悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ

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35 恋と仮装と文化祭!(5)

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 文化祭当日。秋風が冷たく感じるが、生徒達の熱気で校内は暑い。

 いや、暑いのは衣装のせいかもしれない。
 つい気合を入れて用意してしまった、仮装喫茶の衣装。男子生徒は執事風の燕尾服、女子生徒はメイド服である。貴族の御子息や御令嬢達は普段着ない服装が出来るのが新鮮なようで好評だ。特に女子生徒の衣装は、普通のメイド服ではつまらないので、ふんだんにフリルを足して可愛くした。ステラに着せようと思って思いっきり可愛い系にしたら、私も着ることになってしまって、ちょっと恥ずかしい。
 
「はーい! リディア様の髪、結べましたよ!」

 長くてウェーブした赤い髪は、ステラによってポニーテールにされてしまった。ここは女子更衣室。クラスメイトの女生徒達に囲まれている。

「リディア様可愛い!」
「ええ! とってもお似合いですわ」
「素敵です!」
「そ、そうかしら」

 ステラと、クラスの女子達に褒められて、ますます気恥ずかしくなる。衣装担当のサンドラがお揃いで作ってくれた大きなリボンが頭上で揺れてムズムズする。

「マ、マリア! お食事メニューの用意は大丈夫?」
「はい! 全て到着済ですわ」
「そ、そう……」
「もーう、リディア様ったら、褒められて照れてて可愛いんですから~」
「ちょっ! ステラ!」

 ステラも同じ格好をしている。もちろんしっかり着こなしていて可愛い。大きなリボンもカチューシャに取り付けて、短い髪にもよく似合っている。意地悪な顔をしていても可愛いだなんて、ヒロインはお得だ。

「クリス様が見たらお喜びになるでしょうね。あぁカメラがあればなぁ」
「貴女の方がよく似合っているわ。アラン様に見せにいったら?」
「そうしようかな! リディア様も生徒会室に行ってお見せしたらいいと思いますよ」
「……馬鹿なこと言わないの。私は最終チェックをしておくわ」

 照れ隠しにそう言って立ち上がった瞬間、「大変です!」とクラスメイトのアニーが駆け込んできた。

「教室で煙が……!」

 駆けつけると、教室を客席スペースと給仕スペースに仕切っているのだが、給仕スペースに置いてある簡易キッチンから黒い煙が出ていた。

「! 誰か換気して! 怪我人は!?」

 貴族令嬢や子息達は、こうしたトラブルの現場に居合わせることは少なく、いつも守ってもらう立場のためか、動けずにオロオロとしている。逃げていく子もいた。
 そんな中、平民のクラスメイト達が、私の声で動き出す。アニーやマリアは窓を開け、サンドラは気を失っている生徒に駆け寄った。何人か倒れたり気分が悪いのか座り込む生徒がいて、ステラが早速回復魔法をかける。

「リディア様、私が怪我人を診ます!」
「頼むわよ! ステラ!」
「サンドラ! 衣装の予備はあるかしら! 怪我をした子たちの分をなんとか出来る?」
「大丈夫ですわ!」

 ハンカチを口に押し当て、黒い煙を避けながら現場を見ると、火事では無いようだ。魔石コンロの不具合で煙が出たのだろう。
 煙が出たせいで居合わせた生徒が混乱し、転んだり物が落ちたことで怪我人が出てしまったようだ。

 ひとまずコンロのスイッチを切る。しかし完全にコンロが煤で汚れ、魔石が黒焦げになっている。故障した部分を修理する技術も時間もない。
 飲食の出店が多く、魔石コンロは余りがないとお兄様が言っていた。私達のクラスはお茶のお湯を沸かす程度なので、コンロは一台で充分だと思っていたが──。

「リディア様、これではお茶がお出しできませんわ」
「どういたしましょう?」

 考えるのよ、リディア。どうしたら良いか。お湯を沸かす程度の火を、安全に管理するには──?

「……大丈夫よ」

 聖石はもちろんだが、魔石も幼い頃から修行してきた習慣でいくつか持ち歩いている。荷物の中から魔石を取り出すと、聖石にならない程度の魔力を込めた。すると、魔石が赤く色づく。私の火属性の魔法が込められた証だ。これを使えば!
 使えなくなったコンロを避け、コンロが置いてあった防火板の上に魔石を丸く並べる。そしてそこへ魔力を流すと、小さく火が灯った。「わあ!」と歓声が上がる。

「これでお湯くらいなら沸かせるでしょう。魔石の魔力が切れたら補充するわ」
「あ、ありがとうございます!」
「さすがだわ!」
「さすが聖女様」
「完璧な指示とご采配だったな」
「王太子妃がリディア様ということに改めて納得いたしましたわ」

 少し工夫しただけなのに過剰に褒められて居心地が悪い。動揺していた貴族の生徒達も動き始めた。

「さぁ! 風属性の方はこの煙の匂いを追い出してちょうだい! みんな準備するわよ! 怪我をした人は一応医務室に行ってきてね!」

 トラブルをわずかな時間で解決し、王太子妃としての株を図らずも上げてしまった私。照れ隠しでさらに場を仕切っていたのだが、その私を辛辣に見つめる視線に、私は全く気づいていなかった……。
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