上 下
14 / 21

14.春の訪れ【神人シドイェスカ】

しおりを挟む

神人の役目は祈りを捧げて世界を存続させることで、お祈りとそのための準備として花を抱く以外、特に決まった職務はない。
シドイェスカはその力の強さ故に王命で一日置き数時間のお祈りを義務付けられているため、テオエルを抱くのも一日置きだ。
他の神人は三日に一度一時間程度のお祈りしかしないくせに、毎日花と戯れることにだけは勤勉だ。たいした力も持たぬくせに美しい花を侍らせ、淫蕩な生活を送る神人達を、シドイェスカはどこか見下していたのだと思う。
だが、もはや自分も、彼らと同じ場所まで堕ちたのだろう。
一日中、テオエルのことばかり考えている。

抱く前は緊張しながら。
抱いてる間は無我夢中で。
抱いた後はお祈りを邪魔するように頭に浮かぶ。

そして翌日、会いに行ける理由のない一日を、テオエルで思考をいっぱいにして過ごす。

「会いに行かれたらいいのでは?」

アングリフは簡単にそんなことを言う。

「……理由がない」
「理由がなければ、人に会いに行ってはいけないのですか? そんなこと、私は聞いたことがありません。なあ、ヒストーナー」
「食事を共にしたいとでも誘えばいいんじゃないですか? 俺は公の場以外で好きな人と食事なんかしたことないですけど」
「まあその容姿ではね」
「おまえも人のこと言えないだろ、アングリフ」

気安い仲の護衛騎士達は、お互いを肘で小突き合う。

「しかし、まさかシドイェスカ様に春が訪れるとはなあ」
「喜ばしい限りです」
「………………は?」
「え?」
「へ?」

ぽかんとするシドイェスカ。
微笑み顔で固まるアングリフ。
間抜けな顔のヒストーナー。

「春の訪れ……?」

アングリフが頷く。

「まさしく、シドイェスカ様の今の状況は」
「恋かと」

ヒストーナーにも頷かれ、シドイェスカは呆然と頭を抱えた。


ーー恋!?






突然の食事の誘いを、テオエルは驚きつつも喜んでくれた。おそらく。嫌がられては、ない。と、思う。

何を話せばよいのかわからず食事に集中するしかないシドイェスカに、テオエルは他愛もない話をぽつぽつとした。
それに相槌を打ちつつ、心の中では必死に言い訳をする。

興味がないわけではないのだ!
テオエルの話はどんな些細なことでも聞きたい!
ただそもそも私は人付き合いというものが苦手なのだ!
それが初めて好きになった相手なら尚更だ!
しかも、本来なら気持ちを通じ合わせることから始めるはずが、私達はすでに身体を繋げてしまっている。心のない事務的な行為から始まってしまった!
最悪だ!

無表情の下で頭を抱える。

「お祈りとはとても神秘的なものだとアングリフ様から聞きました。僕、とても興味があります。夜にはしない理由もはっきりとはわからないですし、」
「……見てみるか?」
「いいのですか!?」

こんなに食いつくとは思わなかった。
神人である自分に興味をもってもらえているようで、沈みかけていた気分が高揚する。

「では、明日のお祈りに同行するといい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が再婚するまでの話

ゆい
BL
旦那様が僕を選んだ理由は、僕が彼の方の血縁であり、多少顔が似ているから。 それだけで選ばれたらしい。 彼の方とは旦那様の想い人。 今は隣国に嫁がれている。 婚姻したのは、僕が18歳、旦那様が29歳の時だった。 世界観は、【夜空と暁と】【陸離たる新緑のなかで】です。 アルサスとシオンが出てきます。 本編の内容は暗めです。 表紙画像のバラがフェネルのように凛として観えたので、載せます。     2024.10.20

隣国王子に快楽堕ちさせれた悪役令息はこの俺です

栄円ろく
BL
日本人として生を受けたが、とある事故で某乙女ゲームの悪役令息に転生した俺は、全く身に覚えのない罪で、この国の王子であるルイズ様に学園追放を言い渡された。 原作通りなら俺はこの後辺境の地で幽閉されるのだが、なぜかそこに親交留学していた隣国の王子、リアが現れて!? イケメン王子から与えられる溺愛と快楽に今日も俺は抗えない。 ※後編がエロです

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

第二王子に転生したら、当て馬キャラだった。

秋元智也
BL
大人気小説『星降る夜の聖なる乙女』のゲーム制作に 携わる事になった。 そこで配信前のゲームを不具合がないか確認する為に 自らプレイしてみる事になった。 制作段階からあまり寝る時間が取れず、やっと出来た が、自分達で不具合確認をする為にプレイしていた。 全部のエンディングを見る為に徹夜でプレイしていた。 そして、最後の完全コンプリートエンディングを前に コンビニ帰りに事故に遭ってしまう。 そして目覚めたら、当て馬キャラだった第二王子にな っていたのだった。 攻略対象の一番近くで、聖女の邪魔をしていた邪魔な キャラ。 もし、僕が聖女の邪魔をしなかったら? そしたらもっと早くゲームは進むのでは? しかし、物語は意外な展開に………。 あれ?こんなのってあり? 聖女がなんでこうなったんだ? 理解の追いつかない展開に、慌てる裕太だったが……。

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【R18/短編】2度目の人生はニートになった悪役だけど、賢王に全力で養われてる

ナイトウ
BL
有能わんこ系王様攻め、死に戻り私様ツンデレ悪役従兄弟受け 乳首責め、前立腺責め、結腸責め、好きって絶対言わせるマン

婚約破棄に異議を唱えたら、王子殿下を抱くことになった件

雲丹はち
BL
双子の姉の替え玉として婚約者である王子殿下と1年間付き合ってきたエリック。 念願の婚約破棄を言い渡され、ようやっと自由を謳歌できると思っていたら、実は王子が叔父に体を狙われていることを知り……!?

処理中です...