上 下
27 / 49

27 バレたので、告白!(5)

しおりを挟む


 ──数刻前。
 ステラと共に肝試しをしていたはずのクリストファーは、ふと気づくと鬱蒼と木が茂る道に入っていた。

「ステラ嬢。ここは……」
「あれ? あれれ? おかしいですね?」

 ステラはわざとらしく戸惑ったフリをする。暗闇に乗じてルート変更し、森の中までやってきた。ステラの魔力量は多く光属性であるため、何かが起きても王太子一人くらい守れると踏んでいたのだ。ゲーム通りならこの森で魔物が出現し、倒すことでレベルを上げることが出来る。

(確か、中級魔物が数体出てくるんだった気がする!)

「森の中に入ってしまったんじゃないか?」
「大丈夫です! 何かあれば私がお守りします!」
「冗談じゃない。戻るぞ。一秒でも早くリディアの元へ戻りたいのに、遠回りなどしたくない」
「かっこよく魔物を倒したら、リディア様、驚くんじゃないかな……」
「!」
「私も強くなりたくて! ちょっと魔物退治、していきません?」

 にっこりと微笑むステラの提案に、クリストファーは乗ってしまったのだった。

 だが、すぐにそのことを後悔することになった。ワイバーンの群れに出会ってしまったのだ。ワイバーンは上級魔物だ。一体だけならまだしも群れに遭遇し、二人とも動揺した。

(中級どころか上級魔物の群れなんて! ありえない!)

 ステラは群れを前に一度はめげそうになったが、カンスト寸前の自分のレベルなら、なんとかなるかもしれないと思い直した。

「殿下はどこかに隠れていてください!」
「そういうわけにはいかぬ!」

 クリストファーの返事も聞かずステラは走り出す。
 クリストファーも、森ごと消えるかもしれないが、実力的にこの規模の群れなら魔物を殲滅できる。だが、ステラが高速で走りながら物理で攻撃しているため、ワイバーンとの距離が近すぎて、ワイバーンだけを打つのが困難だった。仕方なくステラとは違う方向にいる個体に聖魔法を飛ばして倒していく。

 ステラの実力も高く、自分の拳に聖魔法をまとわせて、一撃を喰らわせると、ワイバーンが跡形もなく浄化された。

「私だけで倒せるのに!」
「うるさい! 早く片付けるぞ」

 こうしてなんとか役割分担をしつつ、ステラとクリストファーはワイバーンの群れを殲滅していった。



 もうすぐ裏庭に差し掛かる頃、この気まずい雰囲気をどうにか打開できないかとどうでもいい話題を捻り出していたところに、アラン様が急に立ち止まった。

「森の方で魔法を展開している」
「え!?」

 ステラの思惑を知っていたが、もう魔物が出たのかと驚いていた。

「魔物が出たのかもしれない。クリスが襲われていたら厄介だ。すまないが護衛として駆け付けなければ。リディア嬢は校内で待っていてくれ」
「いいえ。私も参ります!」
「しかし!」
「私二度も魔物と戦闘した経験がございます。日々鍛錬しておりますし、大丈夫ですわ! さぁ参りましょう!」

 そう言い捨てて私は走り出す。アラン様も仕方なくそれに続いた。森の中に入ると一気に暗さが増す。途中アラン様は私の前に出てくださり、私はアラン様のすぐ後ろを走っていた。

「!」

 アラン様が急に立ち止まった。私は暗いこともあり、すぐに対応出来ずアラン様の背中に軽くぶつかってしまった。

「っ! すみません……!」
「静かに」
「?」

 アラン様は魔物に気付き足を止めたようだ。私も周囲をうかがうと、複数の気配を感じた。だが、姿が見えない。謎の気配に焦っていると、「トレントだ」とアラン様が小声で教えてくれた。

 なんと私たちは、クリス様達に出会うより前に、大量のトレントに遭遇してしまった。トレントは巨木の魔物で、森に迷い込んだ人間に幻術を見せ、その隙に襲ってくる厄介な魔物だ。

「まずい。奴らの出す音を聞いてはいけない」
「!?」

 キーン キーン

「くっ!」
「何、これ……」

 それはトレントが幻術を見せる時に出す音だ。私は初めての幻術に戸惑い対処が遅れてしまった。

 目の前に白い靄がかかる。段々と薄れて行ったその先に、クリス様が現れた。そしていつの間にか王宮の庭園で向かい合っているのだ。
 冷たい目をしたクリス様が私を見ている。気づくとクリス様の横にはキース様やアラン様、お兄様までいて、クリス様にはピッタリとステラが抱きついていた。

(クリス様と、ステラ?)

