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45 嘘と偽りと聖剣!(7)
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洞窟を出ると、見覚えのある森に出た。
ここは学園の裏の森だ。
魔王は空高く舞い上がり、シクシクと泣いている。
「イヤヨ……イヤ……ナンデ、ワタシ、マオウ二……マオウナンカニウマレタノ……! マダ、シニタクナイ!!」
悲痛な叫びは黒い空に轟き、じわじわと魔物を引き寄せる。
「泣いてるのか」
「可哀想になってきました」
「そうね……」
しかしこのままでは世界は暗闇のまま。彼女を、魔王を止めなければならない。
「クリス様、その剣は本物ですか?」
「違う。模造剣だ。アランに協力してもらい、聖剣を研究して作成した。やはり模造剣では致命傷を負わせることはできないのか……」
「聖剣は今どこに?」
「アランが持っている」
魔物が次々と魔王のもとへ舞い込み、傷付いた身体が魔物によって補強されていく。
「ギャァァァ」
すでに人の形をなくし、異形の姿となったサンドラ。魔王の完全体なのだろうか。皮膚は浅黒く、頭にはツノが生え、不気味に光る瞳と牙。
やがて奇声と共に背中から真っ黒の翼をはやし、さらに高く飛び立つ。
「逃げられてしまう!」
飛び立つ魔王を呆然と三人で見つめる。
(私……私は……)
十歳のお茶会で倒れた日。自分が悪役令嬢だと気づいたあの日。私は、絶望した。また死ぬ運命なのか、と。
だけどそれに抗うために今日まで努力してきた。「アラン様とステラの神スチルが見たい」というオタク心が動機だったけれど、血の滲むような努力を重ねて、聖魔法を身につけて。聖石を作ったことで、お母様を救った。
(死ぬのは嫌だった。悪役令嬢なんて、嫌だったわ。だから変えた。変えていったのよ)
奇声を発しながら魔王が飛んでいる。クリス様とステラがそれぞれ攻撃魔法を展開しているが、効果は無いようだ。だが、攻撃を受けるたびに発する奇声が、サンドラの叫びのようで、私は耳を塞ぎたい気持ちになっていた。
見上げる魔王の真っ赤な瞳から、雫が落ちてきた気がしたからかもしれない。
(もしあれが、私だったら……?)
お兄様やキース様を傷つけたのは許せない。でももし私だったら。その運命から抗えたのだろうか。
サンドラの哀しき運命を目の当たりにして、私は動揺を隠せない。だって。だってサンドラは──。
文化祭で、クラスの出し物を決める時、衣装係をお願いした時のサンドラは、とても可愛らしかった。少し照れながら、それでも『力の限り頑張ります!』と宣言した彼女。
クラス全員の衣装の用意は大変だったに違いない。女子達みんなで、フリルを付け足す作業をした時だって、張り切って仕切ってくれていた。
日本人だった彼女だからこそ、協力して良い文化祭にしようと奮闘してくれたのだと思う。もしかしたら私の前世のように、文化祭なんて楽しんだことが無い人生だったのかもしれない。
活き活きとみんなで放課後に残って作業した日々。文化祭までの数日間は、きっと宝物になったはず。
(ねぇ? サンドラ。そうでしょう?)
魔王を救おうと、魔物がたくさん湧いて出てきた。帯剣しているのはクリス様だけだが、ステラは接近戦も得意なので、拳に聖魔法を纏わせて殴って倒していく。クリス様も大規模な聖魔法を展開して魔物をどんどん殲滅していく。
だが数が多すぎる。
私も聖魔法を飛ばすが、倒しても倒しても魔物がわらわらと襲ってきて、サンドラまで辿り着けない……!
その時、上級魔物から私に向かって瘴気が放たれた。まずい、避けられない!
「リディ!」
クリス様は前方で魔物と対峙している。ステラは後方にいて魔法を展開している途中だ。
そこへ一筋の光が放たれ、瘴気がパァッと消えた。放たれた光の元を見ると、お兄様とキース様が揃って立っている。
「お兄様!」
「キース様!」
先程映像で見た二人は、確かに魔物に攻撃されていた。サンドラも二人が亡くなったかのように言っていたのに……!!
