『可愛い魔物ちゃん(雄のみ)のハーレムを作って幸せに過ごす!』事。 夢を実現させるためにウィンの壮大な物語?が動き出すのだった。 これはウィンを取り巻く、テイマー達とその使い魔達の物語。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...