『君との婚約は破棄させてもらう。私はステラと共に生きていく』
『クリス様……』

 私の目の前で、二人が親密に抱き合っている。やがて微笑み見つめ合う二人は、互いの唇を──。


「いやぁぁぁ!」
「リディア嬢!? 危ない!」

 錯乱する私を庇い、アラン様の太腿にトレントの攻撃が命中した。辺りに血がぼたぼたと落ちていく。

「まずい。血の匂いで他の魔物まできたら厄介だ。リディア嬢! しっかりしろ! 幻術だ!」
「クリスさま……」
「違う! よく見ろ! そいつは魔物だ!」

 アラン様が私の背中を強く叩いた。ハッとする。「深呼吸はするな。浅く呼吸してよく目を凝らせ」と告げられ、その通りにすると、段々とここが森の中だと思い出してきた。しかしまた白い靄が目の前にかかる。ダメだ、頭がまだぼんやりとしていく──。

ザクッ

「なっ、何を!?」
「す……みま、せ……」

 自分の腕を浅く切りつけ、痛みで無理矢理幻術から抜け出した。なんとかその場に立ち目を凝らすと、目の前に変な木が沢山あった。そうだ、これは、魔物……!

「何を考えてんだ! 自分の腕を切り付けるとか、騎士でもなかなかやらないぞ!? 絶対後で俺がクリスに叱られる! ~っ、剣を握れ! 聖魔法で倒すぞ!」

 痛みと、アラン様の大きな声で私はやっと正気に戻った。剣をゆっくりと構えなおし、私達は背を合わせ、同時に聖魔法を展開する。そしてあっという間にトレントの群れを切り裂き倒した。

「申し訳ありません。幻術にかかるなんて初めてで……不甲斐ないですわ」
「いや。それより大丈夫か? 幻術に当てられた後は心が不安定になりやすい……」
「大変! アラン様! お怪我されています! 私聖石を持っていますわ! すぐに治療いたしましょう」
「いや、これくらい平気だ。それよりも君の腕を……!」
「すぐに終わります!」

 手早く聖石を取り出すと、アラン様の手にそれを乗せ、上から自身の手を重ねた。そして柔らかな魔法を展開し、アラン様の傷を癒やしていく。

 心臓がバクバクと音を立てる。やはり、何度戦っても魔物との戦いは緊張する。今回見せられた幻覚を思い出してしまい、背筋がゾッとした。この怪我がもし胸だったら? 私が不甲斐ないせいでアラン様は──。

「礼を言う」
「……アラン様……落ち着くまではここで休んでいてください。わたくしっ、クリス様の元へ行ってまいります!」

 アラン様が立ち上がる前に走り出す。誰も巻き込んではいけない。悪役令嬢である私の運命は、もしかしたら不運なものばかりなのかもしれないから。

「待て! 一人で走るな!」
 
 アラン様の叫び声が聞こえたが、こちらも野山を駆け巡るお転婆令嬢だ。無我夢中で走る。そしてクリス様の魔法の痕跡を辿っていく。あと少しでクリス様に辿り着く、そんな予感がした時だった。
 
ザッ
 
 背中を斬られたと分かったのは、やられたあとだ。ワイバーンが飛行していく。痛みを感じるよりも先に私は倒れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko
ファンタジー
ある日私は、男の子4人、女の子4人の幼なじみ達が出てくる乙女ゲームを買った。 魔法の世界が舞台のファンタジーゲームで、プレーヤーは4人の女の子の中から1人好きなヒロインを選ぶ事ができる。 ・可愛くて女の子らしい、守ってあげたくなるようなヒロイン「マイヤ」 ・スポーツ、勉強と何でもできるオールマイティーなヒロイン「セレス」 ・クールでキレイな顔立ち、笑顔でまわりを虜にしてしまうヒロイン「ルナ」 ・顔立ちは悪くないけど、他の3人が飛び抜けている所為か平凡に見られがちなヒロイン「アリア」 4人目のヒロイン「アリア」を選択する事はないな……と思っていたら、いつの間にか乙女ゲームの世界に転生していた! しかも、よりにもよって一番モテないヒロインの「アリア」に!! モテないキャラらしく恋愛なんて諦めて、魔法を使い楽しく生きよう! と割り切っていたら……? 本編の話が長くなってきました。 1話から読むのが大変……という方は、「子どもの頃(入学前)」編 、「中等部」編をすっと飛ばして「第1部まとめ」、「登場人物紹介」、「第2部まとめ」、「第3部まとめ」からどうぞ! ※「登場人物紹介」はイメージ画像ありがございます。 ※自分の中のイメージを大切にしたい方は、通常の「登場人物紹介」の主要キャラ、サブキャラのみご覧ください。 ※長期連載作品になります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...