48 / 49
48 エピローグ(1)
しおりを挟む
空は雲ひとつない澄み渡る青、花々が咲き乱れる陽光の春。
我が国の大聖堂の控室。私は純白のドレスに身を包んでいる。胸元は見事なバラの刺繍が施され、腰から下は幾重にもシルクの布とレースが重なり上品に広がっていくデザインだ。背中は大胆に見せて、大きな白のリボンが引き立っている。後ろは美しい刺繍と真珠が散りばめられたロングトレーン。深紅の髪はシンプルにまとめ、真珠のイヤリングで上品に着飾った。ブルーダイヤのブレスレットももちろん身につけている。
魔王戦から半年、被害地域の復興は急ピッチで進められた。
クリス様が作った聖剣の模造剣は、お兄様もキース様も所持していて、魔物を薙ぎ倒し被害を最小限に抑えたとのこと。
今や、生徒会メンバーだった面々は国の英雄としてもてはやされていた。
「お綺麗ですよ」
「ありがとうございます。キース様」
お兄様もキース様も無事でよかった。そこへドアがノックされる。
「リディア様! 来ちゃいましたー! ひゃー! 綺麗ですね!」
「ありがとうステラ」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
アラン様とステラが仲睦まじくやってきた。
「もしかしてこのドレス」
「そうよ。サンドラが作ったの。素敵でしょう? わたくしの希望を全部叶えてくれたのよ」
サンドラは服飾師として再出発することになった。もう魔法が使えない身体になったらしい。
「もう殿下には見せたんですか?」
「いいえ? これからよ?」
「!」
その場が凍りつく。え、私何か変なこと言った?
「お、おい、クリスより先に見たって知られたら、俺たち……」
「やばいな、リディ黙ってろよ」
「逃げるが勝ちです。退散しましょう」
「もう! 殿下は怒ったら怖いんですよ! リディア様ったら!」
「ええ!?」
なぜかみんなクリス様を恐れてゾロゾロと退出していった。鏡に映る自分は幸せそうな顔をしている。お兄様は悪役顔だなんていうけれど、ゲームの中で見ていた『リディア』とは別人だわ。それはきっと、クリス様のおかげ。
*
魔王戦の後、王城へ戻った私たちは、すぐに国王陛下に謁見した。魔王は弱体化して捕らえた事、王都はステラの光魔法で消化され木々が芽吹き始めていることを報告する。
国民の被害も最小限であることが分かり、翌日から早速復興作業が始まることとなった。
「よくぞ無事で戻った。クリストファー。そしてリディア」
「ありがとう存じます」
「父上。国の再建の目処が立ちましたら、すぐに私とリディアの結婚式を挙げたいのですが」
「!」
クリス様の発言に思わず目を見張る。え、結婚式!? わ、私と!?
「いいだろう。他国への牽制にもなる。なるべく早めに執り行うこととしよう」
「ありがとうございます」
国王陛下は穏やかに私達に微笑みかけてくださった。それは国の主というよりは、クリス様の父親として、息子の門出を祝うかのような柔らかな笑みだった。
ふわふわとした気持ちで、謁見から戻り、クリス様に手を引かれるがまま王城の中を歩く。王城は魔物の攻撃を避け無事だったようだ。そういえばゲームでも無事だった気がする。
ぐるぐると細い螺旋階段を登ると、高い塔の上に出た。以前、妃教育で王城の仕組みを知るために登って以来だ。
ところどころ瓦礫の山となっている場所もあるが、木々が育ち草花が咲いた街並みは遠目で見ても美しい。空は青く、鳥達も飛び交い、風も気持ちがいい。
「綺麗ですね」
「ああ。しかし家を失った者もいるだろうから、これからなるべく早く再建していかなくては」
「そうですわね」
孤児院の子ども達は大丈夫だっただろうか。王都だけではなく他の所領の被害も気になる。本当にこれから忙しくなるに違いないわ。険しい顔で考え事をしていると、クリス様が、私の眉間の皺を人差し指でツンとした。
「……リディの笑顔が好きだ」
「!」
「一生懸命で、筋トレもする、剣術が上手な君が好きだ。悩む姿も走る姿も、涙に濡れる姿も愛おしい。だけど一番はリディの笑った顔が好きだ」
「……っ」
クリス様は私の手を取った。大きくてゴツゴツとした手で包まれる。風で冷えた手が、大きな手で温められていく。
キラキラと輝く薄青の瞳が真っ直ぐに私を射抜いた。目が、そらせない。
