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31 恋と仮装と文化祭!(1)
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──今でも鮮明に思い出せる。
鮮やかな緑のドレスと美しく長い紅の髪。彼女に初めて会った時、衝撃が走った。
『お初にお目にかかります。リディア・メイトランドと申します』
当時十二歳だった私は、既に幼い令嬢達の媚びるような猫撫で声に嫌気がさしていた。
だが、彼女は出会った時から、ハキハキと名を名乗るだけで、色目を使うことはなかった。そのまま倒れてしまったので驚いたが、思えばその時から、意思の強い瞳に惹かれていたのだと思う。
それから数年は、彼女を病弱な令嬢だと勘違いしたまま過ごした。彼女の力強い生き生きとした瞳に惹かれておきながら、「深窓の令嬢」だと思い込んでいたのだから、我ながら情けない。
そして事件は起こった。
メイトランド公爵領で行われた感謝祭の最中に、突如魔物が出現したのだ。リディと彼女の兄である私の親友は、逃げるどころかなんと剣を持って走り出した。護衛の反対を押し切って二人を追いかけていくと、病弱で可憐な少女だと思っていた彼女が、ボロボロになりながら魔物と対峙していた。
しかも驚くべきことに、彼女は聖魔法を使いこなす程の腕前だった。
『エクスプロージョン!!!』
激しくて大きな美しい聖魔法が破裂する。真っ白な光が辺りを包み、爆風が遅れて私の元にも届いた。
その時、自分の幻想ごと爆破された気がした。私が見ていた少女は、ただの幻想だったことに気付いた。傷だらけになりながらも、走り回り、民を守り、剣を振る彼女こそが真実だ。
やっと、本物の彼女を見つけた。
夢見がちだった恋心は、本物の恋になった。
王宮に戻ると国王である父に「自分の妃は彼女しかいない」と説き伏せた。
『リディア嬢ほどの実力を持つ令嬢は他にはいません! 彼女と今すぐ婚約させてください!』
『メイトランド公爵とも、いつかはお前達の婚約を、と約束しておる。だが、それは今が最適か?』
『はい! 領民を癒して回った事実は、明日には王都に届くでしょう。力を持つ彼女を誰も放っておかない。今、王家が繋ぎ止めておくべきです。……それに、私は彼女を好ましく思っています』
『!』
父は私の恋を応援してくれることになり、親子で権力を行使し婚約に漕ぎ着けた。婚約披露パーティーの夜、私の色を身につけたリディは、美しすぎて直視出来ない程だった。
──だが。
『アラン様!』
やっと婚約に漕ぎ着けたが、別の男を嬉しそうに呼ぶ彼女。
嫉妬で頭が焼き切れそうだった。聞けば聖騎士に憧れがあると言う。真実かどうかは怪しいが、アランに興味があるのは間違いない。彼女の父親も聖騎士だ。そもそも彼女自身も強い。もしかしたら自分よりも強い男が好ましいのかもしれない。
そう無理矢理結論づけてからは、身体をとにかく鍛えた。誰よりも何よりも、彼女よりも強くなれるように。彼女を守れるように。頼ってもらえるように。
そうして数年のうちに魔法でも剣術でも彼女を越した。彼女は羨ましそうな妬ましそうな瞳はよこしてくれるものの、自分と同じような気持ちは抱いてくれていないようだった。
心を開いていないわけではない。困ったことがあれば頼ってくれるし、本音も教えてくれていると思う。
だが、時々感じてしまうのだ。
彼女がいつか自分の前から消えてしまおうと思っているのではないか。同じ未来を思い描いていないのではないか。
その証拠に魔王が復活した後の話は一切しない。
父からリディは女神の声を聴き、魔王が復活して自分が死ぬ運命を見ていると聞いた。
そんな未来、絶対に私が阻止するのに。
だが彼女は頼ってくれない。きっとその運命に抗おうと幼い頃から鍛錬しているに違いないのに。
何故だろう。
どうすればリディに愛してもらえるのだろう。
そんな時、学園の隣の森で、彼女が倒れた。背中から流れる大量の血。青白い顔。声をいくらかけても開かない瞳。
目の前が真っ暗になった。リディがこの世から消えてしまうかもしれない──そんな想像一つで、絶望が脳を覆い尽くす。
幸いステラ嬢の魔法で怪我は治癒したが、生きた心地がしなかった。
もう、待てない。
彼女が頼ってくれるのを待つのはもうやめだ。嫌われてもいい。何からも全てのものから彼女を守ってみせる。
彼女が背負う何か、女神の声よりももっと、彼女が恐れる未来を私が変える。
そう決意したところに、リディとステラ嬢の話を偶然聞いてしまったのだった。
二人には前世の記憶がある。そして、この世界は前世で物語として紡がれていたそうだ。正確には『ゲーム』というものらしいが、想像がつかない。
とにかく、その『ゲーム』とやらでは、物語の主人公としてこの世界を覗くことが出来て、色んな選択肢があり、いくつかの結末が用意されていた。
どの選択肢を選んでも、必ず魔王が復活し、この国は壊滅状態になる。そしてリディは死ぬ。それが『ゲーム』で二人が見た、未来。
「大丈夫だ。リディ。君の運命は、私が変える。変えてみせる」
「クリス様……」
不安に揺れるその瞳を、私が必ず守るから。
鮮やかな緑のドレスと美しく長い紅の髪。彼女に初めて会った時、衝撃が走った。
『お初にお目にかかります。リディア・メイトランドと申します』
当時十二歳だった私は、既に幼い令嬢達の媚びるような猫撫で声に嫌気がさしていた。
だが、彼女は出会った時から、ハキハキと名を名乗るだけで、色目を使うことはなかった。そのまま倒れてしまったので驚いたが、思えばその時から、意思の強い瞳に惹かれていたのだと思う。
それから数年は、彼女を病弱な令嬢だと勘違いしたまま過ごした。彼女の力強い生き生きとした瞳に惹かれておきながら、「深窓の令嬢」だと思い込んでいたのだから、我ながら情けない。
そして事件は起こった。
メイトランド公爵領で行われた感謝祭の最中に、突如魔物が出現したのだ。リディと彼女の兄である私の親友は、逃げるどころかなんと剣を持って走り出した。護衛の反対を押し切って二人を追いかけていくと、病弱で可憐な少女だと思っていた彼女が、ボロボロになりながら魔物と対峙していた。
しかも驚くべきことに、彼女は聖魔法を使いこなす程の腕前だった。
『エクスプロージョン!!!』
激しくて大きな美しい聖魔法が破裂する。真っ白な光が辺りを包み、爆風が遅れて私の元にも届いた。
その時、自分の幻想ごと爆破された気がした。私が見ていた少女は、ただの幻想だったことに気付いた。傷だらけになりながらも、走り回り、民を守り、剣を振る彼女こそが真実だ。
やっと、本物の彼女を見つけた。
夢見がちだった恋心は、本物の恋になった。
王宮に戻ると国王である父に「自分の妃は彼女しかいない」と説き伏せた。
『リディア嬢ほどの実力を持つ令嬢は他にはいません! 彼女と今すぐ婚約させてください!』
『メイトランド公爵とも、いつかはお前達の婚約を、と約束しておる。だが、それは今が最適か?』
『はい! 領民を癒して回った事実は、明日には王都に届くでしょう。力を持つ彼女を誰も放っておかない。今、王家が繋ぎ止めておくべきです。……それに、私は彼女を好ましく思っています』
『!』
父は私の恋を応援してくれることになり、親子で権力を行使し婚約に漕ぎ着けた。婚約披露パーティーの夜、私の色を身につけたリディは、美しすぎて直視出来ない程だった。
──だが。
『アラン様!』
やっと婚約に漕ぎ着けたが、別の男を嬉しそうに呼ぶ彼女。
嫉妬で頭が焼き切れそうだった。聞けば聖騎士に憧れがあると言う。真実かどうかは怪しいが、アランに興味があるのは間違いない。彼女の父親も聖騎士だ。そもそも彼女自身も強い。もしかしたら自分よりも強い男が好ましいのかもしれない。
そう無理矢理結論づけてからは、身体をとにかく鍛えた。誰よりも何よりも、彼女よりも強くなれるように。彼女を守れるように。頼ってもらえるように。
そうして数年のうちに魔法でも剣術でも彼女を越した。彼女は羨ましそうな妬ましそうな瞳はよこしてくれるものの、自分と同じような気持ちは抱いてくれていないようだった。
心を開いていないわけではない。困ったことがあれば頼ってくれるし、本音も教えてくれていると思う。
だが、時々感じてしまうのだ。
彼女がいつか自分の前から消えてしまおうと思っているのではないか。同じ未来を思い描いていないのではないか。
その証拠に魔王が復活した後の話は一切しない。
父からリディは女神の声を聴き、魔王が復活して自分が死ぬ運命を見ていると聞いた。
そんな未来、絶対に私が阻止するのに。
だが彼女は頼ってくれない。きっとその運命に抗おうと幼い頃から鍛錬しているに違いないのに。
何故だろう。
どうすればリディに愛してもらえるのだろう。
そんな時、学園の隣の森で、彼女が倒れた。背中から流れる大量の血。青白い顔。声をいくらかけても開かない瞳。
目の前が真っ暗になった。リディがこの世から消えてしまうかもしれない──そんな想像一つで、絶望が脳を覆い尽くす。
幸いステラ嬢の魔法で怪我は治癒したが、生きた心地がしなかった。
もう、待てない。
彼女が頼ってくれるのを待つのはもうやめだ。嫌われてもいい。何からも全てのものから彼女を守ってみせる。
彼女が背負う何か、女神の声よりももっと、彼女が恐れる未来を私が変える。
そう決意したところに、リディとステラ嬢の話を偶然聞いてしまったのだった。
二人には前世の記憶がある。そして、この世界は前世で物語として紡がれていたそうだ。正確には『ゲーム』というものらしいが、想像がつかない。
とにかく、その『ゲーム』とやらでは、物語の主人公としてこの世界を覗くことが出来て、色んな選択肢があり、いくつかの結末が用意されていた。
どの選択肢を選んでも、必ず魔王が復活し、この国は壊滅状態になる。そしてリディは死ぬ。それが『ゲーム』で二人が見た、未来。
「大丈夫だ。リディ。君の運命は、私が変える。変えてみせる」
「クリス様……」
不安に揺れるその瞳を、私が必ず守るから。
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