ここは学園の裏の森だ。
魔王は空高く舞い上がり、シクシクと泣いている。
「イヤヨ……イヤ……ナンデ、ワタシ、マオウ二……マオウナンカニウマレタノ……! マダ、シニタクナイ!!」
悲痛な叫びは黒い空に轟き、じわじわと魔物を引き寄せる。
「泣いてるのか」
「可哀想になってきました」
「そうね……」
しかしこのままでは世界は暗闇のまま。彼女を、魔王を止めなければならない。
「クリス様、その剣は本物ですか?」
「違う。模造剣だ。アランに協力してもらい、聖剣を研究して作成した。やはり模造剣では致命傷を負わせることはできないのか……」
「聖剣は今どこに?」
「アランが持っている」
魔物が次々と魔王のもとへ舞い込み、傷付いた身体が魔物によって補強されていく。
「ギャァァァ」
すでに人の形をなくし、異形の姿となったサンドラ。魔王の完全体なのだろうか。皮膚は浅黒く、頭にはツノが生え、不気味に光る瞳と牙。
やがて奇声と共に背中から真っ黒の翼をはやし、さらに高く飛び立つ。
「逃げられてしまう!」
飛び立つ魔王を呆然と三人で見つめる。
(私……私は……)
十歳のお茶会で倒れた日。自分が悪役令嬢だと気づいたあの日。私は、絶望した。また死ぬ運命なのか、と。
だけどそれに抗うために今日まで努力してきた。「アラン様とステラの神スチルが見たい」というオタク心が動機だったけれど、血の滲むような努力を重ねて、聖魔法を身につけて。聖石を作ったことで、お母様を救った。
(死ぬのは嫌だった。悪役令嬢なんて、嫌だったわ。だから変えた。変えていったのよ)
奇声を発しながら魔王が飛んでいる。クリス様とステラがそれぞれ攻撃魔法を展開しているが、効果は無いようだ。だが、攻撃を受けるたびに発する奇声が、サンドラの叫びのようで、私は耳を塞ぎたい気持ちになっていた。
見上げる魔王の真っ赤な瞳から、雫が落ちてきた気がしたからかもしれない。
(もしあれが、私だったら……?)
お兄様やキース様を傷つけたのは許せない。でももし私だったら。その運命から抗えたのだろうか。
サンドラの哀しき運命を目の当たりにして、私は動揺を隠せない。だって。だってサンドラは──。
文化祭で、クラスの出し物を決める時、衣装係をお願いした時のサンドラは、とても可愛らしかった。少し照れながら、それでも『力の限り頑張ります!』と宣言した彼女。
クラス全員の衣装の用意は大変だったに違いない。女子達みんなで、フリルを付け足す作業をした時だって、張り切って仕切ってくれていた。
日本人だった彼女だからこそ、協力して良い文化祭にしようと奮闘してくれたのだと思う。もしかしたら私の前世のように、文化祭なんて楽しんだことが無い人生だったのかもしれない。
活き活きとみんなで放課後に残って作業した日々。文化祭までの数日間は、きっと宝物になったはず。
(ねぇ? サンドラ。そうでしょう?)
魔王を救おうと、魔物がたくさん湧いて出てきた。帯剣しているのはクリス様だけだが、ステラは接近戦も得意なので、拳に聖魔法を纏わせて殴って倒していく。クリス様も大規模な聖魔法を展開して魔物をどんどん殲滅していく。
だが数が多すぎる。
私も聖魔法を飛ばすが、倒しても倒しても魔物がわらわらと襲ってきて、サンドラまで辿り着けない……!
その時、上級魔物から私に向かって瘴気が放たれた。まずい、避けられない!
「リディ!」
クリス様は前方で魔物と対峙している。ステラは後方にいて魔法を展開している途中だ。
そこへ一筋の光が放たれ、瘴気がパァッと消えた。放たれた光の元を見ると、お兄様とキース様が揃って立っている。
「お兄様!」
「キース様!」
先程映像で見た二人は、確かに魔物に攻撃されていた。サンドラも二人が亡くなったかのように言っていたのに……!!
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