我が国の大聖堂の控室。私は純白のドレスに身を包んでいる。胸元は見事なバラの刺繍が施され、腰から下は幾重にもシルクの布とレースが重なり上品に広がっていくデザインだ。背中は大胆に見せて、大きな白のリボンが引き立っている。後ろは美しい刺繍と真珠が散りばめられたロングトレーン。深紅の髪はシンプルにまとめ、真珠のイヤリングで上品に着飾った。ブルーダイヤのブレスレットももちろん身につけている。
魔王戦から半年、被害地域の復興は急ピッチで進められた。
クリス様が作った聖剣の模造剣は、お兄様もキース様も所持していて、魔物を薙ぎ倒し被害を最小限に抑えたとのこと。
今や、生徒会メンバーだった面々は国の英雄としてもてはやされていた。
「お綺麗ですよ」
「ありがとうございます。キース様」
お兄様もキース様も無事でよかった。そこへドアがノックされる。
「リディア様! 来ちゃいましたー! ひゃー! 綺麗ですね!」
「ありがとうステラ」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
アラン様とステラが仲睦まじくやってきた。
「もしかしてこのドレス」
「そうよ。サンドラが作ったの。素敵でしょう? わたくしの希望を全部叶えてくれたのよ」
サンドラは服飾師として再出発することになった。もう魔法が使えない身体になったらしい。
「もう殿下には見せたんですか?」
「いいえ? これからよ?」
「!」
その場が凍りつく。え、私何か変なこと言った?
「お、おい、クリスより先に見たって知られたら、俺たち……」
「やばいな、リディ黙ってろよ」
「逃げるが勝ちです。退散しましょう」
「もう! 殿下は怒ったら怖いんですよ! リディア様ったら!」
「ええ!?」
なぜかみんなクリス様を恐れてゾロゾロと退出していった。鏡に映る自分は幸せそうな顔をしている。お兄様は悪役顔だなんていうけれど、ゲームの中で見ていた『リディア』とは別人だわ。それはきっと、クリス様のおかげ。
*
魔王戦の後、王城へ戻った私たちは、すぐに国王陛下に謁見した。魔王は弱体化して捕らえた事、王都はステラの光魔法で消化され木々が芽吹き始めていることを報告する。
国民の被害も最小限であることが分かり、翌日から早速復興作業が始まることとなった。
「よくぞ無事で戻った。クリストファー。そしてリディア」
「ありがとう存じます」
「父上。国の再建の目処が立ちましたら、すぐに私とリディアの結婚式を挙げたいのですが」
「!」
クリス様の発言に思わず目を見張る。え、結婚式!? わ、私と!?
「いいだろう。他国への牽制にもなる。なるべく早めに執り行うこととしよう」
「ありがとうございます」
国王陛下は穏やかに私達に微笑みかけてくださった。それは国の主というよりは、クリス様の父親として、息子の門出を祝うかのような柔らかな笑みだった。
ふわふわとした気持ちで、謁見から戻り、クリス様に手を引かれるがまま王城の中を歩く。王城は魔物の攻撃を避け無事だったようだ。そういえばゲームでも無事だった気がする。
ぐるぐると細い螺旋階段を登ると、高い塔の上に出た。以前、妃教育で王城の仕組みを知るために登って以来だ。
ところどころ瓦礫の山となっている場所もあるが、木々が育ち草花が咲いた街並みは遠目で見ても美しい。空は青く、鳥達も飛び交い、風も気持ちがいい。
「綺麗ですね」
「ああ。しかし家を失った者もいるだろうから、これからなるべく早く再建していかなくては」
「そうですわね」
孤児院の子ども達は大丈夫だっただろうか。王都だけではなく他の所領の被害も気になる。本当にこれから忙しくなるに違いないわ。険しい顔で考え事をしていると、クリス様が、私の眉間の皺を人差し指でツンとした。
「……リディの笑顔が好きだ」
「!」
「一生懸命で、筋トレもする、剣術が上手な君が好きだ。悩む姿も走る姿も、涙に濡れる姿も愛おしい。だけど一番はリディの笑った顔が好きだ」
「……っ」
クリス様は私の手を取った。大きくてゴツゴツとした手で包まれる。風で冷えた手が、大きな手で温められていく。
キラキラと輝く薄青の瞳が真っ直ぐに私を射抜いた。目が、そらせない。
65
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる