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07.願い【護衛騎士アングリフ】

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アングリフの主シドイェスカは、銀髪銀目の目も当てられない醜男である。
神はそんなにもシドイェスカが憎いのか。絶望的なまでに醜い彼に、神は神人として誰よりも強力な祈りの力を与えた。
神人として優れているということは、それだけ精力絶倫であるということで、彼は王命により1日置きに花を抱かねばならない。
しかし、この世は醜い者に厳しい。
世界一の醜男と言っても過言ではないシドイェスカに抱かれることは、気を違えるほどの苦痛と嫌悪をもたらすものであるらしい。シドイェスカに捧げられた花達は、ことごとく嫌がり抵抗し暴れ抱かれるくらいならばと舌を噛む者もいた。シドイェスカだってそこまで嫌がる相手を抱きたくなんてないだろう。だが彼は世界を存続させるために嫌でもやらねばならないのである。
徹底的に顔を見せないようにして事務的に事を済ませ、さっさと立ち去る。
そうやってなんとかおつとめをこなしても、好奇心に負けるのか最中に振り向いて絶望した花が発狂するのを、無理やり押さえつけて犯すことも日常茶飯事だった。






アングリフは自分がシドイェスカの護衛騎士に選ばれた理由が、アングリフもまた醜男であるからだとわかっている。
シドイェスカの護衛騎士も側仕えも、皆そろって醜男ばかり集められているのだ。察するに決まっている。
似た者同士、安心するのだろう。仲間意識だ。
だが昨日、そこに亀裂を入れるような衝撃の事態が降って湧いた。シドイェスカに捧げられた花ーーテオエルが、アングリフのことをイケメンだと言ったのである!
テオエルの美醜感覚は全くもって理解できないが、それでも、それでも!
容姿を褒められるなんて、生まれて初めてのことだった。
謀っているのではないかと疑ったが、そこそこな醜男のナーサラーを美少女と形容するし、なかなかの醜男であるマックナルを平凡とする。何をもってしてそう判断しているのかは謎だ。だが、テオエルは彼の中で明確に線引きされた美醜の基準によって、アングリフのことを美しいと判断したのである。

「随分機嫌がいいな」

シドイェスカの護衛騎士仲間であるヒストーナーが、訝しげな顔でこそこそ話しかけてきた。
薄茶色の髪と目でちょっぴり醜男な彼の容姿は、テオエルの目にはどう映るのだろう。

「何にやにやしてんだよ」
「実は昨日、容姿を褒められまして」
「はあ!?」

ヒストーナーは絶対に騙されていると騒いだ。

「絵画とか買わされてないか!?」
「やかましい」

テオエルを抱いている真っ最中のシドイェスカから咎められ、揃って口をつぐむ。
ここはテオエルの寝室で、護衛騎士二人が室内でひっそり待機しているのはいつものことだった。発狂した花がシドイェスカを害する素振りを見せたら、いつでもその命を摘めるようにだ。
今まで、何人斬り捨てたかわからない。
できれば、テオエルは殺したくない。だから、どうか、どうか、おとなしく、従順に、振り向くことなく抱かれていてほしい。でも同時に、振り向くことを期待してもいる。アングリフをイケメンと言い切ったテオエルなら、シドイェスカのことも、受け入れてくれるのではないか。美しいとまではいかずとも、マックナルのように平凡な容姿だと判断し、嫌悪なく抱かれてくれないだろうか。
振り向いて、シドイェスカの容姿を視界に入れたテオエルを想像する。
その美しい黒の瞳に、絶望を浮かべるだろうか。
なんの感情の揺れもなく、しずしずと受け入れるだろうか。
受け入れてほしい。アングリフは自分が容姿によって選ばれた護衛騎士だとわかっているが、それでも主としてシドイェスカのことを慕い忠誠を誓っていた。
度し難い醜男に抱かれる絶望に泣きながら発狂する花を、無理やり押さえつけて犯さねばならないシドイェスカこそ、酷く辛く泣きそうな顔をしていたことを、アングリフは知っている。

振り向くな。
振り向いてほしい。
振り向いてはならない。
振り向いてくれ。

揺れる。揺れる。
行ったり来たりする感情に振り回されながら、アングリフが願ったのは、ただただテオエルにシドイェスカを受け入れてほしいということだった。
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