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14.春の訪れ【神人シドイェスカ】
しおりを挟む神人の役目は祈りを捧げて世界を存続させることで、お祈りとそのための準備として花を抱く以外、特に決まった職務はない。
シドイェスカはその力の強さ故に王命で一日置き数時間のお祈りを義務付けられているため、テオエルを抱くのも一日置きだ。
他の神人は三日に一度一時間程度のお祈りしかしないくせに、毎日花と戯れることにだけは勤勉だ。たいした力も持たぬくせに美しい花を侍らせ、淫蕩な生活を送る神人達を、シドイェスカはどこか見下していたのだと思う。
だが、もはや自分も、彼らと同じ場所まで堕ちたのだろう。
一日中、テオエルのことばかり考えている。
抱く前は緊張しながら。
抱いてる間は無我夢中で。
抱いた後はお祈りを邪魔するように頭に浮かぶ。
そして翌日、会いに行ける理由のない一日を、テオエルで思考をいっぱいにして過ごす。
「会いに行かれたらいいのでは?」
アングリフは簡単にそんなことを言う。
「……理由がない」
「理由がなければ、人に会いに行ってはいけないのですか? そんなこと、私は聞いたことがありません。なあ、ヒストーナー」
「食事を共にしたいとでも誘えばいいんじゃないですか? 俺は公の場以外で好きな人と食事なんかしたことないですけど」
「まあその容姿ではね」
「おまえも人のこと言えないだろ、アングリフ」
気安い仲の護衛騎士達は、お互いを肘で小突き合う。
「しかし、まさかシドイェスカ様に春が訪れるとはなあ」
「喜ばしい限りです」
「………………は?」
「え?」
「へ?」
ぽかんとするシドイェスカ。
微笑み顔で固まるアングリフ。
間抜けな顔のヒストーナー。
「春の訪れ……?」
アングリフが頷く。
「まさしく、シドイェスカ様の今の状況は」
「恋かと」
ヒストーナーにも頷かれ、シドイェスカは呆然と頭を抱えた。
ーー恋!?
突然の食事の誘いを、テオエルは驚きつつも喜んでくれた。おそらく。嫌がられては、ない。と、思う。
何を話せばよいのかわからず食事に集中するしかないシドイェスカに、テオエルは他愛もない話をぽつぽつとした。
それに相槌を打ちつつ、心の中では必死に言い訳をする。
興味がないわけではないのだ!
テオエルの話はどんな些細なことでも聞きたい!
ただそもそも私は人付き合いというものが苦手なのだ!
それが初めて好きになった相手なら尚更だ!
しかも、本来なら気持ちを通じ合わせることから始めるはずが、私達はすでに身体を繋げてしまっている。心のない事務的な行為から始まってしまった!
最悪だ!
無表情の下で頭を抱える。
「お祈りとはとても神秘的なものだとアングリフ様から聞きました。僕、とても興味があります。夜にはしない理由もはっきりとはわからないですし、」
「……見てみるか?」
「いいのですか!?」
こんなに食いつくとは思わなかった。
神人である自分に興味をもってもらえているようで、沈みかけていた気分が高揚する。
「では、明日のお祈りに同行するといい」
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