上 下
49 / 49

49 エピローグ(2)

しおりを挟む

「リディ、私は十歳の君に会った日から、君が好きだよ。深窓の御令嬢だと思っていたら本当はお転婆令嬢だと知って、もっと惹かれていった。ずっと君を、君だけを愛している」
「! ク、クリス……さ、ま……」

 声が掠れる。瞳が濡れていく。見失いたくない。貴方を見つめていたい。私だって、私だって──。

「勘違いされるようなことをしたのならごめん。でもいつだって私の行動原理はリディだ。君の心を手に入れることが私の目標だった。ゲームのことを聞いてからは、君と一緒に生き残って、想いを告げることが目標になった。だから、やっと叶う」

 クリス様の顔が近づいてきたかと思うと、額同士をコツンと付き合わせた。あの時のアラン様達のような仕草に驚く。思わず至近距離でクリス様を見上げると、意地悪そうな瞳がニヤリと弧を描いていた。

「リディがアランを気にかけているからいけないんだ。生き残ってアランの姿を見るのが目標だったなんて!」
「え!? それはステラとセットですわ! そ、そんな……わたくし別にアラン様が特別なわけではなくて……!」
「じゃあ聞かせて? リディの特別は、だれ?」

 触れている額から、握られている手から、見つめられている瞳から、きっと全部伝わってしまっている。でも意地悪なこのお方は、私に言葉で示せと言っている。真っ赤な顔を手で覆うことも、逸らすことも出来ない。瞳に溜まった涙はツーっと頬を濡らした。

「リディ」
「……クリス様です……」

 思ったよりも小さな声で答えてしまった。「え?」とクリス様が聞くので、もう一度。

「クリス様が! わたくしの! 世界で一番特別で大切で、大好きな御方ですッ!」

 恥ずかしくて目を閉じて言い切ったのだが反応がない。恐る恐る目を開けてみると、顔を真っ赤にしているクリス様がいた。
 目が合った瞬間、額も手もパッと離され、クリス様は片手で口元を覆いながら顔を逸らす。でも見えている左耳は真っ赤で、照れていることは明らかだ。な、なにそれ、可愛い! 照れているクリス様、とっても可愛い!

「だ、大好きですわ! わたくしもクリス様をお慕いしております! あ、愛しています!」

 もっと照れた顔が見たくて恥ずかしいけれど本心をぶちまける。するとクリス様がキッとこちらを向き、目にも止まらぬ速さで唇を塞がれた。

「んんっ!」
「好きだ」
「本当に?」
「リディを愛している」
「ステラのことを気にしていませんか?」
「全く。彼女に書いてもらったレポートを読んで、リディに会えない日々を乗り越えた。そういう意味では感謝しているが、恋愛感情は全くない。私が好きなのは、リディだけだ」
「クリス様……! 大好き!」

 ぎゅっとクリス様に抱きつくと、そのまま唇を奪われた。ぎゅっと抱きしめられる。

「……それ以上可愛いことを言うと、結婚式まで待てなくなる……」
「待たなくては、なりませんの?」
「!」
「接吻では子は出来ないと習いましたわ!」
「!!」

 キスは結婚式を待たなくても何度したっていいのではないだろうか。妃教育で「接吻くらいではお子はできません」と教えてもらった。子ができない程度の接吻なら構わないのでは。そう思っていると、何かを我慢した様子のクリス様が唸りながらぎゅっと抱きしめてくれた。


 それからの日々は慌しかった。
 街の復興、被害にあった人々の慰問、補償、魔物の調査。

 サンドラはしばらく目をさまさなかったが、次に覚した時には魔王だったことを忘れていた。調べると魔力が底を尽きていた。
 そこで元々の実家である王都のドレス名店で、服飾師として生きていくよう生活を整えた。

 そして今日。やっと、この佳き日を迎えることができた。

「綺麗だ」

 そう言うクリス様も、今日は白いタキシードに身を包んでいて麗しい王子様そのものだ。
 
「クリス様も素敵です」
「ありがとう」

 二人で紅い絨毯の上を歩く。

 ゲームでは命を落とす運命だったこの国の重鎮達が笑顔で祝福をしてくれる。
 ステラがアラン様と身を寄せ合いながら泣いている。貴女のおかげよ。
 キース様もお兄様も優しい笑顔で見守ってくれている。二人が生き残ってくれて嬉しい。
 男泣きしているお父様をお母様が慰めている。お母様がご無事でよかった。
 
「クリストファー殿下。病める時も健やかなる時も、永遠に妻を愛し、慈しみ、支え合い、添い遂げることを誓いますか?」
「はい。誓います」
「リディア・メイトランド嬢。病める時も健やかなる時も、永遠に夫を愛し、慈しみ、支え合い、添い遂げることを誓いますか?」
「はい。誓います」


 その日、最強の王太子夫婦が誕生した。

 数年後、彼らの御代となった時代には、魔王復活の傷跡は見る影もなく、王国は繁栄したそうだ。クリストファー陛下は歴代最強と言われるほどの魔術師であり、その力は他国にもその名を轟かせた。
 そしてその奥方、リディア王妃も『聖女』と呼ばれ、聖石と呼ばれる癒しの石で人々を癒して回ったそうだ。彼女は普通のご婦人とは違い、自ら馬に乗り剣を振る騎士でもあった。

 二人は仲睦まじく子宝にも恵まれ、その生涯、国のために翻弄しながらも幸せに暮らしたそうだ──。

fin
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ゆずれもん
2023.10.01 ゆずれもん

おもしろかったです(^^♪
王太子の溺愛執着ぶりが私的にツボでしたが、あぁ終わってしまった…と。
何かの検索でここ最近読んでましたが 一気読みするならちょうど良いくらいの話の長さではないでしょうか。
話が長すぎるといつしか追うのをやめてしまっている作品も多いので(^^;)

窓辺ミナミ
2023.10.03 窓辺ミナミ

ゆずれもん様

この度はお忙しい中、私の作品を読んでくださってありがとうございました!
また、お礼が大変遅くなりましたこと、申し訳ありません。

おもしろかったとのご感想をいただけて、本当に嬉しいです!ありがとうございます!
コンテストに参加する為に、駆け足で更新しまくり最後はドタバタしておりましたが、無事完結出来て作者としてもスッキリしております。ちょうど良い話の長さとおっしゃっていただけて、感無量です。

感想をいただけて、今後の執筆活動の励みになりました!!
未熟な点も多いかと思いますが、今後も色々書いてまいりますので、よかったらまた読みにきていただけたら幸いです。

本当にありがとうございました!!

窓辺ミナミ

解除

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。